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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
五章 ゲームでいうところの……――

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気付いた時には手遅れで



「あっ」


 スタッフルームでスクリーンを見ていたキールは思わず声を上げていた。


「どうした? 何かあったか?」

 まるで忘れていた何かを思い出したみたいな声の出し方だったため、クロムが何事かと思い声をかける。

 買い物に行ったはいいけど買おうと思っていたメインのやつを忘れて帰ってきた、みたいな感じがしたのだ。

 とはいえキールがここ最近買い物に出かけた事なんてほとんどないのだが。


 最近は大抵塔の中で事足りる。わざわざ他のところで買い物に行って、なんていう事がまずない。


 けれどそう思えたのは、何となく他の兄弟がそういうのをやらかした時の反応と似ていたからだ。


「あ、いえ、何かあったっていうか……あの、そのゾンビ」

「ん? 父さんにあっさり灰にされた奴か? こいつがどうかしたのか?」

 キールが声を上げた時点で既に灰になってしまっていたのでクロムは正直ゾンビがどういう感じだったか覚えていない。生前の面影が残っているといっても一瞬、それも灰になる直前がギリギリクロムの視界に入った姿だ。そんなんで生前がどうとか言えるわけもない。

 ただ、まぁ、剣とか持ってたし鎧も身に着けてたしで、剣士っぽい奴だったような気がするな……とは思っている。本当に一瞬しか見ていないのでもしかしたら剣じゃない武器だったかもしれないが。


「どう、っていうかですね。アルドさん、でした」

「……誰だそれ」

 何となく聞いたような気がしないでもないが、クロムは思い出そうとしてみたもののそれっぽい情報すら浮かんでこなかった。聞いた気がする名前だけど、もしかしたら元の世界でだったかな。その誰かと似た名前だから間違って知ってる気になっただけか? と思い始める。


 そんなクロムの様子にキールは「あ」と小さく声を出した。


「そうだ、そういえばあの時はいませんでしたね」

「ん? じゃあオレ話だけ聞いた感じ? 直接の知り合いじゃない?」

「はい。あの、プリエール王国で会ったので」


 プリエール王国、と聞いてクロムはあの頃の事を思い出す。

 あの頃はまだ塔なんて作ってなかったけど、そういや何やってたっけな……そこそこ前の話すぎてクロムの中では終わった話として大抵の事がすっぽ抜けてしまっていた。重要な何かがあれば覚えていただろうけれど、正直こっちの世界に来てからそこまで重要な案件ってあったか? という気持ちなので。


 あぁ、でもそういや途中でルクス伯父さんに連れていかれて何かあちこちのダンジョンで暴れまわった気がするな。

 じゃあ別行動してた時に出会った誰か、って事か。

 とても雑にクロムは自分を納得させた。


 ステラとベルナドットがいれば話は早かったのだが、ちょっと前にステラは小腹が空いたので何か食事持ってくると言って出ていってしまったし、ベルナドットはトイレだ。


「えぇと、追放される前に一緒のチームだった人、です」

 そう言えば何となくクロムも理解したようだ。

 一応キール達魔術師の事まですっぽ抜けたわけでもない。彼らがアズリアの呪いを解くために異世界から勇者召喚しようとした結果失敗してここに呼ばれた、という根底というか根本というかな部分は覚えている。

 今はもうこの塔にもいないけれど、魔術師団として活動していた者たちはそういや大体が魔術師とかロクに使えないしな、みたいな感じで追い出された者たちの集まりだった。


 で、キールいわくのその前のチーム、と言われれば流石にクロムだって察するほかない。


「ん? あ、あー、何かそういやそんな話聞いた気がするな」

 そこまで聞いて、ようやく思い出せた気がする。

 別行動していた後、合流してこっちで何があったか、そっちはどうだった? みたいな情報のやり取りをした時に何か言ってた気がする。

 ステラたちはルクスが戻ってくるまでの間に時間を潰すためにちょっとぶらぶらしてた、とかいう感じだったからそこまで重要な話があったわけじゃない。本当にちょっとした世間話程度の扱いだった。


 けれどもある程度聞けばそういやそんな話もあったなと思いだしてくる。


 そうだ、何かあれだ。ダンジョンで仲間失って一人になって、仲間にしてくれとか言い出してた奴だったっけ。魔術師団はともかく事情を知らない相手を引き入れても何の得にもならないって事で却下したとかいう話は確かに聞き覚えがある。


 あー、はいはいはい……みたいな反応をしているクロムに、キールもそれ以上言わなかった。

 アルドがあの後、キール達と別れてどうしたのかは知らない。知ろうと思わなかったしあの時は他の事に意識が向いていてアルドの事をいちいち考えるなんて思った事すらなかった。

 あのゾンビしか出ないダンジョンで仲間を失ったアルドが一人になって、あの後すぐに他の仲間を得る事ができたかはわからない。

 けれども、そういやその後なんだかんだ塔ができてプリエール王国は滅ぶ事になったわけだし、アルドは別にあの国に最期までしがみつくというタイプでもない。かつては何か色んな部分が酷かったけど、再会したあの時は多少マシになってはいた。

 なら、プリエール王国に死ぬまでしがみつくなんて事はしないでさっさと他の国に移住した可能性が高い。

 塔が出来てからは恐らく彼もここに何度か訪れてはいたのだろう。

 いつの話かキールにはさっぱりわからないけれど。むしろゾンビになってるのを見て、あ、もしかしてこの塔に来てたんですか……? みたいな反応をしてしまったくらいだ。

 一応他のダンジョンなどを経由して魔物はある程度この塔に沸くようにしてあるという話だったけれど、探索者のゾンビに関してはここで死んだ者たちだろう。

 他のダンジョンで出るゾンビとか生前の姿がなんとなくわかるようなのとか出てきた覚えがないし。


 そこら辺詳しくルクスあたりに聞けばもしかしたらわかるかもしれないけれど、キールはそこまでの興味がない。他にもちらほらとそういや以前スクリーンで見た気がするなぁ、といった冒険者風ゾンビがいるので、わざわざ聞かなくとも多分そうなんだろうな、と自己完結させた。


「あ」

「なんだまたかよ」

「あ、いや、はい、まぁそうなんですけど」


 再び出会い頭に遠慮も何もなく焼却されてしまったゾンビを見てキールはまたもや声を上げていた。


「ん? なんかあったか?」

 そして丁度そのタイミングでベルナドットが戻ってくる。

「や、何かこいつの前の知り合いってのがここでゾンビになってて」

「ふーん」


 前の知り合い、と聞いても別にピンとこないベルナドットの相槌は乾ききっていた。


「ほら、あの、アルドさんもいたんですけど」

「アルド…………? んん? あ、あぁ、あいつか」


 どうやらベルナドットも忘れかけていたらしい。そういやなんかいたなぁ、くらいのノリだ。


「それだけじゃなくて、今しがた焼き払われたのがその、バーグさんとケイターさんで」

「聞いたような気がしないでもないけど、そいつら誰だっけ」


 この世界に来てそこまでたくさんの知り合いができたわけでもない。だからこそベルナドットは名前に聞き覚えだけはあった。もしかしたら聞いてないけど知ってる気になってるだけかな、とか考えたりもしたが。


「あの、魔術師団結成前の、追放とかされる前に組んでたチームの人たちです」

「あぁ、そいつらか」

 それだけ聞けばベルナドットには充分だったようだ。それ以上特に深く突っ込むでもなくさらりと流される。


 スクリーンでは相変わらず進むたびに出てくるゾンビを魔術でどんどん焼き払っていく光景が映し出されていた。

 そこからややあってステラが料理の乗ったトレイを持って戻ってくる。

 簡単につまめるような物がいくつかとあとは人数分の飲み物だ。飲み物を受け取って、各々適当に気になった料理に手を伸ばす。



 ぼんやりとスクリーンを眺めながら、キールは彼らの事を考えた。

 役立たずと言われ追い出されたとはいえ、もうキールの中では完全に過去の話だ。思い出すにしても決して楽しい思い出とは言えないのでわざわざ記憶の底から引っ張り出そうとも思わないような話。

 けれどもしアズリアが今も呪いが解けないままで、ステラたちを召喚なんてしないで自分たちだけでどうにかしよう、と考えていたとしたら。

 果たしてそんな風に思えただろうか。


 今はもうアズリアも目覚めて、どころか気付いたら塔スタッフとしてホムンクルスになっちゃってるとかいう事になってしまってるが、もしもまだ、呪いで眠りについたままだったとしたら。

 進まないダンジョン探索。見つからない秘薬。そして年をとった自分。仲間たちは果たしてどれくらい残っていただろうか。

 もしも、を考えるとどうにも明るい結末は見えそうにない。


 探していた秘薬だって大陸のダンジョンで見つかる可能性はとても低いものだったし、塔はステラたちが来たからこそこうして存在している代物だ。であれば、もし彼女たちがいないのであれば世界樹の雫が見つかるかもしれない、というか実際販売している塔はないのでアズリアの呪いを解くためには延々と望みの薄いダンジョンへ足を運ぶしかなかったわけだ。

 ルクスにある程度魔術を教わったりもして、ついでに他の仲間だった者たちは身体を鍛えるに至ったけれどもし彼らがいなければ自分たちはずっと魔術だけでの戦い方しかできず、そうなればダンジョン探索だって遅々として進まなかっただろう。


 もしそんな中で、アルドやかつての他の仲間に遭遇していたとしたら。


 多分、八つ当たりだとわかっていても彼らを恨んだのではないだろうか。逆恨みだとわかっていても感情の矛先というか捨てる先というか、とにかくそういったものを向ける先を探してそうなっただろう事は想像がつく。


 魔術師だけでダンジョン探索なんてどう考えても厳しいだろ。なんなら手を貸してやろうか? とか向こうから言いだすとは思えないがそれでももし言い出したならまぁ間違いなく荷物持ちから雑用といった面倒ごとを押し付けられ、そしてダンジョンで見つけた物はほとんどが向こうに持っていかれるのだろう。

 それは、かつて仲間としてやっていた時とそこまで変わりがない。

 けれど、もしそうなっていたのであれば今度は足下を完全に見られているわけなので、扱いはもっとひどくなっていたかもしれない。


 そうならずに済んでよかった、と思う。

 今はもう完全に過去の話だ。こうしてもしもを考えてそれこそ最悪の結果を想像したとしても、特に何を思うでもない。その最悪のもしもはあくまでも単なる想像でそうなる事はないものなのだから。



 それにしても皆塔に来てたのか、と改めて思う。

 いやまぁ、考えてみればそうなるだろうな、とは思える。

 アルドは仲間がいない状態だった。大陸のダンジョンよりも塔の方が実入りがいいと言われていたし、各国から様々な探索者が訪れるので仲間を新たに探すにはうってつけだ。


 バーグは……彼はギャンブルのために稼いではギャンブルにつぎ込みまた稼ぐべくダンジョンへ、というのを繰り返していた。塔の中にはカジノもある。

 休憩所で倒した魔物から得たコインを換金したり見つけたアイテムを売り払ったりすれば金はすぐに用意できるし、そのまますぐにカジノに直行できると考えれば彼がここに来ていても何もおかしくはない。金がなくなってもまたすぐダンジョンへ行けばいいだけの話だ。

 そう考えると宿もあるし食事も提供されるしで、ここは彼にとっては楽園と呼べる場所であったのかもしれない。


 ケイターはどうだろう、と考えてみたが、彼についてもまぁわからないでもなかった。

 彼はしょっちゅう娼館に通い詰めていたし、どこからそんな性欲出てくるんだ、と当時も思っていたが今もなおそれらが健在だったのであれば。

 宝石とかもちょくちょく発見できるこの塔に来ないはずがない。

 売っても良し、加工して装飾品にして目当ての女に貢ぐも良し。


 そして塔を経由すれば他国への移動もそう難しいものじゃない。

 国から国へはギルドの手続きがいるが、国から塔、そしてまた別の国、というのであれば手続きなどは必要がない状態だ。それを利用して各国を渡り歩いている者もいるのではないだろうか。


 ケイターであれば、それこそ塔を経由して他の国の娼館も制覇しようと考えていたとしても別に不思議ではない。


 けれどもそんな彼らはゾンビになっていた。


 アルドに関しては普通に引き際見誤って死んだんだろうなぁ、と思える。

 残りの二人に関しては恐らく欲をかいた結果なんだろうなとも。

 アルドも一応己の欲望が食欲に大きく振られているわけだが、一度仲間から見捨てられた後は多少落ち着いていたように見えた。だからきっと一時的にでも組んでくれる仲間とダンジョンを進みある程度稼いだら店でガッツリ食べる、というのを繰り返していた事は想像に容易い。


 バーグとケイターは稼いだ金をつぎ込む先こそ違えど、あればあるだけいい、という状態だ。


 上に行けば高価なアイテムを見つける事も多くなる。

 何せ終盤階層に入ってすぐの所ではもう噂だけになってたような秘薬も出てきたくらいだし、何より普通に売っているくらいだ。


 上に行けば行くだけ金を稼げる、と思えばあの二人もそれこそ上を目指したのだろう。

 その結果命を落とした。ダンジョンの中ではよくある話。


 魔物に殺され、今度は自分が魔物として探索者に殺される。

 うーん、なんてイヤな展開だろうか。

 キールは思わずステラを見た。その視線に気付いたステラは「なに?」と問いかけたが、果たしてそれを言ってしまっていいものか……


「いや、悪趣味だなって」

「そう? ルクスに任せたけどまだマイルドな方じゃない?」

 スクリーンでは遭遇するたびに魔術を発動するのが面倒になってきたらしいクロノが、別の術を発動させていた。自動追尾式らしきそれはダンジョンの壁を這うように移動していき、途中で遭遇したゾンビを容赦なく焼いていく。

 最初からこうすればよかったですね、とか何事もないようにのたまっているクロノに、塔の外の見物人たちが慄いている事など当然知るはずもない。



 というかだ。


 塔で死んだ探索者の再利用はルクスの案だったのか……これでマイルドとかあの人の頭の中どうなってるんだろう。

 異世界の魔族にとってそれともあれは普通なんだろうか、と思ってベルナドットに視線を向ければ、彼はそっと首を横に振った。


 あいつ魔族の中でも精神性が一際やべー奴だから。


 声に出していなかったはずだが、確かにそう言われた気がした。

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