23話 帽子のお姉さん
「こっちはまだいらっしゃいませの一言も言ってないんですけど。はぁ、おっかあ、また来たよ、いつものだってー」
「あぁ!? また来たのかい! 仕方のないヤツさね!」
給仕のヴェロニカさんが料理場へと呼びかければ、すぐに奥から怒声が飛んできた。
このお店に初めてきた私たちには状況がよくわからない。
私の隣に座る女性は成人直後ほどの歳だろうか、頭をすっぽりと覆う帽子を被っている。帽子には2箇所飛び出ているところがあり、そこがちょっと可愛い。
私がその帽子をじっと見つめていると、女性はそれに気づいたようでこちらを向く。
さっきまではイラついた顔をしていたが、私と顔を合わせると表情を軟化させて、話しかけてくる。
「ん?何だい?」
「あ、えっと、可愛い帽子だなぁって。すいません、じっと見てて」
「そうかい?んふふ、ありがとね」
「おーい、ユヌ、注文決まった?」
おっと、私が別のところに注目している間にルカは注文を決めたらしい。
早く食事にありつきたいようで、目が少し輝いている。
「ごめん、まだ決めてないや。うーんと、じゃあこれにしようかな」
「よし。すいませーん、注文お願いしまーす」
「はーい、お伺いしますー」
ルカはヴェロニカさんを呼んで、私の分も注文していく。
その様子を見ていると横から声がかかる。
「アンタら見ない顔だね、この店は初めてじゃないか?」
「はい、私たちポルト観光の途中で」
「観光途中ってことは外から来たのか? ほーん」
帽子のお姉さんは感心したように言う。
が、目が一瞬キラリと光ったような気がする。
「なぁ、ポルトに近いところに魔物がよく出る場所があるのは知ってるか?」
「知ってますけど……?」
「む、知ってたか。まぁいい。そこを通る時に護衛が必要だとは思わないか?」
「いえ、別に大丈夫ですよ?」
「いやいやいや、用心に越したことはない。護衛は絶対に必要さ。な、だから、アンタの親だか雇い主だかにアタシを紹介してくれよ!」
帽子のお姉さんが詰め寄ってきた。
もはや気のせいではなく、獲物を見つけた動物がごとく爛々と目が輝いている。
ちょっと怖い。
「はいはい、そういう話なら俺が引き受けます。結論から言いますが、必要ありません」
「ちょっと待ってくれ、そこをどうにか……」
「不要です」
「ま、まぁ話をしようじゃないか、魔物の情報とか色々……」
「こら、そこ! 食事処のウチにきてまでそんな交渉とかするんじゃないよ! それに断られてんでしょーが!」
「ヴェロニカ、止めてくれるな。本日二度目の正直だ!」
「今すぐやめなさいな! ったくあんたというヤツは……!」
「なんだァ? 久々にやるか!?」
いつの間にか帽子のお姉さんと給仕のヴェロニカさんがとっつかみ合いになる事態に。
もう訳が分からない。
ふと周りを見渡すと、何人かが耳をふさぎ始めた。
と、その時、奥の厨房からヴェロニカさんの母と見られる女性が姿を現す。
「ゴラァ、やかましい! ヴェロニカは料理もってけ! エミィはおとなしく黙って座ってな!」
その一喝は、私の耳を犠牲にその場を収めた。
うう、耳がキーンってする……
料理も来て、落ち着いたところで、ちょっと話を聞いてみた。
あ、ちなみに私は川魚と野菜のグリルを注文した。塩を振りかけて食べるとおいしい。
帽子のお姉さん改めエミィさんは、冒険者だそうだ。そして護衛として雇ってもらう先を探している。
「エミィさんが護衛として雇ってほしいって言うのはわかりましたけど、どうして護衛にこだわるんですか?もっといい仕事あると思いますけど」
「えっとユヌちゃんだっけか。それはだな、旅に出るためさ」
「旅、ですか?」
「そう、護衛の依頼ってのはな、お金が一番かからない旅の方法なのさ。自分で準備する分ももちろんあるが、トータルで考えれば少しだけプラスなんだと。だから雇ってくれるとこを探してる」
「でもこの馬鹿はね、未だに冒険者ランクFなんですよー。そんなランクじゃ雇われるわけないってのに、失敗してはウチにきて愚痴を漏らすんですよ」
「あぁ、そのランクならそうでしょうね」
「うん、私もヴェロニカさんやルカに同意」
冒険者ランクは強さを示すだけでなく、その人物の信頼度をも表す。
だからランクが低いと、依頼を受けられないことが多々ある。
「そもそもなんで旅を?」
私は気になったことを素直に尋ねてみる。
「それは、故郷を探すためだ。アタシはこの通りだからな」
そう言ってエミィさんが彼女の特徴である帽子を取ると、そこには灰色の髪、そして毛におおわれた三角形の耳があった。
なんと、エミィさんは獣人だったのか。




