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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
二章 ゲームでいうところの無駄に存在するミニゲーム

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人生の変わり目



 故郷に戻ったからといってもそこには既に何もない。

 かつてここに村があった、というのがわかる程度には建物が残っていたし、かつて自分が過ごしていた家もないわけではなかったけれど。

 母の墓に父の事を報告して、すっかり何も残っていないかつての自分の家に入って、さてこれからどうしよう、とアミーシャは考えた。


 あの町にいたとしても、可哀そうな少女、という認識が広まって確かに町の人たちは良くしてくれるだろう。けれども、あの商人が処刑されでもしない限り、アミーシャの身が必ずしも安全だとは言い切れない。

 あれだけ悪評広まった商人がアミーシャを殺そうとしたとしても、人を雇う事はないはずだ。

 もしそんな事を依頼されたなら、あの事件を知っていれば引き受けるはずもない。逆恨みで殺そうとしている、だなんてまた悪い噂が駆け巡って今度こそ商人は何もかもを失いかねない。

 全てを捨てた気になって自ら殺しにくる可能性の方が高い。


 アミーシャとしてはそこで死んでも生き残ってももうどうでもいいかな、という気分ではあったのだ。

 何をしたってどうしたところで死んだ父は戻ってこない。

 ダンジョンの中で時折見つかるらしい伝説級の秘薬であっても死者を蘇らせるものなんてのは聞いた事がない。

 仮にあったとしても、もう父の死体はとっくにあのダンジョンに取り込まれてしまった。


 他の土地で心機一転、なんて思っても、ロクな伝手もないので簡単な仕事でもありつけるかどうかはわからない。短剣の扱いが上手いだけ、なんてアビリティでは雇ってもらえる仕事があるかどうかもわからなかった。

 それならいっそ探索者にでもなるべきか……と考えるも、どうにも抵抗があった。

 あいつらと同じになる、という考えがどうしてもちらついたので。


 もういっそ、ここで畑とか作って自給自足していこうかしら。


 アミーシャは無謀にもそんな事を考えていた。

 母が生きていれば、それも可能だったかもしれない。

 けれどもアミーシャに母と同じアビリティはない。作物を育てられない事もないかもしれないが、母よりもきっと手間がかかって大変な事になるだろう。


 既にもうここにダンジョンはないのだから、転移機能を使う事もできない。

 気軽に他の町に買い物に行く事もできない。

 徒歩で移動してここから一番近かった人里は、それでも二週間かかったのだ。


 正直手元にある食料はギリギリ。

 行動に出るなら早いうちに決めなければならない。

 けれど、アミーシャはどうしていいものか、と自分の今後を中々決める事ができないでいた。


 いっそここで死ぬまで暮らそうかな。


 半ば自棄になっている自覚もあった。

 けれど、どうにもやる気が出ないのだ。

 何のためにあたし頑張ってきたんだろう。

 働いて、お金稼いで、母さんと父さんに楽させたかったな、とか思っていたはずなのだ。

 けれどももう父も母もいない。


 立派な商人になって、とか夢見た事もあった。

 あったけれど、もうその夢を追いかけようとすら思えない。


 現状をどうにかしないといけないのはわかっていても、何かもう緩やかに死ぬコースを選びつつある自覚もあった。行動に出るにしても、あと一つ、何かが足りない感じがしているのだ。その足りないものはとても重要なもののような気がして、けれども些細なもののような気もする。


 母が死んだ事と村のダンジョンがなくなった事で、父は家の中の物を全て処分していった。売り払える物は売り払って、そうして旅の路銀にしたのだろう。

 すっかり空っぽの家のなかで、ぼうっとする日々。


 異変に気付いたのは、割とすぐの話だった。


 他の家だって他の町や村に移住するために家具だとかは残っていない。あるのは雨風をしのげる家だけだ。中には何もない。

 そんな状態なので、いずれこの家々も朽ちていくのだろう、と思っていたアミーシャだが、村の広場、かつてダンジョンがあった場所に小さな洞窟が出来ているのを発見した。


 えっ、何これ。

 もしかしてまたダンジョンができるのかしら……?

 洞窟の入口、とわかる見た目だが、裏側に回ってみてもその先があるわけでもない。随分とのっぺりした薄っぺらなものだが、それでも見た目は洞窟だとわかる。


 どうせやる事もないし、とアミーシャはその中に足を踏み入れる事にした。

 もう近くの町や村に行く気力もないし、仮にこの洞窟らしきものがダンジョンだとしても探索者じゃない自分では転移装置も使えない。

 ダンジョンなら魔物もいるんだろうな、と思いつつ、死んだら死んだでそれまでよ。そう思って後先考える事もなく彼女は中に入ってしまった。


 結果としてそこはダンジョンではあったけれど、まだダンジョンになりかけ、といった具合であった。

 ダンジョンができた瞬間に足を踏み入れる事なんてほとんどないのだ。

 大抵は、どこか別のダンジョンで転移装置に行き先が表示されてそこで新しくできたのだと知る事が多い。


 転移装置もまだないような、入ってすぐのちょっとしたスペースだけで特に何があるでもない、先の階層に進むための場所もないような、ただの空間。

 その中央に、丸い玉が浮かんでいた。


「何これ」


 危険だとは思わずにアミーシャは思わずそれに触れていた。


『新たなマスターを確認』


 それと同時に頭の中に声が響いた。


「えっ、何? なんなの!?」


 自分しかいないはずの場所で聞こえた誰かの声にすっかり驚いたアミーシャは、手にしていた玉を放り投げるようにして飛び退った。


『いきなり随分な事をしますね。普通、初対面でぶん投げます?』

「え……?」


 相変わらず声は直接頭の中に響くように聞こえてくる。

 それと同時に存在感を示すように玉がかすかに明滅した。


「もしかして、その、玉?」

『それ以外に何があるというのです。もっと大事に扱って下さい』

「……魔物?」

『どこまでも失礼ですね。こんな低能がマスターだとか何かの間違いな気がしてきました』

「てっ、低能って……!」

『では無能。いいからさっさと手に取りなさい』


 最初にマスターとか言ってたくせに、今は無能とか落差が激しすぎやしないだろうか。

 そう思いながらもこれが何なのかわからないが、もうどうにでもなーれ、の精神状態だったアミーシャは言われるままに玉を手に持ち、

『ではありったけの魔力を込めなさい』

 それが人にものを頼む態度なのだろうかと思いながらも、まぁいいか、と魔力を放出した。

 とはいえ、アミーシャの持つ魔力量なんて大したものではない。

『……少なすぎます。こんなのがマスターとかどうかしている』

「失礼ね。そもそもあなた、何? 魔物じゃないなら、何なの」


『ともあれマスター認証完了しました。正直こんなしょぼいのをマスターにしなければならないなんて、とは思うのですが。背に腹は代えられませんね。

 あぁ、それで何者か? 世界を管理する者、とでも言っておきましょうか』


 聞こえてくる声はどこまでも尊大で、きっと目の前に誰かしら人の姿があったならふんぞり返っている事だろう。簡単に想像がつく。


「世界を管理、って……そんな神様じゃあるまいし」

 というかこんな玉がそんな存在であるはずがあってたまるか。


 アミーシャは何か変な玉拾っちゃったな、と心の底から思っていた。

 最後の最後でこんなヘンテコな体験するとかどうなんだろ、とも。


『確かに神ではありません。が、それに近いものであるとは言っておきましょう。ですから言葉を慎むように。貴方のような矮小な存在、本来ならば言葉を交わす事すら有り得ない事なのですよ』


 アミーシャはあまりの言われように、とりあえず適当な水場にでもいってこの玉ぶん投げてこようかなと思い始めていた。近くの町まで行くよりは近かったはずだ。確か泉があったはず。深さは知らないけど、この玉ならきっちり沈むだろう。


『何だか不穏な雰囲気を感じますね。よからぬことを企んではいませんか? 貴方にはこれから使命が与えられるというのに』

「使命、って言われても。何かすっごい存在だって言いたいのはわかるけど、それあたしが従う意味あるの?」

『勿論。マスターとなった以上、あなたがやるべき事なのです』

「なんで。好きでなったわけじゃない。勝手にそっちが決めたんじゃない」


 そりゃ、言われるままに魔力込めたりしたけれど。

 でもそれで満足してほしい。魔力が少ない事に文句は言われたけれど、でもちゃんと提供したのだから。文句があるならもっとたくさんの魔力を持って与えてくれる相手の前に出れば良かったじゃないか。


『いちいち話すのも面倒なので、必要な情報は全てお渡ししましょう。そうすればやりたくないだなんて到底言えなくなりますよ』

「いやちょっとまた勝手に話を進めて……ぇひゃあ!?」


 手にしていた玉がカッと急激に光り輝いた。あまりの眩しさに目を閉じると同時、アミーシャの頭の中には様々な情報が流れだす。

 正直、これ全部理解しろって無理じゃない!? と思った。

「ストップ、ちょっとまって止めて!?」

 なんて叫んでみたけれど止まる様子も気配もない。

 情報量の多さに頭がクラクラして、何だかズキズキと痛みも感じてきた。

「ぅえっ……」

 吐き気までしてきて、アミーシャは思わずその場にしゃがみこんだ。頭を抱えてどうにか痛いのを和らげようとしたけれど、何の効果もない。

 けれども頭の中に流れる情報が止まらない。止まる様子はない。


 気持ち悪くなってきて、思わず吐いた。

 咳込んで、そのたび胃の中からせりあがってきたものが吐き出されていく。

 口からだけならともかく鼻からも逆流して、つんとした匂いと痛みとで涙まで滲んできた。


 ――どれくらいの時間が経過しただろうか。


 とんでもなく酷い目にあった、とは思っている。


 思っているけれど、確かにその玉から流された情報を思えば、確かにやりたくないどころかやってみてもいいのでは、と思えるもので。


 これが、アミーシャ・レルノッティにとっての人生の転機となった。



「ダンジョンを作る能力……何それ凄い」


 この日、確かに彼女の人生は激変したのだ。

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