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第20話

真っ赤な髪を腰になびかせて威風堂々と前を歩くアイリスの風貌は正に幾多の戦場を駆け抜けた武将のようだった。

鎧から見え隠れする華奢な白い手足だけ見れば可愛らしい女の子なのに。

顔だってハッキリとした目鼻立ちなのにそんなにキツい印象与えないのは愛らしい垂れ目のおかげだろうか?

正直に彼女の容姿を言うとしたら、『タイプ』の一言だ。


「イテ」


肩に止まっていたピィに頬をつつかれた。


「何すんだよ?」


鳥になったままのピィはただ『キィ』と囀り視線をあさっての方向に向けただけだった。

ったく、何なんだよ!


「ここが私の家だ」


それから黙々と歩く事数分。

アイリスに案内されたのは藁葺き屋根の自然素材で作られた小さな家だった。

庭のすぐ前には紫色の花弁をつけたたくさんの花が風に揺らされていて、その薫りが鼻についた時懐かしさを感じた。

何だろう?この匂い…。


『アイト、アイト。ママはずっとアイトの事を愛してる』


母さん…。やっぱり顔は思い出せないのに断片的に脳裏に入ってくる母の記憶。

こっちの世界に来てからイヤに思い出すようになったな。


家に入ると先に入っていたアイリスが水場で薬草を綿棒ですりつぶしているのが見えた。


「今薬を作ってる時からそこら辺に適当に座っててもらっていいか?」


そう言われて部屋の中を見渡すと机・椅子・ベッドなど生活に必要な物しか置いていない殺風景な部屋かと思いきやその他に弓や剣など物騒なモノや小動物の剥製が置いてあり、まさかこれ彼女が狩ったモノなのか?と思うと身震いがした。


「殺菌効果の入ったお茶だ」


ちゃんとピィにも小皿に飲み物を入れてテーブルの上に置いてくれた。


「ほらこっちを見ろ」


そう言うと僕の頬に手を充て、ヒタヒタに浸した布を傷口に擦り付けた。


「痛…」


鋭い痛みが襲ってきたので思わず声を上げてしまった。


「男なんだから我慢しろ。腕も見せてみろ。こっちもか」


言われるままに袖を捲ると次から次へと出てくる傷口を消毒される。

消毒されるにつれ痛みが引いていくのが分かった。

痛みも水ぶくれのように腫れあがっていた傷が塞がっていく。


「すごい魔法みたいだな」


素直に出た感想にアイリスはクスっと笑った。


「面白い事を言うな、我家直伝の秘薬だ。ところで、この鳥何とかならんか?」


手当て中もアイリスの動きを事細かに見ていて、僕が痛いなどと言うとアイリスの手をつついていたピィを半ば困ったように見つめた。


「あ…。すみません」


「その鳥はお前のペットか?」


「え…はい、確かに。ペットはペットなのですが…」


僕は事の顛末を彼女に話始めた。

僕はこことは違う世界から来たこと、鳥だったピィが人間だったこと、何でも直せる布をピィに使ったら、またまたピィが鳥に戻ってしまったこと。

父親が魔王だと言う事は伏せたまま話した。


「にわかには信じがたいが…取り合えずその布を見せてもらっていいか?」


僕はポケットの中からピンク色の布を取り出し彼女に渡した。

すると。

不思議な事が起こった。

彼女がその布を手にした途端、布が神々しい光りを放ち宙に浮いたかと思ったらすぐに落ちて彼女の手の中に吸い込まれるように消えていったのだ。


え?何今の?


当の本人も唖然として自分の手の平を見つめていたがふと立ち上り、ピィを両手で包み込んだ。


手の隙間から光が溢れ出て小さな光は徐々に集り大きな光の固まりになった。

その光の固まりは人の形を作り出し、やがて、ピィは人間に戻った。


「ピィ?」


人間に戻ったピィはいぶかしげに一言。


「魔王は第三者に与えるスキルを持っていたがこの世界には逆にスキルを奪う人間がいると言っていた」


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