表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
五章 ゲームでいうところの……――

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

220/232

よくない想像



 翌朝。特に何事もなく普通に起きたクロノたちは当たり前のように終盤階層へと足を踏み入れた。

 シデン達が訪れた後、他にも何組かの探索者が足を踏み入れてはいるもののそれなりに苦戦しているところだ。とりあえずトラップメイカーの転移罠回避のための必須アイテムを持ち込んだりする以外で用意すべき物、というのが探索者ごとに異なっているので、準備に時間がかかるというのもあるのだろう。


 だがしかしここまできてなおヤクトリング無しでやってきたクロノたちは、当然何の準備もしないままの突入である。


 スクリーンでそれらを見ていた見物人たちも「おいおい大丈夫かよ……」と呟いている。

 いや、彼らが規格外の存在だというのはここに来るまでで大体理解できてはいる。それでも終盤階層となると、難易度だってけた違いになるだろう。もしかしたら、という考えはどうしたってふとした瞬間によぎってしまうものだった。


 だがそんな彼ら見物人たちのちょっとした心配などどこ吹く風とばかりに、クロノたちはすんなりと進んで気付けばあっという間に階層主である。

 シデン達をもってしても苦戦したあの階層主。

 ところがやはりこれもあっさりと撃破してしまった。


 一度倒れてやられた振りをしていた階層主だが、クロノは「おやおや」なんて言っているだけだし、レェテに至っては眉間にしわを寄せて離れた場所からトドメの一撃とばかりに魔術を放っていた。

 死んだ振りをして相手が油断した時に大きな一撃をぶちかましてやるぜ! と思っていただろう階層主はこうしてあっさりと倒されてしまったのである。


「……あぁ、やっぱそういう方法が最適って事かぁ……」


 見ていた見物人たちも「あー」とどこかテンション沈みがちな声を出しつつも納得する。

 倒した! と思わず消えるまで攻撃をぶち込む、くらいの勢いが必要なんだなと理解した。

 まぁわかっていたとしても、それが上手くできるかどうかは別の話だ。

 トドメを刺すぞ! とばかりに近づいているのであれば死んだ振りをしている階層主だって攻撃される気配はわかるだろう。となれば近づいた瞬間に攻撃を仕掛ける事だって有り得る。


 とはいえ、以前シデンたちが戦った階層主と比べると随分あっさり倒された感があるので、もしかしたら思っていた程強くないのでは? と思い始める者が出てきた。

 実際シデンたちが戦った階層主は途中から秘薬のせいで弱体化解除されたようなものなので、今回に限ってはその認識で間違っていなかった。


 その次の休憩所は所々に点在している酒場タイプの休憩所であった。

 一杯やってく? とばかりに声をかけたゴーレムに、しかしクロノもレェテも首を振る。

「あら残念」

 しかしゴーレムはちっとも残念そうに見えない顔でそう言って、それ以上引き留める真似はしなかった。

 さっさと次に行こうとばかりに進む二人に、しかし待ったをかけたのはスクリーンで見ていた見物人たちだ。


「ちょちょちょ……せめてそこの休憩所で売られてるアイテムとか確認してくれ……!」


 スクリーンに向かって叫んでも相手にその声が届く事はない。それはわかっていてもそれでも言わずにはいられなかった。

 世界樹の雫は既に売られているけれど、この休憩所で他の秘薬が売られていないかの確認くらいはしてほしかった。売られているのかいないのか。売っているなら値段は? あと、この休憩所で出てる酒はどんな種類があるのか。そういった諸々を知る事ができれば一部の探索者にとってはとんでもないモチベーションに繋がるのだ。


 だがクロノもレェテも一切何の興味も示さずにそのまま進んでいってしまった。


 こんな事になるとわかっていたならせめて二人が塔に入る前に店のチェックだけでも頼んでおいたのに……と思う者は今更のように後悔していた。

 ロクな武装もしていない、更には顔を隠すように布を被っている二人組とか若干怪しいのもあって声をかけようとは思わなかったし、ついでに言うならそんな強いだなんて思ってもいなかったのだ。


 途中で発見した宝箱も見つけたら一応開けたりしているがすぐさま空間に収納されているらしくて何を見つけたのかがわからない。次へ向かう階段を見つけたら他にもあるかもしれない、と宝箱を探すような事をするでもなくさっさと進む。

 そんなわけで、新しい階層がスクリーンに映っても情報は不十分であった。全く何の情報も得られていないわけではないが、二人は情報提供者と考えるにはとても不親切な部類に入る。そもそも情報を提供しようという意識がないので二人からすれば知った事ではないという話だが。


 そうして序盤階層を進んでるくらいのサクサクっぷりで二人は進んでいく。

 途中で遭遇した魔物とか完全に見物人たちにとっては初見のものばかりだというのに、まるで対処法を知っているとばかりにあっさりと仕留めていればそれはまぁ、それくらいの速度で進む事も可能だろうと思えてくる。


 そうこうしているうちに、塔のスクリーンを見物に新たな連中がやってきた。

 シデン達である。

 彼らは現在修練場なども利用しているが、今は本来の勘を取り戻す方に重点を置いている。ミドルス一人欺くために今までの戦い方を変えてまであの塔に挑んでいたというのも大概だが、本来の戦い方へ戻した途端結構な強さを発揮しだしたというのも大概だな、なんて時々スクリーンに映る彼らを見ている者たちは思っていた。


「お、もしかして新しい階層か」

「あんたらが攻略してた階層の今は次の次、ってところかな」

「早いな、もうそんな進んでるのか。お、魔物とか全然見たことないやつばっかりじゃねぇか」


 見た目からして明らかに強そうなのがうじゃうじゃいる。実際に強いのだろうとも思えるのだが、戦ってるのがクロノとレェテのせいか遭遇と同時に大体がやられている。

 これは攻略も簡単そうだな、と見ているだけなら余裕で思えるやつだった。実際はそんな簡単にいかないのだろうと頭ではわかっているのだけれども。


 途中で発動した罠は、上からギロチンのような刃が降ってくるというものだったが二人はそれにも動じる事なく魔術で防いでいた。

 ここまで大体魔術でどうにかしているせいで、見物人たちの中にいる魔術師たちにもちらりと視線が向けられるがその視線に気付いた者たちは顔を青くして「いやあれ自分にやれって言われても無理だから」とばかりに首を振った。

 いくら途中の階層で休憩しているとはいってもあの二人のペースで進むとして、あの二人同様にほとんどを魔術でという戦法そのまま真似をしようとしても確実に途中で力尽きる。序盤階層からスタートしたとして、言っちゃなんだが中盤階層の最初あたりまではどうにかできる、とは思う。けれど中盤階層も中程まで進んだところなら間違いなく次の休憩所までもつかもわからないし、中盤階層終わりごろの毒霧フロアまで来たら流石に魔術だけでどうにかできるとも思えない。というかヤクトリングがあっても進むのに苦労しているような実力しかないのだ。あの二人の真似をしようと考えたとして、あの二人と同じようにできるはずがないのは考えずともわかりきっている。


 なんとなく視線を魔術師に向けてしまった者もそれはわかっているのだろう。

 ただ、あまりにも魔術が凄い連中を見ると他の魔術師ももしかしたらああいう芸当できたりする? とつい思ってしまうのだ。無理だろうなとわかってはいるがそれでも万が一を夢見るのはもうどうしようもない。


 そうして新たな階層へやってきた二人は何かに気付いたのか一瞬だけ足を止めた。

 何があったのか、とスクリーンを見ていた者たちも思わず目を凝らしてみるが、スクリーンに映っているのはあくまでも二人であって、その周辺がちょっと映っていてもそのあたりで何かがあったわけでもないので見ている者たちからすれば何があったのかはわからないままだ。


 けれども徐々に聞こえてきた音から何となくわかるようになってくる。


 それは足音だった。引きずるようにしているが紛れもない足音だった。

 そしてその合間合間で呻き声のようなものが聞こえてくる。

 この時点でもしかして、と思う者はいた。


 見物人たちの大半は探索者でもある。だからこそ、気付くのは早かった。


 生ける屍。ゾンビだとかアンデッドだとか呼ばれる魔物である。

 そういったものが出るダンジョンに挑んだ事がある者は早々に気付いたが、事前情報でそういう魔物が出るしそういうの苦手なんだよな、という者は馴染みが薄かったのか気付くまでに若干の時間を要した。

 けれどもそうだと気付いたのはそう遅くない。スクリーンに映し出されたそれらを見れば嫌でも理解できるのだから。


 だが、そのゾンビたちは今までのダンジョンで見た覚えのあるものとは異なっていた。

 ゾンビである事に間違いはない。けれど、彼らの姿はバラバラだった。

 各大陸に存在する通常のダンジョンに出没するゾンビなどは基本的にどれもこれも同じような姿をしている。大きさにこそ多少の違いはあれど、見た目はほぼ同じで個体識別をしようとなると中々に難しい。大きさが異なればそれで見分けられるかもしれないが、同じようなサイズであれば判別はつけられない。


 だがここに出たゾンビは違った。

 生前の面影と言おうか。そういうのが割と残っていたのだ。しかもそれぞれが武装をしている。


「あっ!」

 と誰かが声を上げたのと同じくして他にもちらほらと声が上がる。


 見覚えがあった。

 それはかつてこの塔に挑み死んでしまった者たちだった。

 勿論見覚えのない者もいるにはいるが、それは見物人たちが見ていない時に死んだ者であったのかもしれない。もしくはスクリーンに映る事なく死んでいった者たちか。


 見知らぬ者もいたが、見知った者もいる。しかもゾンビとなって。

 なんて階層だ……! と見ている者たちは思った。

 もしかしたらかつての知己であった者と戦わなければならないとか、正直とてもやりづらい。しかし躊躇っていればこちらが死ぬ事になってしまう。


 邪魔だからこっそりダンジョンの習性利用して処分しました、みたいな者であったならそれを倒すのに心など痛む事もなかっただろう。だがそうではなく、例えば自分を庇って死んでしまった者だとか、はたまたまた明日な! なんて言って別れた後で二度と会う事のなくなってしまった者であったなら。

 親しくはなかったがそれでも何度か話をした事がある、程度の者でもそれを自分の手で倒せとなると躊躇いが生じるのも無理からぬ事だ。


 見知ったかつての仲間。それが変わり果てた姿で襲い掛かってくるとか何て場所だ……! と思う者は多かった。


 だが、まぁ。

 実際にその階層にいるのはクロノとレェテだ。

 二人は正直この世界の人間に思い入れがあるわけでもない。むしろ来て早々この塔へとやってきたようなものなので、親しい誰かとかそういうのはいないと言ってもいい。

 だからこそ。


 魔術でサクッと焼き払った。


 躊躇うとかそういうの一切なしに焼き払われていった。ダイナミックお焚き上げ。燃やされ苦悶の叫びを上げるかつての知り合いを見て、見物人たちはなんとも言えない表情を浮かべる事となった。いやだってさぁ……と言いたいような気持ち。

 下手に躊躇したら確かにまずいのはわかる。そこで躊躇った結果自分もゾンビの仲間入り、なんて事になったらそれこそ笑い話にもならない。かといってノータイムで焼き払うのもどうなんだろう、という気がしてしまう。


 というか、まさかダンジョンで死んだ者たちとこんなところで再会するだなんて誰が思うだろうか。


「え、もしかして、今までのダンジョンで遭遇したゾンビとかも……?」


 誰かの呟く声。

 それを聞いて、他の者たちももしかして……? と思ってしまったのだ。


 ダンジョンの中で死ぬのなんて大抵実力か運の足りない探索者だが、場所によっては死体処理として扱っているところもあるのだ。

 死んだ人間を埋葬するのではなく、そのままダンジョンの中に放り捨てる。そうすれば死体はダンジョンの中に取り込まれ、墓もいらないという寸法だ。

 正直倫理観とかどうなんですかね、と言いたくなるかもしれないが、場所によっては墓なんて作るスペースもない、というような所では時折そういった始末方法が存在している。


 初心者向けのこんなところで誰が死ぬんです? みたいなダンジョンでも例えば飼ってた動物が死んだ場合だとか、そういう所に死体を処分するために行く事だってあった。

 ステラやベルナドットが聞けば「何か業が深そう」とか言い出しそうな話である。

 とはいえこちらの世界ではそこまで表立って言う事ではないが割と普通の事だった。

 今しがた見たゾンビたちは割と生前の面影が残っているけれど、そうじゃないよく見かける没個性的と言えなくもないゾンビはもしかしたら……とその場にいた誰もが思い浮かべてしまった。


 魔物の中には人型のゾンビだけではなく、それ以外の生物の形をしたアンデッドも存在してはいる。あまり見かけないがそれでもたまにダンジョンの中で戦った事がある、という者はそれなりにいた。


 そういったあれこれはもしかしたら……と思うと途端に何となくではあるものの申し訳ない気持ちになってきた、気がする。


 一部のダンジョンではその魔物しか出ない、なんていう偏った事もあるし、プリエール王国にいた探索者たちは知っている。ゾンビしか出ないダンジョンがあった事を。あのダンジョンやたらすぐにゾンビが沸いて出てきていたが、もしかしたらあれももしかして……と思うと中々に笑えない話だ。

 ダンジョンの中で死んだ探索者やそれ以外の墓に入れる事もしないで死体を処分するだけのためにダンジョンの中に捨てられた者。そういった今までの誰かがそういったゾンビであったなら。

 はたまた墓を用意できなくてやむなくダンジョンの中に運んだ者、なんてのもあったと思われる。


 そういった、誰かの大切だったかもしれない誰か、をダンジョン探索の際に容赦なく倒していったかもしれない、と考えると気まずくなっても仕方がない。まぁ、気まずいのは一時的にであって、実際にダンジョンでその手の魔物に遭遇したら倒すしかないわけなんだけど。


 などと、見物人たちが何とも言えない微妙な気持ちになっている中、そんな事になってるなんて知るはずのないクロノとレェテの二人組はずんずんとダンジョンの中を進み、遭遇したゾンビをノータイムで焼き払っていったのである。本気で容赦がない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ