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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
一章 ゲームでいうところのありがちな追加要素

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次のステップ



 基本的に今までステラたちが足を運んだダンジョンは、そこまで大きな所ではない。

 大体朝に行って夜には帰ってこれるような、その程度の規模しか行っていなかった。

 全部のダンジョンを制覇するぞ! とまで思っていないとはいえ、それでも行ける範囲のダンジョンにはあれこれ足を運んでみて、自分たちにとってやりやすいかどうか、くらいは選びたい。

 というか、今のところはまだ上級者向けのダンジョンに行けるわけでもないので、ある程度のダンジョンを攻略して上級者向けダンジョンへ行く資格を得なければならない。

 中級者向けダンジョンで同じ場所をずっと潜っていてもいずれは上級者向けダンジョンに行けるらしいけれど、初心者向けダンジョンの時もそうだったがある程度いくつかのダンジョンを攻略した方が次に行くには手っ取り早い。


 中にはキール達が戦いにくいダンジョンもあったけれど、キールの目的はあくまでも秘薬 世界樹の雫だ。それを得るためにはいつまでもこんな中級者向けダンジョンにいるわけにもいかない。

 今までは仲間と共に少しずつ攻略していったが、ステラたちと一緒に行く方が明らかに攻略速度が違う。というか、今まで手こずっていたダンジョンも既に攻略した。


 ステラたちは大体一日で攻略しているが、本来ならもう一日か二日は滞在するような規模のダンジョンを日帰りで、という時点でキールはこれが勇者か……とも思っていたのだ。

 実際には勇者とは程遠い存在なのだけれども。


 あまり規模が大きくないダンジョンを選んでいたのは、単純にキール達が次に行くダンジョンを選んでいたからというのもある。

 今までの自分たちの実力を考えて、あまり長く滞在するダンジョンだと最悪死人が出る可能性もあったからなるべく何かあっても自力で帰ってこれそうな、小型ダンジョンを選んでいたにすぎない。

 けれどもここにきて、この大陸の中級者向けダンジョンでそういった所はある程度攻略してしまっていた。


 けれどもまだ上級者向けのダンジョンへ行けるようにはなっていない。

 行けるようになっていたら、ダンジョンの転移機能で他のダンジョンがある町や村へ行く時に自動的に行き先が増えているのですぐにわかる。

 けれども特に増えていないので、そろそろ他のもう少し規模の大きなダンジョンへも行く事を考えるべきだろう。


「泊りがけって事ね。まぁいいんじゃない? 別に何年も帰ってこれないとかじゃないでしょ」

「流石に年単位はないですね……数日かかるところもあれば数か月、なんてところはありますが」


 というか年単位とかいくらダンジョンの中で魔物を倒したら時々アイテムがドロップするとはいえ、持ち込んだアイテムとそれらを目当てにしたとしても難しいのではないかと思う。

 ステラたちは空間にアイテムを収納できる手段があるのでそれくらい余裕かもしれないが、普通はマジックボックスのアビリティを持つ者がいなければ無理だ。


「お泊り用のアイテムもバッチリだから任せて☆」

 バチコーン、とウインクなんぞをして言うステラに「頼りにしている」とキールはその言葉をそのまま受け取って返した。

 それを見たベルナドットが何とも言えない表情をしている。しかしキールはそれに気づかなかった。気付いたところで多分どうしたんだろう? とか思うだけでスルーしていたはずなので、結局何かが変わるわけでもない。


 いつものようにグリオ農村のダンジョンの転移機能を使い、他のダンジョンへ移動する。


 今回は今まで行ったダンジョンよりも少し規模の大きな所へ、との事であったが、人手を増やしたりはしなかった。ステラたちはいつものように四名で。キールはステラたちと一緒に行くために自分と他にもう一人。


「よろしくお願いしますです!」


 今回はキール達魔術師団の中で最年少のモリオンという少年が選ばれたらしい。

 黒い髪に茶色の目。ステラとベルナドットからすればある意味で懐かしい色合いではある。前世は自分もそんな色合いだったわー、とかいう意味で。最年少、といってもキールの一つか二つ下、くらいだ。見た目からしてそこまで最年少といった感じはしない。年齢を聞きさえしなければ、見た目だけならキールと同年代にしか見えないので。


 けれども彼は拠点の中でも常にくるくると動き回ってあちこちで雑用をしていたりもするので、そのせいだろうか。魔術師団の中では完全に末っ子ポジションである。野郎ばかりの集団で、唯一の女性であるアズリアは現在眠りについたまま。むさくるしい場所であるのはそうなのだが、モリオンはその中で癒し系マスコットか何かの扱いを受けている気がした。

 愛玩動物というよりは、年の離れた弟とか息子とか孫とかそういう扱い。


「あら、今日の同行者はモリオンなのね」

「はい、頑張りますのでよろしくお願いしますね、ステラ様!」


 一切の邪気も何もない表情でそんな風に言われ、思わずステラはきゅっと口を閉じた。

 魔王の妻となった時点で自分の名前に様を付けて呼ばれる事はそれなりにあった。だから別に今更ではあるのだ。

 けれどもなんというか、向こうでは何でこんな小娘を……? みたいな感情が透けて見えたりした事もあったし、その後に認められた後でも何というかこんな風に純粋な尊敬とかそういった感情を向けられて呼ばれた事はない。

 どちらかというと恐れとかはたっぷり含まれていた。

 純粋な好意を向けてきたのはこどもたちくらいだ。お母様! とかはよく言われてた。


 ちなみにモリオンはステラだけではなくベルナドットもルクスもクロムも様をつけて呼ぶ。

 初日にクロムにボコられていたけれど、今ではそんな事は過去の話ですとばかりにキラキラとした尊敬のまなざしを向けてクロム様! とか呼ぶのでクロムも正直どういう反応をすればいいのか困惑している。

 ルクスは別にどうとも思っていない。彼は常に部下に様付けで呼ばれているので。というか、この世界に来て間もない頃に拠点の中でいくつかの手伝いをしたり色々と話を聞いたりしていた時に真っ先にルクスの信者みたいになったのが何を隠そうこのモリオンである。

 ルクスの評価はちょろすぎる……! というものであり、何気に懐かれているとはいえルクスは既にモリオンに関しては常に凪いだ笑みを浮かべて対処していた。

 凪いだ、というよりは虚無とかそういうのに近い気もする。


 ベルナドットもまさか様付けで呼ばれるとは思っていなかったが、案外彼が一番早く順応したと言えなくもない。最初は様付けとかちょっと……と遠慮していたものの、何をどうしたところで様付けが止まらないと判断したベルナドットは、脳内で別の呼ばれ方をしているものだと変換していた。要は逃避である。


 もし勇者召喚をしたのがキールではなくモリオン主体であったとしたら。

 正直ちょっと罪悪感とか芽生えてたかもしれないわね……とステラが内心で慄く程度の存在。それがモリオンであった。

 自分のこどもたちとは似ても似つかないけれど、何というかペットみたいな感覚に陥るのだ。既に人類卒業しちゃったステラの目線から見ると、完全に小型犬。尻尾を振って舌を出してへっへへっへ言ってるチワワとかに見えてくる気がしている。気がするだけでモリオンはちゃんとした人間である。


 体格は小柄というわけでもないのに。むしろキールよりは低いがそれでもそこそこの身長だというのに。


 正直ちょっと自分たちの周囲にはいなかったタイプなせいで、どう対応していいのか戸惑う。いや、本人は素直で善悪どちらで言えば間違いなく善人だと思える者ではあるのだ。

 善人タイプは自分たちの周囲にいなかったわけじゃない。ただ、ここまで真っ直ぐなタイプがいなかっただけで。


 あえて気付かないふりをしていたけれど、もしかしたら私たち、随分とひねくれてしまったのかもしれないわ……なんて思いながらも。

 ステラはとりあえずそこそこの規模のダンジョンならこの辺りだな、とキールが示したいくつかの場所の中から語感だけで行くダンジョンを選んだ。とりあえずさっさとダンジョンの中に行ってしまおう。その気持ちが大きすぎて、そこがどういったダンジョンであるとか全く知らないままに。



 ――辿り着いた先は、やはりダンジョン一階にある転移機能がある場所なので大した変化があるわけでもない。

 前にも来た場所であるならギルドでダンジョンの中の地図を購入したりもするけれど、ステラたちは言うまでもなく、そしてキール達も来た覚えのない場所だ。

 何せ倒せそうな魔物が出る場所を選んでいたので、ステラたちと行動するようになってから彼らも行けるダンジョンが増えたとはいえほぼ初見。

 だからこそまずは一度ダンジョンを出て、探索者ギルドへ向かおうという流れになるのは当然であった。



「……ここは」


 ダンジョンを出てすぐに、キールが戸惑ったように声を上げた。

 中級者向けのダンジョンがある町にしては寂れている。人が全くいないわけではない。けれども随分と静かで、これなら自分たちが拠点にしているグリオ農村の方が余程賑やかだと思えるほどだ。


「ステラ、きみ、一体どこを選んだんです……?」

「え? 確かルスティルって書いてあったような気がするけど」

「廃墟都市か……」


 ステラの言葉にすぐさま合点がいった。

 成程、ここなら確かに寂れていてもおかしくはない。

「何? ここなんかまずいの?」


 きょとんとしているステラに、キールはどうこたえるべきかを考えた。

 彼女たちは基本的に行けるダンジョンが増えた時点で、特に事前にギルドでこういう傾向の魔物がでますとかそういう情報を集めて選んだりしている様子はなかった。行くだけ行って駄目なら撤退すればいい、くらいの軽いノリなのだろう。下手をすればそれは命取りにもなるのだが、ステラたちの実力からすればそうでもないのかもしれない、とは一緒にダンジョンを行くようになって思い始めているのでキールもあまりうるさく言うような事はなかった。これが同じく同士たちが他のダンジョンへ行くなんて言い出した場合であれば事前調査と準備はしっかりしておけよと言うのだが。


「まずいというか、どっちかっていうと探索者たちの間ではハズレダンジョンって言われてるところですね」


 キールが言葉を選んでいるうちに、モリオンがあっさりと答えた。

「ハズレダンジョン?」

「はい。出てくる魔物は強い割に魔物コインになっても換金してもそこまでの値にならない。ドロップアイテムもガラクタのようなものばかり。探索者たちからすれば旨味はあまりない、って話が広まって、ダンジョンの規模の割にここあまり人がこないって話です」

「あぁ、実際住んでる者も人嫌いであったりあまり関わりたくないという者たちが多いからか、ここはあまり発展する事もないままに寂れ――いつしか廃墟都市ルスティル、そう、呼ばれるようになった」

 モリオンの言葉に続けるようにキールが告げた。


 外に出てみれば確かに人の姿はあまり見かけない。時折歩いている誰かしらの姿を見る事はあったが、俯いて足早であったり、はたまた歩く速度は遅くとも何というか全身から関わるなオーラが出ているというべきか……

 見える範囲の建物もどこかボロボロになっているものが多い。とはいえ、崩壊一歩手前、みたいな危険なものは流石にないが、ちょっとくらいなら、という微妙なラインを攻めているかのようなおんぼろ具合は確かに廃墟のように見えない事もない。壁とか天井とか屋根に穴が開いている、とまではいかないが、何かの拍子に崩れてしまいそうな危うさは見受けられた。


「どうする? 場所を変えるか? ここは正直何の旨味もないダンジョンだし、いずれこの町も朽ちていくだけだろうとか言われてる。ダンジョンがあるから探索者ギルドは機能しているが……地図以外の情報はあまり期待できそうにない」

「いえ、折角来たんだから、一応行きましょ。一度攻略してみて、それで次どうするか決めればいいじゃない」

「…………本当にそれでいいんだな」

「えぇ。他の探索者の情報を頼りにしてばっかだと、もしかしたら何か見落としたりもするかもしれないでしょ。本当にハズレダンジョンだとしても、一度くらいは体験しておくのも有りだと思うわ」


 にっこりと微笑んで言えば、キールはそれ以上何も言わなかった。

 旨味がないダンジョン。

 稼ぎたい探索者からすれば意味のないダンジョン。

 とはいえ、キールの目的を考えればそもそも世界樹の雫がないダンジョンはそういう意味でくくってしまえば大体どこもハズレとなってしまうのではないだろうか。

 そういう意味を込めてステラが言ったわけではないはずだが、キールは何となくそう感じ取った。


 ステラたちも別にダンジョンで稼ごうとかいう考えがあるわけではない。クロノが来るまでの間の時間つぶし。当たりだろうとハズレだろうと、正直そこはどうでもいい。


 人気のあるダンジョンだと他の探索者と遭遇する事もあるけれど、その逆でもあるらしいこのハズレダンジョンならそういった事もないのではないか。

 それでなくとも幸運なルーキーだの追放された魔術師の一団だのという噂はそれなりに広まっている。

 わざわざ喧嘩吹っかけてくるような相手は今のところいなかったけれど、それでもあれが噂の……みたいな目を向けられなかったわけじゃない。

 人が多いとそういう視線はその分増えるし、場合によっては話しかけられる事もある。


 そういったものが最近地味にそこそこ多くなってきたのもあって、ステラとしても人が少ないダンジョンならそれはそれで好都合と思わないでもなかった。

 じゃあ今回はこのダンジョンに挑戦するって事だな、と誰も反対しそうにないのでまずは探索者ギルドへ向かう事にした。

 ダンジョンの中の地図はかつてこのダンジョンが出来た頃の探索者が作り上げたので、無いわけではない。

 いくら稼ぎにならないダンジョンであるとはいえ、初期の頃はそういうのがわかっていたわけでもない。最奥へ行って、帰って来て。そこでようやくこのダンジョンあんま旨味なかったなぁ、という話になったわけだ。

 それが判明するまでは、もしかしたらとんでもない秘宝とか出てくるかもしれない、なんて話もあったけれど結局のところそういったものもなく、ハズレダンジョンだという話はその後あっという間に広まって、今では滅多に探索者も訪れる事がなくなってしまった。

 それが、この廃墟都市ルスティルである。


 恐らくこの町の中で唯一廃墟っぽくない建物でもある探索者ギルドは、遠くからでもよくわかった。何というか廃墟っぽくないというだけで、それだけでこの町の中では随分と存在が浮いている。

 だからこそ、初めて訪れた場所だというのに迷う事もなくステラたちは探索者ギルドへと足を踏み入れた。

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