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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
三章 ゲームでいうところの本編そっちのけでやりこみ始めるミニゲーム
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休憩と呼んでいいものなのか



 なんていうか、この世界思ってた以上に探索者がいたんだな……なんて感想を抱いたのは毎日のように塔で死人が出るからだった。

 ミーシャはかつて、ダンジョンの管理者なんていうものをしていたわけだが、その頃はあまり探索者の数を気にした事はなかった。

 というか、管理下にあったダンジョンは複数あり、それらを巡回するだけでもそれなりに時間がかかるし、自分の管理下のダンジョンを見るだけではなく他の誰かが管理しているダンジョンにも足を運んでいた。

 それだけ沢山のダンジョンをあちこち行っていたならさぞ探索者たちとも遭遇する事だろうと思われがちだが、実際のところはそうでもない。


 初心者向けダンジョンなどは探索者になりたての者が行くようなダンジョンで、だからこそ新人が巣だった後であればそのダンジョンにはだぁれもいない、なんて事もよくあった。

 中級者向けダンジョンでも魔物の種類やダンジョンの中身によっては人があまり足を運ばない、なんて事もある。

 上級者向けダンジョンはそれなりに手に入るアイテムなどに期待されているためかそれなりに人の入りはあったけれど、やはり人気が集中していたのは最大級とも言われていたダンジョンだ。


 だからこそ、探索者はそれなりにいるというのはわかっていたけれど、ここまでいたとは思ってすらいなかった。

 一応各大陸に自分が管理していたダンジョンはあったけれど、管理していた自分の能力が底辺這いずってたこともあったからか、探索者がばんばん入るようなダンジョンは少なかったから、というのもあったかもしれない。


 塔がオープンしてからというもの、連日誰かしら死んでるような状況を見て人類って早々に滅亡するんじゃないかしら……なんて慄いていたこともあったくらいだが、しかしそれでも塔を訪れる人間の数は減る様子もない。むしろ増えているような気もする。


 いくら人類を卒業してしまったからといって時間の流れも人外基準になったわけじゃない。

 ステラたちがこちらの世界にやって来てから一年程が経過した、というのは先日聞いたばかりだ。だからこそ、自分が知らないうちに生まれた子が育って探索者になって、その探索者が伴侶を得てまた子が生まれ……なんていう程の年月が経過したわけではないのは理解している。

 とはいえ、実際にステラたちがこちらの世界に来てからぴったり一年、というわけでもなく実の所既に一年とちょっとは経っているという話でもあったはずだ。

 どうにも長命種族のせいか、あの四人の時間の感覚ちょっとずれてない? とミーシャが思う事はそこそこあった。

 ……もしかしたらいずれ自分もああいう風になるのかもしれない、とは思っている。


 ともあれ。


「あぁ、それ。何か最近探索者になった人増えてるらしいですよ」

 ミーシャがよく話しかけていた少女型ゴーレムがそんな事を言うのを、ミーシャは「えー、それどこ情報?」なんて出されたお菓子を食べながら問いかけた。


 スタッフルームではなく、休憩所での出来事である。

 休憩所であるならばいずれ探索者がやって来るだろうけれど、しかしまだこの階層の休憩所に探索者たちが来るにはまだまだ時間がかかるだろうと思われる。この下の休憩所まで探索者が! なんて事であればこうものんびりしてはいないけれど、下の下の下の更に下の――といった感じでまだまだ距離が物理的に離れているのでこうしてダラダラできるというわけだ。


「どこ情報、って……何かそういう話、たまに聞くんで。ほら、まだここ開店休業状態だから暇してるじゃないですか。こうして」

「そうね」

「下の忙しい休憩所とか手伝いに回ろうとしても大体他の子たちが既に行った後とかだし、そうなるとやる事ないからスタッフルームとかの掃除に回ったりするんだけど」

「何かいっつも綺麗だなとは思ってたけど、あれそういう風になってるとかいう不思議パワーじゃなくてちゃんと掃除する人がいたからなのね」

「そうですよ。だからといってわざと汚すような事しないでね」

「しないわ流石に」


 出されたクッキーを一つつまみ、サクリと半分ほどを齧る。

 うん、美味しい。バターの香りと、サクッとしながらもほろりと崩れる程よい固さ。口の中に広がる甘さもくどくなく、バターの濃厚な香りがありながらも全然しつこくない。一つ食べたらまだ食べたいな、となる感じでついもう一つ、もう一つと手が伸びそうになる。


「で、スタッフルームの方ってほら、スクリーンあるじゃないですか。あれ見てると時々探索者同士のおしゃべりしてる光景とか見えたりするんですけど、そこで」

「情報源は把握したわ。なるほどね、探索者からの情報なら嘘ではなさそうよね。でも、増えてるって……?」


 増えるにしても、今いる世界人口が爆発的に増えたとかではないだろう。

 であれば、今まで探索者ではなかった者も探索者になった、と考えるのが正しい。


「それまた何で?」

「なんで、って言われても……ウチってほら、他所のダンジョンと比べると実入りがいいじゃないですか。魔物も豊富で倒せば魔物コインがたっぷり手に入るし」

「まぁそれは普通のダンジョンでもそうだけど」

「でも、倒したら倒した分だけ魔物コインを獲得できるわけですよ。やればやるだけ稼げるってなるじゃないですか」

「……うーん、そう言われてみると……いやでも、そう?」


 普通のダンジョンでも魔物コインは出るわけだし、倒したら倒した分だけ入手できる、というのはそれ別に当たり前では……? とミーシャは素直に少女ゴーレムの言葉に頷けなかった。


「だって普通のダンジョンでも魔物コイン時々全部回収できないって事あるんでしょ? でもここだとヤクトリングの魔物コイン回収機能さえ解放しちゃえば取りこぼしゼロ。

 解放するための金額がかかるけど、でも解放してしまえばその後は無駄にならない機能じゃないですか。いちいち拾う必要ないし。倒したら倒した分だけ全部リングが回収してくれるわけだし」

「言われてみれば……そうよね」


 機能解放の値段見て「馬鹿なの?」と思った事のあるミーシャではあるが、けれども冷静に考えて長い目で見れば得、という部分も確かにある。

 一度や二度、記念でダンジョンに足を踏み入れておこう、みたいなちょっと探索者気分を味わいたい、みたいな者であれば割に合わない機能だが、探索者として何度も塔に足を運び稼ぐために魔物を倒して宝箱を探しアイテムをドロップし、そして階層主を倒し先へ進む、というのであればコイン回収機能はむしろ早い段階で解放しておいて損のないものだ。


 通常ダンジョンであれば回収したコインは荷物になる。けれどもヤクトリングが回収した場合、ヤクトリングに内蔵されているマジックボックス的な空間に自動で回収されるのでどれだけ回収しても荷物にならないし重たくもならない。

 通常のダンジョンよりもやや多めに魔物が出るこの塔では、場合によっては次から次に出る魔物にいつまでも同じ場所に留まるのも危険という事で早々に撤退する事もある。そういった時に回収機能がなければ折角入手できるはずのコインも諦めなければならない事だってある。

 機能さえ解放しておけばそういった事もなくなるし、折角倒したのに! なんて悔しい思いをする事もない。


 それに……序盤階層の階層主はそこまでの脅威というわけでもない。なので階層主手前である程度魔物と延々戦って階層主を倒して休憩所経由で帰ればそれなりに稼げるのは確かなのだ。

 人によっては罠が恐ろしいが、罠がない、とある程度判断できる場所で魔物がやって来るのを粘ればそこそこの稼ぎにはなる。


「それに、他のダンジョンだとほら、入手できるアイテムも正直上級者向けダンジョンとやらに行かないとロクな物でないって感じだけど、ここ序盤階層でもそこそこいいアイテム出るじゃないですか」

 そのセリフだけ聞けばまるで自分の職場に自信と誇りを持ってるようなセリフだが、少女ゴーレムにそういった意識はない。単純に事実を口にしただけである。


 ミーシャは直接ダンジョンに行ったわけではないので、そうだったかしら……? と一瞬首を傾げそうになったが、すぐに首の位置を戻した。

 言われてみれば確かに時々スクリーンに映る探索者たちが宝箱を発見して開けたら中からそれなりに高値で売れそうな宝石だとか、ちょっと良さげな武器だとかが序盤階層でも出ていたような。

 ……ああいうのって普通のダンジョンなら間違いなく中級者向けか上級者向けじゃないと出てこないやつじゃないっけ?

 そこまだ序盤階層だけど。


 値打ち物、というわけではないが、小さな宝石が複数見つかった、なんて探索者もいた。

 一つ一つが小さいせいで売るにはちょっと……と思われたが、それを手に入れた探索者は次の休憩所で売り払う事はせず、確か故郷に持ち帰ったんじゃなかったっけか。

 一応質はそれなりにいい物であったので、腕のいい職人にでも渡せば素敵なアクセサリーとかになるだろう事は確かだ。


 通常のダンジョンであれば中級者向けでないと出ないような薬も序盤階層で出る。


「確かに罠とかそういう危険はあるけど、でも序盤階層なら魔物もそう強いわけじゃないでしょう? だからね、最近はちょっと危険な出稼ぎ、みたいなノリで今まで探索者やってなかった人も探索者に転向してるらしいんですよ」

「でもそういうのって、すぐに死にそう」

「そうでもないですよ。既にある程度ギルドで塔の情報も序盤階層に関しては出回ってるし、どうしても塔の序盤階層に挑むにしてもまずは地元の初心者向けダンジョンを攻略できるようになってから、みたいに言われてるらしいですから、ズブの素人が塔に、ってわけでもないみたい」

「あー、罠のない安全な初心者向けダンジョンでそれなりにダンジョンの空気を体験しつつ、それで行けそうってなったら罠有りの塔に、って事か……そこだけ見るとよくできてるわね」


 なるほど確かに危険な出稼ぎと言うのも頷ける。


「それに、そういった人たちは大体最初の階層主倒して次の休憩所で引き返したりしてるみたいです。元々の探索者からすればそこだけで稼ぐとか冗談じゃないって感じかもだけど、出稼ぎのノリで来てる人たちからすれば、今の所はそれでいい、って感じでしょうか」

「案外詳しいのね」

「スクリーンで見れますから」

「あれ? でもスクリーンて映すの基本的に決まってなかった? 塔横だと片方は最新階層にいる人映すし、もう片方は適当にランダムって感じだけど」

「スタッフルームのちょっと大きめのマスターたちが見てるやつじゃないスクリーンだと色々融通ききますよ」


「……あったっけそんなの」

「倉庫みたいなところの」

「え、何それあたし知らない」

「え? 備品とか置いてるとこですよ?」

「あった? そんなの」


 ここで唐突に会話が噛み合わなくなって、ミーシャと少女ゴーレムは「え?」とお互いに首を傾げた。


 ミーシャは塔の案内人、と言われているが今はもうほとんど探索者たちの前に姿を現す事もなくなりつつある。基本的には他の忙しそうな休憩所の裏方として手伝ったりだとか、こうやって誰も来ないだろう場所でだらだらしてる事が多い。

 対する少女ゴーレムは暇を持て余した時は割と色々な階層――といってもダンジョン部分は除く――を移動していたし、スタッフルームの掃除もする事が多かった。


 行動範囲が明らかに異なっている。


「えー、じゃあちょっと見に行きますか? 色々ありますよ。あの部屋」


 少女ゴーレムとしては持ち場をあまり離れるのもなー、と思わなくもないが、そもそもこの休憩所が使われるようになるまでにはまだまだ数日どころか数か月はかかるだろうと思っているのでどうかなーと思っていた気持ちは一瞬で消えた。

 むしろ一応ミーシャは少女ゴーレムたちと比べるとそれよりも上の立場のはずなので、自分が知ってるのに何で貴方知らないのよぅ、という気持ちにもなろうというものだ。

 ミーシャには教えちゃダメ、と言われたわけでもないし、教えるのは特に問題もないだろう。

 というか、スタッフルームにステラかルクス、アズリアのうちの誰かがいるならそこら辺に念の為許可をとればいいだけの話だ。


 皿の上に残っていたクッキーを慌てて掴んで口に運んだミーシャは、ほら行くよ早くとばかりに急かしてくる少女ゴーレムに手を繋がれて、あと数枚残っていたクッキーはそのままにスタッフルームへと向かう事を強制させられる事となった。


 ちなみにこの後、ミーシャが何で自分はそれ知らなかったのかしら、というのは何となく知る事になる。

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