方針の確認
アミーシャ。
名前だけはわかったものの、彼女が普段どこにいるかまではわからなかった。
とりあえず酒場とかでルクスが適当に酒を振舞いつつそこらの探索者と和やかな会話をしつつ聞いてみたりもしたけれど、まず噂では上級者向けのダンジョンを攻略していると聞きはするが、どのダンジョンをメインにしているとかそういった話は出てこない。
というか、まず聞く場所が悪かった。
ルクスが足を運んで聞き込みに行った酒場の探索者は大抵が中級者向けのダンジョンを攻略する者たち。上級者向けと呼ばれるダンジョンへ行くにはまだまだ先の話……といった者たちばかりだったのだ。
上級者向けのダンジョンがある街や城のある所で情報収集すればまた違った話が聞けるとは思うものの、今現在ステラたちはまだそちらへ行く事ができそうにない。
いや、転移機能に頼らず自力で陸路を行けば可能ではあるのだが、生憎地理がよくわかっていない。
どこになにがあるかもわかっていない状態で外を行くのは流石に……と思わなくもない。
ルクスなら空間転移ができるので最悪道に迷ってもグリオ農村に帰ってくるのは可能だろうけれど、どうせダンジョンには行かなくてはならないのだ。それなら最初から外からのルートを開拓するより素直にダンジョン攻略して上級者向けのダンジョンへ行く資格を得た方が良い。
ルスティルでアミーシャと出会ったのは、彼女があのダンジョンを探索しようとしたからではなく、明らかにステラたちと会うためだったのだろう。
「ダンジョン関係者、である事は確かなのよね」
「あるはずのない隠し部屋の話か?」
「いえ、そうじゃなくて。あの時アミーシャ、逃げたじゃない。転移装置もない所でダンジョンから綺麗さっぱりいなくなった、って事は転移装置以外の転移できる能力があるって事よね。
アビリティに転移、とかいうのがあるならともかく、もしそうじゃないならダンジョン関係者のみに与えられる能力があるとも考えられるわ」
「……言われてみれば。何か俺たちの周囲普通に魔術でぽんぽん空間越えて移動してるものだから、あれおかしいって思わなかったな」
「そうよね、私たちの周囲能力的におかしいのしかいないから、本来なら突っ込むべき点もうっかりスルーしてるのよね……」
冷静にこっちの世界大半が人間種族しかいないようだし、普通の人間ならそんな能力持ってるのおかしくない? と思えるようなものでもアビリティかな? とか思うのもいけない。
こういう時ファンタジー要素のある世界だと大体そういうものだと思うのだから、ステラたちも大概毒されているというか、受け入れているというか……人類卒業してからは余計にそこら辺スルーしがちであるのは確かだ。
「そういやさ、随分前の話になるんだけど」
「なぁに?」
「ほら、俺たちがまだ人間だった頃にダンジョン行っただろ。聖王国の」
「懐かしいわね」
「そこで使ってたポータルリングとかポータルストーンとか、こっちで使えないのか?」
「そもそもここ既に転移機能のある装置があるわけだから、ポータルを設置できないんじゃないかしら。仮に無理に設置しても、アミーシャみたいなダンジョン関係者が取り除く可能性もあるわよね。
隠し部屋とかもうどう足掻いてもどうしようもない、みたいなのならともかく、ポータルは設置したとしても撤去できるものだし」
滅茶苦茶頑丈にしてちょっとやそっとじゃ撤去できないようにしたとして、それでも問題は出る。
「仮に撤去できないようにしたとしてもよ? そうなるとポータルリングとかの存在をどうするか、なのよね」
ポータルとポータルリング。
ダンジョンの安全地帯に設置したポータルに魔力登録さえしてしまえば、そこから一階層に戻ったり、次の探索で前回立ち寄った階層のポータルまでワープできるというゲームだと割とよくある便利機能みたいなものではあるのだが。
かつて、聖王国と呼ばれていた国の世界最大規模と言われていたダンジョンにステラたちはそれを設置した。
大体十階層ごとに階層主っぽいのがいて、それを倒した次の部屋は魔物が出ない安全地帯でもあったもので。こちらの世界のダンジョンもそれと同じような形式ではあるが、違いは一つ。
安全地帯には既に転移機能のある装置がある。
とはいえ、こちらの世界の転移装置は帰る事はできても次に前に行った階層へ転移できるものではないが。
それを考えるとポータルの方が便利かもしれないが、設置できるかは微妙な話だ。
「私たちだけが使うにしても、そうなるとダンジョン関係者がどれだけいるかわかんないけど、ほとんど敵に回ったりする可能性があるわけよね。まさかあのアミーシャだけがダンジョンを管理してるってわけでもないでしょ。
別に誰が敵に回ろうとどうとでもなるような気はするけど」
「……面倒だな」
「そうね」
「じゃあ、ポータルリングを売って他の探索者も使えるようにするか? 聖王国の時みたいに」
「それも問題が出るの。まずダンジョン関係者、管理者とかそういうのがポータルの存在を放置してくれればそれでもいいとは思うけど、ある程度色んなダンジョンに設置した後で一括撤去とかされるとポータルが使えなくなった、どうしてくれる! みたいなクレームがこっちに来るわけよ。また一から設置しても、やっぱり後で撤去されるといたちごっこでしょ。
ヘタしたら私たち、ダンジョン攻略する以前に毎度ダンジョンでポータル設置だけして終わるわよ、一日が」
「……ポータルは無理か」
「そうね。ポータルストーンは……改良すればいけるかも、とは思うけど」
ポータルストーンは自分が登録したポータルの、一番近い場所に転移できるアイテムだ。
例えばそろそろ次の階層主がいる所なんだけど、その手前で魔物と戦って思った以上に怪我をして引き返したい、けれども階層主目前という時点で自力で引き返そうにも結構な距離がある。進むにしても階層主をこの状態で倒すのは厳しいし、かといって引き返そうにも途中で魔物にどれだけ出くわすかわからない。
そんな状況で使えば、とりあえず一つ前のポータルの所まで戻れる、というのがポータルストーンだった。
ポータル関係なくダンジョンから強制脱出できるアイテムとかにすれば使えるかもしれない。
「とはいっても、単なる脱出アイテムとか必要? 私たち緊急脱出しなきゃいけない事態に陥るかしら、そもそも」
「他の探索者に売るとかするつもりはないのか?」
「そうね、あったら売れるとは思うけど、作るのに素材も馬鹿にならないし。というか、聖王国のダンジョンはほら、一応私たちがある程度好き勝手やってもどうにかなる後ろ盾があったけど、こっちそういうのないし、何なら後ろ盾になってくれると頼りになるだろうダンジョン関係者に喧嘩売った状態じゃない。
やめといた方が無難ね」
「それもそうか」
あの時と似た状況ではあるものの、立ち位置が違う。
あの時と同じノリでやらかせば、恐らくどこかで確実に自分たちの首が絞まる。
「立場的には私たち、ある意味アウェーなのよね」
「そりゃ異世界だもんな」
ステラの言葉に何を今更、とばかりにベルナドットが相槌を打つ。
いやまぁ、自分たちが暮らしていた世界に戻ったとしても場合によってはアウェーになる可能性はあるのだけれど、異世界となるとやはり勝手が違ってくる。
「ま、やるべき事は地道にコツコツ、ってのが結局は一番の近道でしょうね。仮に私たちがぐだぐだ中級者向けダンジョンを攻略している所にまたアミーシャが来るかっていうと、それも微妙だし」
恐らくは、もう中級者向けダンジョンにいるうちはアミーシャと会う事はないと思っている。
彼女もどうしてだか探索者としてダンジョンに足を運んでいるのは事実っぽいのでそのうちどこかのダンジョンでバッタリ、という可能性は無いわけではないが、アミーシャが普段足を運んでいるのは上級者ダンジョンだ。
であれば、次に会うのはステラたちが上級者ダンジョンへ行けるようになってからだろう。確実に会えるかは微妙なところだが、それでも遭遇する確率は上がる。
「私がもっとあの時弱者っぽく振舞っていれば良かったんだろうけれどね……」
ステラとベルナドットのやり取りを黙って聞いていたルクスが、申し訳なさそうに首を振りながらもそう言ったが、ステラもまた同じようにそっと首を振った。勿論横に。
「いえ、ルクスが弱者の振りとか逆に胡散臭すぎて余計な警戒されそう。っていうか、アミーシャもアミーシャよね。どんな凄い事しでかすかと思ったら、アビリティ消滅の神器? 確かに凄いかもしれないわよ? でも、それ効かないからってそこで逃げるのもどうなの? せめてもう一つか二つ手段を用意しておくべきだったんじゃないかしら!?」
「無茶言ってやるなよ……ダンジョンに本来あるはずのない隠し部屋を作ったのがアビリティによるものだと信じて疑ってなかったから、その神器とやらを使ったんだろ。
しかしそれが全くの無意味、となれば、ダンジョンに新たな部屋を作った能力は健在。その能力が果たしてどういう効果を生み出すか、こちらに害を与える事が可能である可能性、そんなのを考えたらそりゃそっち方面の対策してなかったら逃げるだろ」
ゲームで言うなら炎属性が弱点のボス対策して万全の状態だったのに、それを倒したら今度は氷属性が弱点だけどもっと強いボスが出て来て連戦始まりました、みたいな状況だ。連戦になるとは思ってなければ、勿論その対策はしていないだろうし、しかも最初のボス戦用の準備しかしてなければ次のボスで苦戦するのは確実必至。
ゲームであればもしかしてこれ、負けイベントかな? とか思って一度全滅してみるのも有りかもしれないが、アミーシャにとっては現実だ。あの時点で捕まっていたら、確実にこちらに情報を引っこ抜かれていた。
そういう意味ではあの時点で撤退したのはアミーシャとしては正解だったわけだ。
「こうなったら早めに上級者向けのダンジョンに行けるようにならなくちゃね」
別にアミーシャの事を放置しておいてもいいかな、と思わなくもないのだ。けれど、向こうはこちらを認識している。こちらがのんびりしているうちに、何らかの手段を講じてこないとも限らない。
本来ならば国に提出しなければならない神器とやらを持っていた。使用許可がでているなら国にこちらの事が知られていると考えていいし、無断であったとして、ではその神器はどこで入手したのか。
ダンジョン関係者による極秘ルートで入手、とかいう可能性もある。
あれこれ話し合ってみたものの、結局はまず上級者向けのダンジョンに行けるようにならないと話にならないわけで。
結論がどう足掻いてもそこに着地した時点で、食事の支度を手伝っていたクロムが部屋に戻ってきたので話し合いは案外あっさり終了した。




