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Truth  作者: 雲居瑞香
9/19

9.なぜみんなそれで納得するのか











「……お前、悠李か?」

「それ以外の何に見えるっていうのかね、お兄様」

「ああ。間違いなく悠李だな。母さんがからかっているわけではないんだな」


 兄が帰ってきての第一声がこれだった。帰る、という連絡を入れた時に、彼は仕事中だったのでいなかったのだ。だから、今帰宅して初めて悠李が帰ってきていることを知ったのだろう。


「どうしたんだ、お前」


 妻である茉莉にただいまのキスをして、兄の真幸まさきが尋ねた。ちなみに、感応能力の受信力が高いせいか、真幸は茉莉が言いたいことが何となくわかるらしい。いい夫婦である。

「うちの旦那が今日の銃乱射事件に巻き込まれて入院した」

「……何してるんだ、碧は。大丈夫なのか?」

「ろっ骨が折れて肺に穴が空いたらしいけど、見舞いに行ったらケロッとしてたよ」

 そう言いながら煮物の味付けをみる。うん。いい感じだ。悠李は茉莉と共に料理中だった。


「パパだっ」

「おじさーん!」


 真幸と茉莉の子である朔良と、悠李の子である梨沙が駆け寄ってきた。何故かうちの子は伯父である真幸が大好きなのである。祖母である智恵李のことも好きだから、もしかしてこういう性格の人間が好きなのだろうか。父親の碧も、この二人もクール系である。

「朔良、梨沙。いい子にしていたか?」

 はーい、と元気にあいさつする二つと三つの女の子を真幸は片手で一人ずつ抱き上げる。朔良も梨沙もまだ小さく、頬がふくふくしたかわいい子だ。


「……うちの旦那もそうなんだけど、兄さんが子供抱っこしてるのも結構シュールだよね」


 悠李と弟は母親似だが、兄弟で真幸だけは父親似である。父親も整った顔立ちをしているので、つまり真幸も美形なのだが、系統的には真幸は碧の顔立ちに近いだろう。ただ、ひたすら線の細い碧とは違い、真幸はどこか精悍だ。

 そんな男が女の子二人を抱き上げていると……。


「誘拐犯?」

「お前、碧と結婚して口悪くなったな」


 真幸に突っ込まれてちょっとショックを受ける悠李である。夫婦は似てくると言うのは本当だったのか……。もともと、性格が似ているような面があったのだろう。

 真幸が子供二人を連れてリビングに向かった。悠李と茉莉で夕食をさらに盛り付ける。そうこうしているうちに、悠李の父も帰ってきた。

「おかえりー」

「……あれ。娘?」

「娘だねぇ」

 ダイニングのテーブルに皿を並べながら、悠李は笑って言った。悠李のこの性格は、確実に父親譲りだと思う。


 父の瑛一は、やはり魔術師だった。ちなみにそろそろ還暦な瑛一であるが、魔術師の例に従って彼も年齢にそぐわぬ外見をしている。四十代くらい、と言えばいいのだろうか。

 強力な放出系魔法を使う智恵李とは違い、瑛一は精神感応魔法に適性がある。魔術面でも、悠李は父親譲りなのだ。

「泊まりに来たのか。碧君は?」

「入院中」

「ああ、なるほど」

「……」


 何故かみんな、旦那は入院中だと言うと、悠李が実家に帰ってきたことに納得する。それが釈然としない。いや、わかるにはわかるのだが、どれだけ悠李と碧はセットで考えられているのだろうか。


 夕食の準備ができても、すぐに食べられる、とならないのが親と言うものだ。最近は梨沙も一人でご飯が食べられるようになってきたのでだいぶ楽だが、ぼろぼろとこぼすので見ていてやらなければならない。

 実家にいると鉄面皮の割にこもりに慣れている母がいるので多少は楽であるが。その母はじーっとニュースを見ていた。

「……碧が巻き込まれたと言うのは、これか」

 ちょうど、テレビのニュースでは今日の昼ごろに起きた銃の乱射事件について放送していた。

「詳しいことは知らないけど、たぶんそうだね」

 悠李も詳しい説明は受けていない。明日、覚えていたら碧に聞いてみようか。

「犯人は洗脳魔法を受けた魔術師か……と言うことは、ただの銃の乱射ではなく、射撃魔法だった可能性もあるな」

 真幸が冷静に言った。最近はレーザーガンなどもあるが、射撃魔法だと高出力で殺傷能力が高い。ちなみに、悠李の夫の碧は、この射撃魔法の発展型である狙撃魔法を得意とする魔術師である。

「その辺は魔法警察の管轄かな」

「微妙な線だよね。たまにうちの旦那も調べたりしてるし」

 瑛一と悠李が言った。魔法関連組織の線引きはあいまいである。警察は魔法犯罪を、魔法省は魔法使用が法律に抵触していないかを調べているのだが、言い回しが違うだけでどちらも同じだと言うこともできる。

 誰かの携帯端末が鳴った。振動音がする。みんなが一斉に自分の端末を見た。


「あ、私だ」


 あんたかい。と誰もが心の中でつっこんだだろう。智恵李は自分の携帯端末を持って席を立った。電話だったらしい。

「ちえりさんはー?」

「電話だよ」

 梨沙がぼろぼろとご飯をこぼしているのを拭いてやりながら、悠李は言った。しばらくして智恵李が戻ってくる。

「誰からだ?」

 瑛一の問いに、智恵李は「魔法省」と端的に答えた。

「今日の事件の捜査協力依頼ね。明日、魔法医科大学に行ってくるわ」

「って、今の私の職場じゃないか」

 正確には魔法医科大学付属病院が悠李の勤務先になるが、大学も付属しているので実質的には同じだ。

「そう言えばそうね。一緒に出勤する?」

「出勤時間が違うでしょうよ」

 依頼を受けた智恵李と常勤の悠李では当たり前だが出勤時間が違う。表情が無いのでわかりにくいが、智恵李なりの冗談なのだと思う。


「ということは、犯人が魔法医科大に入院してるってことか」


 悠李がつぶやいた。これは悠李の元にも調査依頼が来る可能性が。

「……母さんってさ、結局のところ何を専門に研究してるの」

「魔法が人体に与える影響」

「ちなみに、医者としての専門は?」

「魔法循環器内科」

「外科医じゃないのか!」

 問いを発していたのは悠李であるが、最後にツッコミを入れたのは瑛一である。と言うか。

「父さん。何で自分の妻のことなのに知らないんだよ」

 これは真幸だ。鋭いツッコミであるが。

「いや、智恵李は守備範囲が広すぎて何が専門なのかわからん」

「同意」

 悠李が父に同意した。母がすごいのはわかるが、何を聞いても答えが返ってくるので専門は何なのかさっぱりわからないのだ。


「……まあ、それはあるかもしれないな」


 最終的に真幸も同意する始末だ。智恵李は「君たちね……」と少し呆れたが、自分でも仕方がないと思ったのだろうか。黙って煮物を食べ始めた。


 そんな香坂家の様子を、茉莉がにこにこ笑って見ていた。
















「茉莉さんごめん。ホントにごめん。梨沙をよろしくお願いします」


 朝、出勤前に悠李は香坂家の玄関で茉莉に謝っていた。最初からそうなることはわかっていたが、茉莉に梨沙を預けていくことにしたのだ。彼女はすでに二人の子供がいるし、全部で三人のちびっ子たちを見ることになる。

 茉莉は笑顔で首を左右に振った。

「大丈夫。お手伝いさんたちもいるから、だ、そうだ」

 あまり声を発しない茉莉の通訳をしてくれたのはまだ出勤していない真幸だ。方向的に悠李と一緒の方面に向かうので、一緒に出勤である。いい年して何故兄と出勤しなければならないのかと言う感じだが、これは朝に弱くて寝坊しかけた悠李が悪い。いつもなら碧がたたき起こしてくれるのだが。


「すみません、よろしくお願いします。行ってきます」


 そろそろ出勤しなければ間に合わない。悠李はもう一度茉莉に頼み、真幸と共に家を出た。

 いい年した兄妹が一緒に出勤する。ちなみに、二人は顔は似ていないが雰囲気は何となく似ていると言われる。普段の悠李は愛想の良いハンサム風だが、真剣な時の雰囲気は似ていると思う。まあ、兄妹なので当たり前であるが。つまり、根本的なところで悠李は智恵李に似ていると言うことだ。

「悠李。おそらく、お前の所にも調査が行く」

「覚悟してるよ」

 道を歩きながら真幸にささやかれ、悠李はうなずいた。洗脳事件があると、悠李が任意で事情聴収をされることになるのはもはやおなじみである。この国には、悠李以上の洗脳魔法に適性がある魔術師はいないと言われているからだ。そして、いつも疑いが晴れて調査協力を申し出られるのである。

「まあ、今日は病院に母さんも来るし、何かあったら丸投げするよ」

「それがいいかもな。お前も、怪しまれる行動はするなよ」

「しないよ」

 よほどの危機的状況に陥らない限り、悠李が精神感応魔法『ドリームメイカー』を使うことはない。第一級使用制限魔法に指定されているこの魔法は、一定の威力を越えると警報が行くようになっている。いわば、悠李は完全監視のもとに置かれているのだ。

「ま、なんにせよ、お前が香坂家うちに帰ってきたのはいい判断だ。強力な洗脳魔法を持つお前は、テロ組織に狙われやすいからな」

「……」

 地下鉄で移動しながら、真幸はさらりと言ってのけた。悠李は沈黙を返す。


 実際の所、悠李は強力な力をもつ精神感応魔術師であり、基本的な洗脳魔法は効かない。しかし、洗脳ができないわけではない。魔法を使わない旧方式の洗脳であれば、利く可能性がある。それに。

「お前は押しに弱いし、甘いからな。人質を取られたらまずいからな」

「……」

 駄目だ。真幸の言うことがいちいちごもっともすぎる。悠李は人質を取られたら動けない。現在の夫がまだ恋人だったとき、彼が死にかけて悠李が激高したのはいい思い出である。

 悠李の母・智恵李は世界を滅ぼす力を持つと言われているが、悠李は人の心を壊す力を持っているのだ。

「茉莉は強いからな。安心しろ」

「……わかってるよ。行ってらっしゃい」

「ん」

 先に駅で降りた真幸を見送り、悠李はふう、と息をついた。そう。茉莉は、ああ見えて強いのだ。彼女の姉は悠李の大学時代の恩師であるが、彼女も強かった。そして、茉莉には『声』と言う最終兵器もある。『オーダー』と呼ばれる茉莉の魔法も、第一級使用制限魔法なのだ。

 頭を切り替えよう。そう思い、悠李は一度深呼吸をした。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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