4話 ぴょんっと
「そこのお二人さーん、困ってるならお姉さんが助けてあげようかー?」
投げた玉が木に引っかかって困っている様子の子供たちに声をかける。
「へ?えっと……おねえさんたち、だぁれ……?」
女の子がちょっとビクビクしながら尋ねてくる。
山間の村だと人の出入りは滅多にないから、一度も見たことがない私たちを警戒しているのだろう。
「えっと、ここより上の村から、行商の人と一緒に村に来たんだ。名前はユヌっていうの」
近づきすぎない程度まで二人に近寄り、少し身をかがめて話す。
後ろで突っ立ってるルカも、私の紹介に続くような形で自己紹介。
「俺もユヌに同じく、上の村からやってきた。ルカっていうんだ、よろしく。二人の名前は?」
「ユヌおねえさんに、ルカおにいさん?えーっと、私はマリーで、こっちの男の子はアランです」
「うん、マリーちゃんとアランくんか。で、話を戻すんだけど、散歩してたら偶然玉が木に引っかかるところを見ちゃってさ、困っているみたいだったから助けたげよっかなって」
「えと、玉、とれるの?」
「お姉さんにまっかせなさーい!」
自信満々の表情で胸を拳で叩いてみたりなんかすると、マリーちゃんの不安そうな顔が少し晴れる。
うんうん、子供に暗い顔は似合わないもんね。
それにしても、さっきからアランくんは一言も喋らないで、マリーちゃんだけに応対させてる。男なのに情けない。
「アランくんも。私が玉とったげるけど、いいかな?」
一応黙りこくっているアランくんにも話しかけてみたら、眉毛を申し訳なさそうな形に変えてコクコクと小さく首を上下に動かした。
あぁ、もしかして無口な子なのかな。
確認を終えは私は体を起こし、枝に挟まった玉を見やる。
「さ、それじゃ取りますか」
「ユヌ、あれ取れる?結構高いよ?3メートルはある」
「まぁあの程度ならさ、ぴょんっとすれば届くでしょ?」
「うへぇ、マジっすか」
なんか後ろでルカが引いてるけど無視。
玉の真下まで移動する。都合がいいことに、木から張り出した枝たちに挟まっているので、真下に邪魔になる枝はない。
これなら大丈夫でしょ。
手を軽く握ったり開いたりして調子を確認。そして真上の玉を見つめ、ほんの軽くジャンプ。
「ぃよっと」
顔が玉のすぐ横に達するまで飛び上がり、難なくキャッチ。
そのまま重力に従い、地面へ戻る。
私はとってきた玉をマリーちゃんの方へ差し出して、
「はい、どうぞ」
「……」
あれ、なんかマリーちゃん固まってるんだけど。
アランくんの方もぽかんと口を開けている。
続けてルカの方に目をやったら、なんか呆れた顔で頷かれた。
「久々にお前が体力お化けなんだなって再確認できたわ」
「ちょっと!なにそれ!?か弱い女の子にその言い草はないでしょ!」
「出たよユヌのか弱いアピール。まったく、そのか弱い女の子に敵わない男の身にもなってくれ。虚しくなってくる」
「むぅー。だからってねぇ。そもそもアンタの方が――」
「――ふふっ」
乙女心のわからないルカを睨んでいたらマリーちゃんがふと笑った。
「あ、ユヌおねえさん、ありがとうございました!ジャンプ、すごかったです!」
「あぁ、うん、どういたしまして」
マリーちゃんが玉を受け取り、アランくんと一緒に頭を下げる。
そして「じゃあ続きしよっか!」とマリーちゃんが言い、それにアランくんも笑顔で頷き、また遊び始める。
んー、最初に見た時から思ってたけど、なんかこの二人いい感じだよね。ルカにここを離れようと伝えようと思ったら、あっちも同時にこっちを向いてくる。
どちらからともなく頷きあう。
邪魔者はさっさと退散しましょう。