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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
一章 ゲームでいうところのありがちな追加要素

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ダンジョン探索してる場合じゃない



 先程までの血色の良さなんてものはどこにもないくらい真っ白な顔色をしたアミーシャが横たえられている。

 周囲の探索者たちは気付いているのだろうか。既に彼女が死んでいる事に。

 仮に気付いていたとしても、殺せと言って追いかけようとしていたくらいだ。むしろ好都合なのかもしれない。


「なぁ、そいつもしかして」

「そうだね。もう死んでるよ。彼女が逃げ出したのには気付いていたからすぐさま追いかけたんだけど……逃げられないと思ったのか、毒を飲んだみたいでね。生憎と、もう……」

「そ、そうか……」


 沈痛な面持ちをしているルクスに、探索者たちはそれ以上何を言うでもなかった。

 何というか、己の顔面偏差値を大変よく把握してらっしゃいますねとしかステラには言えないのだが。


「ダンジョンの中だから死体は放置しても良かったけれど、私の証言だけでは不安だろう? やはり、その、直接確認した方がいいだろうと思って」

「あ、あぁ、そうだ。そうだな。確かにそうだ」

「じゃあわざわざここまで運んできたのは、つまり」

「いや確かにこれだけ証人がいればそうだろうけれども」


 ルクスの言葉にそうだそうだと頷き合う。

 確かにダンジョンの中で死ねばそのうち死体は取り込まれる。

 そうなれば、いくらルクスが死んだと言ったところで直接その死を確認したわけではない者たちは疑心暗鬼に駆られることだろう。

 すっかり血の気なんてなくなっているアミーシャの死体を、ルクスはどうしたものかと持ち上げてとりあえず長椅子の上に置いた。

 この闘技場内は安全地帯と同じような扱いらしいけれど、生きている探索者は取り込まれる事はないとは思うが死体をずっとそのままにしても取り込まれないという保証はない。


「それで、これはどうすればいいのかな?」

 ルクスが困ったように顔をかすかに傾けている。

「生憎と、私は生まれた場所が少々、その、辺境でね。こういった事に詳しいわけじゃないんだ」

 言葉を言い淀むルクスに、へぇ? と近くにいた数名の探索者が意外そうに声を上げた。

 確かに見た目だけなら何というか、都会生まれ都会育ちですと言わんばかりの雰囲気でしかないルクスだ。田舎から出て来て精一杯都会に溶け込もうとしている、背伸びしているのがあからさまというわけでもない。

 そんなルクスの口から生まれがとても辺境、という言葉が出て、数名多少なりとも親近感を抱いたのだろう。


 そいつの故郷、確かにここから見たら辺境だわ。

 だって異世界の魔界だもの。


「だったら、おれたちが運ぼうか。運が良いことにここは転移装置があるからダンジョンからすぐにでも脱出できる」

「出て、どうするんだい?」

「どう、ってそりゃ魔女だと突き出すしかないだろ。つっても、既に死んでるからなぁ。証拠っていう証拠はもう残っちゃいないけど、他にも証言者がいればどうにかなるだろ」

「あぁ、じゃぼくたちも行こうかな」

「俺も」

「そうだな、ある程度有名どころのチームの連中が来てくれりゃ信憑性は増すってところか」

「それじゃあ、お願いしてもいいかな。魔女、とか言われてたけど正直私にはよくわからなくてね。捕まえたとはいえ、よくわかってない私が行っても証言だってふわふわしたものになりそうだし、こういったものは名の知られた貴方がたに任せた方が良さそうだ」

 穏やかに微笑むルクスに、任せておけ! とどんと胸を叩いて頷いた探索者はしかし直後にちょっとだけイヤそうな顔をしてアミーシャを抱えた。

 報告に行くのは構わないが、それはそれとして魔女である死体を運ぶというのはやはり……というのがハッキリと顔に出ている。


「こいつ、途中で生き返ったりしねぇよなぁ……?」

「ははは、まさかだろ」

「でも魔女だし」

「いや、古くからの伝承の魔女だって死んだ後に生き返ったりしてなかっただろ」

「やめろよ怖い事言うの」

「お前ら、途中で逃げんなよ?」

「生き返ったら逃げるかもしれない」

「その前にすぐさま殺せばいいだけだろ」


 そんな会話をしながらも、転移装置がある方へと歩いていった。

 死体を抱えながらの移動なので、何というか異様な光景ではある。


 その光景を見送っていたステラだったが、ふいにベルナドットの手を引いて駆けだしていた。


「まってまって、私たちも行くわ」

「えっ、おい」

「そっちは後よろしく」


 振り返りざまにルクスにそれだけを伝えて、ステラはアミーシャの死体を抱えて移動する探索者たちに追いつく。


「嬢ちゃんたちも来るのかよ」

「えぇ、一応どこかに突き出すんでしょ? どうしてそういう流れになったか、っていうの説明するにしろ、一応当事者ぽいのが誰もいないのも問題かなって思って。

 安心して、褒章とかそういうのは遠慮するから」

 にこ、と微笑めば探索者たちは少しばかりバツの悪い顔をした。

「気付いてたのか」

「そりゃあね。じゃなきゃそんな気軽に引き受けたりしないんでしょ? まぁ、褒章目当てに魔女に仕立て上げられた人とか過去にいそうな気もするけど」

「生憎過去にそういったのがあったかまでは知らねぇなぁ。でも、確かに見たんだ。あの鎧の中身を。そんで、前に町の中であいつらの姿だって見た。とくれば、なぁ?」


「あぁ、しかも最近彼女はこのダンジョンでよく見かけるようになっていたからね。という事はつまり、城があるこの王都を魔物を連れてうろついていたというわけだ。流石に見過ごせない」

「なんにせよ、事態が悪い方に転がる前に終わったようで良かったけどな……」

「そうだな。ダンジョンの外で魔物を暴れさせていたら、それこそ過去の魔女の再来だなんだで大騒ぎになってたな……」

「何だかんだ長くここのダンジョンに通ってるから王都にもそれなりの知り合いが出来てるのに、そういった人たちが被害に遭ったり犠牲にならずに済んで良かった、と思う事にしておこうぜ」

「そこだけはそうだな!」


 探索者たちの会話を聞きながら、ステラもうんうんと頷いていた。

 手を引いて連れてきたベルナドットの視線が「おい、ちょっとまておい」ととても訴えていたが知った事ではない。

 多分そういう然るべき機関に突き出すんだろうなとは思うけれど、彼らは証人だが当事者ではない。となれば後日改めてこっちが呼び出される可能性もある。それは流石に面倒だなと思ったが故の行動だった。

 とはいえ、ここでそんな説明をするわけにもいかない。

 言ってもいいが、言えば言ったで周囲からとても残念な目を向けられそうな気がする。別にそれくらいなら構わないのだけれども。



 闘技場の外に出てダンジョンに戻るでもなく転移装置は存在していたため、戻るだけなら何の危険もなくすんなりと外に出る事ができた。

 そうして外に出てみれば、近くを歩いていた通行人がぎょっとした目を向ける。


 まぁ、いきなり複数名の探索者、それも王都でも名の知られた探索者たちが女の死体を抱えて出てくればそうなるだろう。

 その中にいるいかにも非戦闘員みたいな見た目のステラとベルナドットがいるのもなんというか、違和感を増やしているようにしか思えない。まぁそりゃ注目浴びても仕方ないわな、とステラはあっさりと割り切った。

 ダンジョンに入る前に一応王都を軽く見て回ったとはいえ、こういった場合どこに行けばいいのかまではわからない。

 完全に王都初心者ですと言わんばかりにステラは探索者たちの後にくっついていって、一応関係者だけど事態はよくわかってません、みたいな顔をしていた。ベルナドットも何か言いたいことがあるけど口を出すに出せないです、みたいな雰囲気漂わせているので、この中ではどう見ても巻き込まれただけですという風にしか見えない。


 ――そうして辿り着いた先は、教会というよりは大聖堂と言うべき場所であった。


 王都でも城に近い場所。ステラたちもちらっと見たけれど、流石に中に入らなかった場所。

 別の場所に教会があったから、こっちは多分王族とかが式典の時に使う場所だったりするのかしらね、とか言っていた場所だ。

 何というか、気軽に庶民が入れるような場所じゃないなと思えるだけの雰囲気がたっぷりと漂っている。

 けれども彼らが向かった場所は紛れもなくここだった。


 重々しい音を立てて扉が開く。


 てっきり式典以外で使われてなさそう、とかステラに思われていたものの、中には人がいたし訪れた一団を見て何事かと驚いた様子だった。


「これは……一体何事ですか?」

「急に来てすまねぇなぁ司祭様。ちょっと重大な話になりそうなんで司教様も呼んで欲しいんだが」

「なんと唐突な……それだけで司教殿をお呼びできるはずもないでしょう」

「――魔女、と言えばいいか?」


 呆れたように諭そうとする司祭様とやらに、アミーシャの死体を抱えていた探索者が声を潜めて告げる。

 魔女、という言葉に司祭は眉を跳ね上げた。

 見開かれた目にはやや剣呑な光が宿っている。


「本当に……?」

「わざわざ嘘はつかねぇさ。こう見えて信仰心はある方だ。見た目からは信じられないかもしれんがな」

 肩をすくめて言う探索者に、けれど司祭はつまらない冗談をと一蹴する事もなかった。

「しばしお待ちなさい」

 それだけを告げて、去っていく。

 他にも人はいたけれど、建物の関係者らしく一団を中に迎え入れるとそっと扉は閉ざされた。


 流石に魔女、と言われては下手に外に漏らしていい話でもないと思ったのだろう。

 このまま建物の奥にでも連れていかれるのだろうか、と思ったが、流石にこれだけの人数を奥へ通すのもどうかと思い直して、ステラはとても気まずそうな顔をしているベルナドットの脇腹をこっそり肘で叩いた。

 ちょっとした嫌がらせである。

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