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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
一章 ゲームでいうところのありがちな追加要素
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そのビッグウェーブは別に乗る必要がないやつです



 その日、探索者ギルドを通じて多くの探索者たちにとんでもない情報が入った。


 なんでも探索者になったばかりの者が探索するにはちょうどいいと評されている初心者向けダンジョンと言われているダンジョンの中の一つ、入るたびに内部が変化するでもない、本当に誰もが初心者向けだと言うそのダンジョンで隠し部屋を発見した、と。


 しかもその隠し部屋にはいくつかの財宝があったらしく、とんでもない武器もあったのだとか。


 基本的にダンジョンの中で見つけたアイテムは発見した探索者の物とされている。

 いくら良いアイテム、良い武具、はたまた防具であったりだとか、とんでもない秘薬であったとしても国や探索者ギルド、更には上位者と呼ばれる探索者の中でも実力があると言われる者が勝手に取り上げる事はできない。

 どれだけ凄い道具であれ武器であれ財宝であれ、それこそ国が喉から手が出る程欲している物であったとしても所有権は発見しそれを入手した者に限られる。一部例外があるとは言え。


 だからこそ、その財宝は探索者となったばかりのルーキーたちの物である、というのは言うまでもない。


 そも、上が勝手に取り上げようものならそれこそ探索者たちがそれを良しとするはずもない。

 魔物と戦いそれなりに命かかってるのにそこで得た物は全部没収される、なんて事になればそもそも誰も探索者なんてやらないし、やってもこっそり侵入する盗掘者のようなものになりかねない。


 ダンジョンの中から外へ魔物が出てきたという話は今の今まで一度もないためダンジョンの入口に常時見張りが立っているわけでもないし、探索者以外がこっそりと入り込むのは実のところそこまで難しいものでもない。ダンジョンの中の転移機能を利用するのであれば探索者登録しておいた方がスムーズであるとはいえ、転移機能が使えなくとも時間を掛ければ各地のダンジョンへ行く事も可能ではある。

 であれば、探索者にならずとも各地のダンジョンに入り込む手段はそれなりに存在する。


 探索者以外の者が入り込み、そこで得た物も全て没収、というのであればそれこそ常時ダンジョンの入口部分には国が見張りを立てなければならないが、できる事といえばその程度だ。

 その見張りが懐柔、もしくは買収されないという保証はどこにもない。


 もしくは他の実力があるとされる探索者がお前らには過ぎた物だからこっちに寄越せ、なんて強奪が罷り通った場合も問題である。

 実際そういった事が全く無い、とは言えないが、それが横行してしまえば探索者たちの中での法はもっと混沌としてしまう。

 実力が劣る探索者たちが徒党を組んで上位の連中をダンジョン内で襲わないとも限らない。

 一応そういった事は禁止されてはいるものの、ダンジョン内部で魔物と遭遇し乱戦にでもなった場合の事故に関しては裁ききれない部分もある。

 故意であれば裁かれるが、事故でどうしようもない状況のものまで裁いていたら探索者はあっという間に廃れてしまう事だろう。



 探索者がギルドで登録した際に渡されるギルドカードには、古代の秘術とやらが使われているらしく探索者それぞれのカードには過去の記録というものが記されるらしい。

 とはいえいちいちカードにその情報が文字として出るわけではない。

 ギルドで特殊な道具によってカードを読み取る事で、過去に訪れたダンジョンやそこで倒した魔物などが記されるようになっている。


 倒した覚えのない魔物コインなどをギルドに持って行った場合、換金できなくもないがその時は一応事情を聞かれたりもするし、倒したのが魔物だけではない場合、当然事情聴取されるのは言うまでもない。

 倒していない魔物コインに関してはダンジョン内部で遭遇した他の探索者との交渉で得た場合が大半なのでこちらはそこまで突っ込んで聞かれたりはしないが、魔物以外の討伐――即ち人が含まれていた場合は最悪尋問に発展する事だって有り得る。


 ダンジョンの入口に存在している転移機能のある装置では過去訪れてクリアしたダンジョンがギルドカードより読み取られるらしく、その結果行ける範囲が自動的に絞られるようになっている。


 この世界の住人にとってダンジョンとは既に生まれた時からすぐ近くに存在する身近な物で、だからこそどうなっているのか、という疑問に思う部分はあっても古代の何かすっごい技術によるもの、くらいの認識でしかない。

 それらが気になって調べている者も中にはいるが、そういった研究は言うまでもなくあまり進んではいない。もし既に解明されているのであれば、今頃はダンジョンを通さずとも各都市に転移できるようになっているに違いないのだから。



 ともあれ、ダンジョンの中で発見した物は発見者に所有権がある。

 これは間違いない。


 だからこそ、探索者になったばかりのそのルーキーはとんでもない幸運を手にしたといってもいい。


 聞けば発見された財宝の中には武器もあったらしく、しかもその武器はどうやら難易度の高い――城などが置かれている各大陸においても大規模と呼ばれるようなダンジョンで発見される物と同等か、それ以上に優れているという話だ。


 新人には明らかに過ぎた代物ではある。

 それを聞いた一部の探索者はその幸運を素直に讃え、時に羨んだ。

 内部が変化するダンジョンであれば、そういった隠し部屋のような場所に辿り着くのは運だ。

 しかし内部が変化する事のない既に全体が把握されて地図まで出回っているダンジョンであれば、そこで財宝を見つけたからといって次にその隠し部屋に足を運んだとして、同じように宝があるとは限らない。

 ダンジョンの中で宝箱が現れる事に規則性はなく、新たな探索者が訪れたからといって毎回そこに宝箱が現れるとは限らないのだ。


 中には律義に毎回同じ場所に出る宝箱もあるにはあるが、隠し部屋、それも財宝ともなればそんなものが毎回出てくるはずもない。


 何故、どうして自分たちは気付けなかったのだろう。

 そのダンジョンにかつて訪れた探索者の多くは羨ましさと同時に歯噛みした。

 そのダンジョンに行っていないならまだしも、足を運び何度か探索したダンジョンであればその財宝を見つける可能性はゼロではなかったはずなのだ。だというのにそんなものに気付かずに、初心者から既に抜け出してとうに足を運ばなくなったダンジョンに、そんな財宝が眠っていたと知れば。

 逃した魚は大きい、という言葉ではないが、多くの探索者の心の中は大体似たような心境であった。


 幸運なルーキーたちはその武器や財宝をどうするのだろうか、と同時に少しばかり気にもした。

 城が置かれるような主要都市のダンジョンは規模が大きくまた得られる宝も中々に価値がある。その分魔物も手ごわく危険である事は確かなのだが、しかし見返りは充分にあると言ってもいい。


 そんなダンジョンで発見されるような、もしくはそれ以上のと言われるような武器。


 売れば間違いなく国が買い上げるだろうし、国でなくとも欲しい探索者はそれこそ山といる。

 それだけの武器があれば、今まで以上に探索が楽になるかもしれないのだからもし売るなんて事になればその機会を逃すはずもない。



 しかし予想してはいたが、まぁルーキーたちはその武器を手放す事はしないようだった。

 売れば一生遊んで暮らせる――かどうかまでは定かではないが、それでも贅沢をしなければかなりの年月暮らしていける程度の金にはなったはずのそれらを、ルーキーたちは自ら使う事にしたらしい。


 ま、だろうな。

 なんて一部の探索者は案外あっさり納得した。

 自分たちだってそんな強力な武器を見つけたら、余程扱いにくい物でなければ自分で使うに決まっている。

 例えば剣士が発見した武器が弓であった場合、仲間に弓使いがいればともかくそうでなければいくら強力な武器であったとしても宝の持ち腐れだ。そういう場合であれば高額で売り出す、というのもあるけれど自分たちで使える武器であるならばそれは手放すはずもない。



 だからこそ、大半は幸運なルーキーの話を酒の肴にして楽しんだ。

 そんな強い武器を手にして、果たしてどこまで行けるものやら。

 武器が強くても本人が強くなくちゃ、いずれどっかで足掬われて自滅、なんて事になりかねねぇやな。

 なんて、羨望一割嫉妬も一割、残る八割は、どうせ自分たちには関係ない話だ。面白おかしくあればそれでいい。そんな感じで。



 けれども話はそこで終わらなかった。


 待てよ? もしかして他の初心者向けのダンジョンにも実はそういった隠し部屋、あったりするんじゃねぇか?


 それを最初に言いだしたのが誰だったかは定かではない。

 けれども、もしも、を想像したのは一人や二人の探索者だけではない。

 今まで発見されていなかったのが不思議ではあるけれど、隠し部屋はあったし財宝も確かにあった。今まで見落としていたけれど、隠し部屋があると想定して探せばもしかしたら他のダンジョンでも見つかるんじゃないか?


 そんな風に考えた探索者たちは、今攻略しているダンジョン探索を一時中断してまでかつて足を運んだ初心者向けのダンジョンへと赴いた。

 考える事は誰しも同じだったのか、かなりの数の探索者がかつて世話になった初心者向けのダンジョンがある町や村へと戻っていった。


 ダンジョン関係者はそれこそその話をさらっとでも知っていたけれど、ダンジョンと無縁の生活を送っていた者からすれば突然今更こんなダンジョンに挑む必要もなさそうないかにも強そうな探索者たちが大勢やって来た事に驚いていた。

 事情を知らない者からすれば、何か事件でもあったのかと思った程だ。


 武装した探索者が一組二組程度であればまだ何か事情があるんだろう、とかちょっと疲れたからダンジョン探索を一時的に休んでのんびりしたいんだろうなぁ、とか好意的に見る事もできたが、そんな数では済まないくらいに大勢やってくればそりゃあ驚くというものだ。

 物事を悪いほうに考えがちな一部の住人は、てっきり他の国との戦争でも始まるのかと思ったくらいだ。だってそうでもなければ、こんな初心者向けのダンジョンしかないような平和で長閑な場所に物々しい雰囲気の探索者が大勢詰め寄るものかよ、と思うのも無理からぬ事で。


 そんな住人を落ち着けるようにダンジョンで隠し部屋を発見した幸運なルーキーの話をすれば一応事情はわかったと落ち着いたようだが、今度はじゃあうちのダンジョンにももしかしてそんな隠し財宝があるフロアが……? とそわっとなった。


 今まで初心者向けのダンジョンと呼ばれ、新人探索者くらいしか足を運ぶ事のなかった場所だ。

 そういった者が旅立てばこれといった話のタネもないような場所だ。


 もしそんなところでとんでもない財宝が発見されたとするならば。

 それは、とんでもないニュースなのではないか?


 もし財宝があるとして、一体どんなものだろう。

 気の早い者はそんな妄想すらする始末だ。

 あると決まったわけでもないのに。


 そんなこんなで少しの間、初心者向けのダンジョンと呼ばれていたそれらは一躍人気ダンジョンとなった。

 人気、というか単に財宝が眠っているかもしれないと思われているだけに過ぎないが。


 とはいえ、他のダンジョンでそういった隠し部屋やら財宝が見つかったなんて話は流れてくる事もなく。

 一人、また一人とそんなもんはなかった、と諦めて脱落していった。


 ちなみに初心者ダンジョンに探索者が群がっていた期間は大体一月ほどである。



「…………思ってたより長引いたわね」

「それな。長くても十日くらいで諦めるかと思ってたわ」


 初心者ダンジョンフィーバーがおさまったあたりで、当事者たちは冷めた口調でそっと彼ら探索者たちの情熱に引いていたのである。元凶のくせに。

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