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街道の少年(3)

 「メス。」

 思い描いた通りの器材が手の中に収まる。これなら大丈夫だ。

 皮膚にメスを入れる。晩年は老眼と手技の衰えから、10年単位で手術はしていなかったが…

 「外科医としての血が騒ぐじゃないか。」

 あの外科医で働いた若い頃に戻ったようだった。控えめに言っても興奮を押さえられていない。

 だが、心の内は外にはださない。それがプロだ。目と手先は冷静に患者をとらえている。一つ一つの工程を丁寧にこなしていく。

 「やはり盲腸だったな。」

 数十分とかからず盲腸までたどり着いた。

 「よし、切除完了だ。あとは閉腹のみ…。」

 器材が踊るように作業をこなす。

 そして最後の糸を切り終え、手術は終了した。

 「オズワード様…。終り、ですか?」

 「あぁ、オペは無事終了だ。」

 「素晴らしいです!オズワード様!!」

 フランは、喜びながら部屋中をくるくる飛び回る。

 「喜んでる場合ではないぞ、フラン。これはまだ夢の出来事なのだろう?どうやって現実にすればいいのだ?」

 「はい。夢幻石の空間はこの石を砕くことで解除されます。そして、その瞬間に強く望んだ一つの事柄だけ現実のものとなります。」

 「なるほど…一つだけか…。分かった、フラン頼む!」

 「了解しましたーー。」

 フランが夢幻石を大きく振りかぶり、地面へと投げつけた。石はガラスのように砕け、この空間へ入ってきた時と同じように光に包まれた。


 目を開けると再び街道にいた。周りの状況から、少年を診察した直後と時間軸は直結しているようだ。

 母親は同じように心配そうに子供を見ている。子供の方は、痛がっている様子はなくスヤスヤと寝ているようだ。お腹に傷口は残っていない。押さえてみても痛がることもない。

 「オペは成功だな。」

 私はゆっくりと立ち上がる。自分の手を見ると柔らかそうな肉球がそこにはあった。あの姿はあの空間限定のものだ。名残惜しさと悲しさが心にのし掛かる。

 「あの…猫さん?オペって何ですか?息子はどうなったのでしょう?」

 恐る恐る母親が訪ねてきた。不審な猫が来てよく分からないことを言っているのだ、心配するのはもっともだろう。しかし、手術に関してはどう説明したら良いだろう?身体の臓器を切った!と、言ったらこの祈祷しか治療のない世界では不味い言いがかりをかけられるかもしれない。

 「……。この子の中で悪さをしていたものは取り除いた。もう大丈夫だろう。しばらくは、消化のいいものを食べさせなさい。」

 上手くは誤魔化せないが、このくらいの説明で良いだろう。

 「あぁ、ありがとうございます。猫の祈祷師様もいらっしゃるとは知りませんでした。ありがとうございます!」

 しまった!この説明と状況では、祈祷と思われても仕方ないか…。

 「私は祈祷師ではない。医師だ!覚えておきなさい。この世には祈りだけでは治らない病があるのだよ。」

 「イシ…?」

 分からないワードばかりが並び、母親の周りはクエスチョンばかりが浮かんでいた。

 「フラン…」

 「はい。オズワード様!どうかしましたか?」

 「この世界に私が必要とされている理由が分かったよ。祈りだけでは救われない人々を私は救おう!」

 私は一つの誓いを立て、再び街道を進んでいった。

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