90話 ニーナの考察3
ユヌお姉ちゃんからあの女性のことを聞いてみることにしました。
もしかしたら私の旅の目的を一個飛ばしで果たせるかもしれません。
女性は川から引き上げられて目を覚ますと、すぐに自分の濡れた服に火と風の混合魔法を使って乾かしていました。見る限りそのドレスはふんわりと仕上がっていて、相当魔法の実力が高いことがうかがえます。私が同じことをしようとしたら、服はしわしわに固まったようになるでしょう。
火と風を使いこなす高位の魔法使いなのかと思ったらリッツ兄に天の魔法を教えると言います。ということは天の魔法も、なんて思っていたら女性から魔力の波動が放たれたのです。私が魔力視を持ってなかったら気付けなかったでしょう。それは真っ直ぐフィリーさんとオスヴィンさんに向かい、そして二人を包み込みました。
「フリッツ君、教えてもらえるというなら、教わってくればいいわぁ。天の魔法を学べる機会なんてそうないわよ」
魔力に包まれたフィリーさんはそう言いました。ここだけ見ればそこまでおかしなことではないかもしれませんが、そう言ったフィリーさんは、女性に警戒心を全く抱かなくなっているように見えました。オスヴィンさんも眉毛が少し緩んでいました。あれは安心している時に見られる動きだったはずです。
これは、催眠魔法? つい最近、本で調べたものだっただけにすぐその結論が出ました。人の意思を捻じ曲げる、日の魔法です。私的には光の魔法と言った方がなじみがありますが。
少なくとも火と風と日の魔法を使え、天の魔法も人に教えられるだけの理解がある。そんな高位の魔法使いが川に落ちて流されるなんてことがあるのでしょうか。いえ、ないと思います。
この点については意外なことに、ユヌお姉ちゃんも疑問に思っていたようです。
最近になって気付いたことですが、ユヌお姉ちゃんはマイナス方面の感情が希薄なようです。怖いと思う事に始まり、嫌悪感とか、悲しみとか、果ては懐疑心とか。
ともかくも、ユヌお姉ちゃんはプラス方面の感情の寄せ集めとでもいうか、どうにも感情に偏りがあるようです。それが以前感じた異質さでしょう。そうわかってからは、変に気構えることはなくなりました。簡単に言えば純粋に単純なのです。簡単に誘拐とかされそうですね。
なので、女性のことを疑ったのには少し驚きました。……まぁもしかしたら、川に流されるか否かを疑問に思っていたのではなく、引き上げられた女性があまりにも健康だったことについて不思議に思っていただけの可能性もありますが。
ユヌお姉ちゃんは女性と会ったことがあるようだったので、少し聞いてみることにしました。
「前、シャルさんと会ったときはシャルさんが空腹で倒れていた時だったね。それで、食べ物を少し分けてあげたんだ」
つまりその時の状況こそ違えど、今回と同じく女性は助けられる立場だったのですか。あれほどの魔法の腕を持っているにもかかわらず。……ドジっ子とか、そういう感じなのでしょうか。
「美食家さんらしくって、生まれのところで美味しい物を食べすぎちゃって追い出されちゃったんだって。それで旅をしてるとか。……あ。そういえばシャルさんにイルさんが探してたよって言うの忘れてた」
「イル、さん?」
「皇都で会った、シャルさんと同郷の人、かな? シャルさんを探してたみたいだったんだけど、そのシャルさんがこっちにいるからすれ違っちゃってるかも」
しばらく女性の話を聞いていましたが、どうにも私が欲しい情報は持ってなさそうな気がします。いや、私が求めている情報というのも、どんな情報があればそう確信できるのか私自身わからないのですけど。
「ほか、には?」
「えー? 他にはと言われても……。うーんと、あ、そうそう。さっき話したイルさん。そのイルさんはシャルさんのことを泥棒とか老人とかって言って――」
「そうなのですか?」
「わひゃあ! シャルさん!?」
いつの間にか女性が私たちのすぐ近くに座っていました。いつからいたのか全く見当がつきません。
リッツ兄と一緒に魔法の練習をしているところを見ますが、そちらではリッツ兄が中空に向かって話しかけ、会話していました。
「全く、あの子も困ったものですね。そもそも、私が年寄りなのではなく、あの子がまだ若いだけです。ユヌさんはそこを間違えてはいけませんよ? ……おや、どちらを見ていらっしゃるのですか?」
呆然とした気持ちでリッツ兄が独りでにアドバイスを受け取っている様子を見ていたら、背後から声をかけられました。その声はとてもやさしい声色でしたが、冷や汗が出てきました。ここで振り向いたら、私はどうなるのでしょう。しかし、いつまでも振り向かずにいれば状況は悪化するばかりです。
「ふむ、ふむふむ。大丈夫ですよ、振り向いても。そして確かに私はあなたが探していた存在ではありますが、先約があるので願いは叶えられそうにないですね」
「? ニーナちゃん、どうしたの?」
恐る恐る振り向くと女性はにっこり笑っていました。さらに人指し指を口に当てて「しーっ」と息を漏らします。私が気付いたことは秘密にしろということでしょうか。
勇気を出して、一つ尋ねます。
「二人で、お話は出来ますか」
「それならば良いですよ」
旅の目的に、一歩。大きな前進です。
シャルロッテさんの正体、いつ出せばいいかね……
そしてニーナちゃんの方が主人公より主人公してる問題。まぁしょうがないね




