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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
三章 ゲームでいうところの本編そっちのけでやりこみ始めるミニゲーム
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お金さえどうにかなれば一生引きこもっていられる系ダンジョン



 当初の目的とはそれなりにずれた部分もあるが、恐らくは概ね順調なのだろう。

 そう、本来塔はクロノがこの世界に来る前に自分たちで攻略して創星神とコンタクトをとるつもりであった。

 けれども途中でルクスが防衛システム的なものの存在に思い至ったが故に、急遽計画は変更された。


 いや、勝てるかどうか、とかそういう部分は割と些事だ。

 最悪ステラの持つクロノが作ったお守りを使えばいいわけだが、場合によっては創星神を護っているものだけではなく創星神ごとやってしまいかねない可能性もあるので、気軽にチャレンジするわけにもいかない。

 とりあえず塔から天界に力が少しずつ流れるようにして少しでも創星神が回復すれば目覚める可能性もあるので、そちらに賭ける事にした。

 とはいえすぐに目覚めるとは思っていない。その場合時間が相当かかる。


 だが、もし創星神が目覚めたのであれば既に敵対していた神族も、味方であった神族の存在もない状況に気付くだろうし、更にはその魂の残滓はこの塔のコアだ。

 多分、そうなるとこの塔に姿を見せるだろう。


 流石に探索者が大勢いるような場所にいかにも神です、みたいな状態で来る程アホだとは思わない。その場合恐らく神族の気配漂うコアのある場所に転移してくるだろうと思っているのでそうなった場合にすぐに気付けるようにルクスが細工済みだ。


 創星神と戦う選択肢を選ばないのはちょっと不確定要素が強いから、というのもある。

 ルクスなら割とどうにかしそうではあるが、それでももしどうにもならない事態になった場合完全にアウト。


 とりあえずクロノがこちらの世界に来た時に、恐らくはステラの気配を察知するくらいはできるだろうしそうなれば塔に直接やって来る可能性はとても高い。創星神の所に直接来るか、それともステラの方に来るかは……ルクスにも予想できなかった。

 いや、クロノがこの世界に最初に出る場所が創星神の所になるか、はたまた別の場所かがわかれば答えもおのずと出るのだが。創星神以外の場所に出るならステラの所に来る。それはわかりきっている。


 その場合は事情を説明した上で創星神のいる場所を目指せばいい。


 大まかな流れは決めてあるものの、案外行き当たりばったりである事は否定しない。

 むしろ不確定要素があるせいでハッキリさせられないという部分があるのでそれは仕方のない話でもあった。


 とはいえ、既に塔は完成している。


 であればあとは時間がどうにでもしてくれる。


 ステラたちがやるべき事はあとはただ待つだけ。



 ……待つだけ、であるのだが。

 まぁぶっちゃけると暇を持て余しているのが事実だ。


 何せ少し前に探索者たちはようやっと中盤階層へ突入したものの、そこにある闘技場に入り浸るようになってしまったし、更にその先へ進んだ者たちもいるにはいるが、今はほぼそこで足止めされている状態なのだ。

 何故ってそこの休憩所、闘技場ではなくカジノがある。


 ステラが行っていなかった大陸の最大級ダンジョンには、何とカジノがあったらしい。ルクスがそれを模して休憩所にカジノを作ってしまったわけだ。

 そしてそこでまんまと足止めを食らう探索者たちが発生したというわけ。


 いやうん、そうね……一獲千金の夢が詰まってるものね……とは思うが、ダンジョンの中のカジノというだけでそこで賭けるのは大丈夫か? としか思わない。

 一応カジノ運営しているゴーレムたちはイカサマは基本的にやらない。相手がイカサマした場合にはそれに応じてやり返す事もあるが。

 そこら辺考えると、案外クリーンなのかもしれないけれど……いやどうだろうな? とも思うわけで。


 カジノに入り浸っている探索者の中でそれなりに勝っているのは極一部だ。一応勝ってる相手がいる、というので他のあまりギャンブルに向いてないタイプの探索者がのめり込んでると言えなくもない。

 ちなみにカジノはそのまま現金を賭けるわけではなく、コインを購入して遊ぶタイプなのだが、コインと景品を交換するか、コインを現金に換えるかが選べる。


 景品に興味がなければ増えたコインを現金に戻す事も可能なわけだが、景品もそれなりにいいアイテムを用意してあるので探索者たちものめり込んでいるというわけだ。

 探索者たちの中には通常の武具だけではなく錬成武具を扱う事にした者たちもいる。

 錬成武具に関しては素材があれば強化可能というもので、素材さえあれば毎回新しい武器やら防具やらを買う必要性がない。手入れに関しても通常の武具より頑丈であり、壊れにくいというのも愛用者が増える原因の一つになっていた。


 確かに素材さえあれば強化は可能ではあるのだが、素材がなければ強化はできない。

 なので場合によっては肝心な素材が足りなくて中々強化できない、という状況もある。

 通常ダンジョンへ行って素材を探す者も中にはいるようだが、魔物を倒したからといって必ずしも必要な素材を落とすわけでもない。

 だがこのカジノの景品には、その錬成武具の強化に必要な素材も揃えられていた。


 通常の武器や防具と違い錬成武具は錬成魔術によって作られる。魔術が絡む事で多少強化されているのか壊れにくい――が、今まではそもそもあまりそれらを使う探索者はいなかった。

 何故、も何もない。

 単純に錬成魔術アビリティ持ちの人間がそこまで手を広げていなかったからだ。

 確かに錬成台があるダンジョンも存在しているし、そういったダンジョンの安全地帯などで錬成魔術でアイテムを作るだとか、はたまた町の中に存在している錬成台を使う者もいるにはいた。



 だが大抵そういった者たちはアイテムを作る事はよくやっていたが、武器や防具を作る事まではしていなかったのだ。

 単純に素材が集まらないからというのもある。それに、一つ作ったとしてもそれらを強化するための素材は一つや二つではない。素材を集めるために必要な魔物が出るダンジョンをあちこち移動して素材を集めるよりは普通の武器や防具を新調した方が圧倒的に早かったのだ。


 強化された錬成武具は確かに強くはあるので、あって困るものではないのだが。

 何より、魔術が絡んでいるからか、本来の武具と違う点がある。

 使わない時はリング状になっていたりだとか、はたまた服の装飾品とでもいうように邪魔にならない位置にくっついていたりする物もある。持ち運びに関して邪魔にならないので万一の時のための予備として扱う事に決めたらしい探索者の数は確実に増えてきていた。


 メインウェポンにしていないのは、純粋にそこまで強化が進んでいないからだろう。


 だがこのカジノでは必要な素材が景品として揃っている。つまり勝ってコインを貯めて景品と交換してさえしまえば、錬成武具の強化は可能。既に目当ての魔物がいるフロアに行って延々戦える状況ならまだしも、ある程度強化した後だとどうしても更に強い魔物の素材が必要になってくる。しかしまだ自分たちではその魔物が出るフロアまでは行けていない……となれば、カジノで粘る者が出てもなんらおかしなことではなかった。


 何せ強化できる範囲でしてしまった者たちが次に必要としている素材の大半は、通常ダンジョンであっても上級者向けと呼ばれるような所にしか出ない魔物たちだ。

 実際にまだそこまで行ける実力を持ち合わせていない探索者からすれば、この先を目指すにしても通常ダンジョン側に狙いを定めるにしても、どちらにしてもまだまだ先の話になってしまう。


 武器や防具の強さに全ての信頼を向けるわけにもいかないが、それでもある程度強力な武具があれば安心感はある。

 扱えなければ宝の持ち腐れである事は確かだが、やはりそれでも今の実力的に少し厳しいな、と思える魔物相手にする場合であっても今までよりは少しだけ戦いが楽になることもある。


 カジノの景品はそれだけではない。

 本来ならば上級者向けのダンジョンでたまにしか出ないようなアイテムもまた景品に並べられていた。

 勿論この塔の中でそのうちひょっこり宝箱の中から出てくる可能性もあるのだが、運を天に任せるよりも確実に欲しい! となった場合はここで狙うしかない。

 そういう考えにとりつかれた者も多いのか、思った以上に足止めを食らっている探索者が多かった。


 物によっては金に物言わせてコインに交換した上でその景品をゲットする、なんて事をしたのも中にはいたが、いかんせんコインの必要枚数がかなりあるので金に物言わせて買い取るにしても欲しいもの全部をそうするとなるととても大変だろう。

 それならヤクトリングの機能解放した上で更に上の階を目指した方が効率が良い、と思える物も中にはある。


 コインに関しては基本的にヤクトリングに収納機能が存在しているらしく、余ったコインを次に持ち越すなんてことも可能であるらしかった。

 だからこそか、ある程度塔の探索をしたうえで、ちょっとだけ魔物コインを換金してその金額でコインを購入。ちょっとだけ遊んでから休憩所に戻っていく……なんていうライト層から、朝から晩までずっと粘っているような者まで大量にいるので時々スクリーンに映るカジノの光景はいつ見ても人がみっちりいる状態だ。


 闘技場の方もだが、カジノに関してもスクリーンには滅多に映らない。

 あくまでもたまにちょっとだけ、といった程度だ。

 塔の内部を探索する側に寄っているからだろう、と見物している探索者たちは思っているが実際はどうだかわからない。

 というか、人によっては延々誰かが遊んでいる光景をみせられても……という気にしかならないだろう事はわかるので、別にその部分で不満を訴える者は特にいなかった。


 どうしても気になるなら直接自分で赴け、という事なのだろう。


 カジノの中で活動しているゴーレムたちは、下の階層の休憩所にいる少女型ゴーレムとほぼ同じではあるが、年齢は少しばかり上に見えるものが多い。

 相手が人間ではないとわかっているが、中にはバニーガールの姿で働く彼女らを眺めるためだけに足を運んでいる者もいた。

 とはいえ、お触りはしていない。


 何せ既にそこでやらかした探索者がいるからだ。


 そもそも最初の入口でまるっこいフォルムのゴーレム相手にこいつ倒して商品奪おう、と考えた探索者があっさり仕留められているというのに、どうして更に上の階のゴーレムが何もしないと思うのだ。

 通りすがったバニーガールタイプのゴーレムの尻を撫でた探索者の腕は次の瞬間容赦なくスパンという音とともに吹っ飛んでいった。一瞬遅れて飛び散る血飛沫に、腕がオサラバした当の本人も何が起きたかわかっていなかったくらいだ。


 とはいえその犠牲によって今のところバニーガールゴーレムに不埒な事をしようという者は出ていない。

 いや、流石に誰だって気安く腕を切断されるのは避けたいわけで。


 ちなみにその瞬間の光景がまんまとスクリーンにも映っていたせいか、塔の外で見物していた探索者たちもかなりの数がそれを目撃してしまっている。

 休憩所にいるゴーレムに攻撃してはいけないし、何ならいくら可愛らしい見た目をしていようと下手な手出しは厳禁である。

 探索者たちの大半がその常識を胸に刻んだ。


 ちなみに、カジノの景品には欠損を治す事が可能な秘薬もある。


 うっかり己のスケベ心によって腕がオサラバしてしまった探索者がカジノにのめり込んだのは、言うまでもない。そもそも利き腕が駄目になっている状況でこれ以上先のフロアを探索できるかとなれば、どう考えても難しいわけで。

 だがしかしコインの必要枚数がとんでもない枚数なので、大勝しまくらない限りはその探索者の腕が戻るのはまだまだ先の話だろう。それ以前にすってんてんになってしまう可能性の方が高いくらいだ。


 ちなみに。

 探索者たちが知る由もない話ではあるが、バニーガールゴーレムを考案したのはステラではなく魔術師の一人だ。彼はその情熱を主にステラがドン引きする方向性で発揮してカジノフロアのバニーガールゴーレムたちの案を数種類提出し、ステラに作成させた。

 案を出せ、とのたまったのはそもそもステラなのでそこについてはもう何を言うでもないが、それにしたって貴方そんな熱量あった……? 何が貴方をそうさせたの……? とステラが思わず呆れてしまう程度には凄い勢いであった事を述べておく。


 顔の造形はさておき身体の方に傾ける熱量がすさまじかった。

 全員が同じ見た目であるのはどうかと言い出し、似た顔の造形であっても体型に違いを出そうとし、乳・尻・太ももにかける情熱が凄かった。

 胸はでかけりゃいいってもんじゃない。巨乳も貧乳も須らく用意すべきだし、美乳も勿論用意すべき! と言い出した時点でステラではなくアズリアがぶん殴っていたけれど。


 腰のくびれだとかうなじがどうとか、足首の細さがだとか、ステラからすれば細かすぎない……? と思うような部分にまで注文をつけてきたので、バニーガールゴーレムたちは実に様々なタイプが存在していた。


 何が恐ろしいって、カジノに入り浸ってる探索者たちのほとんどが誰かしらのバニーガールゴーレムのファンになってるところだ。お気に入りというか推しと呼ぶかはまだ微妙なラインではあるものの、そういったバニーガールゴーレムが近くにいるとつい視線をそちらに向ける探索者もいるので、割と大勢の探索者の女性の好み的なものが割れた瞬間でもあった。


 とはいえ、カジノに入り浸っている探索者は全員男というわけでもない。女性探索者も勿論いる。

 そちらはそちらでバニーガールゴーレムには特に何の感情も持っていないようだが、時々だらしない顔をしてバニーガールゴーレムを見ている男性探索者を白い目で見ている。


 塔横スクリーンでカジノ部分はあまり映らないけれど、スタッフルームのスクリーンはそうでもない。

 むしろ奥に存在している記録保管庫にも現在進行形でダンジョン以外のフロアの情報もばっちり保管されつつある。

 今の所人が集まっている休憩所は、やはり闘技場があるフロアとカジノがあるフロアだ。

 そこから更に先へ進もう、という者も中にはいるようだが、そちらはあまり攻略が進んでいない。


 魔物の強さ的にまだ中級者向け難易度のダンジョンに出てくる魔物ばかりではあるのだが、やはり出現する数や、あとは他のダンジョンであれば出てこないような組み合わせで出てくることもあるからか、探索者たちが立ち回るのに苦労しているのが大きい。



「ステラさん、ちょっとよろしいかしら?」

「ん? アズリア? どうかしたの?」


 んー、あんま面白そうな展開になりそうな探索者たちもいないなー、とぼーっとしながらもスクリーンを見ていたステラであったが、ふらふらした足取りでやってきたアズリアに声を掛けられて思わずだらけていた姿勢を正す。

 アズリアが目覚めてから、それなりに会話をする事もあったがこんな風に話しかけてくる事は今までなかった。もっとこう、遠慮がちに少し遠くから声をかけて徐々に距離を縮めてくるのが今までのアズリアだったのだが、今回はそういう事もなくステラのすぐ近くまで来ていた。


「ちょっとした頼みがあるんです……」

 そう言ったアズリアの表情は、どこか思いつめたものをしていた。

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