詐欺師よりも性質の悪いのがいます
そもそもキールは最初にのっぴきならない事情があって勇者召喚をしたと言っていた。
召喚した勇者にてっきり世界を救ってくれとか言うのであればまだしも、やって欲しい事がダンジョン探索。
それ、勇者、必要、ある?
思わず単語ごとに区切って問いかけたい気がしたものの、まぁ話は最後まで聞くべきだろう。
最後まで聞いてしょうもない内容であったなら、多分クロムが殴る。
キール青年の今後をお祈りしつつも、ステラは更に話の先を促した。
それぞれの人里にダンジョンがある、というのは今聞いたばかりだが、とりあえずこちらの世界では国が全体的に手を組んでいるとの事だ。
水面下ではどうだか知らないが、まぁ表向きには加盟国とか同盟国とかそんな感じなのだろう、きっと。
外の世界に魔物がいない、というのであれば転生前のステラとベルナドットが住んでいた地球みたいなものだろうか、と思うもののあっちだってまぁ加盟国同盟国友好国、そんな感じで色々ありはしたがじゃあ平和だったかと言われればそうでもなかった。
表向き平和ではあったけれど、キナ臭いところはあったしステラやベルナドットが暮らしていた日本から遠く離れた国じゃ紛争内紛内乱そんな感じのニュースがあったりもした。
こっちの世界はどうなんだろう、とふと思う。
そんなステラの疑問を読み取ったわけではないのだろう。けれどもキールの話はステラの疑問を解消するには充分だった。
表向きは平和だとキールは告げる。
けれどもその実裏側ではいかに自国が優れているかの見栄の張り合い。直接戦争をするほどではないようだが、切欠だとかタイミングだとかがあればいつそうなってもおかしくはないのだとか。
「とはいえ、現在国同士が手を結んでいる大きな原因はダンジョン絡みです。どの国にも一つはやたらと大きなダンジョンがあるので、そこで得られる財宝なんかに期待が高まってたりするんですが……それはさておき。
ぼくが頼みたいのはダンジョンの中にあるとされているとある秘宝を見つけてほしいのです」
「秘宝?」
「はい。どんな症状であってもたちどころに回復できる伝説級の秘薬――世界樹の雫を」
世界樹、と言われて思わずベルナドットがステラをちらっと見たけれど、キールはそれに気づかない。
世界樹の精が目の前にいるわけですが……とステラも思ったが、あえて言わなかった。だって別に聞かれてないし。
「どうしてその秘薬を?」
いっそ白々しいまでの表情で問いかける。
「師を、助けたいのです」
その問いにキールは沈痛な面持ちで語りだした。
キールの師アズリアは魔導士であった。
彼女はその多大なる知識によって過去に失われた術を読み解き、危険なものはともかくそこそこ安全に一般的に使えるように術を改良する事にも長けていた。
事実彼女によって改良された術のいくつかは今でも活躍しているし、魔導士アズリアの名を知らぬ者は探索者の中ではいないとされているくらいに有名ではある。
勇者召喚の術も彼女が復活させたのものの一つであるのだ、とキールは告げた。
そんな彼女だが、ダンジョン攻略の為に更に使える術を開発するべく研究を重ねていたのだが……ある日仕えていた城を追い出された。
「追い出され……って、研究費がかさみ過ぎたとかで? つぎ込んだ資金の割に思ってたのと何か違ったとかそういうやつ?」
すっかり朧気になってしまった知識の中からステラはとりあえず異世界ダンジョンもので何かそういう展開がありそうなやつをどうにか思い出してみる。
同僚に要領のいい奴がいてそいつに研究結果を奪われた結果、大した功績を出せていないと思われて無能な奴め、お前などお払い箱だ! みたいな展開の話はいくつかあった気がする。
まぁ大抵そういう話は後々追い出した所がどんどん転落していくのだ。さながら座敷童が出て行った後の家のように。
探索者にとってかなり有名な存在であるらしいアズリアだが、彼女が国を追い出される前か後のどちらのうちに名を馳せていたのかで話は変わる。
追い出される前から有名であったなら、あいつ名ばかりでちっとも使えないと言われてそうだし、追い出された後で有名になったのなら、どこか別の場所で働けるようになってそっちでめきめき頭角を現したパターンだろうか。
しかしキールはそっと首を横に振った。
「いえ、あの、魔術師がそもそも多くないのと、前衛に分類されがちな人たちの方が多いので新たな術の開発よりもそちら側に資金をつぎ込みたいとかで……」
「それだけ?」
「はい」
「え? えぇ……? 前衛職側の特訓施設だとか、そういう方面に資金を多く使いたいって事よね? でも、だからって追い出す……?」
転生前の世界で遊んでいたゲームで、国のトップになって時として魔物を鎮圧するべく各地を赴き戦う、なんてのがあったが、戦うだけではなく内政もきっちりこなさないといけないやつがあった。
操作キャラはあくまでもその国のトップだが、国を守る兵たちの中から仲間を揃えたりするので、技を磨いたりする道場的なものに資金をつぎ込んだりだとか、武具の開発だとをしたりだとか、やるべきことはそれなりにある。むしろそこを疎かにすると敵は強くなっていくのにこっちの武力はあまりぱっとしない……なんて事もあるので下手をすれば苦戦どころか詰む。
その中に術の開発なんてものもあった。
けれども術師を仲間に入れておかないと確かに術を開発しても意味がない。
そしてゲームあるあるではあるが、術師は基本的に体力とか低いし装備できる防具も重装備などはまず無理。防御力とか現時点で揃えられるもので固めても気休めレベルだったりするので、下手するとボスの手前の中ボスあたりで死ぬこともあり得る。
使いどころによっては確かに役に立つのだけれど、場合によっては強力な技を覚えていれば術師がいなくてもどうにかなる。攻撃は最大の防御とばかりにごり押しで勝てないわけでもない。
プレイヤー次第ではあるが、ガンガン突っ込んで戦える前衛職、後衛は術師ではなく遠距離系の武器を持って戦うキャラで構成し、術など使わぬ、とばかりのメンバーで突撃するなんてのもあった。
別に縛りプレイをしているわけではないのに何故か偏るメンバー。
とはいえ、最初から最後までそれでいけるか、となるとそれはまた別の話なのだ。
どれだけ弱かろうとも、話の進行上どうしたって術者の協力が必要、みたいな事になったりしてイベントクリアのためにはどこかで術者を組み込んだり、他の仲間を勧誘するのに必須、とかで組み込んだりする事だってある。
まぁそれはゲームの話なので、こちらの世界の現実でそれら全部が適用されるかとなるとそれはまた別の話だ。
「予算を無駄にできないのと、金を払えないのに遊ばせておくわけにもいかない、と」
「あぁ……」
ステラがそう呟くと、ベルナドットも何とも気まずい感じで頷く。
使える資金はない。研究させられる余裕もない。ただ置いておくだけ、というのはゲームであればともかく、現実では待機させるだけでも金がかかる。
待機命令出した場合はそれも仕事の一つだし、であれば給料が発生する。一月くらいならまだしもそれがずっと続けば働いてないくせに給料だけもらってる、給料泥棒め、なんて陰口が出ないとも限らない。というか高確率で言われるだろう。
かといって自主的に研究しようにも、金のかからない範囲でとなるとそれも中々に難しい。
払える金がないから各自で好きにやってくれ、なんて言われた場合、他の国にでもいかれてそのまま二度と戻ってこない、なんて可能性もあるので流石にそういった指示は出すに出せない。追い出すならまだしも、手元に置いておくつもりであるなら余計にだ。
「音楽性の違いで解散したバンドメンバーみたいなものかしら」
「それもどうかと思う」
即座にベルナドットが突っ込んだが、キールは何の事かさっぱりわからなかった。
問いかけようにもそれよし先にステラがまたもや口を開く。
「それで、国から出た貴方のお師匠様、一体どうしたの?」
「他にも不遇な立場で追い出された魔術師だとか、探索者仲間から解散しようって言われて流石に一人で探索は……ってなってる魔術師の面々を集めて、とりあえず魔術師一団でダンジョン探索をする事にしたんです。
ぼくたちだけでそこそこの難易度のダンジョンを攻略できれば魔術師の価値を示す事もできますし、財宝を見つければ研究資金に回す事だってできます。
魔道具であった場合はそれを研究して改良できてなおかつ量産できれば、魔術師の価値だけじゃない、活動資金を得る事にも繋がる。
行くアテがあるならともかく、それすらないぼくたちはダンジョンに挑むしかないんです」
研究は仕事であってそうじゃないならやらなくても、みたいなタイプならともかく、研究したいがためにその仕事に就いたのにできないんじゃ、できる所に行くのは当然の流れか。
「しかしやはり魔術師だけで挑むとなると中々に大変で……師はそれでもどうにかダンジョン攻略の際にぼくたちだけでもどうにかやれそうな術を編み出そうとしていました。
けど……心労がたたってか倒れてしまって……目を覚まさないんです。生きてはいるんですが。
最初は少し休めば起きるだろうと思っていました。けれど三日以上目が覚めず、流石におかしいと思い始めました。だって、三日も寝てたらトイレとか流石に大変でしょう?」
目が覚めない、という言葉だけだとそのまま死んだのでは? と思ったがすぐさまいきてると言われたのでそこは安心するべきなのだろうか?
とはいえ確かにキールの言う通りでもあるのだ。
寝食を忘れて研究に没頭していたとして、その後三日も目覚めないのであれば確かにトイレとかの問題は出てくる。ロクに食べてなかろうともそれ以前に体内で作られた老廃物だとかはあるだろうし、いつまでも体内にため込んでおくわけにはいかないものはそのうち体外に出るようになってるはずだ。
それ以前に、それだけの間眠ったままだと起きた時脱水症状になっていたりしないだろうか?
「色々調べたんですが、どうも何かの呪いにでもあったのではないか……というのがぼくたちの見解でして。
解呪の術はいくつか試してみましたが、ぼくたちの知る術ではどうにもできず。
本当に呪いかどうかも疑わしくなってきて、こうなったらもうありとあらゆるものを治せる万能の治療薬を見つける方が確実ではないか……と」
「けど、そのためには危険を冒してダンジョンに行かないといけない」
「はい。そして今のぼくたちにはそこまでの実力はないんです」
だから。
だからどうか。
「師を、助けるために力を貸して下さい」
それは真摯な祈りであった。
自分のためではなく他者の為の祈り。
この場に召喚されたのがステラたちでなければ、きっと普通に手を貸すと応えていた事だろう。
だが――
「力を貸す、のはともかくとして、少し時間をくれないだろうか?」
そう言ったのはルクスだった。
柔和な笑みを浮かべているその様子から、面倒だし断りたいという雰囲気は一切ない。
どころかキールの事情を聞きそれに寄り添おうという雰囲気すらある。
「時間を、ですか……?」
だからこそキールはその目をぱちくりと瞬かせながらも聞き返す。
「そうだね、大体三日くらい。こっちの世界についてもう少し詳しく知っておきたい事がある。準備もしたいし。まさかいきなり事前知識なしでダンジョンに行け、なんて言わないだろう?」
「そ、れは……え、いいんですか? 行って、くれるんですか……?」
「最終的にはそうなるかな」
「有難うございます!!」
「はは、礼を言うのはまだ早いんじゃないかな。とりあえず、呼び出した以上は寝泊りする場所は提供してくれるんだよね?」
「それは勿論、こちらの空き部屋なので少しどころじゃなく貧相なのが申し訳ないですが……」
「あぁ、それは構わないよ。そうだな、こっちの世界の事を色々と知りたいんだけど、本とかはあるかな? できるだけ多い方がいい」
「師が使っていた書庫なら」
「それは重畳」
そこでルクスは一度言葉を切って、すぐに何かに思い当たったように再び口を開く。
「あぁそうだ、ダンジョン周辺の街? 村かな? ともかくそっちの様子もちょっと知りたいから少し見て回っても?」
「それは……あまり騒ぎにならないようにしていただければ」
「勿論、あまり目立つような真似をするつもりはないよ」
「それなら、大丈夫です」
「ところでここ、窓がないから外の様子がわからないし時間が今どのあたりなのかもわからないけど」
「今は……あぁ、もうじき夕食の時間ですね。用意できたらお呼びします」
「私たちが寝泊まりしていい部屋は?」
「準備に時間がかかると思うので、その間は」
「では、その間に書庫を見せてもらっても?」
「え、あ、はい」
「では、案内してもらおうかな」
打てば響くかのような流れで、気付けばステラたちは書庫に案内されていた。
「準備ができたら呼びにきますね」
「あぁ、有難う。あ、そうだ。もう一つ聞いていいかい?」
「? 何でしょう?」
「この世界の最高神は何て呼ばれているのかな?」
「最高神……世界を創った神様の事、ですか? それなら……創星神です」
「ありがとう。では私たちはしばらくこちらの本を見せてもらう事にするよ」
「あ、はい。それじゃぼくはこれで」
服従か死か選べと言われていた時とは打って変わって、何事もなかったかのようにキールは書庫の扉を閉めてその場を後にした。
ぱたぱたと軽やかな足取りで立ち去っていくその音が聞こえなくなるまで書庫に入った四人は無言のままだ。
「なぁ、伯父さん」
クロムが声を潜めて呼びかけるも、ルクスはしぃ、とばかりに唇に人差し指を立てた。それを見てクロムは黙り込む。
「…………うん、一応周囲に盗聴の可能性はないかな。防音魔術で部屋を囲ったし、外に聞かれる恐れもない。さて、話し合おうじゃないか」
そう言ったルクスの表情は、何というかとても胡散臭いというか白々しいというか……何も知らない者が見ても充分に不審だと思えるものだった。




