88話 思わぬ再開
ひとまず川まで向かってそこで水を補給することにした。
荒野の先にあったこの川は川幅がすごく大きかった。そして川面がとても静かだ。
私が知っている川と言えば、あちこちから岩が飛び出し飛沫をあげながら勢い良く流れるものだったので、最初見たときは細長い池のように見えた。オスヴィンさんが川だと言っていなかったら、その認識が覆ることはなかったかもしれない。
「少し早いけど、今日はここまでにしましょうか」
フィリーさんがそう声をかけたことで今日はここで野宿することになった。まだ空は青い時間だけど。
川辺で背の高い草をきりはらった場所を作る。そこで一通り野宿の準備を済ましたところで全員で輪になって座り、これからの対応を話し合うことになった。
「宿場町がここから上流にあるか、下流にあるか。どっちかしらねぇ。今のところ、どっち側にもそれっぽいのは見えないのよね?」
「あぁ、ないな」
「あのあの、宿場町に行くのって確定事項なんですか?」
「確定ねー。食料だって……食い詰めればなんとかあと2日分、ってくらいだもの」
フィリーさんが、背負っていたリュックの中身を伺いつつそう予想する。
村でしっかり保存食を買い込んでいたから、日程に遅れが出ている今でも不足なくご飯を取れている。けれども、食べ物が底をつくのは遠くないようだ。
ふと私は辺りを見渡す。川の近くではさっきまでの荒野とは打って変わり、野草なんかもいっぱい生えている。いくつか食べれそうなものもあるようだし、料理して食べてみるのも良いんじゃなかろうか。
「……言っておくがユヌ、そこらに生えている草を引っこ抜いて食べようってのはダメだぞ」
「えぇっ、エミィさん、何でですか!?」
「毒でもあったらどうする。あと単純にあまり食べたくない」
「あの、俺もあれは食べたくないっす」
「……(コクコク)」
エミィさん、そしてフリッツ君とニーナちゃんにまで拒絶されてしまった。前に振舞ったのがよほど美味しくなかったらしい、うむぅ。
「もし、何日も宿場町に付けなかったらユヌちゃんに頼ることにしましょ。とにかく、ここからどっちに行くかなのだけど……オスヴィン?」
オスヴィンさんがなにやら川の方向を見て目を細めている。それにつられて私たちも目を向けるけど、何かあるのだろうか?
「人、か?」
そういうや否や立ち上がって川の岸へと走るオスヴィンさん。その時になって私にも川の上の方からゆっくり流されている何かが見えた。慌ててオスヴィンさんの後を追う。
岸までたどり着けばはっきりとわかった。人が流されている! 川の真ん中よりは手前だけど、それでもかなり距離がある。泳いでいけばなんとかなるかな、オスヴィンさんも同じ考えのようでその身に着けている鎧を脱ぎ始めている。でも泳ぎなら私にだってできる。
「助けなくっちゃ!」
ばちゃばちゃと川の中へ入っていき、水面が腰を超えたあたりで川底を蹴って泳ぎ始める。う、水が冷たい。
時々泳ぎを止めて彼我の距離の確認をする。ゆっくりに見えた川だけど、いざ泳いでみると自分も流されそうな気がする。魔術も使って力強く流れに抵抗し、そしてさかのぼる。そうしているうちに流されている人の元までたどり着いたからその手をつかむ。温かい手だった。
「ぷはっ、大丈夫ですか!?」
顔を上げて流されていた人の様子を見る。
金色の髪を伸ばした女性だった。肌は白く、上等な薄い緑色のドレスを着こんでいて、どこぞのお嬢様のようだ。あと胸がずいぶんと大きい。
……ん? どこかで見たような?
「ユヌ、つかまれ!」
その声に振り向いたらオスヴィンさんがこっちに向かってきていた。
うん、とにかく岸に戻らなくちゃだよね。流されていた女性の腰のあたりを右手で抱え込み、足だけでオスヴィンさんの元へ泳いでいく。ちょっと泳ぎにくかったけど、魔術強化した足で無理やり前へ進んだ。
オスヴィンさんの元へ行ったら差し出された手につかまる。さらにオスヴィンさんがその腰に巻き付けていたロープを、岸にいるフィリーさんたちに引っ張ってもらって川から上がることができたのだった。
岸にあがったらフィリーさんから怒られた。ロープもつけずに川へ飛び込んだのが不味かったらしい。
「オスヴィンが後から向かったからよかったけど、自分まで流されたらダメでしょお?」
言われてみればちょっと考え足らずで川へ入ってしまったとは思う。ゆっくりとした流れの川だったからよかったけど、これがもっと速かったら岸へ戻るのが大変そうだ。戻るときは人を抱えなくちゃいけないから実質足だけで泳がないといけないし。
「まぁ結果としてはアナタも、流されていた人も無事だったからよかったけど……」
そこまで言ってフィリーさんは後ろを振り返る。
「ふむ、保存食ながらなかなかの美味ですね。特にこのスープが格別に美味しい。すいませんが材料を教えていただけませんか?」
その後ろには、先程まで流されていた女性が食事をとっていた。それどころか食材のことについて尋ねるほど余裕があるというか、ぶっちゃけ川に流されていたというのに元気すぎる女性がいた。相変わらず、食べることが好きなようだ。
その人は、私に色鮮やかな紐のアクセサリーをくれた、そして皇都で出会ったイルさんが探していた人物、シャルさんだった。




