いつでもどこでも短編小説『予言』
ある日ネット掲示板に予言者を名乗る人物が現れた。初めの数日のうちは巨大地震が起こるだの、大統領が暗殺されるだの、にわかには信じがたい予言のばかりを掲示板に垂れ流し大いに噂になった。
少し噂が落ち着いた頃には「これから起こる巨大地震は人工地震だ」とか「その大統領を暗殺するのは日本の工作員だ」などといよいよ信じられない予言ばかりを書き込むようになった。掲示板の利用者たちは「ネタ切れか」「調子に乗るな」などと口ぐちに言いあったが、彼はそのような批判には耳も貸さず予言を次々に書き込むのであった。
掲示板の利用者の中では彼の鼻を明かそうと住所の特定にあたる集団が現れた。掲示板の過去の書き込みはもちろんのこと、彼のものと思しきSNSのアカウントまで見つけ出して、特定班はついに住所の特定に成功した。
そしてリーダー格の人物が彼の家へ乗り込むことを決意した。地図アプリによると彼の家と言われているところはいわゆる高級住宅街にあり、決して豪邸というほどではなかったが、幸せそうな暮らしを送っているらしいということでより一層掲示板の人々の反感を買うようになった。
「まさかこんな所に住んでいるわけがない」
そういう者も多かったが、誰もが少なからず期待していたことも事実である。
しかし彼の家の前につくとその期待は大きく外れることとなった。なんと家があったはずの場所は更地になってしまっていたのだ。地図で確認すると確かにここに住居があるはずだ。不審に思ったリーダー格はちょうどそこへ通りがかった男にこの家のことについて尋ねてみた。聞くとこの家の人物は有名な議員の秘書で、男とは家族ぐるみの付き合いだったのだが、つい最近挨拶もなく引っ越してしまったようで誰も行方を知らないという。
このがっかりさせられる結末に掲示板では凸が怖くて夜逃げしたのだろうということで落ち着いた。