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今度はハピナの

 宿舎へと入り、ハピナの部屋に集まるまでの間、私は奇異と嫉妬の眼差しに晒された。


 そりゃ、ジョセフみたいな美形に二日続けて構われたのだ。くだらない妬みぐらい買うだろう。


 ただ、私が最も困ったのは別のことである。


「なんで言ってくれなかったのですか?」


 テーブルを挟み、対面からハピナが問い詰めてくる。


 このむくれた表情の義姉が、かなり厄介だと思う。


「や……ジュペッテの家に立ち寄ったついでだったから……」


 言い訳を述べるも、ハピナは納得してくれない様子。


「一人で、勝手にご挨拶へ行ったことは、まだ良いのですッ。私の所為で、マリオさんとの関係がよろしくなくなったので強くは申しません。しかし、先のMr.プロフとのことは教えてくださっても良いのではないでしょうか? 何か酷い目に遭ったのではと、一日中心配したのですよッ?」


 珍しく、ペラペラペラペラ捲し立ててくる。


 怒っている理由は、恋の病を黙っていたことのようだ。なかなか言い出せることでも無い。


 助けて、ジュペッテ!


 いつもならば私達のこじれた話し合いを仲裁してくれるのだが、今回ばかりはハピナの味方らしい。


 テーブルに置かれたアタッシュケースを一瞥(いちべつ)して、肩を竦めて見せるジュペッテ。整えられたベッドへと体を伸ばして、我関せずを貫く。


「ジュペッテ、さん……?」


「アルシャ、ちゃんと聞きなさいッ」


 バンッ。


 テーブルが叩かれる。


「はッ、はい!」


 今回は本気で怒っているようだ。二人共。


 ジュペッテは、昨日の会話で多少なりとも事情を察しているようだ。原因は、大事な衣装を忘れて返ってきたことだろう。


「ごめんよ……。成り行きだった上、気持ちの整理が着いてなかったんだ」


 言い訳にしかならないだろうが、情状酌量はいただきたい。


 余計なことで憂う気持ちにさせてしまったことについては反省している。


「……はぁ。まぁ、家族とは言え相談できないこともあると思います。好いた方に会いたい、どうすれば良いのか、悩むのは同じですからわかります」


 ハピナは困ったような顔をして、手を取ってくる。


「しかし、物事が覚束無(おぼつかな)いようなのは違います……」


「う、うん……。これからは、もう少し相談するよ。心配かけてごめんなさい」


 久しぶりに、心から謝罪した。


 昨日の、なんとも言えない笑顔や言葉の間に、それだけのことが隠れていたのである。


 嬉し涙以外流させないと誓った矢先、こんなことで泣かせるところだった。


 この落ち込んでしまった空気に、ジュペッテが目を光らせて何かに反応した。


「ハピナも、恋の悩みなのですねぇ? これは、私達がなんとかして上げなくてはいけませんよぉ!」


 思わず漏らしたであろう言葉。


 ハピナはハッと口を抑えるが、既に遅い。直ぐに私あたりへ投げ出すだろうが。


「マリオ=コーポ氏とは険悪な状態ということですから、Mr.ビッグブラザー・コーポのことですねぇ。日勤がメインですので、今から外出許可を取って迎えば本署にいらっしゃるでしょぉ」


「どうしてそんなことを知ってんだ?」


 保安隊の勤務状態なんて、市議の娘である私らでさえ知らない。


 ジュペッテ、お前はどうしてそんなことを? 劇団員達によるネットワークでもあるのか?


「長年の経験と取材のたまものです」


 質問に対する答えはそれだった。


 どことなくはぐらかされているような気はする。


「う……今なら、間に合う……のですか」


 ハピナの気持ちが揺れ動く。


 ジュペッテは、私とアタッシュケースを見比べる。ハピナに気づかれないよう、アイコンタクトで訴えてくる。


 やっぱり私に投げ出すつもりらしい。


 もう二押しをしろと。


「き、気になるなら行って来いよ。応援するぜ?」


 まずひと押しで、ハピナを出掛けさせるよう説得する。


 昨日のこともあるので、私が動かなかったらウソになる。ウソなんだけど。そんなことは言えないから頑張るしかない。


 背中を押されたハピナは、緩慢な動きではあるものの服装を決めに移る。


「えっと、どの服が良いでしょうか?」


「あまり気合を入れすぎると、わざとらしいのでシックな物にするですぅ。けれど、肩や腰、足はそれなりに見えるのがお勧めですよぉ」


 流石は劇団員だ。ハピナの気が変わらない内に、テキパキと衣装を決めさせる。


 それが終わると軽く化粧を施し、さっさと外出許可を申請受理。


 後は、街でお出かけ中に偶然立ち寄ったように振る舞って遭遇するだけ。


 私は少し遅れて出て、昨日借りた衣装で恋のつなぎ役をすればオッケーってわけだ。


 「遠くから見守っているから」とでも言えば、行動の自由は利くだろう。


 ジュペッテはというと。


「私は、今日も稽古があるので失礼するですぅ」


 などとほざいて離脱していった。


 言い出しっぺの法則って、なにそれ美味しいの? 状態……。


 まぁ、情報面や衣装やら私にはできないことを協力してくれたので良しとしよう。


 こうして私達は街へ繰り出し、アッカーム中央にある保安隊本署へと向かった。思いつきの作戦だったが、意外にも上手くいった。


 途中までは、フランシズさんとの遭遇や会話など諸々は順調だった。


 同僚の目も(はばか)らずに鼻の下を伸ばすかと思っていたが、フランシズって本当に硬派だわ。ハピナも、舞い上がらずにキチキチと振る舞うんだよ。


 そう、途中までは本当に上手くいっていた。


 時間は、学校を出たあたりから二時間ほど進む――。


「マジかよ……。銃なんか使ったら、最後まで転げ落ちるだけだぞッ」


 声を潜めてでも、声を荒げたくなる程度に大変な方向へと事が進んでしまった。


 順を追って説明すれば、ゴロツキどもが銃でハピナ達を脅し、人気のない路地裏へと連れて行った。それだけだった。


 マリオに(そそのか)されたゴロツキ達だろう。


 まだ素手ゴロならばマシだったにも関わらず、何を焦ったのか暴挙に出たのである。


 拳銃を持ち出して来やがった!


「とりあえず……」


 いつでも飛び出して行けるように、私は衣装を被って準備をしておく。


 フランシズの金髪とブルーアイ、それとハピナの容姿も、目立つので目撃している通行人は多い。薄汚れた裏路地に連れて行かれたのは、保安隊に直ぐ伝わるだろう。


 だから、本当にギリギリでない限り私は出ていかない。


 助けが来るまでは、金髪を角刈りにした質実剛健とでもいうようなフランシスが、上手く立ち回ってくれることを願う。


 今でも、その大きな図体でハピナを守ってくれている。


 ゴロツキの数は以前と同じ八人で、銃を持っているのが内二人だ。


 銃持ちゴロツキをAとBで呼称するが、どちらもフランシズの正面なのが助かる。


「悪いね、お二人さん。デートの途中でこんなところまでご足労願って」


 まずゴロツキAが時候の挨拶を述べる。


「こんなことをして、ただで済むと思っているのか? 今なら間に合う。解放しろ」


 フランシズも、これまた100点中満点の返事だ。


 それで解決したら、立てこもり事件は簡単に終わるだろう。


「悪いが、そっちのレディには生きていられちゃ困るんだ。あんたにだって、俺達がどんだけ辛酸を舐めさせられたかッ」


 ゴロツキBが目的と心情を吐露してくれる。


 二人が一緒に居る今が、ゴロツキ達にとってチャンスということか。


 だからって、殺してどうするというんだ? マリオとのつながりだけじゃなくて、もっとヤバイ何かを隠してるのか?


 疑問が渦巻く中、拳銃のハンマーが下ろされる。


 力のこもり方が本気だと気づいた。


 リボルバーのドラムが回転する僅かの間に、物陰から飛び出した私はゴロツキAとBの腕を跳ね上げる。


 二本の腕がへし折れ、銃は空を舞った。

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