第五話
「いらっひゃっい」
店に入ると店長らしき人が軽快に挨拶してきたが、ピィの顔を見るなり明らかにイヤそうな顔をした。
「エレン、今日は金持ってきたんだろうな?」
「もちろん、しかも今日は何と何と勇者さまを連れてきたんだから」
「勇者?」
「そうです、何を隠そう、このアイトさまが魔王を倒したのです」
「え?」
店長らしき男はしばらくじっと僕を見て、
「本当に魔王を倒したのか?」
「だから、今から女王陛下の元へ彼を連れて行くの!」
ほほーと驚愕の声を上げた。
「魔王を倒したなんて勇者さまではないか、勇者さまこの店の物何でもお召し上がりください」
神でも崇めるような目で僕を見た。
「何食べますか?アイトさま」
「え?、いや、うん」
ピィにメニューを渡されたので見てみると。
『ドラゴンの素上げ』
『フライングうさぎの丸焼き』
『獅子のソテー』
『黄金猿の照焼き』
どれも見たことのない食べ物ばかりだった。
しかも…。
どのページを見ても、肉、肉、肉、肉ばっかりだった。
「ピィ、サラダは無いのか?」
「サラダー?」
ピィは首を傾けた。
「それって何ですかー?」
え?サラダを知らない⁉
「野菜のたくさん入った…」
「野菜?」
「肉ばかりじゃ体に悪いだろう?」
ピィはしばらく考え込んで、ポンと手を叩いた。
「薬草のことですね」
いや、だいぶ違うが…。
ピィは勝手に納得したようで、次々と注文し始めた。
僕はサラダが食べたいのに。
「お前はちゃんと払えよ」
と言う店長の言葉を無視して、パクパクと口に運ぶ。
「そうそう、これから勇者さまの服を買いに仕立て屋のクレマンの所に行こうと思うんだけど、クレマンは元気?」
食べながら口を開くものだから、所々聞きづらい。
「ああ、クレマンか…」
店長は長く息を吐いて、窓の外に目をやった。
「何かあったの?」
「お前はしばらくこの村にいなかったから知らないのも無理ないが…、近頃この村は変わった病が流行しててな…」
「病?何それ?」
「クレマンもその病気に掛かったっぽくてな」
「一体何の病気なの?」
「体が少しづつ少しづつ動かなくなり、最期は人形のように動かなくなる恐ろしい病だ」