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77話 ニーナの考察 2

 それからしばらくは魔法の話をしました。私が基本四元素魔法全てを扱えると言うと驚いていました。

 ……本当は、少しだけ特殊二元素も使えるので、六元素全部使えることになるのですが。そこまで言うことはないでしょう。

 基本四元素というのは火・風・水・土のこと、特殊二元素というのは光・闇、いえ、シエラ教では日・天のことですね。闇、という言い方は縁起が悪いのでそう言い換えられていますけど、イメージする上では闇の方がわかりやすいです。

 その話の流れで聞いたことですが、ユヌさんは全く魔法が使えないそうです。魔力発散障害だとか。それを聞いて、私は納得しました。

 なぜ、あれほど高密度の魔力を体に内包でき、そして漏らすことなく操作できるのか。魔力発散障害のII型なら説明がききます。魔力発散障害にはI型とII型がありまして、I型は体外に出た魔力の操作ができない体質を、II型は皮膚が魔力を通しづらくなる体質を言います。

 魔法は、自身の魔力を体外に出し、場の魔力と捏ね合わせることで発現します。ですから、自分の魔力を外に出せなかったり、外に出した後も操作できないと、魔法が使えないのです。

 きっと彼女は魔力発散障害のII型だから、体内の魔力が外へ漏れない、いや、押し込められているのでしょう。


 などと考えていたとき、不意に頭にとても小さい衝撃が。

 ポツ、ポツと続けざまにその衝撃は走り続け、やっとそれが雨であると認識しました。


「あら、雨じゃな~い。オスヴィン、テント立てるわよ」

「あぁ」


 久しぶりの雨ですね。辺りは草原で雨宿りできる場所がありません。しかし、ベテラン冒険者の二人はすぐにテントを組み立ててくれて、その中で雨をしのぐことができました。

 その時のなり行きで、ユヌさんのことを『ユヌお姉ちゃん』と呼ぶことになりました。エミィさん曰く、髪色が似ているから、姉妹のようだとのこと。私の髪色はくすんでいるのだけど……まぁそう言われるのだからに見えなくもないのかもしれない。

 元々孤児院では先輩のことを「兄さん」とか「姉さん」ということも多かったので、それほど違和感もなく、むしろそちらの呼び方のほうが親しみがあっていいかも、なんて考えたりもしました。


 そして……威圧、ですか。一瞬だけでしたが、まるで池に溺れたときのような息苦しさを感じました。強く魔術を使うと、副次的に威圧してしまうそうです。彼女をそれをコントロールしたがっている様子。ならばと、私は協力を申し出ました。それはつまり、魔術を強く発動させている様子を観察できるということです。

 私を背負っていたときの魔術よりも強くできるというのには驚きましたが、滅多にない機会を逃す手はありません。




 その次の日から丸々2日間かけて魔術の観察をし、その再現に努めました。私だって魔力視を持った魔法使いの見習い。魔力の扱いはお手の物です。すぐに出来るようになるだろうと思っていました。

 ……しかし結果は惨敗。どうしても自分の体の中で魔力を循環させることができません。なんだか目詰まりしている感じがして、うまく回ってくれないのです。

 ただ魔力を指先に集めるとかは簡単にできるのに、循環させようとすると途端にできなくなってしまうのはずいぶん不思議です。現状、手詰まりとしか言いようがありません。


「じゃじゃーん! 山菜のシューユあえ、完成です! さぁさ、食べてみてください!」


 私とは違い、ユヌお姉ちゃんは元気です。先程もリッツ兄やオスヴィンさんたちに付いて行って木の実採取に出かけていました。……なぜか採ってきたのは、木の実ではなく草でしたが。しかもその草たちを食べると言います。

 まぁ、ユヌお姉ちゃんは山岳地帯出身らしいですし、ほとんど皇都暮らしだった私の知らない食材を知っていても不思議じゃありません。


「……意外と食べれるものだな」

「意外と、ってどれだけ私の評価低かったんですかエミィさん」

「いや、どう見ても雑草ばかりだったじゃないか」


 真っ先に味見をしたエミィさんがそう言います。その評価を聞いてから、恐る恐る口へ運びます。シューユと言いましたか、この調味料の匂いおかげで、それほど青臭い感じはしませんが……


「うえぇ、しょっぱ、ぃにっがぁ!」

「……ぅ」


 リッツ兄が大声を上げます。私もそんな気持ちです。下に突き刺さるような強い塩気の後、口の中に残るような苦みがじんわり浸透していきます。慌てて干し肉のスープで口の中の苦みを取り除きます。うぅ、まだ少し残ってるような……

 確かに食べれるものではあるみたいですけど、よほど生活に困窮していないと、こんなものは食べようと思わないと思います。

 口の中の苦みはその後も残り続け、結局寝るときまでなくなることはありませんでした。




 そしてその夜。

 私はなぜだか目が覚めてしまいました。体を起こし、寝ていたテントの中を見渡すと、エミィさんもユヌお姉ちゃんもいないようです。どうしたんだろう……と思っていると、なんだか寒気が。息が苦しくなるような感覚に見舞われます。まるでユヌお姉ちゃんが威圧を使ったときのような感覚に似ていて、それが四方八方からきているような感じです。

 と、その時突然テントの入り口が開かれました。いったい何が、と体を強張らせていますと、それはユヌお姉ちゃんでした。


「ニーナちゃん、フィリーさんが呼んでる」

「……(コクリ)」


 フィリーさんがこの状況を説明してくれるということでしょうか。彼女に付き従って外へ出れば、フィリーさんが鞭を携えて警戒しています。ただ事じゃないですね。

 オスヴィンさんやリッツ兄も武器を持ってテントから出てきました。

 フィリーさんの説明によれば魔物、ファングに囲まれているみたいです。大人3人が子供3人を守るように取り囲み、周りのファングたちを迎え撃つ心づもりのようです。

 ……魔物との戦闘。このためにこの旅に志願したといっても間違いではありません。やってやるんだ、と決意を固めたところで、周りからファングが飛び出てきて、戦闘が始まりました。


 大人3人は戦い慣れしているのでしょう、あっという間にファング6体を倒していきます。これでは戦う機会は先送りかな……なんて考えたのがよくありませんでした。

 さらに3体のファングが茂みから飛び出てきたのです。うち2体はフィリーさんたちが対処しましたけど、残り1体が、まさに私目掛けて襲い掛かってきます。

 鋭いキバ、力強そうな顎、血走った目、隆々とした体躯、それらを真正面から見て恐怖を感じないはずがありません。


「ひっ、火の神、ふ、フラム様の力、を、――」


 唱える魔法も、声が震えてうまくつむげません。不味いと思ったその時――

 横から小さい影が目にもとまらぬスピードで飛び出し、ファングを横殴りにして吹き飛ばしました。


「……ごめんね」


 ファングを殴り飛ばしたユヌお姉ちゃんは、その自分が始末したファングに向け、そう呟きました。


 それからは記憶が混濁していてよくわかりません。ただ、何度もファングに襲われる夢を見たような気がします。寝苦しくて、いっぱい気持ち悪い汗をかいて。




 だから朝、昨日と全く変わらぬ無邪気なユヌお姉ちゃんを見たとき、どうして、と思ったのです。

 感情を押し殺しているだけ? 内面では私と同じく、心が不安定になっているのか?

 なんたって、ファングと直接やりあったのはユヌお姉ちゃんだ。私以上に動揺があるのでは? でも、そんな気配は顔色から全く感じません。昨日のことについて、無頓着のようです。

 その時私は、どうしようもなく、彼女、ユヌ・ヴェルトゥが、異質に見えたのです。


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