~逃げられない~
私、立花園香には奏渚という可愛い恋人がいる。
渚は世間で言うところのうさぎ系男子である。そして私はペンギン系女子だ。
出会って早一年経つのだが、渚の寂しがり屋な性格はとどまることを知らず、私が仕事に行っている間、奴はそこら辺でナンパしてきた女の子を私たちが同棲している家に連れ込んで致しているのだ。
最初の頃は仕方ないのかなと許していたけれど、このバカは浮気の限度というものをまるで知らない。
「うんうん!ミカちゃん、また今度遊ぼうね!じゃあね~」
「…」
渚は通話を終えると私の方へ向き直る。
「で、浮気?だっけ。僕してないよ~」
「知らばっくれないでくれる?もう、別れましょう。私たちは終わりだわ」
もう何度目かの浮気かもわからない。もしかしたら、軽く50は越えているのかもしれない。
50も越えるまでなんで放置していたの?さっさと別れれば良いのに。と友達に正論を述べられるが、これも悲しい浮気されても許してしまう奥さんの心理に近い言い訳なのだが、聞いてほしい。
渚は飽き性なのだ。どんなに浮気をしても、結局は私の元に帰ってくる。
だが、結婚適齢期となった今、私はいつまでも渚の浮気を許すわけにはいかんのだ。
「さよなら」
私は予め準備をしていた荷物をクローゼットから取り出して、自室から出ようとした。
「待って」
その時、突然腕を引っ張られ、床へと押し倒された。
「ダメだよ、園ちゃん」
目の前には渚の意地悪な顔があった。
ああ、この顔知ってる。
これは私が初めて渚の浮気現場を目撃したときにこちらに向けてきた表情だ。
「園ちゃんはボクから逃げられないんだから」
私はその惚れ惚れする美顔を見て悟った。
つくづく、私はこの男に惚れているんだなと。