罠というには杜撰ですが
少し前にダンジョンを魔物に例えたりどっちかっていったら魔法生物とかそんな感じじゃないかなぁ、とのたまっていたわけだが、事実この世界のダンジョンはそういったものばかりなのだろう。
ステラたちが暮らしている世界のような、洞窟だとか鉱山を掘っていったものがどんどん規模を拡大した結果迷路のようになってしまった所だとか、最初はそうじゃなかったけれど気付けば魔物が棲みついてダンジョンになっていた、なんていうものはない。
何せこの世界の町や村はダンジョンが出来た周辺に作られる。
それがステラたちからすれば何ともおかしなものだな、と思えるのだ。
かつてステラがまだ人間だった頃、魔王の生贄から解放されたばかりの頃にちょっとした出来事があって過ごしていた王都から離れた大陸のダンジョンに行く事となった。
そこは世界最大規模のダンジョンと呼ばれていて、実際にかなり大きなダンジョンであった。
そちらのダンジョンはかつて村の外れにあったけれど、特に魔物が外に出てくるような事もなかったためにダンジョンを中心に徐々に村から町へ、そして最終的には城がある所よりも大きな都市へと発展した。
けれどもあのダンジョンだって最初から世界最大規模のダンジョンだと言われていたわけではない。
最初は村の外れにある小さな洞窟、その地下に魔物が棲みついていて、そこがダンジョンだと知られる事になったけれど、まだその時点では最大規模のダンジョンだなどと誰も思っていなかったのだ。
調査隊や冒険者がダンジョンの中を探索していくうちに、思っていた以上の規模だと判明していた。
かつてステラたちが訪れた時点ではまだ半分も攻略されていなかったダンジョン。
それ以外にも素材集めにとクロノに誘われていった最果てのダンジョンと呼ばれる場所。
あのダンジョンはどちらかといえばこの世界のダンジョンと同じ傾向にあるのだろう。
ちなみにそのダンジョンは神族が作った道具や魔物を閉じ込めておくだけの場所として作られたものなので、別に気付いたら発生してただとか、突然変異で発生しただとかいうわけではない。
神族が作り上げた、と言えばとても神秘的な感じではあるが、実際はあまり外にあれこれ色んな物を放出すると面倒な事になりそうだから、という考えて作った物の展示会場みたいな扱いをしているだけの代物だ。
ちなみにその事実を人間種族などはほとんど知らない。
ちなみに冒険者などが勝手にダンジョンの中に入り込んでそこからあれこれ持ち出す分には問題ないらしい。というか、その場合は何かあっても自己責任な! というのが神族理論である。魔物もいるのでまぁ、場合によっては冒険者が命を落とす事もあるしダンジョンという時点で安全とかあったものではないのだが。
「こっちの世界のダンジョンて、多分どれもそういう系統のやつだと思うんだよね。自然発生するとかあり得ないでしょこんなの」
ダンジョンについてルクスが語る。
向こうの世界だと神族が作ったダンジョンと、あとは最初から存在していた洞窟だとかに魔物が棲みついただとか盗賊がアジトにしただとかではある。盗賊などが行商人などを襲って得た金目の物だとかをため込んだりしていれば、そいつら倒した時点でそれをお宝とみなせるがただ魔物が棲みついた洞窟については宝物があるとは限らない。
けれども、時々作った道具のうちまぁそこまで大したものじゃないし、ここら辺に放棄しても大丈夫だよね、みたいな軽いノリで不法投棄する神族もいるのだとか。
こんなところに何で宝箱が……? 誰が置いたの……? みたいなやつは大体そういうやつなのだとか。
実際そこから発見された物はそこまで扱いに困る物というわけではないので、今の所騒ぎになっていないからこそ見逃されている節はある。
「ってことは、こっちの世界のダンジョン、神族が作ってるってこと? 伯父さん」
「さてどうだろう」
「え、でも今」
「世界を作ったのが創星神であるなら、まぁ近しいだろうとは思っている。私たちの世界はダンジョンというのは物作りする神々の物置みたいな扱いだけど、こっちの世界の創星神はそういう認識じゃないとは思う。
もしうちの神族代表と同じ考えなら、そもそもこんな面倒な世界になってないはずだからね」
肩を竦めて言うルクスの言葉に、クロムも少しばかり考える。
言われてみれば、面倒というかまどろっこしいというか……町や村なんてとりあえず人が増えたらそこら辺に人類が勝手に作っていくものだと思っていたが、この世界はそうじゃない。
例えば川が近くにあって水源を確保できるからこのあたりに新しく村を作ろう、とかそういう感じですらない。
ダンジョンがあるからここを中心に町を作ろう、とかそういう感じだ。
まぁ、ダンジョンの一階、魔物が出ないそこには転移装置があるので確かに人里を作るメリットが全くないわけではない。例え水辺が近くになくとも、周辺で作物が育てられるかどうか微妙であっても、ダンジョンで稼いで転移装置で他の場所へ行けば水も食料もそれ以外の物も手に入らないわけではない。
転移装置があるという時点で、ただの人間には作れないとわかる。少なくとも大半の人間はあれの構造を理解しているとは言えなかったし。
であれば、それ以外の種族が関わっているんだろうな、とも思える。
「この世界のダンジョンがどういう立ち位置というか価値なのか微妙なところなんだけど……まぁそれなりの価値がある資産と見る事はできる。
だって魔物倒したら時々コイン以外にアイテムとかドロップするしね。
そこそこ危険はあるけれど、見返りがないわけじゃない。
ダンジョンを作る事で人里を作るように仕向けているなら、言い換えればそれは人間を管理しているとみる事もできる。
であれば、そんなダンジョンを軽率に破壊するような事、されたら困るわけだ。無論簡単に壊れるようにはしていないだろうけれど、だからこそ壊れるような事になれば……その相手を警戒するし、場合によってはその場で制裁が発動する事もあり得る。
アゲートやキールが言ってたダンジョンで燃えた探索者の話は不幸な事故というよりは、って感じだったからね」
ルクスの言葉を聞いて、クロムはしばらく考えているようだった。上手く言葉を理解しきれていないような、そんな表情をしている。
それからややあって、んん? と小さくうめいた。
「創星神が出てくるとは思ってないけど、立場的にその下の連中か、はたまたその眷属くらいは出てくる可能性はある、って事か?」
「ダンジョンを作ったのが彼ら彼女らであるならば、ね」
「会って、どうするつもりなんだ? 戦う、わけじゃないよ、なぁ?」
これがルクスの兄でもあるヴァルデマールなら力試しに、なんて言って戦いを吹っかけていてもおかしくはない。けれども、ルクスはどちらかというとそんなわかりやすい喧嘩を売るタイプではない。
もっと血の気の多い――それこそクロムの部下たちのような――奴ならやろうとしている事もまだわからないでもないのだが、ルクスがどうしてそんな事をわざわざ、と考えるとクロムにはさっぱりだった。
「戦うつもりはないよ。今のところはね。向こうがそのつもりなら仕方ないかなとは思うけど。
ただ、場合によってはほら、弟がどういう手段に出るかわからないから、万が一の事を考えて事前にコンタクトとっておければなぁ、とは思ってるんだ。これでもね」
「案外平和的だった……」
呆気にとられたように呟いたクロムに、一瞬だがルクスの笑みが引きつる。
いやまぁ、自分がどう思われているかなんて大体わかっているけれど、それにしたって……というやつだ。
そもそも事故であって悪気はなかったとはいえ、弟にとっての最愛でもあるステラがこの異世界に召喚された時点で、向こうの世界ではきっとクロノの機嫌は下がる一方だろう。それくらいはルクスにだってわかっている。というかわからない方がどうかしている。
かつて魔王の生贄だったこの女を使ってルクスもクロノを魔王にしようと思っていた事があったくらいだ。
あの時はちょっとした行き違いがあって事が上手く運ばなかったけれど、その後なんやかんやあって彼女が魔王の生贄である事実をクロノが知る事になって、そうして今魔王になるともれなくステラがついてくる! とかいう状況になり、そこから両者ある意味合意の上でそういう関係になったのだ。
あの時のクロノの行動は早かった。
覚悟決めたら一直線というわけでもないが、じゃあ面倒ごとはさっさと済ませましょうか、なんてノリであっさりと次期後継者として最有力候補と言われていた長兄と次兄を倒してしまったのだから。
僕魔王になります、って決めてその日のうちに後継者決定戦終了させたような奴だ。
いずれクロノが迎えにくるのは確定事項とみなして問題はないだろうけれど、この世界の神族がその時どういう行動をとるかでこの世界の明暗が決まるといってもいい。
神族がクロノの存在もスルーしてステラたちを連れて帰る事に何も言わず手出しもせず、であればいいが、他所の世界から勝手に乗り込んできた、というのを侵略行為とみなして敵対するような行動をとった場合。
人の妻攫っておいてどういう了見だあぁん?
とまでは言わないが多分それに近い事をのたまって立ちはだかった相手は叩きのめされると思う。生きているなら慈悲がある方。
穏便に済ませたい気持ちはルクスにも一応あるので、神族と接触できるなら一応事前に話し合いでもして被害を最小限にしておきたい。
まぁそれも相手の出方次第でころっと決断を変える事はあるんだけれども。
「この世界の在り方からしてダンジョンに神族かそれに近しい種族が関わってるんじゃないかな、とは思うから、手っ取り早く関わるならダンジョンに害成す者、みたいなやつかなと思っただけなんだよね。単純に」
「…………手っ取り早い、のはわかるけどさぁ伯父さん、でもそれ、穏便に事を済まそうっていう発想じゃなくね?」
「悠長にダンジョン探索していたらいつ会えるかわからないからね。やむを得ず、っていうやつさ」
物は言いようだな、と思いつつもクロムはそれ以上何も言わなかった。
確かにわからなくはないのだ。
このままダンジョンを攻略していって、更に難易度の高いダンジョンへ行ったとして。
この世界で最難関と言われるダンジョンに行けたとして、そしてそこをクリアしたとしても果たしてそういった存在が姿を見せるかどうかはわからないのだ。確実に会えるなんて保証はどこにもない。
けれども敵対存在かと思われれば警戒して様子を見に来るか、直接来なくとも手下なり部下なり寄越すくらいはするかもしれない。
……本当にダンジョンという存在にそれらの種族が関わっているのであれば。
「ま、こればっかりはね。賭けみたいなもので何が出るかはわからないんだけど」
けれど初心者向けとはいえダンジョンの一室を破壊して、挙句財宝捏造までしてみせたのだ。
ダンジョンを作った相手がいるのであれば、いずれは相まみえるはずだ。
むしろ出て来てくれないと困るな、とすら思っている。
何せルクスが知る知識はアズリアの書庫で得た知識と、それ以外は現地で直接見た程度のものだ。
それでも周囲から見て常識知らずと言われるような事はないようだが、やはりまだまだ情報が足りていない。
現時点で一番情報持ってるだろう相手はキールだが、彼も何もかも知ってるわけではなさそうだし、尚且つ意図的に出していない情報もある。主従契約反転させてるので聞き出そうと思えば聞き出せるけれど、現時点でそれをするつもりはない。意図的に隠してるだろうな、と思える情報が正直そこまで凄いものに思えないからだ。
これに関してはルクスの長年の勘とか経験から判断している。
更に色々情報を持ってるだろうなと思える相手は彼の師でもあるアズリアだが、彼女の呪いを今すぐどうこうするつもりもない。
案外助けてしまえば色んな情報を得られるだろう事は確実なのだが、同時になんだかとても面倒な予感もするのだ。
だからこそ、それ以外の――別の場所から情報を持ってそうな相手があわよくばおびき出せればいいな、くらいのノリも兼ねてダンジョンぶち開けたといっても過言ではない。
ちなみにクロムはこれをルクスの独断で決めたと思っているが、困った事にステラも事前に話し合ったし何ならお互いにじゃあそうしましょうか、というくらいの軽いノリであった。
ベルナドットは穏便に止めるべきか悩んだものの、じゃあ他に何か案ある? と言われてしまえばどうしようもないので大惨事にならなきゃもういっかな……と大変雑に何もかもを、と言ったら大袈裟だがともあれ、丸投げした。
事態が動くのは、もう少し先の話である。




