街道の少年(2)
祈祷師が、延々と悪態をこちらに向けてくるがそれは無視する。そして、こちらへ言っても埒が明かないとみたのか野次馬どもに訴えにいった。私に直接危害を加えに来ない時点で彼の小物っぷりが分かるというものだ。
「あの…猫さん?息子をどうするつもりですか?」
母親が心配そうにこちらを見てくる。
「少し診察させてもらうだけだ。安心しなさい。」
母親はそれっきり話しかけては来なかったが、心配そうな顔は変わらない。
お腹を痛がっているところからみて、腹部の病気であることは間違いない。まずは、視診・触診・聴診を行う。
「あ…聴診器がないがどうすれば……ええい!仕方ない!!」
精度はないが、しないわけにはいかない。自分の耳を少年のお腹に押し当てた。だが、予想に反して聴診器を使うのと遜色なく音はクリアに聞こえた。
「猫になるというのも捨てたものではないな。」
動物の聴力に驚きながら診察を進める。
そして…
「(これは、間違いなく盲腸だろう。しかしどうしたらいい?治療の薬はない。手術などもってのほかだ。)」
診断はついたのだが、これから先の手だてがない。途方にくれているところにフランが声をかけてきた。
「オズワード様。何か必要なものが足りないというお顔ですね?フランにはわかります!!ここは、お任せください!!」
自信に満ちた声でフランは言った。そして、青白く光る石を取り出した。
「これは、夢幻石。空想の世界を作り出し、それを現実の世界へ顕現させるアーティファクト。」
フランが語り終わったと同時に夢幻石と呼ばれた石から眩い光が溢れだしてきた。
光から目をそらし、再び目を開けるとそこは別空間になっていた。
「ここは…」
青白い壁に覆われた部屋に私は立っていた。そして、少年・フラン・自分以外は誰もいなくなっていた。
「ここはオズワード様の夢の空間です。夢幻石が、思考に干渉して望むものを具現化してくれます。まぁ、この空間限定なのですが…」
「望むものの具現化…?」
何か想像を飛び越えた展開になってきたが、これでこの少年を救えるかもしれない。
「ここで、欲しいものを想像したらそれが現れるという理解でいいんだな?」
「はい。そうです!」
それならば、まず欲しいのが自分の身体だ。猫の手では手術など出来ない。
「…これは!!」
想像した通り、自分の身体が前世のような人間の姿に作り替えられた。
「これは凄い!ならば…」
今度は器具だ。メス、クーパー、メッツェン、コッヘル…想像した通りの器具が手の中に現れた。
「これならやれる!!ありがとうフラン!」
「エヘヘ。」
フランは、嬉しそうにもじもじしている。
私は少年の前に立った。少年は息はしているがよく眠っていた。
「ここで活動できるのは、私とオズワード様だけです。痛覚も何も感じません。そして、オズワード様が望んだ夢だけ現実に反映させられます。制約は勿論あるのですが…」
「それだけ聞けたら十分だ。さぁ、オペレーション開始だ!」