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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
三章 ゲームでいうところの本編そっちのけでやりこみ始めるミニゲーム
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エンド4 放った言葉の末路



 すっ飛んでいった探索者はやや小高い位置にいる少年たちを一瞬ではあるがその目に捉えていた。

 だからこそ、助けてくれ――と助けを求めた。

 とはいえ、ダメージが酷くて声はそう出せない。出てきた声は「ぁあ」だとか「うぁ……」だとかどう聞いても呻き声。声を出そうとしないで息だけ吐くようにすればまだどうにかなりそうだが、その場合は小声で囁くレベルの音しか出ないので確実に彼らには届かない。

 かといって腕を振ってどうにかこちらの助けを求めている状態に気付いてもらおうにも、下手に動けば魔物の標的になりかねない。武器を持っていた方の手は折れてはいないが筋を痛めたのかロクに力が入らないし、今はまだ他の仲間が魔物を相手しているので今のうちにとポーションを飲むも、思っていた以上の怪我だったせいか焼け石に水だった。

 もう一本ポーションを飲むか……? いや、あまりもたもたしていると他の仲間も危うい。自分も魔物の注意を引きつけつつ他の仲間にもポーションを飲む余裕を与えなければ自分だけが回復しきったとしても意味がない。


 そう考えて、少しばかり力が戻ってきた手で武器をしっかり握る。


 魔物の方へと向かう途中で、ちらちらと小高い位置でこちらの様子を窺っている探索者たちに何とか助けを求める方法を考えて――



「どうする?」

「無理」

「即答か」


 助けを求められている事は何となく気付いた。

 全員が全員こちらに気付いたわけではなく、気付いたのは一人だけのようだが視線が明らかにこちらを見ていたので気付かない方がどうかしていた。

 より身を低くしてこれ以上他の連中に気付かれないように少年たちは小声で話し合った。


 しかしどうする? と聞いた矢先に一斉に無理と返ってきたので問いかけた少年は呆れたようにツッコミを入れる。


「実力的に、まぁ勝てない相手じゃないと思う」

「そうだな。苦戦はするけど勝てない相手じゃないな。今のおれたちなら」


 仲間の一人がそう言った事で、問いかけたリーダー的立場の少年も肯定する。

 そう、苦戦はする。するけれども、勝てない相手ではないな、と思えた。

 というのもあの魔物、別のダンジョンで前に倒した事がある。当時は危うく死ぬんじゃないかとすら思っていたが、あれから更に実力もついた今の自分たちなら勝てないわけではない……と思う。

 ただ――


「一身上の理由であいつらを助ける事ができない」

「同じく」

「同じく」


 リーダー以外の少年たちが一斉にそんな事をのたまった。


「だってさ、関わるなって言ってきたの、あっちだぜ? そうやって一方的にこっちの事見捨てておいて、いざ自分たちが危ない目に遭ったら助けて~、は都合が良すぎじゃないか?」

「だよなぁ」

「っていうか、今まであいつら何してたんだ? どう考えても苦戦する方がおかしいだろ」


 なぁ?

 おう。

 うん。


 そんな感じで頷き合っている。


 その様子にリーダーも流石に「あぁ」と理解を示した。


「あいつらか、前の仲間って」

「そういうこと」


 たまたまダンジョンの中で知り合いに遭遇した。

 ただそれだけの話だ。

 けれども、それだけ、で済む感じでもない。


 ミーシャは前の仲間という言葉でうちにいるスタッフの魔術師たちと似たようなやつかな? なんて思って彼らの話を聞いていた。聞いて、というかスクリーンに記録された映像なので既に終わった話ではあるのだが。


 話を聞いていると、どうやら彼らはかつてとある探索者チームの荷物持ちをしていたらしい。

 荷物持ち。

 マジックボックスのようなアビリティ持ちでもいれば必要ないが、そのアビリティは所謂レア扱い。

 本来ダンジョンに行くのに必要な道具を持たなければならないわけだが、全員が全員荷物を持てるだけ持って戦えるかとなるとそうもいかない。

 常に魔物に接近して切り結ぶような、動き続けなければならないような者は下手に荷物があれば動きが制限されかねない。勿論何かあった時の事を考えてポーションだとかは持つだろうけれど、それ以外の――戦闘以外で使うような道具などはずっと持ち歩く、また、その状態で戦闘をするとなると不利になるとなれば状況次第では最初から持たない方を選ぶ事もある。


 けれど、ある程度規模の大きなダンジョンへ行くとなれば持たないわけにもいかない。

 だがそのせいで魔物との戦闘に支障が出るのも困る。


 そういった者たちは時としてチームに荷物持ちを連れている事もあった。


 ミーシャもかつてそういったチームを見かけた事は何度だってある。

 ある程度行き慣れたダンジョンであれば何が必要で何が不必要かは大体わかってくるが、例えばある程度情報があっても自分たちは初めて行くダンジョンなどであれば念の為にと持って行く道具が増える事だってある。

 荷物持ちをしている者は戦闘能力的にあまり役に立たない事が多いが、下手に前に出て魔物に狙われて危険に晒された挙句死んでそこでこの荷物次からどうするよ……みたいになられても困るので、むしろ何があっても冷静にあまり動かず、場合によっては仲間の指示で魔物から距離を取るべく動く、みたいな事が出来る者が選ばれる。

 勿論最低限自分の身を守れる程度の実力は望ましいが、そうでなかったとしても仲間一人くらいを守れる実力のチームであればどうにかなる。


 慣れないダンジョンに行く時はいつも以上に持ち運ぶ物が増えるので、そういう時荷物持ちにかかる負担はそれなりに大きい。

 ダンジョンの最下層に行きつくまでに場合によってはダンジョンに入った時以上に荷物が増える事だってある。転移装置がある場所までくれば帰りは問題ないが、場合によっては途中で引き返さなければならない事もあるわけで。

 しかも場合によっては仲間が負傷した場合、そういった者に肩を貸すなどする事もある。


 忍耐と体力は確実に要求されるものであった。


 少年たちの話を聞いていると、どうやら四人中三名はかつて荷物持ちをしていたらしい。

 スクリーンに映っている少年たちは、少年、とミーシャも思うようにまだ若い。それよりも更に若い頃、となると少年というか児童とか言われるような頃ではないのか。えっ、そんな頃から? いやでもミーシャだってアミーシャ時代にかつて探索者やってる父に荷物を運ぶ時のコツとか何か教わった気がするし、コツを掴めばそれなりにどうにかなる……いややっぱ限度ってあると思う。


 ともあれ、三名の少年たちのかつての仲間が今まさに魔物に蹂躙されつつある探索者チームらしい。


 塔へ挑む探索者たちは、かつての仲間と決別し新たに組む者も多い。

 そうして新たに組んだ面々が見事にその少年たちのかつての仲間であったようだ。


 しかも塔は基本的に五階層ごとに休憩所があるし、そこで休む事も食事をとる事もアイテムの補充もできる。

 であれば、荷物持ちという存在は正直あまり必要がなくなってしまうわけだ。

 塔がオープンしてからそこそこ経過しているが、恐らくこの少年たちは割と早い段階で仲間だった探索者に見限られたのだろう。

 少なくとも先程からの動きを見る限り少年たち四名のチームワークは良い方だ。昨日今日手を組みました、という感じではない。


 状況的に一度仲間から外す、という事もままあるだろうとはミーシャも思うが、どうやら普通にお別れしたのではなく完全に荷物持ちをしていた少年を用済みとみなして別れたのだろう。でなければ一身上の理由だとか言い出すはずもない。というかちょっと前の会話からしてそれ以外の何だというのか。


 というか、魔物に今も元気に吹っ飛ばされている探索者たちは助けを求めた相手がかつて仲間だったけれど自分たちが見捨てた相手、という事に気付いているのだろうか?

 無理だろうな。

 人がいる、という部分に気付いたまではともかく、魔物との交戦中、ましてやダメージを負うような状況で冷静にそこまで判断できるとも思えない。けれども少年たちはそうではない。冷静に相手を観察する程度には余裕がある。だからこそ相手が誰であるか気付けたのだろう。


 ここに来るまでに既に行ける範囲は行きつくした。次の階層へ行くにはこの先へ行かねばならない。けれど少年たちはかつての仲間を助けるつもりは一切ない。

 というか、向こうからもう姿見せるなよとか関わってくるなとか言われたようなので、相手の望み通りにしているだけとも言う。


「じゃあ、とりあえず早いとこあいつらの決着がつくのを祈るか」


 唯一彼らと無関係だろう少年たちのリーダーが、興味のなさそうな声で言った。

 残りの三人の少年たちは、その言葉に頷いて魔物の動向だけに注意を向ける。


 この短時間のやりとりの間にも魔物は探索者たちを確実に追い詰めていた。

 見れば既に二人、地面に倒れたまま動かない。血だまりがじわじわと広がっている。

 少年たちに気付いて助けを求めた探索者はまだ生きていたが、既に手持ちのポーションを使い切ったらしく満身創痍の状態で防戦一方だ。倒れた仲間が持っていたらしきポーションをひったくって残った仲間がそれを呷る。だがそれも気休め程度で意味が無かった。

 そうこうしているうちに一人、また一人とやられて残ったのはあと二名。


 まだ近くに少年たちがいるというのを知っている探索者は、助けが来ない事は既に察していた。

 とはいえ、助けてくれないなんて酷いじゃないか!! とも言えない。

 罠にかかったのは自分たちで、この魔物を呼び寄せたのはこちらに原因がある。

 そして明らかに強い魔物だ。先程見かけた探索者がこの魔物を見て勝てないと判断した場合速やかに逃げていても何もおかしな話ではない。


 思う部分がないわけではないが、ダンジョンの中の行動なんて大体どれも自己責任だ。


 それに……この塔には一体どういう仕組みなのか、塔の外のスクリーンに塔内の様子を映し出している。こちらが生きるか死ぬかの瀬戸際だというのに、外にいる連中はのんきにそんな光景を見ているわけだ。

 それに関しても思う部分がないわけではない。人の死を見世物にするな、という気持ちは勿論ある。けれども、見世物にされたくないのであれば死ぬような事をしなければいい――万一探索者にそんな事を言われたらミーシャは確実にそうこたえている。


 それに、何だかんだ外の探索者たちは教訓にする場合もあれば、純粋に娯楽と見ている部分だってある。

 この探索者たちもスクリーンに映っていた内部の情報を得た上で臨んでいるのだから、何を言ったところで今更である。


 残っていた一人が死んで、さてあと一人、となってそこで男はようやく諦めた。

 腕の怪我が酷く、もう武器もマトモに持てない状態でどうしろというのだ。

 そんな思いが目に浮かんでいた。

 男が最期に目にしたのは、迫りくる魔物の牙か爪か――


 直後、魔物が叫ぶ。咆哮というよりは予想外のダメージを受けたような鳴き声だ。

 四人の少年たちが一斉に攻撃を仕掛けたのを、ミーシャは見ていた。

 果たして残った男がそれを見ていたかはわからない。怪我の度合いが大きく、意識を保っているのもやっとだろう状態だ。

 見ていたのであれば、果たして彼は何を思ったのだろうか。

 助けるならもっと早くに助けてくれても?


 まぁ、少年たちはもう彼らが長くないと判断したからこそこうして攻撃に転じたのだろうとはミーシャも思うのだが、恐らくもう目がかすんでロクに見えていないだろう男には少年たちの誰がかつて自分の仲間であった存在なのかもわかっていないのかもしれない。

 かろうじて立っていた状態ではあったが、男の身体がゆっくりと傾いでいく。

 そうして倒れて――



「やっぱ死んでるな」

「そうだな。まぁ、姿見せるなって言ってたんだから、こっちからすれば丁度いい」


 その少し後に魔物を倒した少年たちが男の顔を覗き込む。


「この塔ができてから、割とすぐに追い出されたわけだけど。別にさ、荷物持ちが必要なくなったんならそれでよかったんだよ。ただ、塔では荷物持ちがなくても大丈夫そうだから、の一言でこっちだってあぁそうかい、で済む話だったのにお前みたいな役立たずとは今日でお別れだ、とか何で言い出すかな。

 その役立たずがいたからこそ、今までのダンジョンであんたら普通に戦えてたんだろうに」


 その男のかつての仲間だった少年が、何とも言えない表情でそんな事を呟いた。

 確かにほとんどの探索者がこの塔にやってくるようになったけれど、今でも自分たちが住んでいる国のダンジョンへ足を運ぶ探索者がいないわけじゃない。

 荷物持ちとしてそういった探索者に自分を売り込む事も考えてはいたし、そもそも荷物持ちをやめて他の仕事を探す事だって考えなかったわけじゃない。


 ただ、ロクに荷物も持たなくていいなら好きに動き回れるなと思ったから似た境遇の連中と一緒にこうしてダンジョンに探索者としてやってきただけで。

 確かに今まではダンジョンの中で荷物抱えてロクに動かなかったけど、それだって下手に動き回って荷物を駄目にするような事になったらいけないと思っていたからであって、戦えないわけではなかったのだ。

 勿論、他の仲間の荷物も運んでいたから俊敏に動けるはずはなかったのもそうだけど。


 けど、一度くらい考えたりしなかったんだろうか。荷物持ちが荷物を持たなかったら普通に戦えるのではないか? とかそういった事を。考えた上で聞いてくれれば少年だって一応護身程度には、くらいは答えていた。

 かつての仲間とはそこそこの付き合いだったから、きっと忘れてしまったのかもしれない。ダンジョンの中で荷物を抱えて壊されたりしないように守っていた荷物持ちに、かつて自分たちが護身程度にあれこれ教えた事があったという事実さえも。


「……とはいえ、他にも前の仲間だった奴いるわけだし、これで終わったわけじゃないってのがな……」

「まぁそう何度も遭遇して助け求められる事とかないだろ」

「そうだといいんだけどな」


 少年たちのかつての仲間は二人ずつ。

 合計六名のチームとなっていたが、かつて自分が組んでいたチームの人数が自分含めて三名であるはずがない。他に少なくてあと二名、多くても三名のかつての仲間が少年たちにはそれぞれ存在している。


 そう簡単に出くわす事もないだろう、なんて言いながら少年たちはその場を立ち去っていった。



「ダンジョンに訪れる探索者の数だけドラマがあるわけですね」

 なんて少女ゴーレムは言っているが。

「それ、前にベルナドットに言って大半が昼ドラもどきみたいなもんだろ、って言われてたじゃない」

 昼ドラ、が何かはミーシャにも少女ゴーレムにもよくわかっていないけれど。

 まぁロクなものじゃないのは確かだろう。


 ちなみにこの後も少女ゴーレムお勧めの探索者映像が紹介された。

 ミーシャとしては割ともうこの時点でげんなりである。

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