天は二物を与えずとは言うけれど
ダンジョン最奥のボスを倒してその後に転移装置があったのでそれを使って帰ってきて。
ちょっと張り切りすぎちゃった、みたいな雰囲気を出して一同それぞれが与えられた部屋へと戻り、そこからルクスが用意した別空間へと移動する。
白くふわふわと浮かんでいる光に触れれば一瞬であり、そしてこれはステラたちにしか見えないようにしてあるのだとか。
ダンジョン攻略した勢いで次のダンジョン行くぞオラァ! みたいなノリにはまずなるはずもない。キールとしてはビギナーズラックの可能性もあると考えたのか、念の為あと何回かあのダンジョンで経験を積んで下さいと言っていた。師であるアズリアを助けるために急ぎたい気持ちもあるだろうけれど、だからこそ慎重なのかもしれない。
ステラの知ってる異世界召喚もののライトノベルなら、今頃勇者だなんだとおだてられて最初のダンジョンをこんなあっさり攻略できるなんて! とか言われてさくっと次のもうちょっと難易度高めのダンジョンに突っ込まれててもおかしくはない。
とはいえそういうのは大体召喚した相手を勇者と呼びこそすれ道具か奴隷だとしか思っていないようなのにありがちなので、キールは今の所そこまでは思っていないという事なのだろう。そう、思いたい。
「ところで言い忘れてたんだけど、こっちの世界とあっちの世界でちょっと違う点があるんだよね」
座り心地がこれまた良さそうな椅子に座るなりルクスがそんな事を言い出す。
「まぁ、異世界だしそりゃ違いはあるだろうけど、今更何だ?」
言い忘れてた、というくらいなのだから、もしかしたらそれなりに重要な話なのかもしれない。そう思ったベルナドットがやや深刻そうに問いかける。何だかんだ重要な情報であっても相手がルクスだと場合によっては一切その情報を開示しない、なんて事もあり得るなと考えてしまったのだろうか。確かにそういう事もあったので、ベルナドットの懸念は間違ってはいない。
「いや、私たちがどれだけ初心者装ったところで、無理があったというのは判明したね。この場にいる全員、正直実力の一割も出してなかったけど初心者向けのダンジョンでこれだ。とても力を抑えていたというのにこれ。手加減って実は思った以上に疲れるし、あまり続けようとも思えなくなってきた」
「飽きるの早すぎるだろ」
「まぁそれはさておき、今回のダンジョンは初心者向けで、だからこそ他の冒険者……あ、こっちだと探索者か。まぁどっちでもいいよね、有象無象である事に変わりはないわけだし。
探索者だけに限った話じゃないんだけど、こっちの世界アビリティっていうものがあるらしいんだよね」
「アビリティ?」
なんだかますますゲームじみてきたな、と思いながらもその言葉を口にする。
ステラたちの世界ではそういった言葉はあったとしても頻繁に出てくるものではなかった。けれども意味がわからないわけじゃない。
ステラもベルナドットもかつて、異世界転生する前のゲームだとかでその言葉はそれなりに馴染みがあったのだから。
クロム一人、聞き慣れない言葉を聞いた、みたいな顔をしているがそれだけだ。
「そ。こっちの世界で生まれた人には誰しも与えられる神の祝福。ま、必ずしもその祝福が祝福になってるかは微妙な気もするんだけど」
両手を広げ肩をすくめるルクスのその行動はあまりにも演技じみていた。実際演技なのだろう。
ルクスとしては他の探索者と遭遇して直接その目で見る事が出来た方が余程手っ取り早いと思っていたが、ダンジョンの中で遭遇したのは魔物だけ、となればもう先に言うしかない。
他の冒険者たちのそのアビリティとやらを直接目にするまで待っていたら、何かどうでもよくなってしまいそうだというのもあったし、知ってて言わなかったらまた何かしら言われるだろうとも理解していた。
アビリティの存在についてはここの魔術師たちからも聞かされていた。
こっちの世界じゃあまりにも当たり前のものなので、会話の中でさらっと流されてしまってあやうく聞き流すところだったが、どうもルクスが思うそれとは違うようだったのでちょっと追究してみたのだ。
ステラたちの世界でのアビリティという言葉の意味合いはそこまで特別なものではない。
キャラクター特有のものであったり、その職業全体で持ち合わせている固有のものであったり。
そのキャラクター特有のものであればそのキャラの個性だとか特技として、職業全体で、というのであればそれはその職業のキャラにとっては必須であったり当たり前のものであったり、といったところだろうか。
こちらの世界ではどちら側に重きを置かれているのかまではまだ知らないが、ともあれそういったものがある、というのはステラもベルナドットも一応理解はした。
「生まれついての才能、みたいな部分もあるみたい。例えば剣術アビリティを与えられた者は例え生まれて一度も剣を手にした事がなくとも、それ以外の体術がからきしであっても剣を手にすれば先程まで苦戦していた相手でも余裕で渡り合えたりだとか。
とはいえ、絶対的に強くなるわけでもない。もっと強くなりたいのなら勿論修練は必要になってくるし、上を目指すのであれば血のにじむような努力をしなければならない事だってある」
(つまり、ゲームで言うなら初期レベル普通なら1からスタートのところを5とか10とか、ちょっとだけ強い状態から開始するような感じ、なのかしら?
あ、でもどっちかっていうとあれよね、スキルレベルみたいな感じがする。ルクスの今の言い方だと剣術スキルだけずば抜けてる、みたいなものでしょ?)
そういったアビリティを持っていれば、修練せずとも最低限それなりのレベルを常に発揮できる、と考えればある意味で凄い話ではある。
本来ならば自分が使う武器一つ選ぶにしたって、使いやすさだとか動きやすさだとか、後は教えてくれた師によりけりだとかであれこれ試行錯誤した上で強くなるしかない。使い慣れない武器であれば自分自身を傷つけかねないし、そうならないためには扱い方を学ぶ必要も勿論あるし、使いこなすためには身体の方もきちんと出来上がっていなければ土台無理な話だ。
別に武器の扱いに限った話ではないが、やった事のないものをいきなり最初から上手くできる者というのは存外少ない。
けれどもそういったアビリティを持つ者は、それが例え初めてのものであってもある程度できてしまう、と。
ルクスの話を聞きながら脳内でステラはあれこれと考える。
「ほーん、つまりアビリティとして弓の扱いを与えられていたなら特に練習しなくても適当に射るだけで獲物にあたる、と。初っ端からそこそこできて、そこから更に自主的に訓練したらもっと強くなる、となればまぁ、大抵はそれやるよな。でもさ、本人が望まない能力だったら目も当てられないな、それ」
ステラがぼんやりと考えていた部分を、どこか冷めたようにベルナドットが口に出す。
「そうだね。実際前衛で戦いたくもないから弓を使いたい、なんて人がよりにもよって近接戦闘のアビリティを授かっていたら悲惨だろうね。実力を発揮できるのは近接戦闘、本来の本人の望みで弓を使えば素人以下の実力、となればダンジョン探索の時は間違いなく本人の望みとは違う近接戦をさせられる」
逆に、剣とかを使って敵を倒したいと思ってる奴が投擲武器のアビリティを授かっていたら、確実に後衛とかサポートに回る事になる。そっちの方が実力を発揮できるといっても、ある程度割り切れないタイプからすれば不満だろう。
「ちなみにこれ、ダンジョン探索に限った話じゃないんだよ。
与えられる祝福は確実に誰しも一つは与えられる。けど、それは必ずしも戦闘に向いたものではない。
探索者になりたくてダンジョンに行こうとしたものの、授けられたアビリティが応急手当、とかであればまだどうにかなるかもしれない。けれど、洗濯、だとか掃除、なんて家事関連であったなら」
「……ダンジョン探索には向いてなさすぎるし、そうなると探索者になるには厳しい……?」
炊事洗濯掃除などの家事に関連する能力ときけば確かにあって困るものではない。生きていく上で衣食住に綿密に関わってくるのだから、むしろない方が困る。
けれども別にそれらを才能として与えられたいか、となれば正直ちょっと首を傾げる。掃除も洗濯も料理だって、そりゃあ最初のうちは上手くできないかもしれないが、やってくうちに普通に覚えるものだからだ。
例えばレストランで働く者であれば、料理のアビリティはむしろあって困るものではないだろう。
仮に冒険者のように世界各地を旅する者であっても、料理の才があれば野宿であってもそこそこの物が食べられると考えれば便利ではある。
けれど、もし。
自分がそういった事をする必要のない立場の生まれであったなら。
貴族の生まれなどで自分が料理をする機会など生涯ありはしない、みたいな場合完全に死んでる。
本人が望まぬ能力を与えられる、なんてことは割と普通にあるらしい。
とはいえ、別にそれがないからこそできない、というわけではない。
剣術の才が与えられなくとも修練を積めばそれなりに剣術を覚える事はできるわけだし、家事アビリティがなくともできないわけではない。料理の才がないからとて、美味しい料理が作れないわけでもないし、アビリティがなければ何もできないというわけではない。
けれども。
やはり恩恵が大きすぎるらしく、与えられた能力を活かした方が良い、そうすべき、みたいな風潮があるのも事実なのだとか。
実際一生懸命鍛えてどうにか一人前、くらいの実力になった剣士と、ロクに剣を持った事がないけど生まれつきアビリティに剣術を与えられた素人とで剣を手に戦った場合、ギリギリ互角か剣術アビリティ持ちが勝つ事が多い。
そう聞かされれば伸びしろというものを考えて剣術アビリティを持つ者を優遇するだろうなと考える者が多いのもわからないでもないのだ。
「ちなみに魔術系統のアビリティは割と微妙な扱いを受けているようだね」
そもそも魔術は武術に比べてもやや扱いが難しい。誰でも使えるかというと魔力の量次第だし魔術系のアビリティ持ちならまだしもそうじゃない者が覚えようとするとなると武術よりも難しいようなのだ。
攻撃系魔術、というアビリティならともかく火魔術に限定されていれば扱いが得意なのは炎系統のみ。それ以外の魔術は覚えられなくもないが、どうにもパッとしないらしい。
大抵の魔物に魔術が有効であるのはそれなりに実証しているのだが、いかんせん使い勝手は悪い。どの魔術も満遍なく通じるのであれば属性の偏りは気にならないだろうけれど、弱点属性は当然異なる。
魔物に合わせて得意属性持ちの魔術師を大勢連れていくよりも、何かもう普通に武力でごり押しした方が早いのだ。現状、この世界ではそういう認識である。だからこそキール達魔術師は、というかキールの師であるアズリアも追放されてしまったようだが。
魔力がそれなりにあれば勿論魔術に関するアビリティを授けられていなくとも魔術は使える。けれども、どうやらこちらの世界の魔術はまず詠唱を正確に覚えるのみならず、発音もある程度正確でなければ唱えたところで発動しない事もあるそうなのだ。
普段詠唱とか面倒で大体無詠唱のルクスたちからすれば、わぁ、手間かかってんなという話であるし、そりゃそんだけやっても効果が微妙となれば役立たず扱いされるのもなぁ……という気持ちである。
ちなみにステラたちの世界だとまず魔術を扱う存在に偏りがあるものの、詠唱を正確にしなければならないだとか、なおかつ発音までほぼ正しくないといけないとかいう縛りはない。
むしろ使い慣れてくると詠唱しないで発動させるのがデフォルトである。というか戦闘中に呑気に詠唱してる暇があってたまるか、という話でもあった。
詠唱からどんな術を使うか悟られれば対策をすぐにとられてしまうのもあるし、基本は無詠唱。
そういう意味では魔術での攻撃は魔力でのごり押しといっても過言ではない。
だからこそステラたちの世界では魔力があればなんでもできる! なんて神族からも言われる始末なのだが。
「何か、そういう、生まれついてのアビリティ至上主義みたいなのいそうっすね」
「いるみたいだよ」
クロムの言葉にルクスはあっさりと頷く。
むしろそういった連中が多いからこそ、魔術師が追いやられた部分もある。それに関してはちょっとした雑談をした魔術師たち数名から確認済みだ。
「とはいえ、だ。私たちにそんなアビリティなんてものは授けられてないけれど……正直、ねぇ?」
含みを持った笑みを浮かべるルクスに、大体言いたい事は理解できた。
「そうね、別になくてもっていうか……」
「存在自体が反則みたいな部分あるもんな……」
特にあんたとか。
そんな感じでベルナドットがステラに視線を向ければ、ステラはルクスへ視線を向け、いやいや、現魔王のクロムも大概だよとばかりにルクスはクロムへ、クロムはといえばいや自分は別にみたいにしてるけどベルさんも大概でしょうに、と言わんばかりに。
お互いが、お互いを見ていた。




