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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
一章 ゲームでいうところのありがちな追加要素
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今後の方針をでっちあげ



「さて、ダンジョンを攻略するのは構わないわけなんだけれども。

 正直な話、あと何度か今回のダンジョンに入ってコツを掴め、とか言われてもさ……今更感がすぎるんだよね」


 真面目な話、とか言っておきながらルクスの態度は即座に崩れた。

 無理もない。人生で初めてのダンジョンとかならともかく、正直魔王城のご近所よりも生温い魔物しか出ないような場所に行って危機感とかを働かせろと言われてもどうやって、としか言いようがないのだ。


 ステラに関しては普段から周囲に護衛だとかクロノだとかで守りがそれはもうガッチガチに固められているものの、全く戦えないというわけでもない。むしろ世界樹の精となって復活した時点で色々と前との違いがわからずにあれこれ身体を動かして確かめたりした際に、このダンジョンにて遭遇した魔物よりも凶暴なのと戦ったりもしていたくらいだ。

 見た目からして非戦闘員に見えるけれど、見た目通りにそうだと思っていたら間違いなく痛い目を見るのはそんな甘い判断を下した奴だ。


「確かにそうよね。せめてもうちょっとなんていうか、やりごたえというか、そういう感じのあるダンジョンならまだしも」

 ステラは自分で言っておきながら、何か今のセリフ……類まれなるセンスで未経験の運動部に入ったものの基礎を無視してとにかく派手な技とか覚えたい、みたいな事言ってる奴のセリフっぽいわね、とか思っていた。

 まぁ実際そう聞こえたとしても、ステラ自身は一応ダンジョン経験者だ。それがほぼ傍観しかしていなかったとしても。


 己の実力を把握していないのであれば、そのうちどっかで痛い目見そう、とは思うが生憎自分の実力は過信した覚えもない。そもそもこの村のダンジョン、下手をしたらかつてステラがまだ人間だった頃の話にさかのぼるが、ロクに名前もない故郷のド田舎辺境の村周辺よりも難易度低いと思っている。

 かつて故郷だったあの村があった場所は魔王の加護で守られていたとはいえ、そこからちょっと外れれば普通に魔物は出た。

 そういう意味ではこの村のダンジョンが本当に初心者向けというのも頷けるというものだ。


「ところで、ダンジョンに行く前の一連の流れを覚えているかい?」

 ルクスに言われ、ダンジョンの中ならともかく行く前? とちょっと言ってる意味がわかりませんね、とばかりにステラはベルナドットと顔を見合わせた。


「えーと、探索者としての登録をした、よな。その後普通にダンジョン行ったけど」

「うん、私たちはキールが召喚したとはいえ、正式には魔術師でもない。だからこそ、キール達が所属している一団とはまた別のチームといってもいい」


 ベルナドットの答えにルクスは満足そうに頷く。

「え、それが何だっていうの?」

「私たちがどんどん攻略をしていって彼らが今行けるだろうダンジョンよりも難易度の高い場所へ行くのはそう先の話でもないとは思うんだけど。そうなると進捗とかダンジョンで入手したアイテムとか尋ねられるのは言うまでもないだろ?」

「それは……そうよね、キールの目的はあくまでも世界樹の雫。仮にそれ以外でもお師匠様を助けられそうな道具があれば欲しいに決まってるでしょうし……あぁ、そういうコト」

「うん、そういうコト」


 ルクスが何を言いたいのかを理解して、ステラは「あー、はいはい」とやや投げやりに声を出す。


 確かに自分たちが先に難易度の高いダンジョンへ行くだろうとは想像に容易い。けれど、戻ってくるたびどんなアイテムを入手したかを問われるのも面倒ではある。


 探索者登録した時に、本来ならばキール達のチームとして登録するつもりではあったが、ルクスがやんわりとそれを回避した事、キールもその事を特になんとも思っていなかった事もあってステラは気付かなかった。


「あまり大人数でダンジョンの中にいくとやたら魔物に狙われるっていう話だし、探索するのは多くても精々六名までと推奨されているね。

 けれどそれはあくまでも一つのパーティに関してであって、別のパーティ同士で手を組んだ場合はそうでもない。いや、それでも人数が増えた分魔物の出現率が上がるとかって話はあるらしいけど。

 魔物退治メインで行くならその方がいいかもしれないけれど、人数が増えている分取り分とかもそこまで旨味があるわけじゃない」


「私たちがキールと一緒にダンジョンを行くにしても、他の魔術師たち置いてくわけにもいかない、って事よね。それ」


 ルクスがあえてキール達の一団に加わらなかったのか、そこでようやく理解する。


 下手に彼らのメンバーとして加わってしまうと、場合によってはこちらを分断される可能性が出てくるからだ。

 流石に勇者召喚した相手と一緒にやってきたお付きの者だとか仲間とみなせる相手とを離れ離れにさせる事は最初からしないとは思うが、それでも後々そうならないとも限らない。

 転生前にステラが読んだ異世界召喚もののライトノベルでだってあったではないか。勇者として召喚した相手に巻き込まれた友人とかをこちらは戦闘などには向かないので勇者様が使命を果たすまで大事に保護させていただきますね、とかなんとか言って要はていのいい人質にしたとかいうやつが。


 まぁ、とステラは何となく一同の顔をぐるっと見回す。


 正直誰が人質になっても……という感じである。

 見た目で言うならこの中で一番人質が似合いそうなのはステラだが、生憎大人しくそんな立場におさまってやる義理も義務もない。

 むしろ一番人質にしちゃダメな奴だろ、とベルナドットが言うのが目に見えている。そうね、ベルくんよくわかってるじゃない、と現実のベルナドットは何も言っていないというのに脳内のイマジナリーベルくんにステラは鷹揚に頷いてみせる始末だ。

 ちなみにその瞬間のベルナドットはステラを見て「あ、今なんかロクでもない事考えたな」とそっと察した。長年の付き合いだけあってこういう時だけやたら勘が働くのもどうかと思う。


 次に人質にしちゃいけない人物はといえば、ルクスだ。

 その次にクロム。


 恐らく人質になった場合一応空気読んで多少大人しくしてるのはベルナドットだが、こちらも多少であって全く大人しくするつもりがない。

 かつて人間だった頃ならそうであったかもしれないが、魔界にて魔王の眷属になったりして色々あった結果、もうあの頃の俺とは変わっちまったんだよ……というのが本人の言い分である。


 まぁ今更キールが彼らの中の誰かを人質にして、命が惜しければ速やかに世界樹の雫を手に入れてこい、なんて言いだす事はないのでそれに関してはどうでもいい。


 キールたちの一団に入らなかったのは、単純に分断されないためというのもあっただろうけれど、後は他のチームと手を組んでダンジョンを行く探索者というのがいないわけでもないらしいというのを知ったからだ。探索者登録する前にちょっとここらを見て回りたい、といって散策した時にルクスは既に探索者ギルドに足を運んでいくつか聞いていた。

 あまりにも大人数でダンジョンに入ればその分魔物が容赦なく襲ってくるらしい、という情報もこの時に聞き出している。

 だからこそ、探索者はあまり大人数にならないようにチームを組んでダンジョン探索に乗り出しているのだとかどうとか。


「つまり、キール達魔術師団とは協力関係にあたる探索者チーム、って感じなのが今の私たちって事よね」

「そう。で、ある程度行けるダンジョンが同じになればダンジョン探索の際向こうにもついてきてもらえばいい。キールと……あとはまぁ二人か三人適当に向こうで見繕った相手と一緒にね」

「って事はあまり無茶はできなくなると思うのだけれど」

「そうかな? 別に構いやしないと思うけど。だって私たちは勇者召喚の儀式で呼ばれてきたんだよ? 何やらかしても勇者なので、でごり押しすればいいだけの事さ」

「あぁうん、ルクスならそれくらい余裕で言いくるめそうね……」

「お褒めにあずかり恐悦至極」

「うん、褒めてない」


 つまりどういうコトだ? とまだよくわかってないクロムに、ルクスはつまりは、キール達魔術師たちの地位向上も兼ねて魔術師を強化しつつ探索するって事さ。と告げる。

 別に地位向上とかは正直どうでもいいが、ルクスが言うならその方がいいんだろうな、と雑に理解したクロムは完全にわかってない顔をしながらも「成程な……!」と全て理解したみたいな表情で頷いた。


 これが別の誰かだったら大丈夫かしら……とステラも思うところだが、まぁクロムは理解するまでにちょっと時間がかかるとはいえ馬鹿でもない。何となく周囲の状況に流されていくうちに大体理解するだろう。

 そうやって状況に合わせていった結果、今代の魔王になったわけだし。

 ……なったというよりは、クロエに押し付けられたというべき部分もあるのだが。


「そういうわけである程度高難易度のダンジョンに彼らも行ける程度には底上げしないといけない。とはいえそれはこっちでどうにかするから置いといて」

「あら、ルクスが?」

「魔術に関するなら私が最も適任だろう?」


 パチン、とウインクしながら言うルクスに、それは確かにと全員が頷く。

 クロムも魔術を使えないわけではないが、どちらかといえば教える側としては向いていない。ステラやベルナドットはそもそも魔術に詳しいわけでもない。そうなれば消去法でもそうじゃなくともルクスがそうなるのは当然であり必然であった。


「で、これはある意味ついでみたいなものだけど。装備とか、どうする?」


 ダンジョンには魔物が出るのだから、相応の武具は必要になってくる。

 初期装備そのままに今回はダンジョンへ足を踏み入れたし、正直な話別にわざわざそれっぽい物を用意する必要もないとは思っている。

 けれどもこれから先、死地も同然なダンジョンなどに挑む時にこのままというのもな……と思わなくもないのだ。


「うーん、はるか遠い私の故郷での言葉だけど。

 攻撃は最大の防御。

 当たらなければどうという事もない。

 っていうのがあるから、正直いる? って気がしなくもないんだけど」

「いや、一応防具はさておき武器はマトモなのを用意しておいた方がいいんじゃないか?」

「あら、珍しいわねベルくんがそんな事言うなんて」

「なんていうか、カムフラージュとして」


 現時点での四人の見た目は完全に戦闘しようという感じのものではない。

 武器なんて見てわかるような所にあるわけでもないし、服装なんてこれからお茶会するつもりだったから、精々がちょっといい余所行きの服、みたいなものだ。


 とはいえ、うっかり何かの攻撃のとばっちりを食らわないとも限らないので、地上界の人間たちの服よりも素材からして防御力高めなものではあるのだ。

 見た目こそちょっと余所行きの服といった感じだが、防御力的な意味で見ればRPGの中盤から終盤に入る手前で入手する防具とかと変わらない程度に頑丈ではある。


 防具に関しては別にこのままでいいとは思うが、問題は武器だ。


 ベルナドットは弓を使うが、それに関してもすぐさま出せる状況ではあるのだ。

 かつてステラが人間だった頃にアイテム合成で作ったブレスレットに魔力込めたら弓と矢になるタイプの武器を愛用していたものの、あれから更に年数が経過して周囲にいるのがちょっとした魔物どころかそれよりも強い魔族や、それらを困らせる程度には実力のある魔物、なんて状況だったのであれから更に改良された武器がベルナドットにはある。

 念じればすぐさま手に現れるし、矢もほぼ無制限。


 ルクスは魔術を扱うし、クロムは武器がなくても徒手空拳で戦える。武器も一応一通り扱えるように扱かれている。


 ステラはアイテム合成で使える道具を作ればいいだけなので、武器も別に必要ないようには思える。


「今はいいけど、多分この先どっかでダンジョン探索するにしても舐め腐った感じの奴がいる、とかなった場合に、ちょっと見た目からして強そうな武器とかあったらあいつらはあの武器のおかげでここまでこれたんだな、って油断誘うくらいはできるだろ」

「ベルくんも何だか段々考え方が染まってきたわね」


 何に、とは言わないが。


「染まりたくて染まったわけじゃない……」


 そう呟いたベルナドットの言葉はなんだかとても疲れた様子ではあったが。

 まぁ、人生ってそういうものよね、ととても雑にステラは締めくくる事にした。

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