思っていたより早かったもの
ゴーレムに対しての特攻武器ができたからといってダンジョンの中での移動速度が上がったりは特にしなかった。そこらの探索者であればバッタバッタと薙ぎ払って突き進むぞー! となったかもしれない。
けれどもモーニングスターを手にしているのはキールとモリオンで、この二人が主力というわけでもない。
あくまでも何かあった時に自らの身を守れる手段として渡された、としか言いようがないためにゴーレムと遭遇しても倒すまでの速度がはやくなっただとか、そういった事はない。
とはいえ、今までは何かあった場合自分の身を守るのも危ういな、と考えていたキールとモリオンの精神衛生面はマシになったと言えよう。
このダンジョンの魔物がどれだけ出てきたとしてもステラたちの敵ではない、というのは理解できていても、だからこちらが絶対的に安全かと問われるとそれは別の話なのだから。
とはいえ少しばかり余裕ができたので、キールとモリオンは多少よそ見をする事もできるようになってきた。少し前までは例え魔物が出なくとも周囲に神経を張り詰めて警戒し続けていたものの、今ではベルナドットとクロムがいるならまぁ、余程の事がない限りこっちに接近してくる魔物とかいないだろう、と思えるようになってきたのだ。
先程モリオンがゴーレムを破壊した時は、あえてそちらに行った奴を見逃したのだと気づいたのは全部終わった後だった。
モリオンだって何か近づいてきたから咄嗟に、といった感じで手にしていた武器でぶん殴ったに過ぎない。
……正直あの時点で武器が意味をなさなかったらモリオンは下手したら死んでたわけだが。
仮にそのあたりの文句を言ったとしても、でも今生きてるでしょ、とステラに一蹴されるだろうなというのは理解できた。
彼女を召喚してそれなりに日数が経過している。共にダンジョンを行くようになってからは、それなりにどういった人物か、というのも理解しつつある。
その上でキールが理解した事といえば、ステラたちは頼りになるけれど、だからといって頼りきりにしてはいけないなという事だ。
いや、頼ったとして、力を貸してくれるとは思う。思うのだが……何故だろうか。キールの頭の中で警鐘が響く気がするのだ。自分で召喚しておいて何だが。
幸運なルーキー。他の探索者たちからステラたちはそう呼ばれている事が多い。
多くの探索者が足を運んでもう目ぼしい物なんて発見できそうにないダンジョンで、まさかの隠し部屋を発見しそこに眠っていた財宝を手に入れた探索初心者。
キールも最初、何か隠し部屋見つけてそこで色々手に入ったわ、とかいう報告を聞いて驚いたものだ。
だってそのダンジョンは自分も足を運んでいたことがあったのだから。
どうして気付けなかったのか、とは後になって思いもした。それはあのダンジョンに足を踏み入れた事がある他の探索者たちだってそうだろう。
だからこそ一時期、他の初心者向けダンジョンにももしかしたら……? なんて想像ができてしまってこぞって多くの探索者が初心者向けダンジョンに殺到したくらいだ。
他の探索者たちはその幸運なルーキーたちの実力はそこまで大したものではない、と思っているだろう。
特に労せず探索し攻略できているのは発見した財宝の中にあった強力な武器のおかげだと。本人たちの実力はそこまででもない、と思われている。
キールとて、こうして一緒にダンジョンに入るようになるまではそうだと思っていた。
最初の時点で同士たちをぼこぼこにされているので、クロムあたりはある程度戦えるだろうとは思っていた。けれどもそれ以外はそこまでではない、と。
ダンジョンの中である程度戦えるようになるまで、少し時間はかかるだろうなと思っていたのだ。
アズリアを助けるために必要な時間はまだある。彼女が普通に生きている状態であれば時間はあまりないと思えたが、彼女の時間が停止した状態であれば、キール達が生きている間はほぼ猶予と考えていい。
ステラたちがダンジョンを攻略していけるようになるまで、まだ時間がかかるとも思っていたが、そこまで焦ってはいなかったし下手にせっつくのも得策ではないと思っていた。
ちょっと強力な武器をゲットした、という話を聞いて、じゃあある程度ダンジョン攻略が楽になるんだろうな、とは思っていたし実際いくつかのダンジョンを攻略して行けるダンジョンの数が増えた。
そしてとうとうキール達が攻略していたダンジョンに行けるまでになったのは、キールが思っていた以上に早かったのである。
やっぱ強力な武器があると魔物倒すのも楽なんだろうな、くらいには思っていた。
そうじゃない。そうじゃなかった。
確かに武器が強いのは事実だ。
けれど、彼らの実力はキールが思っていた以上にあるのではないか、と思い直したのはすぐだ。
確かに武器が強ければ魔物を倒す時に与えるダメージだって大きなものになるだろう。
けれども、それは当てなければ意味がない。
武器がいくら強くたって、それを使う者の実力次第では魔物に攻撃を当てる事なく空振りしたり、魔物がその攻撃を回避する事だって有り得た。
しかしステラたちが魔物へ攻撃する際に、外した所を見た事がない。
魔物に気付いた時点でまずベルナドットが矢を射ているし、その攻撃を見て警戒した別の魔物がベルナドットの矢が当たらないように近づいてきたとしても、それはクロムに倒されている。ベルナドットの矢が外れたとしても、それは魔物の動きをあえて誘導している場合だ。
武器だけが強いわけではない。
キールは既にその事実に気付いている。
けれども他の探索者がその事実に気付けるかとなると、どうだろう?
キールだって共に行動しているから気付けたようなものだ。
だからこそ――
「あたしは貴方達を認めない! 認めるものですか!!」
ダンジョンの途中で遭遇した探索者にいきなりそう言われて、キールは困惑するしかなかった。
いつかどこかでもしかしたら突っかかってくる相手は出るかもしれない、とは思っていたのだ。
それは例えば幸運なルーキーを妬んで、という単純な理由から、ちょっとこっちからは想像もできないような理由で難癖付けてくる可能性含めて。
探索者に限った話ではないが、目立つ奴というのは良くも悪くも注目を浴びる。本人が望む望まざるに関わらず注目を浴びればいい話も悪い話も瞬く間に広まるものだ。
幸運なルーキーに関しては正直隠し部屋で財宝を手に入れた、程度の話しか広まっていない。そもそもいくつかのダンジョンへ行ったとして、ついでにその町や村を見て回ったとしても別に暴れまわったわけでもないし、他の探索者を見て「何あの装備しょぼーい」とか無駄に他者を見下したりもしていない。
自分たちから敵を作りに行くような真似はしていないはずだ。少なくともキールが一緒に行動している間は。
前に別の村で「あんたらが幸運なルーキーってやつかい?」と声をかけられた事はあった。
その時はいくつか言葉を交わしたものの、別に何事もなくその時の探索者とは別れている。
運が良かったの、とか昔から割と運はいい方なの、とかステラがにこにこしながら言えば、相手はそうかそうかぁ、と何だか年の離れた娘か妹でも見るような顔になってうんうんと頷いて立ち去っていったのだ。
とりあえず運だけで世の中渡ってきました、みたいにでも思われただろうし、だからこそその時の探索者は「どうにもならなくなったら無理せず逃げる事も大事だからな」なんて忠告を残していったくらいだ。
完全に孫を見るおじいちゃんの顔だった。
少し前に薬の材料を調達するためにいつもと違うダンジョンに挑んだ探索者がいたが、あれと似たような事はその後も何度かあった。
どうしても必要な素材があるけど手に入らなくて、魔物からドロップするらしいけど全然遭遇しないしたまに出くわしても倒した所でドロップしない……なんて言ってた探索者に「物欲センサーが仕事してるってわけね」なんて言っていたが、その時もステラは手持ちの魔物コインと交換しましょうか? なんて交換を持ちかけていた。
運がいい、と言っていたが、確かにそうなのかもしれない。割と高確率で探索者が欲している物を持っている事が多いのだ。魔物コインと交換、といっても別に何もかも巻き上げているわけではない。普通に店で買うより一割くらい高いかな? とか思えるくらいのレートだろうか。けれども危険を冒してこの先いつになったら出るかもわからない状況で魔物を延々と倒し続けるより、急いでいるなら交換した方が確実だ。
そういう意味では必要な素材と若干の時間を買っていると考えれば、そこまで高い買い物でもない。
ちなみに別の町で前回遭遇した探索者と出会ったが、無事に薬を入手出来て母親が助かった事を聞かされた。他の探索者ともばったり出会った時にこの前は助かったぜ、とか言われたりしているので、正直追放されたという話が広まってるキール達よりもステラたちの方が余程好意的に受け入れられているとみていい。
けれども、そういった相手を全ての人間が好意的に見るか、となると話は別だ。
世の中にはとにかく何もかもが気に入らないタイプというのが一定数いる。キールの同士の中には以前そういった相手が仲間になっていた、なんてのもいて、話を聞いただけでもうんざりしたくらいだ。
そもそも魔術師とか戦闘であまり役に立たないんだから、と最初からあまり良くは見られていなかったけれど、それでも荷物持ちだとかそれ以外の雑事を引き受けていた魔術師をあれこれ難癖つけて追放した、なんて仮に自分がその立場であったなら最後にブチ切れてそいつに魔術ぶっ放してただろうなと思えるような話もある。
周囲が凄いと持て囃した結果、自分が話題の中心にいないと気が済まないタイプはでもああいう人って裏で何考えてるかわからないし……とわざと評判を落とすように仕向けようとしたり、なんて話もキールは何度か耳にした事がある。
あまり自分の事を多く語らなかった師であるアズリアも、かつて城勤めをしていた時に似たような事があっただろうなというのはちょっとした会話の中で薄々だが感じ取っていた。
目の前にいる探索者に関してキールは見覚えがない。
という事は、かつて彼女もあのダンジョンに足を運んでいて隠し部屋に気付かなかった挙句、そのくせそこで財宝を得たステラたちを妬んでいる――と考えるのが自然だろう。見つけられなかったくせに本来その財宝の持ち主は自分だ! なんて思いこんでいる可能性もある。
まるで親の仇でも見つけたような目を向けている探索者に、しかしステラは、
「別に貴方に認めてもらう必要はないと思うのだけど……」
と本気で困惑したように返していた。
それが余計に癪に障ったのだろう。
「捏造したくせに! あのダンジョンに隠し部屋なんてなかった! あるはずがないのよ!!」
そう叫んだ探索者の言葉は、意味不明だと思えた。
実際キールだってあの後ダンジョンを確認しに行ったけれど、確かに隠し部屋は存在した。今までは壁があったけれど、その先には確かに小さな部屋が存在していたのだ。
自分が見つけられなかったから、負け惜しみなのだろう。
キールはそう判断して、面倒くさい相手と遭遇したなとすら思い始めていた。
こういう相手は話し合いでどうにかなるタイプではない。
場合によっては難癖つけて見つけた財宝全部横取りしようとしかねない。
仮に戦いになったとしても、非は向こうにある。
向こうの実力は知らないが、それでもステラたちが負けるようには思えなかった。
キールとしてはとりあえず成り行きを見守る事にしたわけだが。
パァン!!
そんな音がして思わず肩を小さく跳ねさせる。
何事かと音がした方を見れば、ステラとルクスがハイタッチしたらしい。
え、何故そこでハイタッチ……?
いきなり現れて難癖つけてきた探索者に困惑していたキールだが、この時点で困惑度合いはステラたちの方に大きく傾いた。本気で意味がわからなかったもので。




