表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
四章 ゲームでいうところの地味にめんどくさいくせに本編と強制的に絡んでくるミニゲーム
166/232

誰にも気づかれないストーリー性



 複数の探索者チームが毒霧まみれのフロアに入るその様を、ステラたちはスタッフルームで案の定くつろぎながら見物していた。


 外のスクリーンで見ている者たちは手に汗握っているのだが、こちらはそういった緊迫感だとかは一切ない。なんならお茶と煎餅スタンバイ済みである。厚焼きから薄焼きと味もいくつかを揃えていて無駄にバリエーション豊富である。パリポリ、ゴリッゴリッ、という煎餅を噛み砕く音がそこかしこから聞こえてくる。


「入ったばっかの所はまぁ、霧が広がる平原みたいなところなのよね。まだ」

「まだ」

 ベルナドットがそこだけ復唱する。


 確かに入ったばかりのフロアは霧のせいで視界が悪いが霧さえなければ開けた場所だ。まだ、そこまで行動に制限がかかるわけではない。


 下の階層のダンジョン部分はそうでもないのだが、ここから先は五階層の間でも若干見た目が異なるフロアになる。

 例えば序盤階層入ったばかりの草原エリアは五階層全部草原が広がるものなのだが、ここは違う。

 今は開けた場所ではあるが、ここから進むにつれて徐々に木々が生えた場所が増えてきて、そこからじわじわと湿地帯に近づいているとでもいうように地面が湿り気を帯び、更に沼地が見えてきたと思えばそこは何と毒の沼地ゾーン。

 一応橋が沼の上にかけられてはいるが、人が通る事を想定したものではなくどちらかといえばバランス感覚をこんなところで試さんでも……と言いたくなるようなものだ。

 いっそ諦めて沼に突っ込んだ方がいいのでは? という気さえしてくるレベル。


 けれども下手に沼に突っ込んだら、それはそれで深さもわからないようなもの、しかも毒液。いくら毒を無効化しているといっても、沼に沈んで出てこられなくなったら窒息死は免れない。


 そうなるとやはり動きがとても制限される事になるが、平均台か何かか? というような細い橋の上を移動する他ない。


 このフロアに出てくる魔物の多くは毒を持っている。

 霧も毒、沼地も毒、というどう足掻いても毒まみれなフロアなので別に魔物が毒を持っていても何もおかしいとは思わないが、あくまでもヤクトリングの機能で解放できたのは毒無効化である。

 毒を持ってる魔物の攻撃を毒無効だし、と余裕かまして受けると当然物理ダメージは無効化されないので大怪我をするのは確実だ。


 ちなみに早々に一人、余裕かまして吹っ飛ばされた。


 だがしかし致命傷レベルの攻撃ではなかったらしく、緊急離脱が発動する事はなかった。

 仲間たちから油断すんなって言っただろ! と言われてやらかした者も反省はしたがその後立て続けに攻撃を食らう事になった。

 別に怒られたけど反省してないとかそういうわけではない。

 単純に狭い足場の上と限られた場所での立ち回りで、しかし魔物はそういった足場を気にする事なく沼地の上を滑るように移動したりしていたため、攻撃を回避しきれなかっただけだ。

 魔物の強さ自体はまだ、どうにか対処できるとは思うけれど、しかし立ち回りが厳しいこちら側がかなり不利でもあった。


 限られた足場、という時点で仲間たちも好き勝手に動けない。下手をすれば仲間同士で移動先が被って足をもつれさせたりして盛大に転ぶなんてこともあった。

 他の探索者チームが近くにいる場合は、もっと立ち回りを気にしないと最悪お互いに邪魔をしあう形になりかねない。けれども魔物はそういうの一切気にせずのびのびと動いている。

 そんな、こちらばかりが一方的にストレスが溜まりそうな状況下なのもあって、探索者たちの神経は研ぎ澄まされるというよりは尖る一方であった。


「ところでなんでまた唐突にこんなえげつないステージになったんだ?」

「唐突かしら? そうでもないと思うけど」


 ベルナドットに言われ、ステラは何でそんな事言われてるんだろう? とばかりに煎餅を手に取って噛み砕く。ベルナドットからすれば今の今まで続いていたフロアと比べて途端に殺意がバリ高状態になってるので唐突に感じているのだが、ステラはそうは思っていないらしい。

 いや、物騒か。

 と内心でベルナドットが思っているのは恐らく顔に出ているのでステラもわからないわけではないだろう。


「というか、序盤階層のステージって言っていいのかも微妙だけど、フロアって基本的に一連の流れに沿ってるのよ」

「一連の流れ?」

「例えば最初は草原エリアじゃない。こう、例えば冒険者がこれから先有名になってやるぞー! みたいな感じだったり、はたまた勇者として魔王を倒しに行く旅立ちの一歩、みたいな感じでスタートする感じから始まってるんだけど」

「魔王側の相手にそういう事言われるとちょっと反応に困りますね、それ」


 煎餅に手を伸ばしかけていたキールがその手を一度止めて思わず突っ込む。

 その話だと貴方がた倒される側って話になっちゃうじゃないですか、と小声で追加で呟いたのはバッチリ聞こえたが、別にステラもベルナドットもクロムもルクスも気を悪くする様子はない。ただの話の流れで出た言葉だ。その程度でいちいち目くじら立てる程のものか、というだけの話だ。


「こう、草原エリアから森とか徐々に冒険してる、って感じを出しつつ途中で洞窟だとか、山道だとか、途中立ち寄るだろう町や村はダンジョンの中のエリアに出せないから休憩所で代用するとして、それでも何となく先に進むためには一定の実力は必要とされてるわけだし、雰囲気はあったと思うのよね」


 ステラに言われてベルナドットは序盤階層にあるエリアを思い返す。

 確かにゲームなんかでよくある感じの流れっぽい気がしなくもない。

 上の階層へ行くにつれて休憩所の施設が充実しているのも、言われてみればそれっぽくはある。

 ゲームだと先に進めばその分装備も新しいのが出るし、しかもそういうのは今までのよりも強いと相場が決まっている。


「そういう感じで各地を旅してる感じ出してたと思うんだけど」

「……そう言われるとそうなのかな、って気がしてくるからまぁ、そこは否定しないでおこう」

「で、中盤階層に入ったら、それなりに新米だった冒険者だってそれなりに実力つけてきてる、って感じを想定するでしょ?」

「まぁ、遺跡だとかダンジョンだとか多く足を運ぶ形にはなると思う」


 ステラとベルナドットは当たり前のように話しているが、これはあくまでも※ゲームでの内容です、という注釈がついている。言葉に出ていないが。

 主人公が故郷の村とか町を出て最終的に世界中を移動してなんやかんやで世界を救う事になるタイプのRPG基準での話だ。

 とはいえ、ステラもベルナドットもそれらゲームに関する記憶は随分と薄れているので曖昧なのだが。


 そもそも人間だった頃からこうして植物の精として復活して更に年月が経過している。大まかな部分はまだ覚えているけれど、細かな部分は確実に忘れていた。

 ゲームの内容は覚えていても下手したらそのゲームに出てくるキャラの名前なんて八割忘れている。覚えているのは主人公とその仲間たちとかで名前のついたモブとかはすっかり曖昧な記憶になってしまった。


 話を戻して、実際に中盤階層のフロアは割と他のダンジョンっぽい感じのものが多く存在していた。

 途中で外の景色を模したフロアもあったけれど、なんていうか世界中あちこち移動している感があるのは確かだ。あれで魔物がわさわさ出てこなければ、探索者たちももうちょっと景色を堪能したりしたかもしれない、とは思うが……仮に魔物が一時的に出てこなくなったとしても、多分のんびり景色を眺めるとかいう事にはならないだろう。むしろあれだけいた魔物がいなくなったら普通に警戒すると思う。


「でも、今までのフロアって割と健全な世界での出来事って感じじゃない」

「世界に健全も不健全もあってたまるか」

「そうかしら? でもベルくん、考えてもみてよ。仮に魔王が世界滅ぼそうとしてるような世界があったとして、その世界がずっと綺麗なままでいられる事ってある?」

「…………難しい話だな」

「別に魔王じゃなくても戦争真っ只中とかいう世界線でもいいわ。どのみち、争いが発生している世界で、世界がずっと綺麗なままってのはちょっと微妙じゃない。

 敵対勢力を倒すにしたってこっちだって犠牲を多く払うのは後々の事を考えれば困るだろうし、ならばと強い兵器を開発するとか、はたまた広範囲に威力の高い魔術を……なんて事しでかすにしても一人の力じゃたかが知れてる。そうなると大勢の人間の魔力を集めて、とかそういう儀式とかやらかす事とかあるわけじゃない。

 キール達が勇者召喚した時みたいに」


「忘れた頃にぶっこんでくるのやめてもらえませんか?」

 やらかしたのは事実なのでそれ言われるとどうしようもない。


「ですが、ステラさんのおっしゃる事も割とわかります。えぇ、かつて城で働いてた時、魔術の研究してた時の話ですけど、ちょっと物騒な術に関する研究とか上から言われてましたから」

「え、そうなんですか?」


 弟子が何それ初耳、とばかりに目を丸くする。


 今はもう存在しない国プリエール王国。かつてアズリアはそこで働いていたけれど、色々あって城を追い出された。


「失われた魔術とかの復活とかは……まぁ自分の趣味でこっそり、程度でしたけど。

 儀式魔術とかで威力高めの攻撃系のやつとかは上から言われていましたよ。使い道考えても物騒な事しか浮かばないのでそれに関してはちょっとあれこれ理由をつけて先延ばしにしたりしてましたけど」


 既にもうない国の話なので、アズリアもさらっと述べている。

 そんな明らかに使い道が限られてるというかわかりきってる術、それも過去に埋もれたようなものを復活させようとなれば、確かに色々勘繰るのも無理はない。

 プリエール王国が他国を侵略しようと考えていた、という可能性があった、という今更知ってもなぁ……みたいな部分はそっと目を逸らし、キールはうぅむと小さく呻いた。


「もし戦争を起こそうと考えていたとして、そうなったとしたら。

 大規模魔術で周辺の土地が破壊されるだけ、では済むはずもないですしね……魔術師そのものがいないわけじゃないけれど、数が多いというわけでもない。そんな大規模な術をバンバン使えるはずもないけど、そういう道具と見なされれば最悪魔術師たちは使い潰される。

 そうしたら次に考えられるのは魔術師がいなくてもその手の魔術を行使できる方法……大地に流れる魔力とかを吸い上げたり汲み上げて資源としての流用……いや、それは確か研究するにしても手間が恐ろしくかかるからって頓挫したって話しか聞いてないけど、でも、今は無理でもいずれ手を出して成功させる奴が出ないとも限らない……」


「もしくは、魔術を使わなくても魔術に該当するレベルの兵器開発とかかしらね。身近な国で例えて考えてもらってるけど、とりあえずあのフロアからは世界が滅びかけたあたりか、はたまた滅んだ後、くらいを想定したフロアになってるって考えてちょうだい」


 大きな争いが発生して、結果として自然が汚され人がマトモに住めなくなってしまった土地。

 人がいなくなっても今も尚汚染された状態の場所。

 そういったイメージ、と言われればアズリアもキールも難しい顔をしながらも頷いた。

 土地が汚染されて人が住めなくなったからといって、では人がいなくなったらすぐにそれらが元に戻るかと言われればそうではない。

 そういった環境の中で生きていけるモノだけが数を増やし、生態系もガラリと変わるのは当然の話で。


 ステラに言われて改めて毒霧が満ちているフロアが映っているスクリーンへ目を向ければ、今までは何でこんな物騒なエリアを……としか思わなかったが、今は確かにどこか遠くの滅びを迎えつつある世界の片隅の姿に見えた。


「ちなみにここの階層主倒して次のフロアなんだけど、やっぱり薄っすら毒霧が漂ってるんだけど、次はかつて誰かが暮らしていたと思えるような大きな洋館ね」

「洞窟っぽいフロアとかはあったけど、あからさまに建物の中って感じのはあまりなかったなそういや」

 人工的な洞窟というか地下牢っぽい感じのフロアはあったけれど、あくまでも人の手が入った程度で誰かが暮らしていた、というのを感じられるようなものかと言われればそれは違っていた。

「ついでに出てくる魔物はゴースト系が多いよ」


「……大丈夫かこいつら」


 ゴースト系、の一言でクロムがスクリーンを見て思わずそんな事を呟いた。


 ゴースト。幽霊。

 普通のダンジョンでもそういった魔物がいないわけではないけれど、その数は決して多くない。

 また、一応物理は通用するけれど効果は薄い。

 魔術での攻撃は割と通るので魔術師からすればそこまで脅威ではないけれど、ちょっと頑張れば物理での攻撃も通用するのでゴースト対策として魔術師が重宝されるような事は特になかった。


 これで出現数がもっと多くて物理での攻撃が通用しなければ、もしかしたらプリエール王国で魔術師が役立たずだと思われて追放、なんて事もなかったかもしれなかったのだが。


 とはいえ、物理での攻撃が通用するとはいってもすんなりと倒せるか、となると微妙な話だ。

 一応今スクリーンに映っている探索者たちの中には魔術を扱える者もいるけれど、それでも大分物理に寄ってる探索者たちの方が多い。

 次のフロアは探索するだけで苦労しそうだな……と大半が声に出さずとも思っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ