第10話
「しっかりしてください、アイトさま」
誰かが呼んでる。
うーん、頭が重い。
少し放っておいてくれないかな?
「アイトさま?」
それなのに、声の主は
重い瞼を開けると、赤い嘴の青い鳥が僕の顔をのぞきこんでいた。
「ピィ?」
「良かったー」
あれ?おかしいな。
僕が見たのは小鳥だったのに。
一瞬見えた青い鳥は、すぐに女の子の姿に変わっていて、僕に抱き付いてきた。
あ、ああ、夢から覚めたのにまだ夢を見ている感じだ。
そっか、僕は今異世界にきているんだ。
そして、僕は…父さんを殺してしまった。
「アイトさまー、もう目を開けないのかと思いましたー」
僕が眠っている間、ずっと泣いていたのだろう?大きな目が真赤だった。
鼻をびしゅーとすすり、今だに止まらない涙を拭っていた。
「ピィ、僕、どうしたんだろう?てか、ここどこ?」
木製のベッドは少し動く度に、キシキシと音を立てていた。
オールド感なカントリーちっくな小屋に僕は寝かされていた。
ピィの他に、奥の方に一人女性がいた。
僕の方を静かに見ていた。
「ここは私の家よ、そんであそこにいるのが私の姉さんのラリマ、似てないでしょ?」
ようやく落ち着いたようで、ピィは少し笑顔を見せた。
「アイトさまに何があったら、私、もう生きていけないとこでした」
「…。そうだよな、僕が死んだら女王さまの恩恵受けられなくなるもんな」
倒れる直前にピィと言い争ったのを思い出した僕は皮肉を込めて言ってみた。
「…。アイトさま…。私のこと誤解しております。確かに、女王さまからの恩恵にはあやかりたいとは思っていますが、私はアイトさまが小さい頃からアイトさまのことを見ておりました。気持ちはアイトさまの母親の気分です」
母親の気分って言ったって、どう見ても僕よりずっと年下の女の子にそんなこと言われても何て言っていいのか分からない。
「私は魔王の封印を解いてくださったアイトさまの味方でございます。それは何があっても変わりませぬ」
小さな手で僕の手をキュっと握って、僕を真っ直ぐに見つめる。
この目に嘘は見えない。
父さんが死んだかどうかは置いといて、彼女も父さん(魔王)の封印を解いてくれた僕に本心で感謝しているのだと思う。
だけど…。
「なぁ、ピィ。お前にとっては、最悪の魔王だったかもしれないが、僕にとっては最高の父親だったんだ」
「…」
「目覚めたばかりで、色々考えるのは良くないです、これでも飲んで落ち着いてのください」
ピィの姉が、黒いマグカップを持ってきた。
中にはオレンジ色の液体と何らかの果実が入っていた。
これは?
と言う僕の目に気付いたのだろう。
「解毒剤です。アイトさまのお体にこの世界の食べ物に合わない物があったのだと思われます。元よりこの世界とアイトさまの世界での食べ物はだいぶ異なっており、アイトさまの世界の食べ物が私たちにとって毒になる場合がございます」
へぇー、そう言うことだったんだ。
ん?そう言えばこっちに来て感じた違和感。
レストランでのメニュー、『サラダ』と言う言葉を聞いた時のピィの反応。
僕が食べてる物がこっちの世界で毒?
父さんってトマト嫌いだったよな…。
一緒にスーパー行ったときも、トマトに触れることすらしなかった。
まさか…。
トマトが毒…?
一抹の不安が頭をよぎってしまった。