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九龍伝説  作者: ゆめ
8/11

暗黒時代の始まり

 闇を照らす紫の炎は王の足元を照らすため。

 闇に蠢く漆黒の鎧を持つドラゴンは王の身を護るため。

 この冥界にあるモノ全て、王の為に存在する。


 王が外界から帰還した事を告げる為、ブラック・ドラゴンが鳴き声をあげるとパラパラと石が崩れ落ちた。

 主人の気配にケルベロスがピンと耳を立て、僅かに目を輝かせた。

 二匹のケルベロスが王の前に現れ、安全を確認しながら王座への道を辿る。

 死者もしばし仕事の手を止め、目の前を通る人物のために道を空けて地面にひれ伏した。


 ただ一つ気がかりな事があった。

 いつも堂々としている王の表情が抜け落ちていたのだ。




 悲報は突然だったが、どこか『とうとうか』という想いがあった。


 神界の要であった主神が反逆者の手にかかり死んだ。

 神界が闇に堕ちるか否かの瀬戸際の最中の出来事。


 堕ちた神はそのまま抱え込まれ、未来を信じた神は神界を捨てて姿を消し、一部の神は逃げる事叶わず神界に囚われた。

 辰王の主もまた、神界を捨てて姿を眩ました者の一人。

 生死は不明、この先生きて会えるかは分からない。


 主の守護なくして冥界を護る事は出来ない、ここに戻ったのは『もしもの時は』と告げられていた主からの言葉を遂行するため。


「首謀者はファゼル……神界を侵食していた闇もあの男が原因、黒幕は別にいるでしょうが、今追及した所で裁かれるのはこちら」


 主神が殺されたあの瞬間から全ての運命は狂った。

 正義も善も全て、敵の手の中。


 いつから堕ちていた。

 どこから間違えていた。

 誰から唆された。


 考えても無駄だとは分かっても考えずにはいられなかった。

 これから世は闇に覆われるだろう、善は生き辛い世の中になる事は間違いない。


「冥界は死者の旅立ちを守る砦、悪神の手に堕ちるわけにはいかない。ケルベロス」

『っは!』

「我が主の意向により、冥界の支配権は天上界に預けます。私はこの地を去る。お前達は冥界に残り死者を守り通すのですよ」


 頭を撫でられたケルベロスがくぅんと鼻を鳴らす。


『死者を地上に送る役目は? あれは我らではできません』

「私がこの地に戻るその日まで冥界の事は彼らの選んだ王に任せる」


 辰王はファゼルに膝をつく事を拒否した。

 反逆者として追われようとも、この身が敵の手に落ちれば死者の命運が敵の手に渡る事になってしまう、それだけは避けねばならなかった。


「私がこの地を去った事はギリギリまで伏せておくように、私は反逆者として追われる。冥界は竜族の支配下のもとファゼルの手からは逃れられるだろう、ケルベロス後を頼んだよ」

『辰王様……』

「地上で暴れるから死者から私の話を聞くといい、そして時々、私の事を思い出しておくれ」


 寂しげに微笑むと辰王はドラゴンの背に乗った。


「また会おう」


 バサッとブラック・ドラゴンが翼を羽ばたかせる。


「天上界へ向かうぞ」


 遠ざかる闇の世界。


(いつか、必ず)


 胸に堅い決意を抱き、辰王は冥界を後にした。

 辰王の記憶は冥界で始まり、終わりもこの地で迎えると思っていた。

 だけど今は……もう分からない。

 願うは、この時代を生き抜く事だけ。


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