お前らみたいなルーキーがいてたまるか
初心者向けダンジョンでまさかの隠し部屋を発見し、そこで初心者が持つには過ぎたとしか言いようのないアイテムの数々を手にした幸運なルーキー。
確かに探索者たちの中にその話はばーっと広まったし、だからこそ一月程はもしかしたら他のダンジョンにも……? とこぞって他の探索者たちがすっかり足を運ばなくなった初心者向けダンジョンへと訪れたりもしていたが。
既に他のダンジョンにはそういった隠し部屋の存在もなさそうだし、とその話題はそれなりに落ち着いてきていた。
羨ましいのは確かにそうなんだが、他人を羨んでばかりいても自分の手元に財宝が転がり込んでくるわけでもない。
それに、破竹の快進撃とばかりにそのルーキーたちがダンジョンを攻略しているならともかく、確かに初心者にしては早い方ではあるが、今いるダンジョンはまだ中級者向けといった感じだ。
たまたま同じダンジョンで遭遇し、あれが噂の……といった感じで目にする事はあれど、わざわざ絡みに行く程でもない。
幸運なルーキーの話はそれなりに広まっていたけれど、広まったのはあくまでも隠し部屋で財宝を見つけた、という点でありルーキーたち本人の容姿だとか実力だとか、そういった部分はそこまで広まったりはしていなかった。
けれども、幸運なルーキーたちがどんな姿をしているか、なんていうのは別段話にのぼらずとも見た者は一目であぁあれが……と気付けるものであった。
何せ、武器は確かに見た時点で良いものだとわかるものだ。
けれども肝心の防具はといえば、正直防具かそれ? と言いたくなるようなもので。
ある程度軽鎧だとか片腕に装着するような小さめの盾だとか、そういった何かがあればまだしも完全に普段着。
普段着と言っていいかは微妙なところでもあるけれど、パッと見ちょっと他所にお出かけするのでいつもよりいいお洋服着ましたよ、みたいな感じだ。
中にはスーツの男もいるが、どう考えてもお前はダンジョンにいるよりどこぞの会社の中にいるべきでは? としか思えない。
何、会社の指示でダンジョンの中に営業にでも来てんの? とか言いたくなるが、そのスーツも一目でいいものだとわかるのだ。下っ端というよりは上にいて下の人間を使う立場の者が着てそうなやつ。
安物のスーツであればダンジョンの中で下手に魔物と遭遇して戦った時点である程度ボロボロになりそうだけど、その男のスーツは全くそうなる気配も様子もない。
実はあの服も、隠し部屋で見つけた何か凄い防具だったりしない? しない。あ、そう。
使えないからという理由で追い出された魔術師たちだけで構成されている一団と最近よくつるんでいるようで、ダンジョンの中で彼らを目撃すると幸運なルーキーたち四名と魔術師たちのリーダーにあたるだろう男が一人、それから、たまに顔ぶれは変わるもののやはり他に魔術師が一人か二人いる事が多い。
同じチームに入っているというわけでもないらしく、ダンジョンの中でたまたま周囲に魔物がいなくて安全な時に声をかける機会があった探索者が話をしてみれば、どうやら同盟を組んでいるといった方が正しいだろうか。
大人数でダンジョンに入ると何故だか魔物が大量に発生して狙ってくるが、幸運なルーキーたちと魔術師たちは一つのパーティというわけでもなく、別々のパーティで協力体制である、といった感じだ。
魔物に執拗に狙われるような数でもない少数で、しかも案外上手くやっているようだ。
パッと見た限りでは、うまくいくように見えないからこそ余計におかしな光景に見えなくもない。
何せどいつもこいつも戦えるような見た目ではないので余計に。
とある探索者Aはその日仲間たちといつものようにダンジョン探索に勤しんでいた。
探索者に休日はない。いや、流石に疲労が溜まってだとかであれば休むけれど、いつまでも休んでばかりでは生活をするだけの収入が得られない。だからこそ、無理のない範囲で日々仲間たちとダンジョンへ行くのだ。
休む事も仕事のうち、と考えれば休日など無いに等しい。いや、流石にそこまで考えてる奴はそうそういないと思うけれども。
自分たちの実力をよく理解している探索者Aとその仲間であるBCDEは、今日もいつものダンジョンに行く予定であった。けれど、Cの家族でもある母が病に倒れた。
その病に効く薬は買えば中々の値段をしている。パーティメンバー全員の財布の中身を出せば薬は買えるかもしれないが、いくら仲間の家族といってもAたちにだって同じく養わねばならない家族がいる。有り金全部仲間のために使いました、で母が助かれば美談ではあるが、その後他の仲間の家族が飢えて死にました、では話にならない。
けれども彼らが拠点としている町には腕のいい薬師がいて、材料を持ってくれば調合してやらんでもない、と言われたので彼らはいつも足を運ぶダンジョンではないダンジョンへと行く事にした。
何せいつものダンジョンではあまり手に入らない素材なので。
材料に関しては他のダンジョンで見つかったという報告がそれなりに出ているし、そういった素材が豊富なダンジョンへ行けばいいだけの話だ。仲間たち全員の有り金をはたいて薬を買うよりも、素材が見つかりやすいダンジョンで素材を探した方がまだ現実的。
ただ、一つ問題があるとすれば。
普段足を運んでいたダンジョンではないので、やはり勝手が違ってくるという点だろうか。
普段のダンジョンと難易度的には同じようなものだが、いつも相手にしている魔物と違う魔物が出るダンジョンとなればやはりどうしたってやりにくさが出る。
気持ち的にはワンランク上のダンジョンに挑んでいる気持ちだった。
道中、魔物を倒せば初級ポーションがドロップしたので、ある程度の怪我はそれで治していくものの、やはりどうにもやりづらい。
ダンジョン難易度は同じくらい。けれども出る魔物の種類が違うせいで、いつもならこれくらいの相手に怪我をするような事はそうないはずなのに、一戦ごとに小さな怪我はする始末。
ドロップした初級ポーションで治していけるとはいえ、必ずしもポーションがドロップするわけでもない。手持ちアイテムのポーションやらが尽きる前には階層主のいるところまで辿り着きたい。
探している素材は、魔物を倒した時にドロップできるものが多いがその多くは階層主が出る直前の階層らしい。
そこで材料を集めて階層主を倒して転移装置で帰る。これが一番手っ取り早いルートだ。
けれどもまだ階層主がいる階層までは遠く、今のうちからこんな小さな傷とはいえぽんぽん負っているとなると不安がよぎる。
階層主手前のフロアじゃなくともドロップするらしいとは聞いているが、確率は低い。安全な階層で延々魔物と戦うよりも、よくドロップする階層で戦った方が確実だ。今はまだそこまで危険な状態でないとはいえ、仲間の母をあまり長く放置もできない。
Cの母は現在Cの妹が看病しているため家に一人、というわけでもないができるなら早めに治したいと思うのは当然の事だろう。
「てかさぁ、ベルくん仮にもハンターなんだから遭遇した魔物が倒したら何ドロップするとかそういうの何かこう、勘とかでわかったりしないの?」
「無茶言うなよ俺は単なる狩人であってそこまでわかってたまるか」
「えーっ」
「えー、じゃない。狩人もハンターも同じとか言うなよ。あんたのハンターには俺が思ってない過大解釈が含まれている」
そんな会話が聞こえてきたのは、思った以上に苦戦してどうする、一度引き返すか……? という空気が流れ始めた時だった。
今日明日にでも仲間の母が死ぬかもしれない、というのであれば意地でも引き返そうなんて言わないが、まだ数日の猶予はある。一度引き返して、装備とか態勢とか、そういったあれこれを整えてからでもいいんじゃないか? メンバーの中でそういった空気になったものの、では誰がそれを口に出すか……とお互いがお互いに牽制するような雰囲気になった直後の事であった。
「ま、わかったらそれはそれで便利だよね」
「そーいうアビリティ? だかの持ち主っていないんすか?」
「……いや、聞いた事はないな」
「というか、仮にいたとしても恐らく公言しないんじゃないか。戦闘向きじゃないアビリティ、本人が戦えるならまだしも、そうでなければただのお荷物扱いされかねない」
続いて聞こえてきた声に、案外近くにいるようだな、と探索者たちが思った矢先に――
ガサガサと草葉を揺らして地図上では行き止まりになっているルートから引き返してきただろう彼らの姿が目に入った。
行き止まりではあるものの、時々宝箱が出る地点らしく、自分たちも念の為確認しに行くだけ行こうかと話していた途中でもあったのだ。
とはいえ、途中で魔物に遭遇したら場所が場所だけに万一逃げるとなったら難しく、そしてまた目当ての素材が出る確率も低いためにそれなら先を急いだほうが……とちょっと意見が割れかけていたところだった。
まぁその流れで一度引き返した方がいいんじゃないか、という空気になりつつあったのだが。
彼らが噂の幸運なルーキーであるというのは見た時点で探索者たちも理解できた。
何せ服装からして軽装すぎる。むしろそんな軽装でこのダンジョンに来てしまったのか!? と言いたくなるレベル。その割に怪我をしている様子もないので、何というかとてもちぐはぐに見える。
一行の中にいた唯一の女性が「あら」と言いそうな表情でぱちくりと目を瞬かせた。そこから少し遅れて、すぐ近くにいた男が小さく会釈した。
探索者としてのルール、というわけでもないが、ダンジョン内でそこまで関わるという事はあまりない。
例えば戦ってる魔物に苦戦して、たまたま通りかかった探索者が助けるか尋ねた場合であればともかく、こちら側から助けを求めたとして見捨てられても文句は言えないだとか、そういったものは細々と存在してはいる。
例え同盟を組んで一緒に行動しているわけでなくとも、場合によっては魔物が活性化して襲い掛かって来る事があるからだ。
こちらがいくらあいつらは仲間でも何でもない、と思っていたとしても、魔物からすればそんな事は知った話ではないし、過去に何度かそういう事例はあったのでダンジョンの中でばったり会ったからといって和気藹々と話し込む事はまずもって無い。
あるとすればダンジョンの中に時折存在している魔物が出ない安全地帯と呼ばれるフロアくらいのものだ。
ここは安全地帯ではないので、探索者たちも道を譲る形で移動して、ルーキーたちを通す。
向こうも「あ、どうも」といった感じで通っていって、特に言葉を交わす事もなかった。
「今の様子じゃ何か宝箱とか無さそうだったな」
「こっちがいっても出現するか微妙だし、先進むか……」
引き返すつもりもあったけれど、次のフロアには階層主こそいないが安全地帯と呼ばれる場所がある。そこまで行って、少し休憩してから引き返すなり先に行くなりを決めよう、そんな話に纏まった。
普段戦ってる魔物とは勝手が違うから若干手こずるのであって、ある程度慣れればこのダンジョンの敵は彼らの実力ではそう脅威になるはずもない。ある程度慣れるまでやってみて、駄目そうならその時は他の方法なり手段なり考えよう、と仲間の一人に言われてそれもそうだなと思ってしまったのだ。
そして次の階層へ移動して、そこの安全地帯と呼ばれる魔物が出ないフロアへ辿り着いてみれば。
「あら、さっきの」
何故だかそこには先程遭遇したルーキーたちがいた。
安全地帯という事は既に探索者ギルドで出ている地図にも記されているので、間違いはない。
魔物が出ない場所で、しばらく休んでから探索を再開するのはよくある話だ。
だからこそ、彼らも休んでいたのだな、とはわかる。
わかる、というか……
キャンプにでも来たのかと言いたくなるような一式道具がそこに置かれ、串に刺さった肉やら野菜やらを焼いているその光景は――
誰がどう見たってバーベキューであった。




