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81話 木彫りをしてみる

 麻紐で木彫りを瓶に付けてもらった後も、しばらく材木屋の親方と立ち話をした。どうやら暇らしい。今日はお客さんが来る予定もなく、そして今注文されてる分の木材も用意してしまって、なんとなく職場に来たけどすることがなかったそうなのだ。


「まぁ一人悲しく木彫りでも作ろうかなー、なんて思ってたところにお嬢ちゃんたちが来たってわけだ」

「あ、それじゃあこれから作るんですか?」


 私たちと出くわした時から、親方はずっと端材を持っていた。瓶に括り付けてもらった木彫りよりも二回りほど大きいから、あそこから掘り出すのだろう。そんな見当をつけて聞いてみる。


「そうだな、剣でも彫ろうと思ってた」

「へぇー……ちょっと面白そう」


 親方の木彫り作品で一番多いのは剣の形をしたのだ。短剣から大剣まで、様々な形に彫られている。

 フリッツ君みたいな男の子には非常に受けそうだ。

 角ばった端材から、剣の形だけが掘り出される様子を見るのは面白いかもしれない。


「なんだ、やってみたいのか?」


 あら、私としては見ているだけのつもりだったのだけど、親方は違う受け取り方をしたらしい。


「んー、時間がかかるぞ。それでもやってみたいって言うなら止めんが」


 今晩もここの村にいることは確定しているのだ。せっかくの機会だし、ちょっとやってみることにしようかな。見ていて面白いなら実際にやってみるのはそれ以上に面白いだろう。

 私は親方の言葉に大きく頷くのだった。




「ほれ、そっちの大きい嬢ちゃんの分もやる」

「む、いや、私は別にいいのだが……」

「えーエミィさんもやってみましょうよ、木彫り!」


 渋るエミィさんにも木彫りのナイフを持たせる。木彫りの道具はこのナイフ一本だけ。


「小さかったころ、一度院長にやらされたんだ。でも、全く上手くできなくてな……」


 苦い顔をするエミィさん。ポルトの孤児院にいたときにやったことがあったのか。

 ポルトの孤児院では、孤児院を出た後、食に困らないように孤児一人一人に合った仕事を紹介しているのだという。そのため、孤児たちに一通りのことをさせてみるのだそうだ。で、その一つが木彫りだったらしい。


「小さかった頃の話なんだろ? んじゃ今やってみれば上手くいくかもしれないな。ほら、いいからやってみな。……さて、木彫りで重要なことはモデルをしっかりイメージすることだ」


 そう言って木彫りナイフを掲げる親方。


「出来れば実物が目の前にあるといい。全体の形だけわかったつもりになっててもだめだ。今回のモデルはこの木彫りナイフだ。この持ち手はどんな手触りか、この刃先はどんなに硬いか、そういうことをしっかり自分の中で理解して彫っていくんだ。ま、最初に少しだけやってみるか。指先に刃を突き刺さないようにだけ注意してな」


 持ち方の指導を受けつつ、少しだけ彫る、というか傷をつける。結構力が必要だな……ちょこっと魔術を使っておこう。

 数回端材に傷をつけたところで、親方が細長い端材を新しく持ってきた。私たちはその細長い端材からナイフの形に切り出し、そして形を整える。技術指導を受けつつ、何度も失敗を繰り返し、さらには指を少し切ったりもして……お昼の時間を完全に過ぎたころになってようやくそれっぽい形を掘り出すことができた。


「どうですか親方!」

「ふーむ、合格! よくやった!」

「やったぁー!」


 すごい達成感。指を切った時についてしまった血のシミが刀身部分にあるものの、鋭い刃を持ったナイフの形になった。まぁ、解体用のナイフとかは使えば血が付くものだし? それを表現したんですよ、自分の血で。……これ木彫り用のナイフだから普通血は付かないんだけど。

 魔術で力任せに彫れるからって変な持ち方をしたのが不味かったね。今、私の左薬指には布がぐるぐると巻き付かれている。

 あと仕上げが残ってるけど、私のはこれで出来上がりかな。さて、私の隣にいるエミィさんはと言うと。


「それでエミィさんは……」

「ふふ、これで14個目の失敗作だ」


 失敗作を量産していた。ほとんどは、勢いあまって刀身部分をナイフで大きく削ってしまうのがその原因だ。大雑把なナイフの形に切り出すことができず、また、たまたま上手く切り出せたとしても、形を整える段階でやっぱり刀身や持ち手やらをえぐってしまう。

 それを見た親方が、そのあまりの不器用さ加減に「なんか、勧めて悪かったな」なんて言い始める始末である。

 あまりにも失敗続きのエミィさん本人はというと、なんだか暗い表情なのに笑い続けるという器用なことをしている。


「あー、まー、人には向き不向きがありますから。ね?」

「ふふふ、慰めは不要だよ、ユヌ。わかり切っていたこ――あっ。……またやってしまった。失敗作15個目だ。ふふふ」


 そう言って新たな端材を手に取るエミィさん。

 ……いくら端材とはいえ、これ以上無駄に消費してしまうのは親方に悪いのでは? そう考えてから親方を見ると、心なしか親方の顔が少し引きつっているような……


「エミィさん、お、お昼にしましょう! 朝、オリヴィアさんから貰ったご飯を食べましょう! わ、私お腹すいちゃったナー」

「ん? あぁそうだな、そうするか。ふふ、ふふふ」


 しばらくの間、エミィさんの含み笑いは止まらなかった。


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