ロクに使わないくせに存在感だけはあるタイプのアイテム
錬成台、とモリオンが言ったそれは、何となく細かい彫刻がされただけのただの台座にしか見えなかった。
そもそも今までのダンジョンでも見た事がないし、キールたちの拠点でもこういった物は存在していない。
ステラたちが初めて見るそれ。
「錬成台……? 何それ」
「あっ、はい、この台の上で錬成ができます!」
まさかこんな所にあるとは思っていなかった事もあってか、モリオンの声は弾んですらいた。
しかしその説明は正直説明になっているとは言えない。
「まずその錬成って何」
テンション上がってるのが明らかなモリオンではなくキールに向かって問いかける。
「錬成っていうのは……錬金術とかそれに近い系統のもの、ですかね……」
しかしキールもそれに関して専門的な知識を持っているわけではないのか、若干言葉を選んでいる様子がある。
「ともあれ、錬成台の上に素材を置いて錬成魔術のアビリティを持つ者が使えば、一瞬でアイテムが出来上がるという代物です。とはいえ、錬成魔術をアビリティに持つ者自体そこまで見受けられませんが」
「あぁ、大体把握したわ」
「凄いんですよ! おじいちゃんが錬成魔術使えてたんですけど、本当に一瞬でアイテムが完成するんです!」
モリオンの言葉からしてかつてその錬成魔術を見た事はあるようだが、どうやら自分が使えるわけではないらしい。
「もうちょっと具体例とかないかしら?」
何となく把握はしている。けれども、どれくらい凄いものなのか、がいまいちピンとこない。
「そうだな、例えばポーション。作る時は蒸留した水や薬草を数種類使うわけだが、その薬草だって細かく刻んだり乾燥させて粉にしたりしてとか薬草の種類によって使い方が異なるわけなんだけど、それを手作業でやるとなるとそれなりに時間がかかる。ここまでは?」
「えぇ、わかるわ」
「手作業でやるとなるとあまり大量に作るのも中々に大変なんだが、錬成魔術でやる場合そういった作業をしなくても、わざわざ煮詰めたりだとか刻んだりだとか粉末状にしたりだとかという部分を飛ばして素材を合わせてアイテムが完成する。
大量に作る場合だとか、物によっては魔力もつかうけれどそれでも手作業でやるより余程早く完成する。
戦闘向きではないけれど、けれどもアビリティとしてはそれなりに重宝される能力だな」
ポーションとか魔物からもドロップはするけれど、必ずではない。必要な道具を揃えて自分たちで作るとなれば時間はやはりそれなりにかかるものだし、かといってドロップ狙いで延々魔物を倒すのも効率がいいとは言えない。弱い魔物を狙って倒し続けるにしても疲労は蓄積されるし、その上で怪我をしないわけでもない。しかし折角ドロップしたとして、その怪我を治すのに使ったっきりそれ以上はドロップしませんでした、なんて事もあり得る。
調合に関するアビリティ持ちの人もいるだろうから薬屋もあるとはいえ、そちらも戦闘向きではないだろうし、ある程度優れた薬効のものは素材を集める必要もある場合は人に頼る事にもなる。
探索者が持ち込んだりする素材で賄えればいいが、そうもいかない場合もあるはずだ。
けれどもそういった者たちは最初から戦闘に不向きであるとわかりきっているし、魔術師よりは優遇されているのだろう。何せ彼らの手助けがなくなれば、いくら前衛職が優遇されているらしいとはいえ、彼らだけでダンジョンを探索するのだって限界がある。
全ての魔術師が冷遇されているわけでもない事は、既にステラも知っている。いくつかのダンジョンの中を行く時に他の探索者と遭遇した事がないわけじゃなかった。その時に見かけた探索者の中には魔術師っぽい相手もいたのだ。剣士らしき探索者と槍を手にした探索者と一緒に。
どうやらその魔術師は治癒魔術に関するアビリティを持っていたらしく、ゲームなら魔術師と呼ばれるよりも僧侶とかそっちの方が適切な気もするが、この世界はそこまで細かく分かれていないのかもしれない。
キールに聞いてみたところ、確かに全ての魔術師が冷遇されているわけではない、と大層苦々しい表情で教えてくれた。治癒魔術などが使える魔術師はいざという時の薬替わりみたいなものなのだと。
どちらにしても前衛で戦う相手のサポートとして役に立つか立たないかで魔術師の立場が思い切り変わるのは確かだ。
それはさておき。
錬成魔術というのがどういうものかは大まかに理解できた。
できた、わけだが。
ベルナドットとクロム、そしてルクスの視線がステラに向けられている。
(そうよね、それ、私がよくやるアイテム合成とほぼ同じようなやつよね、きっと……)
向けられた視線の意味に気付かないはずがない。
「それに近い事なら、できないわけじゃないわ」
「えっ、そうなんですか!? ステラさまも錬成魔術を!?」
「魔術、ではないけれど」
素材を空間収納しておいて、その中で合成する事はよくやっている。
大雑把にそれを説明すれば、モリオンは錬成台もなしにできるとかすごい! とばかりにキラッキラした眼差しを向けてきた。
「錬成魔術は錬成台がないとできないのかしら?」
「いえ、そういうわけじゃなかったはずですよ。おじいちゃんは簡単なものなら錬成台がなくてもやってたけど、魔力をいっぱい消費するからやるなら錬成台がある場所に限る、って言ってました」
「モリオンは錬成台の使い方わかるの?」
「えっとー……実のところあまりよくは……あ、でもおじいちゃんは確か錬成台の上にアイテム置いて魔力を台に流してたような気がします」
正直モリオンの話を聞く限りでは別に錬成魔術というアビリティがなくてもできそうな気がする。ある程度どの素材を使えばこれができる、みたいなのを理解していれば正直魔術師なら誰でもできそうだ、と思うのは気のせいだろうか。
「モリオンはできないの?」
「えっ、いや無理です。おじいちゃんにも一度試しにやってみるか? って言われてやった事ありますけど、全然駄目で」
「……そう」
魔力があれば無条件で錬成台を使える、というわけでもないのだろう。
けれど、ではアビリティがなければ使えないのだろうか。
それはちょっとした疑問であり好奇心だった。
ステラのアイテム合成は基本的に素材と魔力粉を使って魔力を用いれば大体完了している。錬成台を使う場合は魔力粉というものが存在していないので、では錬成台がその魔力粉と同等の働きをしている、と考えるべきだろうか。
モリオンの話からして、アビリティがなくてもそれを使おうとしたところで無反応っぽいし、特に危険はなさそうだ。だからこそステラは何の気なしに錬成台に近づいて、そっと手を触れてみた。
見た目通りにひんやりとした石の感触が伝わってくる。
「特に何かある、って感じじゃなさそうね」
拍子抜けした、とばかりに呟く。細やかな模様が刻まれたりしているだけの、ちょっと凝った見た目の台と言ってしまえばそれまでで何だかすごい力が秘められているだとかいった感じは一切しない。
けれども、それはステラが錬成魔術のアビリティを持っていないからなのか、それとも単純に素材も何も乗せていなければ魔力も使っていないからなのか……そこまで考えて次にステラがとった行動は、ほとんど無意識だった。
収納している空間から適当に素材を取り出して試してみるべきか、なんて考えつつも触れたままの手から魔力を流してしまったのは、考えてというよりは本当に無意識の事で。
「――っ!?」
「どうした?」
弾かれたように手を離したステラに、ベルナドットが何事かと問いかける。
「ち、ちょっとベルくん、この台に手を乗せて魔力流してみて」
「は? また唐突な……」
「いいから早く」
ここで何でだとかどうしてだとかごねたところで意味がないのをベルナドットはよく知っている。ステラから何事かを聞き出すよりも実行した方が早いのは今までの経験からよく理解していた。
だからこそ錬成台に近づいて、ベルナドットはそっと台に手を触れた。そして言われるままに魔力を流す。
流す。
「……で?」
「え、ベルくんはなんともないの? 何もなし?」
「特に何も」
「…………えぇ……?」
納得いかないわ、とばかりな顔で見られても何もないのは事実なのだ。むしろ何で魔力流してみろなんて言われたのか理由もよくわからないし、こっちの方が納得いかない顔したいくらいなんだわ、と返す。
ベルナドットは魔力を流した振りして流していない、なんて事をしたりもしていない。きちんと魔力を流していた。それでもベルナドットには何もなかった、となると。
「ベルくんは根本的に向いてない……?」
「何気に失礼だな」
「でも、前にもほら、アイテム合成試しにチャレンジした時に魔力足りなくて倒れたじゃない」
「遥か大昔にな」
そもそもそれはまだステラもベルナドットも人間だった頃の話だ。
そういえば、植物の精になってから魔力量も大きく上がったけれど、アイテム合成をまたもチャレンジしてみようとは考えた事がなかったなと思う。
けど今わざわざアイテム合成を自分でやろうという気はしなかった。大至急必要な何かがあるわけでもなければ、秘密裏に作りたい物があるわけでもない。
ベルナドットの反応に納得がいかなかったらしいステラはクロムを呼び寄せ同じように魔力を流させたが、クロムもこれといって何もなかったらしい。
ついでにルクスにもやらせてみる。
「……うーん、何か見えた気がしたけど」
「気がしたじゃなくて、浮かんだりしてなかったの?」
「いや、えぇと……なんだろ、見えた気はするけど影になっててよくわからない……?」
首をかしげているルクスの様子から、ルクスが嘘を言っているわけではなさそうだ。
「…………錬金術、とかそっち系統の経験の有無とかかしら……?」
ステラたちの世界では錬金術は割と普通に生活に関わっている。
かつて、異世界転生する前の世界での錬金術というよりは、何かゲームの中でありがちな錬金術、といった具合ではあるが、割とファンタジーな世界だったのでそこを気にしていても仕方がないだろう。
更にステラたちの世界の方では錬金術よりも更に高度な技術でアイテムを作っていたのが魔技師などという名称で呼ばれていた事もあったらしい。
ステラのアイテム合成はどちらかといえばその魔技師に該当する。
ルクスもまたかつてフェルテの書とかいうなんちゃって錬金術レシピ本を作ってそこかしこにばらまいた事がある。ちなみに中身は本当になんちゃって系嘘っぱちレシピだ。中には一応ちゃんとしたものも載っているらしいのだが、ほとんどはなんちゃって系。しかしぱっと見とても大真面目に本当っぽく記されているので、過去何度騙された人間種族がいた事か……
それ以外にも武器の作成だとかをやった事もあるらしいし、そういう意味ではベルナドットやクロムと比べればそういった方面に造詣があるわけだ。
「あんたは一体何があってわざわざ俺たちにこんな事をさせてるんだ……」
ベルナドットが呆れたように言うので、ステラとしてもどう答えたものかしらね……と前置いてから、少し言葉を選ぼうとして……結局意味がない事に気付く。
「アイテム作成リスト一覧が見えたの」
「ん?」
「何度も言わせないで。ベルくんなら一度で理解できるでしょ」
「唐突な無茶振り。いや、まぁ、言わんとする事は理解できるが」
「じゃあこれ以上聞かないで。こっちも戸惑ってるの」
そう、実際ステラが錬成台とやらに魔力を流した直後、それはもうすさまじい勢いでずらっと作れるアイテム一覧、みたいなものが見えた。
まるでゲームのようだな、と思えるものだった。
恐らくは作成難易度の簡単な物から徐々に難しい物が並んでいるのだろう。
本来なら作った事のないアイテムはきっと『???』みたいに表示されているに違いないと思えるような並び方だった。ゲームのスキルツリーとかあれに似ていたようにも思える。
それらがもう最初からフルオープンでこの錬成台で作れるアイテム一覧、みたいに並んでいたのだ。
何なら作るのに必要な素材までご丁寧に表示されていた。
錬成魔術の使い手はこれを見た事があるのだろうか、と疑問に思ったものの、恐らくそうではないのだろう。
ルクスはそこまでハッキリと見えたわけではなさそうだし、アイテム作成レベルとかそういうものがあったらきっとそれに準じているに違いない。
ステラの場合は足りないアイテムがあったとしても魔力粉でごり押ししてランクアップさせたりして元はただの石ころであっても最終的に何かすっごい魔石、とか宝石とかに変える事ができるので素材部分を変にぼかす必要がなかったから錬成台の方でも最初から用意するならして作れよ、と表示してきたのかもしれない。
錬成台にそんな意思が宿っているかは知った事ではないが。
ルクスはステラほど積極的にアイテムを作ったりするわけでもないので、だからだろうか。情報がぼんやりとしていたのは。
「とりあえず錬成台を使おうと思えば私は使えるみたい。空間収納してる素材出さなくても物は作れるみたいよ。でも、別にわざわざ錬成台を使う必要もないわね」
「魔力粉は?」
「錬成台で作れば魔力粉を使わなくても大丈夫だとは思うけど……錬成台では作れるアイテム限られてるみたいだし」
実際ステラが見えたアイテム作成リストは、錬成台で作れるアイテムというよりはこの世界に存在していてその上で本来の錬成魔術を使える人物が作れる物一覧、というようにも思えた。
まぁよく考えればアビリティは神の祝福らしいし、錬成台とやらに神側の思惑が含まれていたとしても何もおかしな話ではない。
「……どの素材を使えば何ができるか、っていうのは大体把握したわ。その上で私は錬成台を使う機会はあまりないと思うけど」
何せ空間収納した状態でそのまま合成した方が余程手っ取り早い。
「異世界の勇者特殊能力がえぐくないか……?」
キールの呟きはある意味もっともではあった。
この時点でステラが使える能力はアビリティのマジックボックスと錬成魔術と同等のものだ。
戦闘能力という部分では正直ちょっと……と言いたくなるものではあるけれど、それは他に戦える仲間がいれば何も問題のない話だ。
そしてステラにはベルナドットやクロム、ルクスといった仲間がいる。
「これは世界樹の雫入手も夢じゃなくなってきた、って感じしますね」
モリオンがキールに向けてそんな事を言う。
直接世界樹の雫が手に入らずとも、もしかしたら何かの素材でそれに近い物は作れるのではないだろうか。そんな気がするし、もしそうであったなら師を目覚めさせる可能性も上がる。
希望が見えてきた。それはまだ不確かなものではあるけれど、それでも。
自分たちだけではどうにもならないと思っていた頃と比べれば遥かに。
どうにかなるのではないか、と確かに思えてきてはいるのだ。
まぁ、キールのそんな心境をステラが知れば、いややろうと思えば今すぐ目覚めさせる事はできるんだけども、と内心で思う事は事実なのだが。
キールにとってもモリオンにとってもそんな事は知るはずもない。
多分足りていないのは信頼とか信用といった真っ当なものもそうなのだが、今すぐアズリア目覚めさせよう! とステラが思えるようなインパクトのある事情とか、キールが知ったらいやそれもどうなんだと突っ込みたくなるようなものだった。




