期待度は低い
さて、ステラたちの知らない話ではあるが。
世界が複数あるとはいえ、それらすべてが同じというわけではない。
世界によっては昼よりも夜の方が長いだとか、海ばかりで陸地はごくわずかだとか、はたまた海はそう大きくないが陸地がとんでもなく広いだとか。
とりあえず世界によって地形が異なるのは当然だし、自然環境だって勿論異なっていても何もおかしな話ではない。
そういった部分だけが違うのであればまだいい。
けれどももっと別の――例えば暦。
世界が出来てからの年数。
そこら辺が違うのは別に何を疑問に思うでもない。
全ての世界が同日同時刻に出来上がった、などとは普通考えたりもしないだろう。
例えば夜、星を見上げあの星々にも人が住んでいるかもしれないなどと思いを馳せる者がいたとして。
それらの星々が同じ日にある日突然パッと出現したと考えないのと似たようなものだ。
一年が三百日程度のところもあれば、その倍近くあるところもある。
とはいえ別にそれで何が困るというものでもない。
違う世界は一年がこっちと比べて倍以上あるんだって、なんて言われたとしても、自分がそこにいくわけではないのであればふぅんそうなんだ、の一言で終わる話である。
それが他人事にならなくなるのは、自分がその異世界に行くような事になった場合くらいだろう。
もしくは異世界から誰かがやって来てそいつの面倒を見る事になった場合か。
一年が三百日程度の世界からその倍近い日数が一年になっている世界に迷い込んだとしても、自分の身体はその世界になじんでいるわけでもない。であれば、その世界で一年を過ごしていても自分の中では二年程過ごしたも同然と言える。
その世界で五年ほど過ごせば実質自分の世界で十年生きたも同然、と考えると中々にシャレにならない。
何せ周囲の人たちと比べて倍の速度で年を取っているようなものだ。
その逆に一年が長いところから短いところに来た場合はきっと周囲がみるみる年を取っていくのに自分だけ年を取らない、なんて現象になるわけだ。
その世界の文明レベルにもよるが、下手すれば自分の身体が不老不死の材料だなんて世迷いごと極まりない噂が出るかもしれない。
ステラたちが異世界召喚されてやってきたこの世界は幸いにして一年の日数が過ごしていた世界とそこまで変わらないからこそ、こっちに来てからこれくらい経過した、だとかの計算も特に苦労する事がなかった。
だが、クロノは違ったのである。
正直な話彼は疲れ果てていた。
あの日、もうずいぶんと昔のように思えるステラたちが魔法陣とともに消えてしまったあの日から、彼の中ではかなりの年月が経過していた。
まず彼は最初に自分の世界に存在している創星神へ殴り込みをかけにいった。
天界に乗り込んで、知己とも言える女神を脅し時として喧嘩腰でやってきた他の神族を適当に拳でいなし、自らが暮らす世界の創造主たる創星神の元へと乗り込んだわけだ。
そこで事情を話し、とりあえずステラと巻き込まれてしまった者たちを探すべく話をつけた。
とはいえ、この世界、別に他の世界からの召喚とかそういうの受け付けてるわけじゃなかったから完全に事故だというのはわかりきっている。
一応創星神たちの間で情報交換も可能とはいえ、ちょっとそっちの世界で召喚協賛してない世界からやらかしたりしてなーい? なんて聞いてあっさり返答が返ってくるでもない。
そもそも神族がやらかしたのであれば話はもう少し早かったかもしれないが、やらかすのは大体人間種族である事が多い。
大規模な儀式だとかをやらかせばわからんでもないけれど、秘密裏にこっそり……なんて場合だとちょっと調べた程度じゃわからない事も多々ある。
とりあえず他の世界の創星神たちにどうにか連絡をとって確認したところ、わかりやすく異世界から勇者だとか聖女だとかを召喚しようと試みた世界はいくつかあった。
その中で召喚が成功した、という世界にどういった人物が召喚されたかを更に問い合わせ、こちらの世界からいなくなった相手に該当しそうにない場合はその時点で終了するが、ちょっとでも怪しいというか似通った人物だった場合は更に細かく確認する必要が出てきてしまった。
とはいえ、大体は普通のまっとうな召喚だったらしいので、人違いであるという確認がとれている。
この時点で実のところ数日が経過していた。問い合わせて返事が戻ってくるまでにかかる時間が数日程度ならまだマシな方だ。
下手したら数か月単位で返事がこないなんてのはザラ、と自分の世界の創星神に言われてしまい、クロノはその時点でとてもイライラしていた。
一体どこの世界がやらかしたんだという思いは消える様子もない。
有力な情報が出てくるわけでもない。
今すぐにでも迎えに行きたいのに肝心の場所がわからない。
ストレスがとんでもない勢いで蓄積されていって、そろそろ爆発するんじゃないかなという頃。
非合法で召喚を行ったという国が発見された。
とある世界の小国がやらかしたそれ。
まだそこにステラたちがいると確定したわけではないけれど、もうこの時点でクロノの余裕は一切なくなっていた。いっちょその世界に乗り込んで確認してくる、となったのだ。今の今まで待て状態を強制されていたためか、フットワークはとんでもなく軽かった。
結果としてその世界にステラたちはいなかった。
いないならさっさと帰りたかったのだが、色々な制約のせいですぐに戻る事は叶わず、結果としてその世界の厄介ごとを解決して回る羽目に陥った。
この世界に滞在した時間は三年。
いざ元の世界に戻ってみれば数日程度でしか時間が経過していなかったようではあるが、なんというかとんでもなく疲れた事だけは確かだ。
その場にステラがいたのであれば、
「まぁ、同じ世界でも時差ぼけとかあるから……違う世界に行って時間の流れが異なってどうこう、みたいなのがあっても別段何もおかしくないっていうか…………」
なんて言葉を濁しつつもクロノに対して労わるくらいはしただろう。
だが肝心のステラはいないのだ。
一番いて欲しい人物がいない。
もうこれだけで辛い。
一つ目の世界は外れだった。次の世界へ行くにあたり、自分もいくとのたまった娘と行った世界も外れ。
ちなみにその世界で娘のクロエは女神様が遣わした聖女扱いをされてそのせいでまたいらぬ悶着が発生したがこれもどうにか無事に……無事に? まぁ解決した。世界の人口の半分が消滅した事を無事に解決したと言っていいかはわからないが、まぁ他所の世界だし。娘を敵に回した結果なので仕方がない。
とりあえず娘を連れていくと無駄に被害が広まるなと改めて実感したので次からは連れていかなかった。
正直一人の方が身軽でいいのだが、いや貴方も一人にしておくと何しでかすかわかったもんじゃありませんし、と多くの部下やら眷属やらに言われてしまい、しぶしぶ供を連れてはいったけれど。
結果として三つの世界を救い、七つの世界を滅ぼした。
ここまでやってもステラは見つからず。
そしてそれぞれの世界に滞在した時間はなかなかのものだ。
実際自分が過ごしていた世界に戻ってみればそこでの時間はそう経過したわけではないのだが、そのせいでなんとも頭の中で誤作動を起こしている感覚が酷い。
ちなみにステラやクロノが暮らしていた世界で経過した時間は現在十年ほどだろうか。
だがクロノが今まで行ってきた世界で過ごした時間はその倍どころの話ではない。
この辺りでまた手がかりもヒントも何もなくなってしまったので、八つ当たりとばかりに創星神に絡んだりもした。
クロノが他の世界に行っている間にも創星神はもしあの世界が外れだったら……と考えて次なる候補を探したりもしていたし、そこの創星神と連絡をとったりしていたりとそれなりに働いてはいたのだが。
この時点である程度疑わしい感じの世界は足を運んでしまった後だ。
あとはもう、そもそも創星神との連絡がつかない世界が残るだけ。
連絡がつかないのは割とよくある話でもあった。
それも大体想像がつく。
自分が作った世界で、いざこざがあって世界全部を巻き込むようなトラブルが発生した場合、外からの連絡なんぞ受けてる暇がないなんてのはザラだからだ。
更にそこで力を使い果たして疲れ果てて休息期間に突入した場合なんてのも、どれだけこっちからコンタクトとろうとしても無理。
そういうのはよく聞く話で、創星神あるあると言われている。
だが、連絡がついた世界にいなかったのであれば、あとはもう連絡がつかない世界のどこか、という結論になるのも当然の事。
そしてこちらの世界の方が探すだけでももっと大変なのは言うまでもない。
だが、この時点で既にクロノが訪れた世界の創星神たちにも連絡がいっていたのもあって、彼らも協力をしてくれたのだ。
異世界から召喚するような方法を所持した世界かどうか。
最近それらの方法を実行したかどうか。
そういった方法を持ち合わせていなくても、何かに拍子にうっかりその方法を編み出したりはしていないか。
そういったあれこれを調べて、もしかしたらこの世界では……? となったのが今回クロノがやってきた世界だ。
とはいえ、期待はできない。
愛する者の気配とかそういう何かこう……愛の力的なやつで見つけられないのか? と無茶振りされがちだが、できるならとっくにやっている。
いや、ステラが人間であった頃ならばもしかしたらどうにかなったかもしれない。けれども今のステラは世界樹に魂を混ぜ込んで生まれた新たな存在だ。
そして、その世界樹のせいでサーチが上手くいかないのであった。
最初に行った世界に、似た気配を感じ取って一発目から当たりか!? とクロノは大きく期待していたが、それは実際その世界にあった世界樹の気配でもあった。
世界の違いで世界樹の種類も大きさも異なってはいるが、気配が世界樹、という部分は割と共通している。
気配が世界樹、とは……? と一部の部下から怪訝な顔をされたが実際察知してみればわかる。木々の気配がわからないというのであればわかるまで是非修行でもなんでもしてほしい。
クロノがそう言えば部下たちは「また無茶言ってる……」とかのたまっていたが、わからんのであれば深く突っ込まない事だ。
ともあれ、世界樹の存在する世界に行くと、何となくそれっぽい気配があるせいで無駄に期待するし、そしてその期待は裏切られる。
会いたいのに会えないだけならまだしも、何かダミーに惑わされるとかもうある種の嫌がらせである。
クロノの精神は大きくすり減ってしまっていた。
おかげで新しい世界に来てそれっぽい気配がしても、どうせ世界樹……と諦めモードに入っている。
今回レェテを伴ってやってきたこの世界も、かつて世界全土を揺るがすような争いがあってそのせいで創星神が眠りについてるとかいう話らしいので、まずは創星神に直接会いに行く事にしたわけだ。
この世界の事を聞くのであれば、眠りについていようといなかろうと世界の創造主に聞くのが手っ取り早い。
世界全体を巡って一人一人顔を確認するよりもその方が余程確実なのだ。
だがこの世界、天界に行くための道が閉じている。
眠りについていないのであれば、もしかしたら人間の振りをして紛れている可能性もあったが、もしそうならそれはそれで気配でなんとなくわかる。
天界への道を無理矢理こじ開ける事もできなくはないが、それやると後が面倒なのでまずは正攻法を試そうとなったのだ。
天界への道が閉じているのは確かだが、一か所、なんとなく繋がってる場所があった。
それが、この世界で数年前に出来上がった天まで続いていそうな巨大な塔である。
「まぁ、ある意味わかりやすい目印ではありますよね」
塔を見上げて呟くクロノに、レェテも「そうですね」と頷いた。
空間の薄くなってそうな部分を無理矢理断ち切って、とかじゃないだけマシ。その方が手っ取り早い事もあるけれど。
クロノとレェテがこの世界に来た目的は大きく分けて二つ。
一つ、ステラたちがいるかどうか。
一つ、眠りについてる創星神を起こす事。
ステラたちがいるかどうかが本来の目的であるのは言うまでもないが、もしいなかったとしても創星神を起こさなければならない。
そうしないとこの世界から出る際にちょっと面倒な事になるのだ。もうこの世界滅ぼした方がいいんじゃないか? みたいな所だと別に創星神の事なんて放置で全然問題ないのだが。
起こしたついでにちょっと協力してもらうとかそういうのもある。
あまりにも長い間連絡のとれない創星神というのは、他の創星神からしても色々と問題があるのだそうだ。そこら辺の事情はクロノにとって正直どうでもいいものではあるが、人探しという点で人手は欲しい。
それもあって、用があろうとなかろうと創星神にはどのみち会わなければならない。
塔の中はダンジョンになっているとかいう話だが、まぁ、クロノとレェテにおいてそれは大した問題ではない。
だからこそ、二人は「正直面倒だなぁ」という表情を隠しもしないままに塔の中へと足を進めたのである。




