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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
三章 ゲームでいうところの本編そっちのけでやりこみ始めるミニゲーム
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つまりはたった一人に向けたもの



 塔がオープンしてからそれなりに日数が経過した。

 そろそろ中級者向け難易度に突入するんじゃないか、なんて言いつつも実はまだ序盤階層であったあたりで一度攻略が止まりかけていたけれど、ステラたちが中盤階層に実際突入した後はその休憩所にある闘技場目当てでそこを目指す探索者が増えたり、更にその先を目指す者たちも勿論増えた。


 途中、プリエール王国が崩壊したなんていう出来事もあったが、それ以外では特に大きな事件は起きていない。


 ステラたちがこの世界に召喚されて、既に一年は余裕で経過している。


 けれどもまだクロノが来るような様子はない。

 既にこの世界に来ているのであれば、とっくにステラの前に姿を見せているはずだ。けれどもそうではないという事は彼はまだこの世界に来てすらいないのだろう。


「やっぱ異世界だからかしら」


 ぽつりとそう呟いたステラに、クロムは何とこたえるべきだろうか、と難しい顔をしていた。

 父さんならすぐ来るよ、なんていうのは気休めにもならない。

 いずれはやってくるとは思うけれど、それがいつになるかはわからないのだから。


「まぁ異世界だからね。それも勇者召喚なんて異世界から召喚するような術、うちの世界は無関係だったのにそこからだろう? それもあるんだと思うよ」


 ルクスがそう言うと、ステラはまぁそりゃそうよね、と頷く。


 他の世界では勇者召喚のような異世界から人を召喚するものが存在していたりしなかったりする。

 存在している世界でも、召喚できる先の世界は限られているらしいのだから、それ以外の世界から召喚してしまったとなればそれはまぁ、色々と問題があるのは言うまでもない。


 世界、という括りで見るから壮大な感じはするが、例えば船が使えないけれどそういった転移系の術は発展している世界が仮にあったとして。

 別の大陸から人を呼ぶのに転移系の魔術、もしくは技術を使っていたとする。

 大陸の間には海が広がっていて船が使えないのであれば、向こう側の大陸が見えなければそれはもう、ある種の異世界から召喚しているのと似たようなものだ。

 とはいえ、ステラたちの場合は本当に異世界なのでその例え話よりもスケールは大きいわけだが。


 別の世界に召喚されたとして、まずそういった召喚系の術が普通に使われている世界の特定。

 その次に、表向き使っていないが秘密裏に使っている、といった世界の特定。


 異世界とやらがどれだけ存在しているかわからないが、これをやるだけでもとんでもなく時間がかかるだろう事は簡単に想像できる。


 流石に毎日のように異世界から召喚するような世界はないだろうけれど、それでも頻繁に召喚を行っている世界はあるかもしれない。

 そういった世界で召喚された人物を調べて、となると果たしてどれだけの時間がかかるのだろうか。



 クロノ一人で調べているというわけでもないだろうから、流石に何百年単位で待たされる事はないと思いたいが……


「やっぱ気持ち的にあと数十年単位で迎えに来ない事も想定しておいた方が良さそうね」

「流石にそうなると暇をとても持て余しそうだね」


 ルクスがステラに同意する。

 暇を持て余した結果ロクでもない事をしでかすだろう人物が言うと、何となく不穏なものを感じるが……いや流石にルクスもある程度自重するだろう。すると思いたい。


「どうしても待てなくなったら私たちでダンジョン最上階の天界突入して創星神を叩き起こすしかないだろうね。その上で、他の世界の創星神と連絡とらせて私たちの世界と繋ぎを作ってもらうか」

「でもそれ最終手段なのよね」


 自分たちでやれば確かに手っ取り早いとは思うが、それはあくまでも最終手段だった。

 眠りについてるらしい創星神が天界にいるだろう事はわかっているが、果たして普通に起きるかどうかがわからない。

 それにルクス曰く、力を回復させるために眠りについた創星神がただ普通に寝ているだけ、という可能性は低いとの事。

 場合によっては周囲に邪魔をされないように何らかの守りを置いている可能性があるとか。


 神族同士の戦いでボロボロになった挙句、そんな余裕あるか? と思ったけれどしかし無防備に眠っている間に他の何者かにトドメを刺される可能性も確かにある。最後の最後で残っていた力のほとんどを振り絞って守りを固めるというのは無いとは言えない。

 元々少なくなっていた力を更に振り絞った結果、眠りにつく期間も長くなるが……寝ている間に当時は味方だったけどいつの間にか敵に回ってしまった神族、なんてのがいないとも限らない。そもそも身内同士での戦いなのだから、そういった展開は何度かあっただろうし考えないはずがない。


 その防衛のための何か、がどういうものかまではわからない。

 そもそもこの塔、最終的に頂上が天界に繋がってはいるけれど、では天界ってどんなところ? と聞かれれば生憎ステラたちもわかっていないのだ。

 最上階一歩手前まではダンジョンなのでそこまではステラたちも手掛けたけれど、内装だとかはわざわざその階層に足を運ぶ事なく決めて作っている。

 休憩所に関しては既に自由に転移できるけれど、ダンジョン内部は全ての階層踏破したわけでもない。


 天界がどうなっているのか……案外平和で見た目的にも楽園ぽいものなのか、それとも天界という言葉に反して地獄のようなものになっているのか……生憎と誰も知らないままだ。

 塔から繋がってるけれど、天界がどれくらいの広さであるかもわからない。


 自分たちで創星神に会いに行くとなれば、まずダンジョン攻略して塔最上階へ行く必要がある。

 別にダンジョン内部をすっ飛ばしてもいいのだが……今すぐ行くつもりはこれっぽっちもない。


 そもそもまだ創星神は眠りについたままだろう。それに関しては神族に多少詳しいルクスが言っているので多分間違ってはいない。この塔は力を回復させるための助力もするように作ったけれど、今はまだ全然そういう状態でもないと言われれば、仮に今すぐ最上階を目指して天界に突入した場合、比較的良い結果であればただの無駄足、悪い結果であれば天界に足を踏み入れた直後に力を奪うべく何らかの防衛機構が働く場合があるとの事。


 ルクスの言葉を信じるならば、つまり今すぐ天界に向かうと、最悪創星神を守っているだろう防衛システム的な何かと、更に眠りについたままの創星神が無意識のうちにこちらの力を取り込もうとする可能性があるとの事だった。


 よくあるゲームのラスボス的展開じゃない……とステラが小声で呟いて、ベルナドットがそれなと頷いたのは記憶に新しい。

 だからこそステラたちが天界に乗り込むのは最終手段なのだ。


 神族、と一言で言ってしまえば割とどうにかなりそうでもあるけれど、その中でもこの世界を創った創造主だ。そこらの神族よりは強いと考えておくべきだろう。

 ステラは自分が住んでた世界の創星神を見た事はないけれど、神族の知り合いから何となく話だけは聞いた事がある。

 武術面で強くなくともそこは神であるので相応の力を所持しているだとか、ちょっとした話で得た情報の断片を繋ぎ合わせればマトモに戦うのは避けておくのが吉、としか言いようのない相手だ。

 ゲームなんかで神様相手に戦う主人公とかいるけど、よくやるな、という印象がより強くなっただけだった。


 神を相手に戦うとなれば、こちらの戦力的にルクスとクロムが主力となるだろう事は想像に難くないが、ステラとベルナドットが役に立てるかどうかは疑わしい。勿論他にもう打つ手がない、となった場合は手段なんか選んでられるか、という気持ちにもなるだろうけれど。


 それなら多少時間がかかったとしてもクロノの迎えを待つ方がマシだとなったのだ。

 待つのに飽きたら最終手段。随分と気の長い話である。


「まぁ、こうして塔が出来た以上、天界に行くルートは固定化されてるわけだから。もし弟がこの世界に来たのであればいずれこの塔にやってくる。これは道標であり、目印でもあるのだから」


 そう、以前もしクロノが迎えに来る事を想定した時に思ったのは、眠りについている創星神の身の安全だ。

 眠りについてる無防備な状態――後にルクスが防衛システム的なのはあるだろうと言い出したので無防備とは……? となるが――でクロノが寝起きドッキリもかくやな目覚めの一撃を食らわせた場合、創星神の命が危うい。

 そりゃあ、いきなりこんな異世界に召喚されて色々と巻き込まれた状態であるステラだが、別にこの世界に対して滅んでしまえ、とまでは思っていない。

 なので眠っている創星神を目覚めさせた結果直後に創星神がポックリ……という展開も避けたい。


 神が死んでもこの世界がすぐに滅びるわけではないが、それでも滅びは緩やかに進行するらしいと聞けば流石に……ちょっと、という気持ちにもなる。


 一番いいのはこの塔から天界に流れる力によって創星神が目覚めてこちらとの対話をしてくれてとても穏便に解決、というパターンだが……まぁそう上手くいくとも思っていない。

 力を回復させる手伝いをしてくれたという点ではまあまだしも、それをしたのはこの世界の住人ではない。どころか異世界から来た存在だ。見ようによってはとても勝手な事をしたとされてもおかしくはないのだ。


 流石にこちらも異世界の創造主と事を構えるつもりはない。やるとしてもクロノがいないと厳しい気がしている。


 そういうわけだからこそステラたち自らが最上階を目指すのは最終手段、というわけだ。


 他の探索者がこの塔の最上階に最初に辿り着くのはまず不可能だろう。

 ヤクトリングの機能を全て解放したとして、それでも上に行けば行くほど魔物は強くなる。今現在この塔に足を運んでいる探索者たちを見ても、そこへ至るだろうと思える者は皆無だった。


 だからこそ、この塔は目印なのだ。

 クロノに対する。


 もし、いつか彼がこの世界に来た時に、すぐにわかるように。



 ――そんな感じの話を少し離れたところで聞くはめに陥っていたミーシャはふ、と遠い目をしていた。

 声に出して何かを言うなんて事はしない。今下手に声をだしてこちらの存在に気取られたら一体どんな風に絡まれるか予想がつかなかったからである。


 つまり、この塔って……旦那が迎えにくるためにわかりやすい目印、って言ってるも同然なんだけど……とんでもないスケールね!?


 声に出すつもりはないが、それでも口の端が引きつる。


 ミーシャはそっとその場を立ち去って、別の休憩所――まだ探索者が訪れてすらいないため暇をしている――へ向かい、そこのゴーレムたち相手に思った感想をぶちまけたのだった。

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