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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
二章 ゲームでいうところの無駄に存在するミニゲーム

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決裂する以前の話



「それで、アミーシャの持ち物はここにあるのが全部なんだけど」


 簡易檻の中でドングリを転がすだけの作業に飽きたらしいルクスが無造作にテーブルの上に簡易檻を置いた事で、ようやくアミーシャは檻の中で延々転がされるだけのお仕事から解放された。いや、仕事というかこれただの拷問では? という気持ちではあったのだが。

 しかしなんというか、お勤めから解放された感が半端なかったのである。


 言ってルクスがテーブルの上に置いたのは、一つの玉だった。

 アミーシャが所持していた物、といっても例えば武器などはそのままアミーシャの身体のほうにあったし、ギルドカードなどもそうだ。

 ルクスが回収したのは片手で持ったらすっぽり覆い隠せそうなサイズの玉だけだった。


 むしろ何でこれだけ回収してきたのか、とすら思える。


 けれども先程のアミーシャの話を聞く限り、これが例の玉なのだろうとは理解できた。


「喋るって話だったけど、うんともすんとも言わないんだよね」

「そんなはずないわ。だってあたしの時は流石に周囲に誰かいて話を聞かれたら困るようなとこだとちゃんと察して黙ってたけど、二人きりの時とかそりゃもう色々喋ったりしてたもの。

 やれこの前のダンジョンはもうちょっと違う強化した方が良かっただとか、罠の仕掛け方が甘いだとか、ほとんど駄目だしだったけど」


「罠……もしかしていつぞやの上級者ダンジョンで遭遇した時のあれ、きみが仕掛けたのかな。だとしたらそう言いたくなる気持ちは理解できるよ。あれはない。初心者が仕掛けるにしたってあれはない」


 罠っていうのは仕掛けてなんぼだけど、仕掛けたのが見破られた時にこんな見え見えの罠に引っかからないぜ~とかそうやって余裕かましてる奴をこっそり仕掛けておいた別の罠に引っかけたりするのも醍醐味なのだが、あの罠の仕掛け方だと一つ気付かれたら後はもう他も大体気付かれてるし、引っかからないようにしようとして回避した先に実は別の罠が、みたいな二重三重の罠が、とか、こう……一つ回避したからといって安全だとは限らないというのが罠のはずなのだ。

 例えば畑に出没する害獣相手ならいざ知らず、ダンジョンで対人戦想定して仕掛ける罠などであれば割とそういった露骨にわかりやすい罠もまた別の罠のための布石、みたいなのはある意味で常識だと思っていた。


 しかしルクスですらぼろくそに言ったあのダンジョンの罠の仕掛け方は、そういった実は他の罠のための目くらましではないだろうか、と疑う間すら与えないくらいにわかりやすいものばかりで。


 いや、一応罠に馴染みのない探索者からすれば一つ引っかかったらそのまま連鎖して次々に、みたいになるとは思うのだが、そうでなければ引っかかるのも逆に難しくなってくる。


 思わずルクスも再度ぼろくそに貶してしまった事で、アミーシャは悔しさのあまり「うぎぎぎぎ」と唸り始めた。仕方ないじゃない。罠なんて今まで仕掛けるような事なかったし! とは本人の言い分ではあるものの、仕掛けるような事がなかったといっても、ダンジョンの管理を任されたのであればそこに来た探索者の動きを観察してどういう場所に仕掛けるのが効率的か、とかある程度試す事はできたんじゃないかな? なんてルクスが言えばアミーシャは完全に押し黙った。


 確かにそうなのだが、罠を仕掛けなおすにしてもダンジョンの中の調整をするのに力をそれなりに使うのだ。せっかく溜めた力をそうやってちまちま消費していくよりは、ある程度溜めてから他の所に力を入れた方が効果があったせいでアミーシャは今までそういった微調整は行ってこなかった。


「しかし本当に何にも言わないな。実はアミーシャにだけしか聞こえてないとかか?」

「いえ、今は何も言ってないわ。というか、他の人がいるところでも声がするはずよ。最初のうちにちょっとだけうっかりしてやらかしたもの」


 テーブルの上に置かれた玉を指先でつつきながらクロムが言うが、アミーシャは即座に否定した。むしろ自分にしか聞こえない声とか、下手したらそれあたしの妄想とかだと思われかねないじゃない、という気持ちと、もしそういうのができるならこっそりこの現状をどうにか打破できる案とか出してほしいという気持ちがとてもせめぎ合っていた。

 正直手遅れという言葉がアミーシャの中でちらちらとよぎっているものの、それでも諦めたくないのが本心だった。


「一応これにも何らかの魂が宿ってるみたいだったからね。彼女の持ち物の中で他に渡ると面倒そうなのがこれしかなかった、っていうのもあって回収してみたけれど……

 もしかして今休眠期にでも入ったのかな」


 うんともすんとも言わない玉を見て、ルクスはどうしたものかな、なんて言っている。

 この玉自体が直接危害を加えてくるとは思っていないらしく、まったく警戒する様子もない。


「魂が宿る、って……付喪神みたいな?」

「そのツクモガミとかいうのはわからないけど、どっちかっていうと身体がなくなったから仕方なく魂だけを保護している、みたいな感じかな。見た限りでは」


 ステラの言うツクモガミとやらはアミーシャにも理解できなかったが、ルクスの言葉を聞いてふと思う。

 そういやダンジョンに関する知識や情報はもらったけれど、この玉に関しての話はほとんどなかったなと。

 時折口うるさくダンジョンに関してのダメ出しをしてきた事はあったし、言葉を交わした事がないとかそういうわけではないはずなのに、この玉についてアミーシャは最初に言われた神ではないが世界を管理するもの、という事しか知らない。


「休眠期、って……そんなのあるの?」

「さぁ? あるにはあるんじゃない? きみだって似たような事、あっただろ?」


 ステラが問いかければルクスはきみ、と言いながらステラ――からすぐにベルナドットへ視線を移動させた。


 確かにルクスが言わんとしている事はわかる。

 それはステラもベルナドットもだ。


「でも、この状態で喋るんでしょ? じゃあ、私たちが知ってるのとは少し違うんじゃないかしら」


 言いながらステラも何となく玉をつん、とつついた。特に意味はない。ただ、寝てるとかいうならこういう衝撃与えたら起きたりしないだろうか、ととても気軽な考えで実行しただけにすぎない。


『新たなマスターを確認』


「……喋った」

「っていうか、今の今まで無反応だったくせにいきなり喋ったぞ」


「っていうか新たなマスターって事はあたしどうなるの!?」


 アミーシャの割と切実な叫びが響く。

 どう、も何もどうにもならないのでは。そもそも本来の彼女の身体はとっくに大聖堂で焼かれたし、戻るための身体はない。ホムンクルスとかそういうあれこれでそれっぽい身体を作ってそっちに魂を移すとかすればどうにかなるかもしれないが、ステラやルクスは現状そこまでしてやる気はない。

 その必要性もあまり感じていないし、何よりそこまでの手間をかけよう、とも思えなかった。


 であれば、どうにもならないのではないだろうか。

 この大陸でアミーシャという探索者を知っていた者たちの認識では大聖堂で魔女として焼かれた時点で、アミーシャは死んだのだから。


 別人になって第二の人生歩もうにも、ドングリ。

 どうしろと。

 いや、どうにもならないだろう。

 ちょっと考えてもどうにかなるビジョンがまるで見えてこない。


『その声は前のマスター。まだ生きていたのですね』

「生きてるけど! 生きてるけど!?」


 玉からすればアミーシャはもう死んだものと思われていたらしい。咄嗟に叫んで反論したアミーシャではあるが、果たしてこの状態を生きていると断言していいものなのか悩んだらしく同じ言葉を繰り返したものの二度目の語尾は不自然なくらいに上がっていた。


『まぁ、生きていたとしてももうマスターとして行動できそうにないのでどうでもいいです。

 そんなことより』

「そんな事!?」


 あまりにもあっさりとした会話に、流石のアミーシャも若干ショックを受けたらしい。

 いや、確かに玉の言う事はそうなんだけれども……とわかるけれど、あまりにもあまりな反応というか、態度ではなかろうか。


『新たなマスター。貴方に使命を与えます。まずは魔力を』

「お断りするわ」

『……何故?』

「何故、って何故。どうして得体の知れない物質の言う事を素直に聞くと思うの。勝手に人の事マスターとか言うところまでは構わないけど、使命だとかちょっとそれっぽい言葉で装飾して最初にさせる事って魔力の搾取じゃない。そんなものを素直に信じて実行するほど私お花畑じゃないわよ、脳内」

 はっ、と鼻で嗤うように言い捨てる。


 ダンジョンを作るだとか、アミーシャから聞いた話の中でちょっと興味がなかったわけではないがだからといってこいつの言う事を素直に聞こうとは思えなかった。


 そもそもだ。

 玉、という時点でちょっとあれだが見た目を少し変えて考えてみれば、つまるところステラが魔法少女で玉はそれにくっついているマスコットキャラみたいなものだ。

 実際のビジュアル的に玉がマスコットにはなりようがないけれど。精々適当にチェーンとかつけたらキーホルダーみたいになるかもしれないが、装飾品にするにしても微妙な玉なのでそうなったとしても身に着けようとは思えない。


 魔法少女にあれこれアドバイスしたりするマスコットキャラはまだ許せるが、この玉場合によってはマスターとか言っておきながら平然と駄目出ししてきそうだし、何というかまず態度が尊大。

 上から目線であれしろこれしろとマスターという名の手足扱いをしてくるのは目に見えている。何せ既にアミーシャからの話を聞いている。それで気付けないはずもない。


 その上で言う事を聞いてやろうとは思うはずがない。異世界転生する前の、まだ社畜になる以前のステラが異世界に転移して、とかであればもしかしたらやらかしたかもしれないが、今更そんな素直に言う事を聞くとかあるはずがないのだ。


『何故。世界の創世に関われるのですよ!?』

「興味ないわ。その程度の事でそもそも私を釣ろうだなんて、随分とまぁ……交渉の意味すら理解できていないのね?」


 そもそも世界を自分の思うままに動かしたいとかそういう野望を抱いているならともかく、ステラにそういった願望は無い。というか、向こうの世界に戻ればある程度自分の望みは叶うようなものだし、不自由しているわけでもない。

 何かこれやりたいなー、あれとかああしたいなー、みたいなふわっとした願望であったとしても、口に出せば大体夫でもあるクロノが叶えてくれるのでむしろ下手な事は言わないようにしているくらいだ。


 これが向こうの世界でやりたい事もロクにできずにお人形のようにじっとしてなければならない、とかであったならもしかしたら、この玉の口車に乗った可能性もあるけれど残念ながらステラは常日頃から割と好き勝手に生きていた。


 力を必要としているのはステラではない。明らかにこの玉だ。

 だというのにさも力を必要としているのはマスターである、みたいな流れにもっていくあたり、裏がありそうな気配しかしない。アミーシャを見ていると裏とは……? と思えなくもないのだが、これはアミーシャが玉の思うような使い勝手のいいマスターではなかったというだけの話だろう。


『楽園を作りたいとは思わないのですか?』

「勧誘方法がとても雑。今時胡散臭い宗教団体だって言わないわよそんな夢物語」


 何とかしてステラに魔力を込めてもらおうという必死さだけは伝わってくる。

 伝わってくるのだが……それが余計に胡散臭さとか怪しさ一杯で誰がこんな話に乗ろうというのか、という風にしかならないわけで。


「何を言っても私があなたの思惑に乗る事はないわね。……ルクス」

「そうだね。大体把握した。で、これは?」

「必要ないと思うわ。だって、問題ないのでしょう?」

「まぁ、そうだね」


『何を……言っているのです……?』


 ステラとルクスの会話に不穏な何かを感じ取ったのだろう。もしこの玉が自由に動けるのであれば、きっと今そっと後ろに転がって距離を取ろうとしたに違いない。けれども平らなテーブルの上で特に何の力もかけられていない状態で勝手に転がるなんて事もない。


 ルクスが手を伸ばし、簡易檻の蓋をカコ、と開ける。

 アミーシャはてっきりここから出してもらえるのか、と思ったが違った。


 上からぽいととても雑に何かが入ってきた。かつん、とすぐに落ちてきて硬質な音がした。

 それはどんぐりだった。

 かろうじて顔だけは描かれているけれど、アミーシャのどんぐりボディと違ってやっつけ仕事にしか思えない腕すらついていない。紐、というか糸でぷらぷら揺れるくらいで自分の意思で動かす事もできないような腕ではあるが、あるのとないのとでは大分違ってくる。

 顔しかないどんぐりは、顔がない裏側から見ればそれこそただのドングリにしか見えない。

 アミーシャは何となく嫌な予感がした。


 ルクスは次にテーブルの上にあった玉を手に取る。


『うわぁ離せ! お前のような者が気安く触れていい存在ではないのだぞ!? というかもっと丁重に扱いたまえよこれだから男は野蛮で困る!』


 玉から抗議の声があがる。

 もしかしてさっきステラ以外が触った時に無反応だったのは、触ったのが男だったからという理由なのだろうか。だとしたらそれもそれでどうなんだろうと思えてくる。


 実際マスターにしてやるよ、みたいに向こうから話しかけてきた人物の共通点は女という部分でしかない。

 アミーシャとステラという二名だけで何もかもわかったつもりになるには早計だろうけれど、なおもぎゃあぎゃあと喚き散らす玉の言葉を聞く限りマスターに選ぶ条件、この玉は間違いなく女性であるという事なのだろう。

 玉だからまだいいが、これ人の形してたら女性は色んな意味で被害に遭ってそうだなぁ、と思うとステラも何となくではあったが眉間に皺が寄るのを感じた。


「ははは、たかが玉にここまで言われるとかどうなんだろうね。ま、今この瞬間から玉ですらなくなるんだけど」


 下賤な者め、だとか触るな下郎、だとか言い出した玉にルクスはいっそ笑顔だった。

 本来なら一応王族なのだが、この玉が異世界の王族まで把握しているはずがない。仮にこの玉の中の人がこの世界ではとても尊い方です、というものであったとしても、玉がルクスの事を知らないようにルクスだって知るはずがないのだ。


「はいそれじゃ、どこのだれかもわからない魂だけど、きみもアミーシャ同様にどんぐりにIN」

 片手で持っている玉に、もう片方の手が何かをつまみ出すような仕草で動かすと、そこからするっと何かが出てきた――が、それはすぐさまルクスの手によってドングリの中に押し込まれるようにして消えた。


「なんっっっじゃこりゃー!?」


 その数秒後、アミーシャではない方のどんぐりから絶叫が迸った。

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