彼女との日常
昔からこうなのかこの時期、夕暮れが過ぎる秋の夜は、丁度よく冷える。
17時に指しかかろうと言う時には辺りはもう暗くなっていっている。
気温が下がれば下がるほど、布団に包まってる事が心地良くなる。
といっても、肌寒いだけで、口から白い湯気が出るほどの時期でもないのだけれど。
鈴の虫の音の音もどこからか、されど近くに居る事を示す様に鳴いている。
私はここにいるのだと。
人が歩くと刷れて鳴る、砂利の音。
あとは、鈴の虫の音と、俺と彼女と。
ただそれだけ。
大きく広がる闇の中に、たった二人の、二人だけの時間が広がる。
そしてたまに、冷たい隙間風が駆け抜けていく。
昼間は綺麗な緑色の金網でできたフェンスも、この時間は切なく光る街灯に照らされ、一層緑が濃くなった様な、青黒い姿に映る(見える)。
真っ暗な闇にほんの小さな光を灯す、ポツンと立った街灯の暖かな光は、暗闇と言う世界では、心の支えと成って道を示してくれる。
フェンスの奥は危ないから入ってはいけない。入らないようにしているから、フェンスがある。
また向こうからも入ってこないように。
緑のフェンスは、昼間は向こうの景色に同化する。
同色の色で塗られているから。
先はあたり一面の薮だ。
竹が生い茂っていて、その奥は何があるのか全く見えない。
でも、街灯に照らされた夜のフェンスはそれとは違う緑でいて、はっきりと境界を区切っているのがわかる。
ここは昔から何も変っていない。
この薮の不気味さも、何もかも昔のままだ。
子供達が野球にも使う大きな見渡しの良い場所。
端には大きなナイター用の照明も付いていて。
照明が点かない時にはただの暗闇が広がっている。
周りには小さな街灯があって、その街灯が広場の道までを示している。
その街灯の光を頼りに俺たちは歩いていく。
少し進んでグランドの中に入るとすぐ傍に、休むため腰掛ける長い椅子が置いてある。
俺はそこに掛ける。そして彼女もその後に座る。
それからしばらく話ていると彼女は立ち上がって、歩いて行ってしまう。
話している最中にてくてくと。
楽しそうに歩いていくんだが、また違う日には辛そうに歩いていくときもある。
時には悩みながら歩いていくように見えたこともあった。
二人の距離は開いていく。
当然、会話は相手に届ける為に大きくなった。
その距離が離れれば、離れるほどに。
届けたいと言う思いの反響と共に。
石を投げる.
俺の会話に付き合いながら、彼女は明かりの無い、暗闇の方へ向かっていく。
少し歩いて行くと、彼女は止まって屈みだす。
どうしたのだろうか?急に気分でも悪くなったのだろうか?
いや、先ほどの彼女から、そんな感じは全くしない。
「どうしたの?」
彼女の行動に驚くように俺は駆け寄った。
はじめは、泣いてしまっているのかとすら考えた。
何かを我慢していて、涙は見せたくないからと。
そう強がっているいるのではないかと
でも……
しばらくしてから彼女は答えた。
「うん?石を拾っているの」
違った。
彼女は屈んで石を拾っていた。
そうして、拾った石を投げ始めた。
これが彼女と話す時の俺達の会話のスタイルになる。
そしてたわいも無い話がまた始まる。
いつも徒然なるままに。
彼女との会話は、楽しい。
と言うよりは、その日の出来事を整理できたり聞いてもらえたり、すごく落ち着いてのびのびとした話ができるからだ。
心安らぐ時間と言う感じ。
なので居心地が悪いとかつまらないとかそう言った事はなく、一日を振り返れる時間にもなった。
その為もあってか、これまでは歩みゆく彼女のそばに歩み寄って話したが、それも今や薄暗くかすむ彼女に、いつしかベンチに座りながら話すようになっていた。
立ってずっと話しているのは疲れるからだ。
彼女と話す時、こうしてベンチがあればすぐに腰掛けるようになったのはそのせいかもしれない。
俺も歳を取ったものだ。
そして、『石を投げる』
それが彼女の趣味なのか、癖なのか。
こうやって彼女と話すといつも石を投げなげだす。
コトン。
と投げた石が落ちて砂の砂利に転がる。
そんな音がコトンッ、コトンッ、とリズムを刻む。
時にはリズムを乱したりして。
この演奏は不規則にメロディを刻んで、そして、和みをくれていた。
石を投げながら会話をする女の子。
変わってる。
真剣に話していても聞いているのか、聴いていいないのだか、飽き飽きしたのか、考え出したらもうわからなくなってくる。
そもそも何で投げているのか…
ただ、石は投げながら、ちゃんと言葉は返してくれるのが唯一の救いだった。
これで返答がなければはたから見れば単なる俺の他人事。
一人でべらべら語りかける奴と石をひたすら投げ続ける頭のおかしい二人組に必然的になってしまう。
普通の人では嫌気をさしてしまうかもしれない。
そりゃそうだろう。
話しているのに、傍ら石を投げ続けながら話さられるのだから。
完全に意識はあっちだ。
ただ、俺にはそうした現状が当たり前になっていて、そんな会話のスタイルが普通だった。
彼女は一生懸命だったから。
そしてそんな彼女の投げ続ける姿を見守りながら俺は時たま声を掛け、また彼女の投掛けに反応する。
うっすらとしか見えない彼女の姿に。
綺麗な夜空の、星が瞬く一夜の刻の下で。
なぜ彼女が石を投げるのかは全くの謎だ。
分からない。
他の人と話してる時もまさかこんなのなのだろうか。
こんなに知的に見えて。
まさか、そんなことは無いだろう……。
そして二人はいつも夜空の輝く星空を見上げる。
この街は空気がとても澄んでいていつも星が輝かしく見える
今日もとても綺麗な星空だ。