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ジルキアー慈流紀亜ー  作者: うるし野
1/2

鐘の音の響く夜に

初作品。

1話が長かったので、2話に分割して再投稿。

 静寂を振り払う大きな鐘の音で俺は目を覚ました。ベッドから立ち上がり窓を押し開けると、先程まで窓ガラス越しに聞こえていた大鐘の音がいっそう迫力を増して夜風と共に入り込んできた。前方の物見櫓に立つ見張り兵が


「敵襲ー!敵襲ー!」


 と静かな街に響き渡るよう大声を張り上げ、大鐘を鳴らしている。窓下を見下ろすと、周囲の家屋から人がぞろぞろと出て来始め、街に明かりが灯り、すぐにあたりは人々の恐怖と混乱の声で騒がしくなった。


 この、軍人のほとんどが住まう広大な兵屋敷内でも、隣室からは物音が立ち始め、廊下にも足音が響き始める。窓から遥か遠方を見ると辺境の小さな村の方角から煙が上がり、炎の赤と灰黒い色が混じり合っているのが小さく見えた。どう見ても狼煙のろしといえるものではない。


 既に敵の兵が領土内に攻め入っている。事態を察知した俺は急いで寝巻きを脱いで脱衣所に放り込むと、タンスから黒を基調とした制服を取り出す。それに着替えると、掛けてあった黒の光沢の軍服を羽織った。そのまま総指揮官である父に電話をするため、部屋の隅にまで行き、掛けてある受話器を手にした。


「父上、もう遠くの村が燃えている。敵の規模は判明しているか。」

「ジルキアか、指示を出す。すぐに降りて来い。」


 父の声は、この緊急事態にも関わらず低く落ち着いていた。


「もう準備はすんでいる。軍隊と牛馬を整えてくれ。すぐに戦場へ出る。」

「落ち着け。詳しい話は俺の部屋でする。司令室へ来い。」


 こちらの返事を待たずに電話は切れた。もう一度窓の方へ歩み寄り、遥か遠くに位置する村の方へ目をやると先程まで小さく見えていた炎がやや範囲を広げているようだった。敵の規模は分からないが、資源と物資を納めることを条件に締結した不可侵条約によって数十年の間休戦状態にあった帝国が急に攻めてきたということは、大規模の軍勢でこの国を落としに来ているに違いない。


 帝国は、小国にも関わらず技術だけが目覚しく発展したこの国が邪魔になったのだ。遠くの村を蹂躙している敵軍も、やがてこの地にまで届くことは時間の問題だが、絶滅だけは避けねばならない。少しでも民を逃がして、被害を最小限にしなければならない。それが軍に務める俺の使命だ。俺は窓を閉め、一階の司令室へと向かうべく部屋から廊下へと出た。


 もうこの部屋には戻ることもないかもしれないと思いながら、501と書かれた扉の側そばの在室通知版を裏返し不在通知にし、そのまま中央階段へと歩を進める。すでに邸内は慌ただしく人が往来していた。廊下から出て、広い中央階段へと差し掛かる手前まできたところで顔も知らぬ若い下級の兵に呼び止められた。


「ジルキア様、指揮官殿がお呼びです。」

「わかっている。今向かっているところだ。」


 その兵の軍服の右腕には丸型の印が横に3つ並んでおり、下級の中では上等の立場であることを確認した俺は、今の状況を彼に聞くことにした。


「今、兵への指示はどうなっている。奇襲隊はもう出ているのか」

「今は近隣の住民の避難の為、多数の兵が誘導にあたっております。また迎撃、防衛のための準備も行っており、偵察隊は出陣の命令が出ているとのことです。奇襲隊については分かりません」

「そうか、わかった。」


 若い兵は軽く会釈をすると、身体を反対に回転させ駆け足で階段を上がっていった。それを見て、俺も急いで下りの階段へと足をかける。


 それにしても……

 焦げ茶と黒の強い赤で彩色された階段を駆け下りながら俺は考えていた。なぜまだ奇襲隊に指示が出ていない?こういう緊急時の為に、いつでも出撃できる奇襲部隊と高機能武具は常に用意されているはずだ。まさかとは思うが・・・。


 俺は最悪の可能性を危惧しながら、開けた通路へと出ると、老朽化した壁に1階と大きく書かれた廊下を右へ曲がり、更にそこから奥へ進んだ先にある司令室へと向かった。

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