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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
一章 ゲームでいうところのありがちな追加要素

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素朴で割とどうでもいい疑問



「なぁ母さん、そういえばこの前ダンジョンで探索者と物々交換? してただろ。何で普通に金銭でのやり取りじゃなかったんだ?」


 クロムがそう問いかけたのは、いつもと違うダンジョンから帰って来て部屋に戻り、そこからルクスが亜空間に作った部屋へ移動してからだった。

 彼らの部屋には常にルクスが作った部屋へ移動するためのキーが存在しているが、それらは上手い具合に隠されていて仮にキールや他の魔術師たちが部屋に入ってきたとしても彼らがそれを見つける事はない。

 間違ってもここには入ってこれないし、そういう意味では話を聞かれる事もない安全地帯だ。


 そもそも用意された部屋は本当にただ寝るだけに戻ってきました、みたいな部屋なので正直狭い。くつろげと言われても少しばかり難しいのでルクスがいて本当に良かった、とクロムは部屋に戻って来るたびに……という程頻繁ではないがそう思うのだ。


 一応個室を与えられたとはいえ、何となく窮屈なのでルクスがこの部屋を作った後はもうずっとここで寝ているし、何なら部屋に入ったら更にこっちにやってきてくつろいでいる。

 そろそろ寝るか、と思ったもののふとそんな疑問が浮かんでしまって、クロムは何となく上半身を起こして少し離れた位置にある母のベッドへ向けて問いかけていた。


「なんで、って言われても。普通に金銭より魔物コインの方が持ってそうだったし」


 ステラたちも一応この世界に召喚されてそれなりに経過しているし、だからこそそれなりに慣れてはきた。

 最初の頃にキールが教えてくれたように、ダンジョンで魔物を倒して得た魔物コインとやらを探索者ギルドにもっていけば換金してくれるけれど、それはつまりギルドで換金しない限りは金にならない。

 ダンジョンの外、つまり町や村で魔物コインは金銭の代わりにはならない。

 手持ちがこれしかなくて、と魔物コインを出されたとしても、だったらギルドで換金して出直しとくれと言われるだけだ。換金できる施設がなければともかく、換金できる場所があるならそりゃそうだろう。


 ステラやベルナドットが転生する前に過ごしていた世界の銀行であれば遅い時間になればやっていない、なんて事も普通にあるが探索者ギルドは一応一日中やっている。昼間の方が賑わっているものの夜は夜で最低限の人員しかいなくとも営業してはいるのだ。


 ダンジョンから帰ってきたらまずは探索者ギルドで魔物コインを換金するのが探索者にとっての最初の行動みたいなものだったりもする。必ずしも、というわけではないけれど、大半の探索者はまず換金して、それから薬の補充だとか食事に行ったりだとか拠点もしくは家に帰ったりする。


 探索者に関しては、という話なので探索者以外の者は普通に働いて給金を得ている。魔物コインとかいうワンクッションがあるが、そういう意味ではステラたちのいる世界とそこまで変わっているわけではない。


 言われて、クロムは成程と納得する。

 言われてみれば確かにダンジョンに行く前にそれなりに物資は用意するだろうし、そうなると手持ちの金は少ないはずだ。けれどそのままダンジョンへ行けば魔物とは遭遇するし倒せるなら倒した方が魔物コインになったりたまにアイテムドロップしたりするので、強敵だとかでなければ倒すのは普通の事だ。

 ダンジョンに入ってすぐのうちなら手持ちはそうないかもしれないが、それなりに奥、下の階層へ行くにつれて倒した魔物の数も増えるしその分魔物コインも増えていく。

 町の中では魔物コインは換金してからじゃないと使えないが、ダンジョン内でのやりとりなら確かに魔物コインの方が手持ちとしては確実にある。


「でもさ、仮に雑魚しか倒してなくて換金しても微妙な金額にしかならない場合だったら、母さんこないだの探索者の時どうしてた?」

「別にどうもしないわよ。お金は別に必要じゃないもの。けど、彼らにタダで材料あげて、他のところでその話が流れて、そのうち必要な物をこっちが持っててその時にタダでくれる、なんて思われるのも冗談じゃないし。

 だからこそ必要な物があったとしても対価はいただきますよ、っていう姿勢ね。ただの」


 お金は必要じゃない。

 普通だったら出てこないようなセリフだが、それを言ったのが母であるなら確かになと思えてしまう。

 人間にとっては生活するためには必要なものであるけれど、既に母は人ですらない。

 正直食事をしなくても生きてはいける。というか世界樹の精なので水だけあればどうとでもなる。

 ましてや本体は遠い異世界にあるが、その本体には世話をしている者がいるから向こうの本体が枯れたりすることもないだろう。むしろそれは父が許すはずもない。


 水はともかく日光が不足している、なんて事にでもなれば父の部下が魔術で母の本体でもある世界樹の上に広がる雲を散らしてそこだけ青空が! なんてやるのもクロムからすればあっさりと想像できた。


 というか、クロムやルクスも魔族であり、人間と比べればそこまで食事は重要でもなかったりする。別に数日食べなくても何も問題はないし、周囲に漂っているであろう魔素でも取り込めば案外どうとでもなる。

 食事に関しては半分は娯楽みたいなものでもあった。


 それに考えてみればダンジョンの中で魔物を倒した時に魔物コイン以外にドロップしたアイテムの中には食料になるだろう物も出てきたりするし、保存に関しては空間収納してしまえば何も問題はない。

 魔物と戦って苦戦するでもなければ怪我をする事もまずないし、そういう意味ではダンジョンの中で適当に魔物を倒すだけでステラたちは最低限の生活ができてしまう程度に色々と入手できている。


 それを考えると確かにそこまで金は必要でもないなぁ、とクロムは思ってしまったのだ。

 後継者決定戦を行っていた時はむしろ金欠だったというのに。そう考えると、あの頃よりも今の状態はとても楽だった。まぁ、あの時も何だかんだクロエと手を組んでからは随分楽になったけれども。


 ……この世界に自分一人だけがやって来ていたら、もしかしたら色々と足りない物がありすぎて金に困ってた可能性はあったかもしれないな。なんて風にも思う。

 いやでも面倒を見る相手がいるわけでもない。後継者争いの時は最初は従者と二人三脚だったけど、後々気付いたら舎弟……というか部下が増えてたから色々と足りない物が増えてしまっただけで、ここに一人であったなら多分あの時程苦労はしないんじゃないか、と思い直した。


「あとはそうね、ちょっと気になってるのよ。魔物コイン」

「気に? ……なんで?」


 いくつかのダンジョンに足を運んでそれなりの数の魔物を倒した。

 とりあえず魔物コインはどれもそう違いはない。精々刻まれている絵柄が違うくらいだ。

 あとは魔物の種類、というか強さ、なのだろうか。あまり強くない魔物のコインは銅貨のような色合いだし、今クロムたちが行っているダンジョンで入手できる魔物コインの中にはちらほらと銀貨のような色合いの物も混じるようになってきた。

 上級者向けのダンジョンに行ったらもしかしたら金貨っぽい魔物コインが出てくるのかもしれない。


 大きさ自体は貨幣として使えそうなものではあるけれど。


「魔物コインそのものを貨幣として使ってないのはなんでなんだろう」


 そんな疑問が浮かんで、思わずといった感じで呟いてしまってからクロムは「あ」と思った。

 魔物コインが気になっている理由を母に聞いておいて、それを聞く前に立て続けに質問を重ねたようなものだ。一度にあれこれ聞かれればどれから答えるべきか、なんてなりかねない。

 以前クロエに立て続けに質問を重ねてしまった時は、一度に言われても全部答えられないです、とか言われてそれ以来なるべく質問は重ねないようにしていたというのに。


「魔物コインを貨幣として使わないっていうのは単純にあれじゃない?

 銅貨として使うにしても、同じ銅貨の括りでも強さは異なるわけだし。私たちが最初に出会ったカチコチスライムとそれ以外の銅貨枠の魔物とだと、明らかに倒す苦労とか違うでしょ。私たちはともかく他の探索者からすれば。

 中級者向けダンジョンでも銅貨タイプの魔物は出るけど、あれ倒してもカチコチスライムと同価値ってなれば探索者も倒す魔物えり好みしだすわよ、きっと」

「言われてみればそれもそうか」


 クロムは案外あっさりと納得した。

 ステラとしてはクロムのこの素直さは好ましく思えるが、同時に何かちょろくて騙されそうで心配なのよね……と一瞬だが冷めた目を向けてしまう。実際クロエがクロムを魔王にした時にそんな感じのやりとりがあったので。あれはお互い納得していたようなのでこちらが口を挟む事はしなかったものの、何だかそのうちどこかで面倒な事に丸め込まれて巻き込まれそうな気がしている。


 ステラからすればいつまでも可愛い我が子であるけれど、それでも既にクロムもクロエもそれ以外のこどもたちも、いい歳なので厄介ごとに巻き込まれたところで親に泣きつく事はしないだろうとは思うけど、それでもまぁ心配はしてしまうのだ。


 ともあれ今手元にある魔物コインは銅貨っぽいものと銀貨っぽいものだけだが、これらが一律同じ金額として扱われるようになれば、間違いなく倒すの面倒な魔物に関しては戦いを避けたりする可能性が出てくる。

 ゲームだと経験値などでよくあるやつではないだろうか。倒すの苦労した割に得られる経験値が少なすぎてそして得られる金額も少ない、なんていうある意味ハズレモンスター。

 ちょっとしたボス戦のような苦戦を強いられたくせに得られる物がほとんどないとなれば、逃げた方がマシ。

 逃げられない戦いであればまだしも、逃げられるのであれば逃げてしまった方がHPもMPも温存できる――なんてなればまぁ逃げるだろう。


 ダンジョンの中の魔物事情がどうなってるかまでは知らないが、倒されない魔物がいつまでもそこにいた場合、他の魔物と縄張り争いのような事をしてどんどん強くなってしまったり、なんて事もあるかもしれないし、はたまた同種の魔物がじわじわと増えていくかもしれない。


 そうなってしまえば、いつかどこかでとんでもない苦戦を強いられる探索者が出るかもしれないし、場合によってはそこのダンジョンの難易度が上がる可能性もある。


 ダンジョンから魔物が出てきたという話は今のところないらしいが、もしそんな風にダンジョンの中の魔物が倒されないままに増え続けたら。

 いずれ、ダンジョンから溢れてくるかもしれない。


 それを考えれば、なるべく満遍なく魔物を倒してもらう方が都合が良いはずだ。


「それにある意味で魔物コインって交易品になってるかもしれないのよね」

「交易……?」

「ここらのダンジョンで出る魔物は別にここらの探索者にとって珍しくないけど、他の大陸のダンジョンで出る魔物とは別の種類かもしれないでしょ? となると、もしかしたらコレクターとかが集めてたりする場合、こっちじゃ雑魚でも向こうじゃ扱いがレア、なんて可能性もあるわけじゃない?」

「地上界で出る魔物と魔界で出る魔物は同じ魔物だけど、強さとか種類とか違うし地上界からすれば魔界の魔物が珍しい、みたいな?」

「まぁその場合はうっかり魔界の魔物が地上界行っちゃうと阿鼻叫喚なんだけどね。でも、さして強くなくともこっちの地域にいない魔物、なんて言われたらちょっとは興味出る人もいるんじゃない? 見た目的には可愛いのとかカッコイイのとかいたし」


 確かに愛玩動物みたいな見た目の魔物もいたし、そういうのは少しばかり倒すのを躊躇ったりもした。なんというか、動物虐待という言葉がよぎって。

 とはいえいくら見た目が可愛らしくとも魔物は魔物。下手な情けをかけてもこちらがやられかねないので、気が引けようともきっちり倒してきたけれど。


「魔物コインをそのまま貨幣にしないのは、場合によっては絵柄で人気出た場合貨幣以上の価値を持つものがでかねないから、とも考えられるわね。見た目はただの銀貨タイプでも、この魔物に関しては人気あるから通常の金額の倍の価値が、とか言われたとして、店で使おうとしてもうっかり絵柄を見ないまま色だけで判断されたら金銭トラブル発生しそう」

「あー、それはありそう。確かに」


 混雑している市なんかでは払う金額を誤魔化そうとしたり、釣銭をちょろまかそうとしたりするようなタチの悪いのも中にはいる。そんな相手にそういった価値のある魔物コインを出した場合、どう考えてもトラブルになるのは明白だ。


「だから探索者ギルドで換金してるんじゃないの? 過去にそういったトラブルがあってそうなったか、最初からそうなのかまではわからないけど」


 忙しい時の店でいちいち魔物コインの絵柄を確認しない可能性は確かに有り得そうだし、探索者ギルドで換金している理由は事実がどうあれクロムからすれば納得できた。真実がどうかはクロムにとってはどうでもいい。ある程度納得できる話であれば他に真実があろうとも、だ。


「ちなみに私が魔物コインが気になってるのは別に絵柄が気に入ったとかじゃなくて、単純に換金した魔物コインを探索者ギルドでどうしてるのかしら、とかそういう方面の疑問ね。

 あとはまぁ、何かの素材にならないかしら、とか」

「あぁ、そういう……」


 てっきりコレクションしたいとかそういうやつかとほんのり思ったのもあったが、思った以上に安定の返答だった。まぁ、全種類コンプリートしたいの、とか言い出されたらそれはそれで全部のダンジョン行かなきゃいけないとかになりそうなので、そうでなくて良かったとも思っている。


 魔物に苦戦するつもりは今のところ全くないけれど、だからといってこの世界のダンジョン全種類制覇までするつもりはクロムにはこれっぽっちもないもので。

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