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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
四章 ゲームでいうところの地味にめんどくさいくせに本編と強制的に絡んでくるミニゲーム
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仕方ないよチートみたいなものだもの



 毒霧まみれの空間を進んで階層主がいるところへと近づくと、毒の沼地広がる足場が狭く移動するだけでも大変な場所が待ち構えている。

 ここを攻略した探索者たちもかなり苦労していたのを、キールもモリオンもスクリーンで見て知っている。

 細い足場。足を踏み外したら毒の沼へドボン。すぐに足を引き抜けばどうにかなるが、そうでなければ沈んでいく危険極まりない沼地。


 普通の沼であればまだしも、粘度の高いそれは下手に沈んだら最後、脱出する事ができなくなりそうな危険性を秘めている。

 実際に抜け出そうとして藻掻いた結果、余計に沈んでしまって肩まで浸かる事になった探索者もいた。魔物をどうにか退治して他の仲間に引き上げられていたが、あれだってあと少し遅ければ死んでいたかもしれない。

 緊急離脱は即死するだろう状態であればすぐ発動するが、じわじわと死ぬような状態であれば発動はしない。あっ、このままだと死ぬな、となってそこでようやく発動するので、場合によっては塔の外に脱出できてもその時点で手遅れ、なんて事もあり得る。


 さて、そんな足場の悪い場所をこれから進まなくてはならないわけだが……とキールもモリオンもふぅ、と息を吐いて嫌がらせのような細い足場を見た。

 もうこれこの足場使わせるつもりないだろ、としか思えない。

 このダンジョン作った奴絶対性格悪いだろ、とか思ってすぐさまその相手が今一緒に行動しているという事実に気付く。流石にそこら辺を口に出すつもりはない。うっかりでもそんな呟きがスクリーン経由で周囲に知られてみろ。そうなったら自分たちがどうなるのか、皆目見当もつかない。とりあえず確実に面倒な事になるのはわかっているが。


「二人とも、待った」


 気は進まないが進む以外の道はない。

 とにかく覚悟を決めて足場に足をかけようとした矢先、ルクスに呼び止められた。


「あの、何か?」

「うん、ちょっとね」

 にこりと微笑んだままルクスはずびしとキールとモリオンの額に指を突き刺す。実際に突き刺さって血が出るだとかそういう事はなかったが、思わぬ衝撃に後ろに半歩足が下がった。


 ルクスの指が離れると、すっと身体が軽くなった。

 そのままふわりと宙に浮く。


「よし、これなら沼に落ちる事もないね」

「無詠唱でさらっと凄い術発動させるのホントさぁ……」

「流石はルクス様、としか言えませんね」


 浮いただけで移動とかは若干手間取るかと思ったが、そんな事はなかった。普通に歩くように動けば、思った通りに移動できる。

 これならルクスの言葉通り足場から足を踏み外して沼に落ちる事もない。というか、わざわざ足場にこだわる必要もない。


 二人にこの術をかけたルクスは、今現在毒を解毒する術をステラたちにかけてもいる。同時に複数の術を発動させ続けるとか、さらっと凄い事やらかしてるなー……とキールは思わず遠い目をしていた。

 彼は一体どれだけの術を一度に扱えるのだろう。


 恐らくキールやモリオンの予想をさくっと上回りそうだな、なんて思いつつも、おや? と首を傾げそうになった。


 浮く術をかけたのはキールとモリオンにだけだ。

 ステラたちには一切かけていない。


 魔物が出た時点で大体はベルナドットが矢で仕留めているが、数が多いのでクロムも攻撃に回っている。

 ベルナドットはそこまで動き回らなくてもいいが、クロムは違う。

 であればクロムにも術をかけておくべきではないか……と思ったのだが、ルクスがキール達にかけた術をクロムにかける様子はない。

 クロムは自分でその術をかけるのだろうか……と思ってついそちらに視線を向けてみたが魔術を使う様子はなかった。

 クロムもルクスも魔術を使う際は常に詠唱などしないので、既に使っている可能性もあるけれど……ルクスがいない場合であればともかく、いる状態でクロムが魔術を使う事は滅多にない。


 って事は使ってないんだよな……えっ、大丈夫なのか? と思ったのも束の間。


「え……?」

 クロムは何の術も発動させないままに、沼地に降り立った。

 足場ではなく沼の方にだ。


 だがしかし沈む様子もないままにクロムは立っている。


「えっ、あの、クロム様……?」

「んぁ?」

「術、かかってませんよね?」

「必要ないしな」

「どうやって、って聞いても……?」


「どうって言われてもなぁ、右足が沈む前に左足を出す、を繰り返してるだけなんだが」


 言われて思わず二人はクロムの足を凝視した。

 なんか動いてるような気がしなくもない。小刻みに。だがあまりのスピードに全く動いていないようにも思える。

 えっ、何かの冗談? 本気で言ってる? そんな思いがよぎった。


「でもまぁずっとこれやってるのも疲れるし、多分そのうち術使うわ」


 そう言われて。

 とりあえず二人はクロムなりの冗談なんだな、と思う事にした。その方が精神的に安静を保てるので。


 どうやらルクスも自分に術をかけたらしく沼ギリギリの部分に浮いている。

 だがしかしベルナドットとステラはそうではない。えっ、むしろこの二人魔術使えるって話は聞いてないし使ったところも見た事ないから使えないんだよな……? えっ、いいの? 大丈夫?

 とモリオンが二人はどうするのか、と聞こうとした矢先。


「じゃ、行くか」


 ベルナドットが懐から何かを取り出してばらまいた。


 細かな砂かと思ったがよく見ると植物の種のようだ。

 あ、とそこでキールは気付く。

 確かこれは随分前に、アミーシャと闘技場で戦った時にやった方法ではないだろうか。

 キールがピンときていたのに対しモリオンはよくわかっていないらしく「え?」と何してるんだろうというのが隠しきれていない困惑の声が漏れていた。


 だがそれも次の瞬間にはずぞっという音を立てて急速成長を遂げた植物を見るまでの話だ。


 わさわさと伸びたそれらは湿地帯でよく見かけるような植物だった。それらがさながらレッドカーペットの如く広がって足場を作る。


「ほら」

「あぁ、うん」


 手を差し出したベルナドットに、ステラも頷いてその手を掴む。


 二人が歩いたその先から徐々に枯れていくので、二人が移動し終わったあたりでこれらは沼の中に沈んでいくのだろう。つまり、今すぐ別の探索者が来るとかでもない限り、次の探索者たちがここにやってきたとしてももうその足場は存在しないという事か。


 移動している間に出てきた魔物はクロムがあっという間に片付けてしまったし、本来なら沼の中に落ちていくだろう魔物コインは回収機能によってステラのヤクトリングに吸い込まれていく。


 毒無効化機能を解放すらしていないし緊急離脱機能も解放していないけれど、全く危機的状況に陥る事なく彼らは階層主の所まで辿り着いたしあっさりと倒してしまっていた。


 スクリーンで見ていた探索者たちはもっとこう、悪戦苦闘してたような気がするんだけど……と思い返してみるも、まぁ彼らと同じ括りにするのが間違いなんじゃないかな、と思うようにもなってきた。

 沼地を越えてきたとは思えないくらいに、誰一人服は汚れてすらいなかった。

 多くの探索者はここを通った後は程度の度合いもあるが足下くらいは確実に沼地に足を踏み入れてしまってべしょべしょのどろどろになっているというのに。


 そうして次の休憩所に来た時点でクロムが生活魔術の洗浄を発動させる。

 髪や服に纏わりついていただろう毒はこれで綺麗さっぱり、といった具合であった。


 大抵の探索者は次の館フロアでも多少毒霧を浴びるとはいえ、ここである程度休憩を挟んで毒を落としたりしていたが休憩をする事もなくステラたちは次のフロアへと移動するらしい。


 まぁ、キールもモリオンもほとんど何もしてないみたいなものなので、疲れたから休憩したい、とか言い出す事もなくそのまま移動する事に何も言う事はなかった。

 強いて言うならスクリーンでそれらを見る事になった見物人たちが「いや休んでった方がいいんじゃないか……」と無駄に心配をしていたくらいか。

 だがそんなスクリーンの向こう側の状況なぞステラたちが知るはずもない。



 そのままの流れで館のあるフロアへと移動したが、やはりここでも緊急離脱機能を解放する事はなかった。

 だがそれでも何も問題は起こらなかった。

 まず魔物が出た時点でベルナドットの矢が命中する。

 ゴーストタイプの魔物は物理攻撃に耐性があるはずだが、ベルナドットの矢は面白いように一撃でゴーストたちを屠っていく。

 単純に属性のついた矢だから、というのもあるが火属性や聖属性あたりは面白いくらいに効果抜群で、キールやモリオンが魔術で援護する事はほとんどないと言ってもいい。


 それでもベルナドットだけで間に合わない、と思ったような時でもクロムやルクスが対処してしまうのでまずそこら辺にあるだろう罠を作動させられる事がない。

 館フロアって罠が発動したりしないとこんな感じなんだー……とむしろ物見遊山のようにキールとモリオンは周囲をのんびり見物する余裕すらあった。

 罠さえなければ序盤階層と大差ないのでは……と思えるレベル。


 まぁでも、仮に罠を作動させられたとしても、クロムやルクスがいるので何かどうにかなるだろ、という気しかしない。

 実際一度だけ罠が作動してしまって床がパカッと開いたわけだが、その時点で全員宙に浮く術をルクスがかけたらしく、誰一人として落下する事もないまま魔物を倒して罠を戻した。


 天井が落下してくるやつだとか、壁がせり出してくるやつだとかが発動したとしても、何かクロムがどうにかするんだろうな、と思える程度に危機感がない。

 キールもモリオンもここに一緒に来ていたのがかつての魔術師団の仲間たちであったなら、と考えてみたが。

 まずここに来る以前の話だしこの階層で想定するのはちょっと無理があったな、で終了した。


 この階層で厄介なのはこちらを罠に嵌めようとしてくる魔物であって、それらをどうにかできれば何も怖い事がない。こっちが逆に魔物を罠に嵌める事も可能ではあるが、そもそもそんな事をしなくてもサクッと仕留める事ができてしまうのでわざわざ罠とかいうギミックを使う事もないままに、ここもすんなりと階層主の元へと辿り着いた。



 既にこのフロアも攻略した探索者が出ているとはいえ、それでも何度だってチャレンジしなおす者はいた。

 だがしかし、ステラたちは罠を一度だけ無効化するお札もなしに一発クリアした、という事でスクリーンを見ていた者たちから「マジかよ……」と信じられないものを見るかのような目を向けられる事となる。


 攻略者が出たからといって、じゃあその通りにやれば自分たちもクリアできる。――だなんて簡単な話ではなかったのだ。

 館フロアはそこまで大きく構造が変化するわけでもないが、それでも前に見た時と同じような部屋に入ったとしてもそこにある罠が別の物だったりするなんて事はよくあった。それに魔物だってゴーストタイプのせいで壁だの天井だのをすり抜けてどこからやって来るのか予想もつかないのだ。


 前に攻略した者と同じように、といったって全く同じになるわけでもない。スクリーンで見ているだけなら「あっ、今そこからゴーストきた! 今のうちに早く仕留めればどうにかなりそう!」とか思っても、実際にその場にいるとそう簡単なものでもないのであっさりと罠を作動させられたりしてお札が消費される事になったり、そこでお札が尽きて結局緊急離脱が発動する事になったり、なんてのも何度も見た。


 実際このフロアに挑もうとした者たちだって、最初にここを抜けた探索者たちの様子を大分参考にしていたし、それでも何度かは失敗して塔の外に脱出するはめになったりもしたのだ。

 だからこそ、いくら情報を集めて事前準備を万全のものにしていたとしても、一度でクリアできるだなんて思ってもいなかったのだ。


 だからこそ、緊急離脱も何もつけずに行ったステラたちは大丈夫なのか……? と一部の見物人たちは大層ハラハラしつつ見ていたくらいだ。

 まぁ、ハラハラする要素も何もないくらいあっさりとクリアしたわけだが。


 えっ、マジであれお札とか緊急離脱とか何もなくても攻略可能なの? と一部が騒めいたのは言うまでもない。


 あっさりと館フロアを攻略し、次の休憩所へとステラたちが辿り着いたようだが、どうやら今回はここでしばらくの間休憩していくようだ。

 だがしかし次のフロアはしんしんと雪が降り積もるフロア。最初はともかく階層主に近づくにつれてどんどん足場は悪くなる一方のそこを、流石に今回みたいにすんなり攻略できるはずもない。

 ステラたちが映っていたスクリーンを見ていた者たちの多くはそう考えていた。


 まぁその予想があっさり裏切られるのは言うまでもない。

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