街道の少年(1)
森を出た私は街道を歩いていた。だが、その足取りは重い。
「オズワード様。元気出しましょう!あなた様の生前の行いは、とても素晴らしいものでした。その知識、経験…この世界でも必ず役立つはずです。」
こうやって、フランは励ましてくれているのだが…どうにもやりきれない思いが拭えない。
「そうは言うが…この身体では診療は難しいだろう。そもそも、どうして猫になっているんだ?」
「それは、フランが猫妖精。ケットシーだからです。」
「猫妖精…。」
そう言われて、まじまじとフランの姿を観察する。唐突な出来事ばかりで気付かなかったが、ぱっと見では20㎝ほどの小さな人間(蝶のような羽は生えているが…)にしか見えなかった。しかし、よく見ると頭に猫耳が生えていて、しっぽもあるようだ。
「……フランが、猫妖精だから召喚された私も猫の要素を受け継いだということで良いのだな?」
「そういうことになります。」
「…」
「……?」
少しの沈黙が二人に流れる。フランは、不思議そうにこちらを見ている。私は自分の肉球を眺めながらフランに問いかけた。
「…。猫要素…、私には強く現れすぎではないか?というか、全くの猫になっているのだが??そこのところをどう思う?フラン君?」
「…?とてもかっこいいですよ!人間感覚では違いが分からないかも知れませんが!猫界ではかなりのイケメンです!!」
そういうことを言っているのではないとフランに言いかけた時、街道の端での騒ぎが目に入った。人混みの中心で子供がうずくまって倒れており、隣で母親らしき人物が心配そうに身体をさすっていた。
「あれは…?」
ふわふわとフランがそっちへ飛んでいった。
「おっ、おい!フラン!!」
私も追いかけて人混みのなかに入っていく。
「うぅ、、痛いよ…。」
「コーネスト!あぁ、どうしましよう。先生!どうか…どうかこの子を救ってください!!」
お腹を押さえて痛がる子供、そして、心配そうに寄り添う母親の姿があった。遠くからは見えなかったが、近くに行くと人混みの中心にはもう一人男がいた。
「任せなさい。私の力で病など追い払ってやろう。」
母親に泣きつかれている男はやたら偉そうな態度で母親に語りかけていた。そして、目を閉じ手を少年にかざすとブツブツとなにか呪文のようなものを唱え出した。
「あれは何だ?」
「祈祷師様ですね。この世界の病の治療の殆どが祈祷による治癒ですから、今は呪術で治療中でしょうね。」
フランの言葉に私は少し憤りを覚えた。祈祷とは、治療し身体を癒すものではない!心を癒すスピリチュアル的なものだ!それを治すように患者を騙す行為は医師として許せなかった。
「オズワード様…?」
人混みを掻き分け、私は少年のところまで歩いて行った。
「なんだ、この猫!祈祷の邪魔だ!!」
こんな治療への信念のないものの言うことなど聞く必要はない。私は横でわめき散らす祈祷師の言葉など耳に入れず、少年の診察にはいった。