第六話
「クレマンが重い病…」
食堂を出てから、ピィは一人ごちた。
食堂での話を聞いてから、ピィはずっと考えていたようだ。
それはそうだ、少しづつ体が動かなくなり、最期には人形のように動かなくなる病気なんて考えただけでも恐ろしい。
しかも、その病気にかかったクレマンと言う男はピィとは親しい間だったらしい。
「クレマンは…まだ平気なの?」
人間としての意識が保たれているの?
ピィの心の声が聞こえた気がした。
「まだ。今のとこは…」
「そう、その病が進行すれば…。この国は…。やはり女王陛下が心配です、アイトさま、ひとまず女王陛下の元へ行きましょう」
走り出そうとしたピィは石に躓き、大袈裟に転んで動かなくなった。
「ピィ?」
「く、く、苦しい…。もう動けない」
そりゃー、あれだけ食べればそうなるだろう。
自分より遥かに小さいピィは次から次へと肉料理を平らげ、挙げ句の果てに僕が残した料理まで食したのだ。
「仕方ないなー」
僕は倒れたピィの前にしゃがこみ、ほらと、
「おんぶしてあげるから、乗って」
と言うと、ふわーと嬉しそうに笑い、僕の背中にぴょんと飛び乗った。
小柄な女の子だったから楽勝かと思ったら、結構重くて驚いた。
やはり、少し体力つけた方がいいな。
「アイトさまの背中温かい」
ピィの体温が伝わってきた。
そう言えば…、昔、ピィがまだ家で飼われていた小鳥だった頃、一時期動かなくなった事があり、心配になった僕は一晩中ピィを手の平で温めていたことがあった。
その甲斐があってかどうかは分からないが、翌日ピィは元気になった。
あの時のことピィは覚えているのかな?
「女王陛下の住んでいるお城はこの道をずーっと登っていけば着きます」
ぷわーと大きな欠伸をするとピィはすやすやと寝息をたて始めた。
僕の肩に凭れて眠っているピィを見ているとただの普通の可愛い女の子なのにな。
モチモチとしてそうな白い肌、ピンク色の柔らかそうな唇。
ん?ん?んーーーー?
よくよく考えてみたら、僕、すごく大胆なことしてないか?
女の子と手を繋いだこともないこの僕が、女の子をおんぶだなんて。
こんな近くで女の子を感じているなんて。
やばい、考えてたら、顔が熱くなってきた。
くらーっと軽い目眩を感じ倒れそうになったが。
危ない、危ない、ピィはただの鳥だ、そう鳥なんだと言い聞かせ、坂道を登り始めた。