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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
一章 ゲームでいうところのありがちな追加要素

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フラグブレイカー



「――というわけで仕方ないからキールにはこれを身に着けてもらうわ」


 魔物が出た、とはいえ別に苦戦するような相手でもない。

 正直キールだけなら勿論命の危機を感じて逃げの一択を選ぶようなものではあるけれど、ステラたちからすれば特になんとも思わないような相手である。

 ベルナドットが大半を射殺して、残りもクロムがその拳で一撃だった。


「何で最初弱そうな感じ装ってたんです……?」


 流石に武器だけでそんなあっさり倒せるはずもない。他の探索者と違い常にステラたちと行動していたキールはその事実に気付いている。最初こそうっかり騙されかけたが。

 けれども、武器だけが強いから、なんて理由でここまで余裕かませるはずがない。実力が備わっていたからこそ常に余裕だったんだな、となれば、その疑問が口から出るのは当然であった。


「いや、最初から強いと思われていきなり高難易度のダンジョンとやらに突っ込まれたら面倒かなと思って」

 ルクスがしれっと言ってのける。

 実際はいくら強くて実力があるだろうと思える相手でも、探索者としてマトモにダンジョンを行った事がない相手はまず初心者向けからスタートしなければならないのだが、この世界の住人でもないルクスがそれを知るはずもない。その警戒は当然か、とキールはすぐさま納得した。

 実際その常識ともいえる部分は、アズリアの書庫で得た知識でルクスも既に知っているが、わざわざ言わなくてもいい事である。



「それで、えぇと、何ですかそれ」


 ステラが手にしている物は、別に知らない道具ではない。

 眼鏡。

 視力矯正のための道具である事くらいは知っている。

 こちらの世界でも普通に存在しているし、身に着けている者だってそれなりに存在しているのだから。


 けれども、何というかとても微妙なデザインだった。

 何というか前時代的なものを感じるくらいに古臭いデザイン。


 というか、レンズが分厚い。まるで瓶の底のような――誰が身に着けても平等にダサいと言われるような代物。


「見てわからない? 眼鏡だけど」

「それはわかります。わかりますけど、どうしてそれを?」

「かけたら罠の位置わかるから、かしらね」

「はは……」


 ステラの言葉に思わず乾いた笑いが出た。

 笑うつもりが元々あったわけではない。けれども、あまりにも当然のように言い切られ、キールはどういう反応をするのが正しいのかわからなくなっていたのだ。


「ちなみにデザインをもっと洒落たものにするのは可能なんだけど」

「じゃあそうした方が良いのでは」

「でもそうすると、他に欲しいって言い出す人が出ないとも限らないでしょ?」


 確かにレンズだとかフレームだとかにこだわって職人にあれこれ注文つけてる人がいるのはキールも知っている。なんだかんだ顔に装着するもので、そうなるとイヤでも人の目に触れるわけだから、なるべく見目良くみられるものを、と思うのは別におかしなことでもなんでもない。


 ずいっと差し出されたそれを、キールは半信半疑ながらも受け取って、そっとかけてみた。


 視界は悪くない。

 というか、別にキールは視力に問題を抱えているわけではないのでレンズとか逆に視界が不明瞭になったりするのではないか、と思ったがどうやら度は入っていないようだ。けれども視界の所々に、何とも言えない光の点が見えた。


「今レンズ越しに見えてる光の点が、罠の位置ね」

 見れば先程ルクスが試しに踏んでみた床や、クロムが押した壁も確かにその光の点が存在している。

 他にも数か所光がある、という事はそれも罠、というわけで。

 思った以上にあるな……とキールの頬を冷や汗が伝っていく。眼鏡をかける前の視界からすれば、ごく普通の通路であるのにこうして見ればちょっと動いたら何かの罠にうっかりどころじゃない勢いで引っかかりかねない。


 魔物と遭遇して戦っているなら、まず間違いなく魔物の攻撃を回避しようとしてひっかかるだろうな、と思えるものが複数。仮に魔物から逃げようとした場合であったとしても、うっかりで踏み抜くだろうものも複数。

 仮に魔物から逃げてきて、ようやくここで立ち止まってぜぇはぁ言いつつ壁に手をやったりした場合に引っかかってそうだな、と思えるものもいくつか。


「……罠だらけじゃないですか!」

「そうね、私たちは何となくわかるけど、キールはわからなかったんでしょ? じゃあそれつけておいた方がいいと思うわ。余計にね」


 デザインがダサいとか言ってる場合じゃない。

 むしろこれがあるのと無いのとでは生存率に関わってきそう。


「その、どうしてこんな便利なアイテムがあるんですか……?」

「前に錬成台で作れるアイテム一覧の中にあったから、試しに作ってみたのよ」


 あっさりと言われたそれに、なるほど、と頷く。

 錬成魔術を扱える者であれば作れる、という事なのだろう。


「でも、当初のデザインはもっと普通だったわ。それを私が意図的にそんな感じにしたけど」

「なんで!?」

「だってデザインがそこそこ良かったら他にも欲しがる人出てくるでしょ。でもその眼鏡見てキールどう思った? うわダッサ、とか思ったし罠がわかるなんて言われなかったら正直絶対かけないでしょ」

「それはそうですけど」

「オシャレ眼鏡だと無いと思いたいけどこっそり盗めばいいとか考える人が出ないとも限らないでしょ。でもそんなクソダサ眼鏡盗もうって思う? 仮に罠がわかるっていう機能目当てだとしても、そんなん盗んだ挙句装着とか色んな意味で恥しかないわよ」


「それは……まぁ、はい」


 あまりにもきっぱりと言われて、キールは何て言えばいいのかわからなくなってきた。

 ステラの言い分はそれはそう、としか言いようがない。


 罠がわかる。そんな機能がついてるとなれば、確かに欲しがる人はいるだろう。

 でも、これしかない、となって、どうしても必要だから売ってくれ、とかいうにしてもだ。

 こんなクソダサ眼鏡金出してまで買うか? ってなる。

 仮に盗んだとしても、盗んでまでそのクソダサ眼鏡かけたかったの? とか他の人に思われたら色んな意味で心が死にそう。罠がわかる機能目当てで! とか言おうにも、実際には盗んでまで装着している眼鏡はどう足掻いてもクソダサ眼鏡だ。

 お前のセンス疑うわ……とか言われたら必死に否定するだろうけれど、こういう場合必死になればなるほど逆効果なのは言うまでもない。


「とはいえ、その眼鏡が罠わかる機能ついてるって知らなきゃ単純にキールのセンスが圧倒的残念なだけ、って話なんだけど」

「それメリット何かありました……?」

 じゃあ別に普通のデザインでも良かったのでは。


「え、でもキールって正直顔晒すのがイヤっていうか、目を出すのイヤ、って感じしてたから?」


 その眼鏡ならあまりのクソダサっぷりに目が向くとはいえ、意識が向くのはそこだけで、それ以上はないでしょ? なんて言われてしまうと余計言葉にならなかった。


 確かにそうではある。目を、というか目の色が嫌いだ。自分の目の色がどうしても昔から好きになれない。別に誰に何を言われたわけでもないけれど、それでもどうしても。

 そのせいで拠点の中はともかく外に出る時はフードを目深にかぶるようになってしまったし、ダンジョンの中ならともかく、安全地帯で休む時も他の探索者と遭遇した場合も何となく目を見られないように、という意識はあった。


 大半は追放された魔術師だから、という目を向けられるのがイヤなんだろうと思っていただろうけれど、実際のところそのあたりはキールとしてはどうでもよかったのだ。


 確かに目を見られるのはイヤだ。その思いは昔からずっと変わらない。

 勇者召喚して最初の時に、彼らと面と向かって顔を見せて話す時も少しばかり躊躇った程度には。


 けれども、まさかその時からずっとそれに気付いていたというのだろうか……?


「いつから、気付いていたんですか?」

「いつ、って言われてもねぇ。何となくそうなのかなって思い始めただけだから、具体的にいつって言われると困るわ」


 ハッキリそうだと気付いたわけではない。ただ何となくそうなのかな? と思っただけ、とステラは言う。


 その時、何となくキールの胸のあたりがぽう、と温かな光でも宿ったかのような感覚に見舞われた。

 異世界から召喚した女性。彼女の事なんてほとんど知らない。けれども、彼女は自分の理解者たりえるのではないか……ふとそんな風に思えてしまって……


(これはまさか……恋……?)

 なんて思っていやまさかという否定する気持ちと、でも気遣いの仕方はさておき自分を見てくれたのは確かだしな……という恋を否定するつもりのない気持ちとが、キールの中で揺らいでぶつかり合う。

 確かにステラは見た目は驚く程の美少女だ。美女、というよりは美少女といった方がしっくりくる。性格は見た目通りではないのはある程度共に行動していたから知っている。多くは知らないが、これから知っていけばいいだけの話で……


「母さんって昔からそういうの気付くよな」


「え?」


 今、何と?

「ん? あぁ、母さんって昔からそういうの気付くの早いんだよ。オレの隠し事とかすぐ見破るし」

「母さん……?」

「おう」


 クロムが頷くのを見て、キールは何を言っているんだこいつ……と思いつつもステラの方へと視線を動かした。

「クロムは昔からわかりやすいもの。隠し事とか向いてないわよ。っていうか私が気付くの凄いんじゃなくて、案外皆がわかりやすいだけなんだけど」

「あの」

「なぁに?」

「息子……?」

「えぇ」


 キールがピッと指をクロムに向けて問いかければ、ステラはあっさりと頷いた。


(いや、え? 親子……? クロムがルクスの事を伯父さんと呼んでたのは聞いたけど、ステラとクロムが親子……!? どう見たって年齢近そうなんだけど!? 姉弟とかではなくて!?)


 もしかしてからかわれているのだろうか、と思ってベルナドットやルクスの方を見れば、そうだな、とばかりに彼らも頷く。


 そもそも彼らは見た目こそ若く見えるが実年齢は普通の人間だととっくに死んでておかしくないくらいの年齢だ。知らない者が見ればさぞおかしなものだろう。


 ステラの年齢がとても気になりはしたものの、下手な質問をすればクロムの拳が顔面にめりこむのではないか、と思えてしまったのでキールはそっと口を噤んだ。

 芽生えかけていた気がする恋の気配は、恐ろしい速度で急速に消失したが……下手に恋心を抱いていたら後々キールの命の危機にしかならなかったので、これで良かったのだろう、きっと。

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