筋肉は裏切らない
さっさと上級者向けのダンジョンに行く、という方針になった時点で、キール達と一緒にダンジョン攻略していく事に少しばかり不都合が生じた。
少人数を連れていくとはいえ、一応魔術師たちのレベルアップも兼ねてはいたのだ。
実際ステラが作った武器などである程度苦戦する事がなくなってきたとはいえ、いくら武器が強くともそれを使う本人がそうでなければどこかで詰む。
ステラたちの事をロクに知らない探索者たちが幸運なルーキーに思うような事と大体同じやつだ。
武器だけ強くてもそれを使う者が弱ければ、何かの拍子に武器から手が離れた場合あっさりと死ぬ。
魔術に関してはルクスがちょいちょいそこの詠唱短縮可能だよだとか、あれこれ口を挟んだ結果発動までの時間が短縮されたしそういう意味では魔術を使って戦う事も大分こなれてきたとは思う。
けれども。
やはり魔術だけでダンジョンを渡り切れるかとなれば難しい。
ダンジョンの中で何体の魔物と遭遇する、というのが明確にわかっていれば対策を練って攻略できるかもしれないが、戦闘回数は不明。どこでどの魔物に遭遇するかもわかるわけではない。
ゲームの場合は乱数調整とかでエンカウント率をどうにかする事もできなくはないが、現実でそんな事ができるはずもない。魔物が近寄ってこないようなアイテムがあれば別だが、多くの探索者は持ってはいないだろう。
錬成台経由で作れるアイテム一覧を知った時、ステラは一定時間魔物が近寄ってこないアイテムのレシピも知ったけれど、それに使われる素材は別のアイテムにも使えるし、どちらかといえばそっちを作るのに使われそうだなと思えるものだった。
それに近寄ってこないとはいえ、絶対遭遇しないわけじゃない。
遠くから攻撃できるタイプの魔物には意味がないので、仮にそのアイテムを使ったとして効果を実感できなければ無駄アイテムと切り捨てられる事だろう。
とりあえず魔術師たちはダンジョンの中に出る魔物で対処可能だなと思える相手を狙って体術面の強化をする事にしたらしい。
立ち回り方を覚えれば、確かに他のダンジョンでもそれが役に立つ。今までも一応それなりにやってはきたものの、攻撃は魔術がメインだったのでどちらかといえば回避に重点を置いていた。
けれども、詠唱短縮して即座に放てるようになった魔術。そして特定の種類の魔物に効果を発揮する武器。これらを用いていく事で、近接戦闘可能な魔術師へと彼らは変わろうとしていた。
前衛職と呼ばれる剣士だとか格闘家だとかにお払い箱にされた過去があったからこそ、正直魔術だけで見返してやりたいという気持ちは確かにある。魔術師だって戦えるし、役立たずなんかじゃない! と声高に宣言したい気持ちは確かにあるのだろう。
けれども。
戦い方に拘って結果を出せないよりは、使える手段を増やすべきだと魔術師団の人たちは考えたわけで。
何が言いたいかというと、最近魔術師たちの中で筋トレがブームになりつつあった。
確かにダンジョンの中を行くとなれば体力は資本。あって困る物でもない。
魔物との戦いだって攻撃を回避するにしろ、不利を悟って撤退するにしろ、体力あってこそだ。
それに最近は近接武器も使うようになってきた。であれば、なおの事、武器を振りぬく腕力も必要になってくるし、足腰の鍛錬は今までもしていたが今まで以上に余念がない。
「私、てっきりあの魔術師たちは運動とか嫌いなタイプだと思ってたんだけど……」
「確かに彼らは研究とかそっち方面好んでますけど、ダンジョンを行くわけですから身体動かすのがイヤというわけではないです」
談話室みたいな扱いをされていた部屋の一つに、トレーニング機器をいくつか置いた結果、それらを使ってトレーニングに励む魔術師たちを見て、思わずステラは遠い目をしてしまっていた。
だって出会った当初は皆どいつもこいつもひょろひょろのもやしみたいな姿だったんですもの。
一応一緒にダンジョンに行くようになってからというもの、ただのもやしではないとは思ったが、それでも小規模ダンジョンあたりはともかく大規模なダンジョンになると後半厳しいだろうなとも思っていた。だからこそ、あまり規模の大きなダンジョンに行かず今までは日帰りでどうにか帰ってこれるような所しか選んでいなかったわけだが。
「魔術の腕も上がったし、同時に魔物を武器だけで倒せるようになったとなれば効果を実感できるわけで。今まで散々役立たずと言われてたのもあって、余計になんだと思いますよ」
確かにそうだ。武器のおかげといってしまえばそれまでのところもあるのだが、それでも魔物を魔術以外で倒せるようになってきているし、今までに攻略はしたけどそれでも中々に時間がかかっただとか苦労したダンジョンに再度行きなおしているけれど、前より苦労せずに攻略できた、なんてのもあれば効果は目に見えてわかりやすい。
研究などに没頭していたタイプはもともと凝り性でもあったのか、あの魔物と遭遇した時にこういった立ち回りはどうだろうだとか、このダンジョンなら最短ルートで行けば攻略するまでの時間を縮められるのではないかだとか、おかしな方向に熱意が発生している者も出てきたしよしそれじゃあ実践だ! とばかりに数名でダンジョンへ行く始末。
ステラの目にそれらは、ゲームでいう所の序盤の足固めが済んで色々出来る事が増えてきたあたりかしらね……といった風にしか見えなかった。
装備とかある程度揃ってばっさばっさと敵を倒せるようになってくると確かにノリにノッて進んじゃうけれども。
ちなみにそんな同士たちを見守るキールはそこまで筋トレにはまったりしているわけでもない。
というか、ステラたちとダンジョンを行くのは今ではキールだけになっていた。
他の面々は現在魔物との戦い方の見直しをしたり、魔術の訓練もだが体の動かし方を学んだりして大変忙しくも充実してる感じだが、彼らは彼らでグループができてしまった状態なのだ。
キールともう一人くらいダンジョンに連れて探索するにしても、こいつ連れてかれるとこっちがダンジョン行けなくて困るな、みたいなのが出てくるようになってきた。
そういうわけで何だかんだあったものの、一応ここの代理リーダーだというのにキールがぼっち状態になってしまったわけだ。
どのみち魔術師たちが上級者向けダンジョンに行けるようになるまではまだまだかかりそうだし、それなら先にキールだけ連れていってしまった方が手っ取り早くはあるのでステラたちは別に困るものでもない。まぁ折角だからという事で、ダンジョンに行く時はルクスがキールに魔術のあれこれを少しずつ教えるようになった。
仮に、もし最終的にキールがこちらの敵になったとしても、勝算はある。それもあってルクスは面白半分でキールに手を貸している部分もあった。
魔術師たちはまだ中級者ダンジョンの中でもそこまで規模の大きな所へは行っていない。自分たちの体力をよくわかっているからか、なるべく疲れ果てる前に戻ってこれるくらいの所を選んで探索しているようだ。
ステラたちはそれとは別に上級者ダンジョンへ行くのが現時点での目的なわけで、キールを連れて泊りがけのダンジョン探索。
完全に別行動となってしまった。
とはいえ、彼らもいずれは上級者向けのダンジョンへ行くつもりはあるようなので、そのうち追いついてくるだろう。どのみち彼らをどうしても連れていかなければならない理由もない。ステラたちはあくまでもダンジョン探索して世界樹の雫とか師匠を助けられそうなアイテムを見つけるために呼び出されたのであって、魔術師たちを強くするために呼ばれたわけでもないのだし、そこら辺に関してはあまり深く考えてもいなかった。
まぁ、何かの拍子に強制的に戦闘イベントみたいなものが発生した場合が危険ではあるが……人間死ぬときは何したって死ぬのでその時はその時だと思う事にする。
「――ところで、これ本当に大丈夫なんだろうか?」
キールが不安げに両手を顔の前あたりまで上げながら問いかけてくる。
両手――左右の中指には丸い石のついた指輪がはめられていた。デザイン的にオシャレのためにつけているというよりは、これが、キールにとっての武器であった。
他の魔術師たちは基本的に杖やらロッドやらを使っていたが、キールだけはそれらの武器を使っていなかった。単純に数が不足していたのもあったけれど、キールの魔力に杖が耐えられなかったというのもあった。
他の魔術師たちと比べて、キールの魔力量は文字通り桁が違っていたようで、普通の魔術師が扱える杖やロッドをキールが同じように使うと場合によってはキールの魔力に耐えられず杖が折れたりはじけ飛んだりするのだ。それもあって、キールは今まで武器らしい武器は持たずに魔術のみで戦っていた。
マトモに武器を手にしたのは、ステラが隠し部屋で財宝を見つけたと言って持ってきたロッドを試しに使った時と、ルスティルでゴーレム特攻の効果があるモーニングスターを使った時だ。
あのあと、素材があれば一応物は作れるというステラにだからこそダンジョンを出てから相談してみた結果が――今キールの指にはまっている指輪である。
一つの属性に特化していたロッドは確かにあれはあれで心強くはあるのだけれど、いかんせん一つの属性に関して、という物なので使いどころを間違えると大変な目に遭うのは言うまでもない。
キールは一通りの属性の術は一応使えない事もない、というある意味で万能っぽいがその実器用貧乏タイプであるらしく、あのロッドはあまり使いこなせない気がしたのだとか。
苦手なものはないけれど、得意なものもない。
場合によっては使い勝手が良さそうに思えるが、その実得意な属性の術がないのはいざという時の決め手に欠ける。杖やロッドの力である程度増幅させたりするにしても、下手をすればその武器の方が先に壊れる始末。
魔術師の持つ杖やロッドは魔術の制御を助けるものであったり、魔力を増幅させるものであったり様々ではあるが、それが壊れるという時点で……扱いにくいと思われるのはステラにも理解できる。そんなのと一緒にダンジョン探索しようにも、何というか……大丈夫か? という不安を抱くのも仕方ないと言えるかもしれない。
魔術師であるはずなのに、その魔術師用の武器がすぐ壊れるとか魔術師としても致命的では? となるのは当然だろう。
「何を不安に思ってるのか知らないけど、大丈夫よ」
「なんだ? 杖とかロッドみたいにその指輪がはじけ飛んで自分の指ごと逝く可能性でも考えてるのか?」
キールの問いにさらりとステラが返せば、その横にいたベルナドットが笑い飛ばす。正直笑える内容ではない。
「あ、いえ、それも確かに一瞬考えたんですけど……」
「私が作ったんだから大丈夫に決まってるじゃない。っていうか、それ、改良の余地ありとはいえ、現時点で貴方が使いこなせないって事はないわ。むしろ文句は壊してからいいなさい」
「壊れてから、じゃなくて壊してから、なんだな」
「当然よ」
そもそも、確かにキールの魔力量はそこらの連中と比べれば多いのかもしれないが、その程度で壊れるような代物を作った覚えはステラには無い。カスタムできる状態にしてあるし、そういう意味では伸びしろのある武器と言えなくもないがいくらレベル1状態のものだといえど、キールが壊せるような脆い物ではないのだ。
それこそルクスあたりなら壊そうと思えば壊せるかもしれないが、つまりそれはキールの実力がそこまでいかなければ無理という事でもある。
「その指輪他に素材足して属性強化とか魔力増幅とか色んな効能付け足せるようになってるけど、現状はまっさらな状態だから。強化したいならせっせと素材を集める事ね」
びしっと指を突き付けて言い放てば、キールもそれ以上は何も言わなかった。
言えなかった、が正しいのかもしれない。
これ以上ここでぐちぐち言ったところでステラがマトモに取り合ってくれないと思ったのだろう。
とりあえず壊れたら文句は受け付けてくれるらしいし、仮に壊れたとしても基本的にキールはダンジョンに行く時はステラたちと一緒に行動する。
考えて、考えた結果、じゃあ、まぁ、とりあえずは使ってみるけれども……とやや納得した様子ではないもののそういう結論に落ち着いたらしかった。
「ここでぐだぐだしてても仕方ないんだし、折角だからじゃあダンジョンに行きましょうか。できるだけ色んな素材集まりそうなところがいいわね」
どうせ何をするにしても、やる事はダンジョンに行くくらいしかないのだ。
そうじゃなければ集まった素材を元にアイテム作るとか、あとは魔術師たちの鍛錬の手伝いだとか。
そういうわけで、大きめのダンジョンへ行く事にしたのである。




