猫
耳障りな心電図のアラームがまだ耳に残っている。死ぬ間際は、聴覚だけ残るってのは本当だったんだな。息を引き取り、プツンと切れた記憶線がここに結び付いている。
目を開けると私は森のなかに横たわっているようだった。死の直前の体の不快感はなくなっている。
「やっとお目覚めですか?」
横たわっている俺の目の前を何か小さいものが横切った。
「こんにちは、前世では声しか届けられなかったので会うのは初めてですね。私はフラン。よろしくお願いします。」
目の前をフワフワと漂う妖精がこちらへお辞儀をしてきた。彼女が前世で語りかけてきた主らしい。
「君がここに連れてきてくれたのか?」
「はい、そうです。生前、お医者様として多くの命を救ってきたあなた様!この世界でもぜひその腕を振るってください。」
「もちろん。私はそのためにここに来たのだからな…」
私は手を付き、ゆっくりと起き上がろうとする。しかし、地面に立てた手に少し違和感があった。柔らかすぎる??地面の草のせいではない柔らかさがそこにはあった。そして、恐る恐る自分の手に目をやる。
「なっ、なんだ?これは…」
自分の手、それは紛れもなく猫の手であった。柔らかそうな肉球がついている。
「!!!」
私は目の前に見えた湖に向かって駆け出した。そして、水に映った自分の姿を見て落胆した。
「やはり、猫になっている。」
転生し、新たな生を受けたはいいが姿は猫になっていた。二足歩行は出来るようだが、手がこれでは患者を治療など出来るわけがないではないか?!
「オズワード様?どうしたんですか、オズワード様ーーー??」
フランが心配そうに私の周りを飛び回っている。だが、今の私にはそれにかまう心の余裕はない。せっかく医師としてまたやっていけると思っていたのに、猫の姿ではどうしようもない。
憤りとこれからの不安が心のなかに渦巻いていた。