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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編

彼は異世界に転生したが、果たして幸せだろうか?

作者: 転生したら蛹はヤダ

思いついたので、適当に書いてみた。

 異世界に転生する。異世界に召喚される。女の子が空から降ってくる。特別な力に目覚める。非日常に巻き込まれる。

 昔は起こってほしいなぁ、なんてぼんやりと頭の隅で考えていた。

 もちろん本気にはしていないし、ありえないことだとわかっていた。

 それでも起こらないかなぁ、起こってほしいなぁ、とふとした時に思っていたのも事実。


 そして、そんな俺は物語の中のようにトラックに跳ねられて死んだ。

 かっこよく誰かを助けてなどではなく、美人に見惚れながら歩いてたら死んだのだ。

 ただの不注意である。


 そんな俺だが、奇跡的なことに転生した。

 最初は転生したなんてわからなかったが。


 体が動かしにくい、声が変、周り暗い。

 あ、トラックに轢かれてヤバいことになったんだ。


 そう思った。

 でも体はどこも痛くないし、動かしにくいってだけで体は動くから、とりあえず起きたよーって暴れてみたわけ。

 そして暴れてるうちに思った。

 腕、短くね?

 頭の頂点に手が届かないほど腕が短くなっていた。

 転生とかあったらいいけど、絶対ないだろうなぁ、と思っていた俺は本気で困惑した。

 もう混乱して、結局逃避するために寝た。


 最初に目覚めた時は夜だったが、次に目覚めた時は朝になっていて、赤ん坊に転生したことがわかった。

 母親らしき外国人がやってきて、ご飯をくれたから。

 そのご飯というのが、おっぱいだ。

 高校生であった俺にはなかなか恥ずかしかったが、美味しくいただいた。

 赤ん坊のときはほとんど寝て過ごしたが、そうでない時間は情報収集に費やす。

 物語のように言語が最初からわかるわけではなかったので母親の言葉を聞き、何を言っているか感じとる。

 抱っこされている間、ここがどんな場所であるかを見回す。


 わかったことは、キッチンはまだかまどを使っていて、冷蔵庫なんて便利なものはない。リビングらしき部屋も今のところ本も見当たらず、夜はロウソク。

 窓からチラリと見えたことがあったが、馬車が走っていたし、あまり発展はしていない世界なのだろう。


 家族のことだと、まず母親がいて、父親がいて、俺はアレスと呼ばれているくらいしかわからない。

 兄弟は余程年が離れているとかでない限りいないと思われる。


 英語が苦手だった俺でも、一年経てばある程度言葉がわかるようになってくるもので、母さんのことを「かあたん」みたいなニュアンスで初めて喋ってみたら、それはもう喜ばれた。

 愛情を注いでくれる母さんが凄く喜んでくれたものだから、俺も嬉しくてなんども「かあたん」と言ったものだ。


 ……それからしっかり喋れるようになってきて、歩けるようになって、母さんの手伝いができるようになって、父さんが門番をしていることを知って、俺は剣術を習うようになっていた。


「アレスは将来何になるのか自由にしなさい。でも魔物に出会っても大丈夫なように、剣の腕を磨いていて損はないぞ」


 父さんはそういってゴツゴツした手で俺の頭を優しく撫でてくれた。


 この世界に魔法があることを知ったのは十歳の頃だった。

 魔物がいるらしいからそんな気がしていたが、怪我をした人の傷がみるみる回復していくところをみて、初めて魔法の存在を知った。

 俺は興奮のあまり、魔法を使った人に弟子入りを志願した。

 その人は快く受けてくれて、俺は魔法を習い始めた。

 剣と魔法の技術を習得することに夢中になっていた。

 友達なんて出来ず、ただ鍛錬する。

 あの頃は本当に楽しかった。

 友達がいなかったのは寂しかったけど。

 成人したあとは、父さんと同じように兵士になり、いつかは門番になるつもりだった。

 勇者になるわけでも、英雄になるわけでもない。

 強くなるために努力して、でも伸び悩み兵士となったため出来た仲間に相談したりとほぼ現地民だ。

 前世の記憶を持つこと以外はごく普通過ぎてびっくりだ。


 いつのまにか門番となって街の入り口を守るようになっていた。

 そのころ、よく門を出入りするの商人の娘と仲良くなり、彼女とお付き合いして、最終的には結婚した。

 娘と息子が生まれ、家族のために働いた。

 子供は可愛かった。

 でも友達も兵士になるまで出来なかった俺は、子供と遊ぶのも一苦労であった。

 最初に生まれた娘が五歳になったころ、母さんと父さんが同じ年に亡くなった。

 優しかった二人が旅立って悲しかったが、二人が幸せそうに笑って逝った。

 ……俺はしっかり親孝行出来ただろうか。


 時間はあっという間に過ぎていき、子供が成人したころ、俺は病気になった。

 魔法を使っても治すことは出来ない病気のようだ。

 俺が不器用なせいで子供たちは俺に対して素っ気なく、嫌われているのかと思ったが、そうではなかったことに気がついたのも、病気になったお陰だったとは皮肉なものだ。

 治らない病気と知った時、娘も息子も泣いて俺に死なないでと言ってくれた。

 まだ、成人して間もない二人は、親孝行も出来ていないんだと言って。

 そんなことない。

 生まれてきてくれて、無事育ってくれて、俺は幸せなんだから。

 父さんも母さんも死ぬ時、こんな気持ちだったのかな。

 そして、妻と娘と息子に見守られながら俺は死んだ。

 少し早死にした気がするが、それでも幸せだった。



 しかし、これで終わりではなかった。



 俺はまた転生した。

 二度目の転生をするとは思っておらず驚いたが、それでも今世も頑張って行こうと張り切った。

 今度は人型のロボットが生活の中で普通に活動する世界だった。

 また赤ん坊になってしまった俺は、言葉を覚えることから始め、ロボットの魅力に取り憑かれていった。

 この世界での両親の仕事もロボットに関することだったので、沢山のことを教えてもらった。

 難しいことも沢山あったが、地球のアニメのような巨大ロボットも作れるこの世界に魅了され尽くしていた。

 俺は幼い頃からロボットの設計や開発をする仕事に就き世界に天才だともてはやされた。

 綺麗な奥さんももらい、可愛くて俺よりも頭のいい天才な娘も生まれ、とても幸せだ。

 寿命が来るまでロマンを追い求め、孫も見ることができた。

 そして、寿命で死んだ。



 またまた転生した。

 今度は女の子として。

 転生したことについてもまた? と驚いたが、それよりも女の子ということに驚いた。

 いや、男女いるのだからどちらに生まれてもおかしくないのかも知れない。

 そして人間でもなかった。

 どうやらエルフのようで、耳が長い。

 また言葉を勉強して、話せるようになり、村のお手伝いをしていた。

 しかし、生まれてからわずか四年。

 村が魔物に襲われた。

 見た目は熊のような、けれどそいつらは群れで行動し、背中にはたてがみがあった。

 目は赤く、額には琥珀色の宝石が埋め込まれている。

 ガルルルルと恐ろしい唸り声。

 また一人、また一人と腕を捥がれ、頭を齧られていく。

 最初の転生で学んだ魔法は使えるだろうか。

 火魔法を魔物に向かって放つ。

 皆、それに驚いたが、魔物は倒れることはなかった。

 それどころか、火傷一つしていない。

 剣も四歳の子供じゃ役立たずも良いところ。

 攻撃をした俺は魔物に敵意を向けられ、すぐに食い殺された。



 それから何度も転生を繰り返した。

 物語的になら、いつか回数制限が来て、転生も終わるだろうと楽観視していた。

 だから何度も転生をし、その世界を楽しく生きた。

 転生五回目、転生十回目、二十回、五十回。


 段々と気がづき始めた。

 この転生は思った以上に続いている。


 何度も転生していくうちに、俺は恐怖を覚えた。

 幸せな人生をずっと歩んでいたら、恐怖はなかっただろう。

 でも、中には親を殺されたり、王族や貴族となったり、魔物として生まれたり、裏社会に関わる家庭に生まれて暗殺の仕事を無理矢理させられたり、拷問されたり、奴隷となったり……幸せな人生だけではなかった。

 もう生きたくない。

 人生は一度でいい。

 頼むからもう、記憶を消してくれ。


 それでも転生は続いた。

 逃げたくなって自殺しても転生。

 転生が嫌で回数制限が来るまで自殺しようと、赤ん坊のままでしばらく自殺を繰り返した。


 でも終わらない。


 だから俺は転生を止める方法、記憶を消す方法を探し求めた。

 今までは何故か消えない記憶は便利で、とても助かった。

 でもそれが段々と憎くなっていった。

 俺の記憶もおかしかった。

 一度見聞きしたものは完璧に記憶するんだ。

 何年、何百年たっても、今まで生きてきた記憶の全てを覚えていた。

 唯一、地球のころの記憶だけは赤ん坊のころ、子供時代、いつも過ごす何気ない日常の記憶を忘れていた。


 何度も死んでは転生する。

 ほとんどは人に近い生き物として生まれたが、たまに動物や虫、植物などにも転生した。

 物語の中のような、勇者にも魔王にもなった。

 世界を救っても、世界を壊しても、転生は終わらない。

 そして何度も転生していくうちに、神の存在を知った。

 神はいろんな世界にいて、その世界を管理していた。

 俺は天使として生まれ、神に仕えながら魔法を極めた。

 その魔法を認められて、神と話せる機会がやってきた。

 俺は話した。転生を続けていることを。

 だからもう止めてくれと。

 神は転生を止めてはくれなかった。

 どう止めればいいかわからないらしかった。

 だから俺は俺を殺してくれと頼んだ。

 存在ごと俺を消してしまえば、もう転生しないだろう。

 でも神は俺を殺せなかった。

 俺は転生を繰り返しすうちに、長い年月鍛錬をして強くなりすぎていた。

 そのときの俺は強くなりすぎていることに気がつかず、神が本気を出していないのだと思い、神に攻撃した。

 俺は神を殺してしまった。


 神さえ俺を救ってくれなかった。

 魔法や科学を研究して、俺は俺が消えるための方法を探した。

 俺と同じように転生し続けている人も探した。



 どれだけ転生を繰り返したか。

 千を超えたあとから数えなくなった。

 記憶を辿れば数えることは出来るだろうけど、数えるのも大変なほど転生を続けてきた。

 転生を止めたい。

 もう生きたくない。

 何度願っても、研究しても、探しても、終わることはなかった。

 ああ、助けてくれ。

 誰か助けてくれ。


 とっくに限界は超えていた。

 限界を超えても、気が狂っても、精神が壊れても、残酷なまでに転生は続く。

 だから進むしかない。

 転生を止める研究を続けるしかない。

 少しでも可能性があることなら全て試す。


 もう、終わりたい。




 〜〜〜〜


 ああ、また転生してしまった。

 前回の研究は失敗した。

 また一から研究だ。

 今度はどんな世界だろうか。


「あらぁ。起きたんでちゅかー?」


 優しそうな若い母親が俺を見ていう。

 その隣にいる父親が恐る恐る俺を覗き込む。


「ラセカ。おはよう」


 父親も声をかけてきた。

 この世界には来たことあるな。

 言葉がわかる。

 前にこの世界に来た時、俺が作った拠点は残っているだろうか。

 ……まあ、そこには成長するまで行けないか。


「きゃっきゃっ」


 赤ん坊の真似をして両親を喜ばせる。

 もう手慣れたものだ。

 さっさと体を動かせるようにして、また転生を止める研究をしよう。


「カイル。あなたの弟よぉ」


「……こ、こんにちは。ラセカ。お兄ちゃんだよっ!」


 今世では兄もいるらしい。

 そんなのどうでもいいが。

 適当に笑顔を見せておけば満足するだろう。


 ……さて。

 そろそろ寝ようか。

 赤ん坊の体はすぐ眠くなる。

 寝ること以外にほとんど出来ることもない。

 前回、この世界にいた時の記憶を引っ張りだし、地図を思い浮かべながら目を瞑る。

 この世界では、まだ行ったことのない場所があっただろうか。

 新しくなっている場所があるだろうか。

 俺の転生が終わるための手がかりが、あるだろうか。

 早く転生を終わらせたい。

2019/4/23 1回目の転生で子供が出来た後のエピソードを追加しました。2回目の転生でのエピソードを追加しました。3度目の転生でのエピソードを追加しました。

2019/4/25 ラスティという名前をラセカという名前に変更しました。

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