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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
四章 ゲームでいうところの地味にめんどくさいくせに本編と強制的に絡んでくるミニゲーム
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さよなら寒冷地



「なぁあのフロア攻略させる気あるか?」


 スクリーンを見ながらも、ベルナドットはそんな事を問いかけていた。

「え? ていうか攻略はまだできる範囲でしょ。魔物だって対処できる感じの実力だし、まだ」


 まだ、とか言われてもベルナドットからすると一つ前のフロアみたいに罠無効のお札とかアイテムがあれば大丈夫って感じでもないし、これ無理な奴は無理じゃないか? としか思えなかった。


 そりゃあ最初の雪フロアは一面真っ白ではあるが、まだ雪が降って積もったばかり、といった感じでそこまで酷くはない。滑り止めもないような靴であっても気を付ければまぁどうにか転ばないで移動もできる。

 けれどもそれは普通の道の話であって、魔物が出るダンジョン内ではそんなものはなんの慰めにもならないのだ。


 実際に慣れていない者たちは事前に靴に引っかけて使うタイプの滑り止めをつけていても、転ぶ時は転ぶ。


 北国出身の探索者も言っていたが、普通に歩く時と同じような重心のかけかただといざ転ぶとなった場合すぐに体勢を整えるのも難しい。ましてや魔物との戦闘中だったら後ろに転ぶだけでなく、横に滑ってどうしてそうなった、みたいな転び方をする事もあったくらいだ。


「え、むしろちゃんと雪道入門みたいな感じじゃない。いきなりどう頑張っても無理、みたいにはしてないわよ」

「最初から無理ってなった方がまだ諦めつくんじゃないか」


 ベルナドットがそう言うのも無理はなかった。

 なんというかまぁ皆よく転ぶ。

 受け身を咄嗟にとれる者もいるが、下手したらコンクリート並みに固い地面だ。舗装もされていない足下が土、みたいな所と比べると受け身もとれずに転んだ場合かなりのダメージを負ったりする事もあるのか、ポーションの消費量が地味に上がってきている。


 どうにか多少慣れたとしても、その次は見通しの悪い雪が壁みたいになってる迷路みたいなフロアだ。

 通路みたいになってる場所は狭く、魔物がやってきたとしても立ち回りに気を付けないとあっという間に追い詰められる。


「でも、別に無理難題吹っかけられてるフロアではないでしょ」

「いやでもなぁ……この次とその次があるわけだろ」

「まぁあるわね」

 あっさりと頷く。


 ちなみにこの次のフロアはもっと酷い。

 雪は壁のように積み上がっているのは言うまでもないが、足下はもっとデコボコしている。むしろ雪のある場所と無い場所の落差が激しく段差のようになっていたりもするので平坦な道とは程遠い。坂のようになっている場所などはどう足掻いても滑るのが確定していると言ってもいい。上るだけならどうにかなるが、そこから降りる時はむしろ最初から転ぶつもりで行くしかない……と思わせるようなものだ。

 滑り降りればいいだけだろ、と雪に馴染みのない者ならば簡単に考えそうだが、確かに滑るがそこは決して平らで滑らかな場所ではない。氷の塊によってデコボコさがあるので滑り降りた場合普通にその部分はぶつかって地味に痛い目を見る。高確率で腰から尻のあたりが大惨事。


 その次のフロアはそれに比べれば見た目はマシになっている。

 けれども決して歩きやすくなっているかというとそうではない。


 雪は大分溶けたかのように減って壁のようになっていた雪もそこそこなくなりつつあるし、足下の雪も一つ前のフロアと比べれば少なくなってある程度平らになっている。

 けれども、一番最初の雪フロアと同じようなものかと言われれば全く違う。

 地面は凍り付いたままだし、雪だったそこはほぼ氷の道と化している。

 つまり、今まで以上に滑る。

 これが平らであればスケートリンクのようなノリでいけたかもしれない。しかし道は相変わらずデコボコの状態だ。

 仮にスケート靴のような物を履いて移動しよう、なんて考えたとしてもまずバランスが取れずに転んで動けなくなるのがわかりきっている。


 前のフロアはまだ雪があった。凍っている部分があっても雪の上、歩いているだけであればまだどうにかなった。けれども完全に氷と化した道は重心のかけ方を間違えれば即座に滑りバランスを崩し転倒へとつながる。その場で立ち上がろうと手をついたとしても、そこも凍っていればやはり滑るので立ち上がるのにもコツがいる始末。


 雪が降った地方で使われるような滑り止めとしての砂利がまかれている、とかであればまだしもそういうのも無いのだ。だが路面はテッカテカ。そして魔物も出る。

 もうどうかしているとしか思えない。


 恐らくは、この階層だけは北国出身で雪に慣れている、という探索者であっても攻略は苦労するだろう。

 ベルナドットは正直この階層には行きたくなかった。絶対転ぶのわかってるし。魔物と戦う際は移動せずその場で射殺す他ないが、それでも身体の向きを変えたりする事はあるし、魔物を倒したからそれで終わりというわけでもない。ゴールを目指すべく移動するのは絶対なのだ。

 持参した植物の種を芽吹かせてそれを足場に移動すればどうにかなるとは思うけど、それだって地味に疲れるからあまりしたくはないのだ。


「防寒具とか滑り止めのついた靴だとか、寒冷地仕様の装備があるのはいいけど、でもあれ階層主のとこまで行けるか? 無理じゃねぇ?」

「滑り止めとして砂利だとか砂だとかを外から持ち運べばいいじゃない。まぁ、持ち運べる量次第では階層主の所までどうにかなるでしょ」

「でもあれ探索者が脱出した後はなくなるんだよな」

「そうね。仮に持ち運んでぶちまけながら移動したとしても時間経過でそういうのはダンジョンに取り込まれるから、仮に一度離脱してしまってすぐに引き返してもその頃にはまたツルツルの道になってるでしょうね。脱出しなくても時間経過によっては引き返そうとした時には既に……なんて事になってたりもするわ」

「うっわ……」


 聞けば聞く程チャレンジしたくない。寒いし転ぶのわかりきってるし、しかも魔物も出るとなれば何でそんなとこに行かなきゃなんないんだという思いしか出てこない。

 そう考える時点でベルナドットは自分は探索者には向いてないんだろうな、と思った。

 まぁ自分が住んでた異世界転生した土地でも冒険者みたいな事はしていなかったけれど。素材集めにつきあったりした程度で、自分から世界を股にかけての冒険をしようとは思わなかったし。


 とりあえず今あのフロアをチャレンジしている探索者たちは頑張れ、と内心でエールを送ってベルナドットはそれ以上の事は考えないようにした。



 ちなみにこのフロアをどうにか通って階層主の元まで辿り着き、階層主を突破して休憩所へと辿り着く探索者が出るまでに、地味に三か月ほどの時間を要した。

 攻略したのは北国出身の探索者が多いチーム、かと思いきや、南国出身の探索者も混じったチームであった。

 滑り止めとして大量に持参した砂をぶちまけながらの移動であったが、これも一度で成功したわけではない。


 何度も何度も繰り返し、ようやく……といった感じであった。

 けれども。

 それでもこの階層をクリアした、という達成感。数か月挑み続けたフロアをようやくクリアしたという状況に探索者もスクリーンでそれを見ていただけの者たちも、大いに沸いたのであった。


 攻略できた探索者は語る。

 正直あのフロアもう行きたいとは思わない、と。

 だがしかし、このフロアに出る魔物から得られる素材が中々に良い物ばかりなので場合によっては次も行く事になるんだろうな、なんて直後に言い出したので色んな意味で台無しである。


 だが階層主がいる場所も床というか地面というかがツルッツルなので攻略できた探索者も半分以上偶然勝ったとしか思っていない。雪フロアに入り階層主を倒す、までのワンセットが次も上手くいくとは限らないと思っているので、仮に行くとしても緊急離脱での脱出になると分かった上での発言だった。

 だがしかしこの辺りから出現する宝箱の中身はそれなりに良い物が多くなっているし、魔物もアイテムや素材をそこそこドロップするようになっている。

 やり方次第では一万オウロの消費など、すぐに取り返せそう……となるのでもう行きたいとは思わない、なんて言いつつも何度か足を運ぶのは明らかだった。


 すぐに次のフロアに移動しなかったのは、次のフロアもまた似たような感じだったら流石にキツイ……と考えたからか、それとも他に必要な機能だとか物だとかの準備に頭を悩ませるかもしれないだろうし、だったらもうちょっと先延ばしにしたいと考えたからか。

 流石に立て続けに同じようなフロアはなかったと思うが、しかし次のフロアが完全に氷でできた階層である、という可能性が絶対にないとも言い切れない。

 考えようによっては次は凍った湖の上を行くなんて事もあるかもしれないのだ。


 次のフロアに移動してそうではない、と確認しに行けば済む話ではある。けれどももし予想通りだった場合多分ちょっと心が折れてしばらくは上を目指そう……という気にならないかもしれなかったので。

 次のフロアへ乗り込む探索者が出たのは最初に攻略した探索者が出てから更に一月も先の話だった。

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