第15話
ミズリーの作った布のせいでまさかピィが鳥の姿に戻ってしまうなんて思いもよらなかったから唖然とする事しかできなかった。
「試作段階ってこう言う事だったのか…」
鳥になったピィは羽をバタバタさせてこちらを見上げていた。
その姿から怒っているとは分かっていたが僕に言われても困ってしまう。
取り合えずミズリーのとこに行くしか無いだろう。
ミズリー自身もまさかこんな事になるとは思っていなかっただろうがこのままここにいても仕方ない。
「行こう」
広げた手の平にちょこんと飛び乗るピィに懐かしくなる。
ちょっと前まではこんな風に手の平にピィを乗せる事が普通だったのに随分前のように感じてしまい、目頭が熱くなる。
『ピッピッピー』
ピィが突如落ちてきた液体を受け頭をブルブルと震わせ見上げてくるから、余計に涙が止まらなくなる。
鳥になったピィを見ていたら今までの生活を思い出してしまい、家に帰りたいと言う気持ちが強くなってしまった。
『男の子は簡単に泣いちゃダメよ』
幼き頃運動会のリレー競争で転倒してしまった時、痛いのと悔しさが相乗してゴールに着いた途端に泣き出してしまった僕に母親がそんな言葉を掛けてくれた事を思い出した。
逆光に照らされた母親の表情は見えなかったけど、きっと優しい顔をしていたと思う。
母親に怒られた記憶は一つも無かった。
父親に怒られた時なども一人になった僕のとこに来て優しく抱き締めてくれた。
顔は忘れてしまったけどそんな温かい記憶は覚えてる。
「そこで何をしている?」
感傷に浸っていると、後ろから声を掛けられビクッとなりながら振り向くと、真っ赤な髪をなびかせ鎧を着込んだ若い女がいた。
野太い声をしている割りに垂れ目に小さな鼻など如何にも女の子と言う甘い顔立ちをしていた。
「お前ここで何をしている?」
女は不審そうな顔をしてこちらに近付いてくる。
「べ、別に、何も…」
「お前?泣いているのか?」
腰を屈め僕の顔を探るようにじっと見てきた。
「何があった?」
「……何も…」
「ふぅん。ん?珍しい鳥だな」
僕の答えが思いの外淡白だったので、彼女の興味は僕の手の平にいるピィに移った。
「キレイな羽をした鳥だなーお前の鳥か?」
「あ、ああ」
「そうか」
女がそっと手を伸ばしピィに触れようとするとピィは羽を羽ばたかせ僕の肩に飛び乗った。
「ん?私の事が嫌いか?そうか…」
女は少しだけ哀しそうな瞳をして立ち上り言った。
「もうじき陽がくれる。その前に早く帰宅しろ、ここら辺りは危険な動物が多い」




