第11話
あの時、僕は父さんにトマトを投げつけてしまった。
それが原因で父さんは死んだのか?
確かにそれから父さんは動かなくなってしまったが…。
トマトを投げつけただけで人は死んでしまうのか?
いや、そもそも父さんは人では無く、悪の魔王なんだっけ?
あー、もう分からない。
「ピィ、元の世界に戻るにはどうしたらいい?」
そもそも、どうやってこの世界に来たのだっけ?
記憶が曖昧だった。
父さんを殺してしまったと言う衝撃的事実が記憶を封印してしまったのかもしれない。
ピィはびくっと肩を震わせて、こちらを見た。
「申し訳ございません、元の世界に戻る方法が分かりません」
「は?何だよ、それ…」
ピィの態度を見るからに、嘘をついているようには見えない。
「女王さまなら分かると思いますが…」
女王さま…。
先程宮殿で謁見した、ロリロリの女王の姿が頭に浮かんだ。
「またあそこに行くのはイヤだな…」
「でわ、諦めてここの世界で暮らしましょう」
「それはもっとイヤだ」
「すみません!ラリマいますか?」
僕が答えたのほぼ同時に玄関の扉が開き、小柄な女性が入ってきた。
頭には赤い頭巾を被って、茶色い籠を持ってる姿は童話の赤ずきんちゃんそのもののようだ。
「ミズリー、どうした?」
部屋の空気を入れ替えようと、僕の側の窓を開けていたラリマの声に反応して、こちらを振り返ったミズリー。
え?え?
小柄だったし、勝手に小さな女の子だと思っていたのだが…。
何だ、あの爆発的な巨乳は…。
小柄だから、余計にその大きな胸がクローズアップされているのだろうか?
いやいや、言っておくが、僕は断じて巨乳は好きではない。
と言うか、そんなものに興味などなかった。
だが、ノースリーブのワンピースから見えている形のいい爆乳。
ダメだ、目が反らせない。
「あ、アイトさま、た、大変です、鼻血が出ておりますー」
あ…。
大量の鼻血が垂れてきていた。
「これは大変」
爆乳、イヤ、ミズリーが僕の側に来て、籠から一枚のピンク色の布を取りだし、結構な勢いで僕の鼻に被せた。
ちょ、ちょっと痛かったんだけど、いや、ちょっとどころかかなり痛かった。
「大丈夫?止まった?」
藍色の大きな二重の瞳で、僕をのぞきこむ。
鼻の骨が折れてしまったのかと思うほどの鈍い痛みがあったものの。
「あ、止まってる」
不思議なことに鼻血を拭いたピンク色の布は全く汚れていなかった。
「ミズリー、もしかして出来上がったのね!」
僕の持っていたピンク色の布が一瞬でピィに奪われた。
「どんな傷でも治す幻の布ー、すごい、すごいさすがミズリーね」
キャッキャッと高い声を出して、布をぱたぱたと風に揺らした。
「私の能力を使えばそんなに難しいことではありませんでした」
えっへん、と言う感じで胸を反らすから、余計に爆乳が目立ってしまい、また鼻血を出してはいけないいけないと目を反らした。